形外会である人が、次のような質問をした。
自分の職業を決める場合、興味のあるものを選んだほうがよいでしょうか。
あるいは、自分の才能のある方を選んだ方がよいでしょうか。
これに応えて森田先生曰く。
興味とか才能とかいうものは、単なる机上論であって、実際に行われるものではない。
「自然に服従し、境遇に従順なれ」というやり方になる。
これに反応して、その人が次のように反論された。
しかし、得手・不得意は、先天的に、あるいはそうでなくても、後天的にはほとんど決定的のもので、足の筋肉の弱い人が、いくらランニングの練習をしても早くはなりません。
私は語学が下手です。建築家へでも行けば、自分の才能が表われるような気がするのです。
これに応えて森田先生はさらに説明をされている。
このような考え方は、もっともらしく思われるけれども、実際にはそんなことはない。
自分の興味とか得意とかいうものが予定されているものではない。
もし自分が軽率に、これを想像したり・独断したりしては、大いなる間違いの元になり、またわがままになることが多い。
興味は実行により、得意は熟練し・成功することにより、次第に後からわかってくるものである。
我々の仕事なり・職業なりは周囲の境遇によるいわゆる運命によって定まることが多い。
従って富裕で・自由に何でもできるような人は、いたずらに仕事に迷うことが多く、なす事もなく終わることが多い。
これに反して、貧乏の人はやむをえず、境遇に従順であるよりほかに仕方がないから、ますますその才能を発揮するようになることが多い。
野口英世・ 後藤新平・エジソン・ムッソリーニなど、みなその実例である。
これらの人々が、自分の興味とか才能とか、何が自分に適するかといった事は、ないようである。
(森田全集第5巻 341頁より引用)
森田先生は職業は、周囲の境遇によって決まるのであって、頭の中で取捨選択して最適なものを選択するというやり方はよくないと言われている。
親が歌舞伎役者だった場合は、自分には向かないと思っても、成り行き上、後を継がなければならない場合が多い。親の稽古などを見ているので、必然的に興味がわいてくるのだろう。
普通の人は、職業に就く前にあれやこれやと悩むことが多い。
森田先生に言わせると、職業の選択はその時の自分の置かれた境遇によって決まるのだから、それに素直に従っていけばよい。何に就くかで悩むよりも、実際に仕事をしてみることがより大切である。
むしろ大切なのは、職業に就いてからのことである。腰掛け的な仕事ぶりではいけない。
一心不乱になって運命を切り開いていくような態度で取り組んでいく必要がある。
そうすれば、興味や関心が高まり、多くの経験と成功を積むことができる。
何年か経って考えると、自分はこの仕事に興味や才能があったということが分かるようになるのがベターである。このようにして、自分の職業を見つけていくというのが森田のやり方である。
これは職業を見つけるというだけではなく、普段の生活ぶりにも応用ができる。
最初は興味や関心がなくて、イヤイヤ、仕方なく取り組まなければならない課題は多い。
先に嫌な気分をなくしてから、課題に取り組むというやり方では、いつまでたっても重い腰を上げることができない。
そういう時はイヤイヤ、仕方なく、ボツボツ取り組んでいくしかない。
森田先生は富士山や筑波山への登山でそのことの重要性を説明されている。
そのうち弾みがついて、興味や関心が出てくることがある。
そして目標を達成して、自信が出てくる。そうすればしめたものである。
次第に面白くなって積極的に目の前の課題に取り組んでいくことができるようになる。
嫌な気分を払拭してからそのうちにと思っていた人から比べると、雲泥の差となってくるのである。
どうしても興味が湧いてこない、能力的に無理という場合はその時点で考え直せばよい。
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