私は、 「ついてもいい嘘とついてはいけない嘘」があると思う。
もっと拡大していれば、相手に対して積極的に嘘をつかなければならない場合があると思っている。これはどういうことかという事を森田理論で考えてみよう。
森田理論を学習していると、 「かくあるべし」を少なくして事実本位に生活していく事を学んでいく。そういう意味では事実は神様のようなものである。
「境遇に柔順で自然に服従する」という森田の言葉は耳にたこができるほど聞いていると思う。
これを拡大解釈すると、すべての事実に対して、それらを受け入れていくことが絶対であるという考えに陥りやすい。
つまり実際に見たり聞いたりした事実のままに、自分の考えを相手に正直に伝えることが正しいのだと考えやすい。私はこのような事実に対する理解は問題があると思う。
物忘れや意欲の亡くなった人に、医師が不用意に「あなたは認知症ですね」と正直に宣告されたために、がっくりと落胆し、意気消沈した経験を持つ人は多いという。
意欲をなくして家の中に引っ込んでばかりいると、その後、 1年から2年経つと本当に痴呆状態になってしまう。これはある意味で、医者が作り出した廃用性痴呆といえる。
そんな時こそ、医師は詳しく検査し、言葉を選びながら、相手を励まし勇気付けてあげる必要がある。
「あなたは痴呆ではありませんよ。記憶中枢のところだけに傷がついていますが、痴呆じゃないんです。思いついたときに、すぐにメモしていけば、買い物にも出るし、旅行にも行けますよ。人生楽しく過ごしましょう」などと、患者の立場に立った会話を心がければ、その言葉に励まされて、彼らはそれぞれゴルフをしたり、短歌を作ったり、みんなとゲートボールを楽しんだりするのである。
ものはいいようで、相手をいろいろと変化させる。こんな嘘はついたほうがよいのだ。
(生き方のツケがボケに出る 金子満雄 角川文庫 204ページ参照)
私達も顔色がやけにどす黒い人を見て、心の中では 「肝臓に障害があるのではないか。ガンにかかっているのではないか」と思っていても、それをストレートに口に出すのは控えている。
相手の体調をそれとなく聞いてみるのが基本だ。
過去ある集談会でこんなことがあった。
ちょっと化粧の濃い女性がおられた。その人は普段からそのような化粧をしていたそうだ。
ある男性の参加者がその女性に、「あなたの化粧は濃い過ぎて、周囲の人に不快な感情を与える」ような発言をされた。ちょっと気まずい雰囲気となった。
その女性は継続して参加している人であったが、以後ばったりと参加しなくなった。
その後いくら参加を促しても頑として聞き入れられなかった。実に残念な結果となった。
不用意な発言をした男性は、事実を正直に話しただけであるから、自分に何らやましいことはなく、落ち度はないと思っているのであろう。
事実に正直に行動できた自分を誇らしくさえ思っているかもしれない。
しかし、普通の人間ならば、いくら心の中でそのように思っていても、その気持ちをストレートに言葉に出してしまうと、相手が傷つくかもしれないとすぐに察しがつくと思う。
相手の気持ちを考えて、そんな不用意な発言は控えるはずだ。自然に抑制力が働くのである。
森田先生がよく言われている人情が働くのである。
森田では基本的には、どんなに理不尽で不愉快な出来事であっても、事実を隠蔽し、捻じ曲げてはてはならないという。
そういう意味で自分を擁護したり、楽にするために嘘を吐いてはならないのだ。
その点はどこまでいっても事実唯真の立場を貫き通す必要がある。
その方向が神経症に陥らず、葛藤や苦悩を避ける一番安楽な道だ。
ただし、相手がある場合は違う。自分の感情をそのままに吐き出しては問題が大きい。
相手の立場に立って、相手が傷つくと判断すれば、事実とは違う発言をしなければならない。
こんな場合は、事実と真反対な嘘をつかなければならない場合もあるのである。
行動よりも感情に重きを置くからこんなことになるのだ。
感情と発言はきっちりと区別することが大切だ。
感情は自然現象でコントロールできないが、発言は意志の自由が効く。
自分の不快な感情をすっきりさせるための、発言は厳に慎まなければならないのである。
それが人情というものだ。湧き起こってくる感情は、押さえつけてはいけない。
ところが、その感情をストレートに相手に吐き出すことは別の問題なのだ。
ここの微妙な感覚は集談会などでよく話し合ってほしいものである。
積極的に嘘をつくことで、相手を否定しないで、受容したり励ましたりすることができるのである。
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