2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
全1件 (1件中 1-1件目)
1
天外レポートNo72(2013.06.11) ネッツトヨタ南国の横田英毅さんの経営学を解説した『教えないから人が育つ―横田英毅のリーダー学』が4月22日に講談社から刊行されました。一ヶ月ちょっとで3刷までいきましたので、いまのところ売れ行き順調です。横田英毅さんという実例を得て、「フロー経営」を具体的に深く掘り下げる事が出来ました。 名経営者の多くは大病を経験しています。稲盛和夫さんや伊那食品の塚越会長は死病と言われた頃の結核。沖縄教育出版の川畑社長は癌を克服されました。重篤な病気になると、「死」と直面するので「意識の変容」が起きやすくなり、一段高い境地に着地する可能性が高まります。 横田さんは特に大病は経験されていません。そのかわりに幼少期に創業者のおじいちゃんによる「無条件の受容」を体験した様子が、「横田英毅の謎を解く」という章で詳しく語られています。「大病」か「無条件の受容」が、名経営者が自然に育つ条件のようです。 「大病」も「無条件の受容」も体験していない、ごく普通の経営者をどうしたら名経営者に導けるかということが、「天外塾」の大きな課題ですが、そのヒントがこの本には満載です。 全般的に「天外塾」「横田塾」における横田さんの発言と、塾生や私との白熱した生々しい議論をそのまま掲載しており、多少冗長なところはありますが、とても読みやすいと思われます。もちろん、要所々々に私の詳しい解説がついています。 横田英毅さんはマスコミに頻繁に登場する超有名人ですが、驚いたことに、この本が最初の経営書です。 じつは今まで3つの出版社から、それぞれ執筆依頼があり、インタビューを受けてライターさんが原稿をまとめたのですが、3回とも原稿料をお支払いしてボツにさせてもらった、とおっしゃっていました。内容のクオリティーに関するハードルがすごく高いようです。 私の著作が名誉ある最初の横田さんの経営書として、出版のお許しをいただけた事はとても光栄です。でも・・・種を明かせば・・・天外塾での横田さんの発言をそのまま載せているので、私の記述が少なかっただけでしょう。 横田英毅さんが一塾生として天外塾にご参加いただいた時、コンサルタントの塾生から質問がありました。「もしも、会社がすぐにでも潰れそうな状況にあったとしたら、いったいどうしたらいいでしょう?」 横田さんは、自分なら従業員を集めて議論させるということです。自分は発言せず、黙ってそれを聞いているだけ・・・。時間はかかるだろうけど、「じゃあ、みんなの給料を半分にして当座をしのぎ、頑張って盛り返そう!」といった結論を待ちます。経営者がトップダウンでそういう結論を言ったら、皆は反発し、やる気を失って破綻に向かうでしょうが、自分たちで決めればうまくいきます。 ところが、一般の企業で状況が悪くなった時の議論は、お互いに次元の低い非難合戦になるのが常であり、ひとりでに解決に向かう事は期待できません。そういう次元の低い議論と、横田さんのような問題解決に向かう議論と、いったい何が違うのでしょうか?どうしたら問題解決の議論を主導できるでしょうか? 1991年に超優良企業と思われていたIBMの業績が急降下した時、CEOのエイカーズが、「うちの従業員は働きが悪い」と激怒したのは有名な話です。その後彼が、いかに再浮上策を打ち出してもうまくいきません・・・。 こういうメンタリティーを私は「賢者の演出」と呼んでいます。現状を賢く分析し、解決策を賢く提示し、これをやれっというやり方しかできません。ところが、自らの責任は問わず、絶えず外側に業績悪化の要因を求めるものだから、その解決策はことごとく見当はずれ、解決には向かいません。従業員は、「本当の要因は大型電算機の時代が去ったことに気付かなかったトップの責任」と思っているので、やる気を失ってしまいます。 「賢者の演出」にはまっている人は、沈黙が苦手です。従業員に解決策を議論させて、自分は黙って座っている、といった芸当は金輪際できません。自らが従業員より賢いことを常にアピールしていないと生きてゆけないのです。深層心理学的には、心の底に劣等感を抱えており、その代償作用としての優越感が表に出ています。 世の中の経営者の98%位は、いかに自分が賢いかを懸命に装って、絶えずアピールする「賢者の演出」にはまっています。したがって、横田英毅さんのように、空気のように存在を消して、まったく装うことなく「愚者の演出」をするというマネジメント・スタイルがあり、経営がきわめてうまくいくという事を、ほとんどの人は信じられないでしょう。 「愚者の演出」という言葉は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』から借用しました。 