森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2015.05.13
XML
金子みすずの「大漁」という作品がある。

朝焼け小焼だ 大漁だ 大羽鰮(おおばいわし)の 大漁だ。

浜は祭のようだけど 海の中では 何万の 鰮のとむらい するだろう。

金子みすずは明治36年に山口県で生まれています。
大正時代に天才的童謡詩人として注目を集めました。
地元の書店で働きながら、童謡を書き、後に結婚して娘を一人生んでいます。
しかし、やがて離婚、26歳で自ら命を絶っています。

この作品のすごいところは、自分の身を鰮に置き換えて、網でとらえられて死んでいく鰮のかなしさ、無情さ、無念さ、理不尽さを思いやっているところにあります。
これを拡大していくと、自分の身の回りにある植物や花、あらゆる動物、自分以外の他の人間などに対しても深い愛情と共感の気持ちを持って接している人ということが想像されます。


もともと人間にはミラーニューロンというものがあり、他人の気持ちに共感して相手を思いやる脳の仕組みが備わっていると言います。
金子みすずの場合は、その働きが高度に発達してきたものと思われます。
普通の人も共感や思いやりの気持ちがある程度備わっています。
例えば、震災、土砂災害などで困った人がいると、すぐに援助金を出したり、ボランティアで復旧作業に参加したりします。
でも金子みすずほどの共感や相手を思いやる気持ちは湧いてきません。

江戸後期の国文学者、歌人の橘曙覧(たちばなあけみ)が詠んだ歌があります。
たのしみは まれに魚烹て 児等皆が うましうましといひて食う時
雪深い北陸の武士は贅沢は許されませんでした。
子だくさんの家ではそんなに魚を食べる機会はなかったのでしょう。
たまに食べる魚を子どもたちがはしゃぎながら食べている。
そこでは魚は幸せをもたらす自然からの贈り物です。

でも金子みすずがふと思った、「魚が人に食べられてかわいそう」という気持ちは全く起こらなかったと思われます。

最近は、海で釣ってきた魚の鱗を落とし、魚の腹を出して料理するということはありません。
また鶏をひねって羽を落として解体して料理するということはありません。
魚はほとんど調理済み。肉はきれいにスライスされて色鮮やかに照明の光を浴びています。
子どもに魚の絵を書かせると缶づめの魚の絵を描くような時代です。


このようにして愛情や共感や思いやりの気持ちは希薄になってきているのです。
さらに人間同士は自分が生き延びるためや贅沢をするために、平気で他人を痛めつけてしまうような状態になっています。
これらのことを森田理論で考えてみますと、自分が命ある限り「生の欲望」を追及することはまずもって一番大切なことです。
人間はそういうふうに生きていくことがもともと宿命づけられています。
でもそれが暴走することは自分たち人間が破滅することでもあります。
人間の将来は暗澹たるものになってしまいます。
欲望の暴走は歯止めをかけていくことが必要不可欠です。
共感力、相手を思いやる優しさも同時に持ち合わせていないと大変なことになります。
森田のいう精神拮抗作用は多かれ少なかれ人間にもともと備わっているものである。
さらに子供の時から共感力、相手を思いやる気持ちを鍛えていかないといけない。
「生の欲望」の追求は、その裏に相手を思いやる気持ちでもって制御していかないと大変なことになる。
サーカスの綱渡りのように、バランスをとる物干し竿のようなものを使って注意深く目的地を目指して進んでいくという態度が必要なのだと思います。
(新・幸福論 五木寛之 ポプラ社参照)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2015.05.13 06:43:23
コメントを書く
[不安の特徴と役割、欲望と不安の関係] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

知らぬ間に立派な大… 楽天星no1さん

泉佐野フィルムフェ… へこきもとさん

激しい運動の後、疲… メルトスライム25さん

神経症を克服します♪ ROSE33333さん
「私」がいる幸せ えみこた2さん

Profile

森田生涯

森田生涯

Comments

kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) New! 申し訳ございません。生涯森田様でした。
kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) New! 障害森田様 この記事の中で「心とは裏腹…
楽天星no1 @ 早速のご返事感謝 森田生涯さんへ 早速のご返事ありがとう…

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: