千と一両か
鈴木采女は老中堀田加賀守のところに行き、若さまのことを地獄道場に申し付け始末をつけるので、町奉行の方をよろしくと御願いしています。「その娘は若さまと呼んだのか」と聞いてきた堀田に、「多分どこか旗本の部屋ずみの侍かと」そして確かにお屋敷の庭に忍び込んだ者だと鈴木が言うと、「待て」と言って老中堀田が何ごとかを思案しているようでした。
堀田は英明院にそのことを話します。英明院が「真実、あの若さまなのでしょうか」ということに、鈴木采女を相手にそれほどのことがやれるのは、「若さまを除いてはおりません」と堀田が答えます。そうすると・・・表立てば、二人の関係も今までのようにはいかない、英明院は、若さまを堀田の手で消してくれ、と頼みます。唐金屋が地獄道場と称する熊谷道場に若さまを消すよう依頼します。
若さまが急ぎ足で歩いて来ると、「若さま」と お澄に呼び止められま
す
。今日は何処に入っていたのかというお澄に「 ちょっと
、 忙しかったからな
」と若さま。



お澄 「若さまでも、 お忙しいときがあるんですか
」
若さま「 そりゃあ
、 あるとも
。今夜あたりは、 もっと忙しくなるぞ
。あははは」


冗談をいい歩いていた若さまの足が ぴたりと止まります
。「あら、 どうかなすったんですか
」というお澄。若さまは、しばらく 無言のまま辺りの様子をうかがっています
。








そして、
若さま「 お澄坊
、うっかりしていて、こりゃあ、前 も後も行けなくなっているな
」
お澄 「あら、何がですか」
といいお澄は周囲を見渡し、誰もいないではないか、と若さまにいいます。


すると、若さまは自分の後ろへお澄を移動しながら、
若さま「 いるいる
、 ほーれ
、・・・ 前にも後にも
・・」





熊谷道場の 熊谷民部と門弟達が取り囲みます
。お澄に離れているようにいいます。「やっぱりお前か、又会ったな」という民部に
若さま「老中の用心棒と思っていたが、 今夜は商売がえか
、 それとも
、 これが本職
かな
」






熊谷は、よく知ってるなというと、若さまに対し
熊谷 「お主も若さまといわれるくらいなら、金に不自由はしまい。 いくら出せ
る
」
若さま「 うん ?
」
熊谷 「千を一両でも越えれば、お主もその大川の土左衛門に変ることはない。
千と一両出せるか」
若さま「 千と一両か
。案外安いもんだな」






熊谷 「さすがは若さまだ、大きく出たな。よし、手を打とう。命は金ではかえら
れん、だいじにすれば面白いこともあるぞ。千と一両の引きかえにする、
その娘を預かろう
」
おとなしく熊谷のいうことを聞いていた若さまの表情が変わり、
若さま「お前は、 大へん慌て者だな
。それとも 頭が悪いのか
」



「なに」という熊谷に、
若さま「 笑わしちゃいけねえぜ
。俺が 千と一両が安いと言ったのは
、たとえ死にか
かった病人ひとりの値段にしても安いと言ったんだ。千両積もうが万両積
もうが、人間の生命なんぞは、取引の出来ねえ尊いもんだ。それに金をも
らって人を殺すなんぞは、世の中の屑も屑 大屑だ
」
熊谷 「なんだと」

若さま「千両積んで頼みに行った馬鹿おんなを、 おう
、 言ってやろうか
」
べらんめえ口調での若さまがこういったとき、熊谷道場の浪人達が一斉に刀を抜きました。その浪人達を見て、
若さま「ほーお、誰も 人間の目をしていない
、まず、狼だな。それも 気違いの狼の目だ
」





その言葉が放たれたとき、 若さまに浪人達がかかって行きます
。 (
ここから立廻りに )







佐々島と小吉がそこへ通りかかり、小吉の 呼子笛が鳴りひびき
、浪人達は退散します。若さまも助かりましたでしょう。急がなければならないのです。
続きます
。
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