西郷隆盛や日露戦争の総大将、大山巌が、戦国時代からの大将学の流れをくんで、愚者を装ってすべてを下にまかせていたといいます。これは、まさしく「フロー経営」です。 「薩摩には戦国からの伝統として大将になった場合の方法というものがあった。 自分がいかに賢者であっても愚者の大らかさを演出演技するという一種魔術的な方法である」(司馬遼太郎『坂の上の雲』) あるとき、ネッツトヨタ南国の若い女性が、外部のシンポジウムで「横田さんはどんな人ですか?」と聞かれ、「そうですね、ひとことでいうと戦略的に存在感を消している人です」と答えたといいます。 指示・命令・叱責・激励など一切せずに、一見何の干渉もしない・・・だけど、横田さんの存在そのものが、すべてがうまくいく源泉になっています。 会社がおかしくなった時の従業員の議論も、横田さんが何も言わずにそこに座っているから問題解決に向かうのです。こういうマネジメント・スタイルを、私は「存在(Being)のマネジメント」と呼んでいます。それに対して、経営者が率先して行動し、発言することを求める通常のマネジメント・スタイルを「行動(Doing)のマネジメント」と名づけました。 この本は「存在のマネジメント」のバイブルのつもりです。 6月1日にはフロー・シンポジウムがあり、横田英毅さん、天外伺朗の講演に引き続いて3人目に登場した、長尾彰さんは「今から45分後に、今ここにいる参加者全員で”翼をください”を歌います。2部合唱で、全世界が感動するほどのクオリティーに仕上げて下さい」と言っただけで、引っ込んでしまいました。 Youtubeで音楽を探す人、歌詞を白板に書く人、指揮をする人、楽譜を探す人などが現れ、メロディと低音部担当が分かれ、それぞれ練習して、振り付けも決まり、45分後には素晴らしい演奏になりました。 私自身もミュージシャンですが、正直いって最初はとても出来るとは思っておらず、うまくいった時には少なからず感動しました。 その間、長尾さんが発した言葉は「ここにピアノがあるよ」だけ。つまり、上からの指示命令が一切ない状態で、それぞれが全体を考え、自らの役割を規定してプロジェクトの成功に向かう、という[フロー経営」の凝縮版でした。 参加者の中で、気付いた人は少なかったかもしれませんが、ひと言しか言葉を発しなかった長尾さんがそこにいたから、うまくいったのであって、別の人だとそうはいかないでしょう。 論理的な説明はできませんが、これが「存在のマネジメント」です。 意外に身近な所に「存在のマネジメント」はあるのですが、本人も含めてそれに気づいていないことの方が多いのです。 この本のタイトル「教えないから人が育つ」というのは、一般常識とはちょっと違うかもしれません。普通は人を育てようとして一生懸命教えますね。 ところが、教えて入ってくるのは表面的な知識やノウハウだけで、それを強制的に与えてしまうと自ら獲得し、成長する力は身につきません。その事をわかりやすくいうと、「動物園で毎日餌が与えられていると、野性に戻った時自分で餌が獲得できないよ」という例になります。 企業でも学校でも、大人しく与えられた餌を食べてぶらぶらしている動物園の住人ではなく、大自然の中で逞しく活動できる野性児が育ってほしいですね。教えてしまうと野性が育ちません。 この本は「人間性経営学シリーズ」の5冊目。 このシリーズでは、いまの産業界に漂う閉塞感を一挙に打ち破る新しいマネジメント・スタイルを紹介しています。 この潮流は、最近ではハーバード・ビジネススクールなどでも断片的に取り上げ始めており、ブラジルのセムコ社やアメリカのゴア社などが有名ですが、創業期のソニーでも見られたように、もともと日本の伝統的な経営に近いのです。 年配の方は、むしろ懐かしさを覚える経営スタイルともいえます。 私の場合には1964年に入社した当時のソニーでたっぷりそれを体験しました。 さらに時代が進んで、1995年からソニーはアメリカ流の「合理主義経営学」を導入したために「人間性経営学」あるいは「フロー経営」が徹底的に破壊されていくのを、内部でリアルタイムに、つぶさに観察できました。 その貴重な体験をもとに「人間性経営学」という新しい経営学を体系化しました。 日本では、ネッツトヨタ南国の横田英毅さん、未来工業の山田昭男さんなどが有名です。 従業員の「やる気」「働きがい」「人間性の発揮」などを最も重視しており、上司から部下に対する指示命令は一切なく、従業員は自分の仕事は自分で決めます。思いついたら上司にはかることなく、即実行できます。 失敗して尻拭いする権利も与えられています。 山田昭男さんはそれを「ホー(報告)レン(連絡)ソウ(相談)はいらん。ポパイにでも食わせておけ」と表現しておられます。 勢いの良かったころのソニーでも「本当に面白い商品を考え付いたら、上司に内緒で物を作れ!」、「失敗したら、闇から闇に葬れ!」など、下の勝手な暴走を「よし」とする風潮がありました。
2013年06月12日
コメント(0)