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最後までお付き合い下さいまして感謝です。それでは少し長めのエピローグをどうぞエピローグ 「ふうん。で、それ…『全部夢だった』ってオチなワケ?」 「うーん。上手く言えない。」 「じゃあ、妄想?」 「ううん。…たぶん、現実。」 「じゃあ、私をここに呼び出すメールを送ったの…誰?」 「えっ? あ、…たぶん…オレ。」 高峯は全てを説明しようとしたが、到底それはできそうになく、諦めることにした。 きっと信じて貰えないだろうし、自分自身、どういうことなのか説明できそうにないと思ったからである。 「でさ…、オレ気付いたんだよ。」 「えっ。何に?」 「…色んなこと。」 「例えば?」 「うーん。…勉強も、バスケももっと力一杯やらなきゃってこととか。」 「いいんじゃない。…でも、それだけ? 向こうの世界ではバスケも勉強も普通だったんじ ゃない?」 「そうなんだ…。で、それだけじゃないよ。」 「何が?」 「うーん…。」 「向こうでは私だけがいなかったんでしょ?」 「そうなんだけど。」 「…でも、タカネくん、よりによって何でそんな世界に行っちゃったのかな。」 暫く沈黙があった。 なぜ、結花がここに現れたのか。 それは高峯にとって謎だったのだが、結花によれば、それはどうやら自分が呼び出したということであった。自分が結花にメールを打ったとういうことも、彼自身全く身に覚えがないことであったが、今となっては、もう「何もかもが信じられなくて…、逆に何もかもが信じられる」そんな情況であった。 そして、こちらの世界で何があって、自分がどうして結花を呼び出したのか、それは自分にとっても謎のままであった。 結花はそこで、不思議なことを言った。 「私ね。この間、夢を見てさ。この桃の樹が出てくるの…。覚えてる?小学校の時、ここ で、背比べしたよね。」 「うん…。でも、オレ…お前はもう、あんなこと忘れちゃってると思ってた。」 「忘れるわけがないじゃない。もう…失礼ね。でね…。」 結花は、そこでその夢の続きを語った。 「私ね、その夢の中で…、1人でここにいるのよ。それで、1人でこの幹に印を彫ってる の。…それがね、何だか凄く寂しくって。どうしてタカネくんがいないんだろうって。」 「…で?」 高峯は、結花の見たそれは、自分の見た夢とそっくりだと思ったけれど、そこは黙って聴いていた。 「でね…。私…。目が覚めてからも寂しくって…。その夢を見た次の日の学校の帰り、この 樹の所に来たの。」 「それで?」 「この樹に向かってお祈りしたのよ。」 「何を?」 「ひみつ。 …うそ。告白すると、『タカネくんとずっと一緒にいられますようにって。』 あ~あ、言っちゃった。」 高峯はその言葉を凄く冷静に受けとめていた。そして、結花に向かって言った。 「オレも、お前がいなきゃだめだ…。」 「え?」 「今度さ…。またライブ行こうよ。今度はオレがおごるからさ。」 「うん。でも…、いいの?」 高峯は半券を取り出した。 「ちょっと、濡れちゃったけど…向こうの世界でも、これだけはそのまんまだったんだ。… でさ、お前…これに何か書いてなかった?」 高峯のその言葉に対して、結花はかなり驚いたような反応を示した。そして、「えっ? 何 で?」と言うと、高峯の手からチケットを奪い取るようにして手に取ると、すぐに裏返しに して食い入るように眺めていた。 「…書いてたんだけど、消しちゃったの。…どこにも、書いてないよね。…でも、なんで知 ってるの?」 「いいからさ…。で、おまえ何て書いてたんだ。」 「それは絶対、ひみつ。」 結花は少し赤くなった。高峯は、それについても、もうそれ以上追及しなかった。 そして続けた。 「これがなかったら、オレ、こっちに帰ってこれなかったかもしれないんだ。」 「おおげさね。それって、夢じゃなかったの?」 「わかんない…。でも、これで、オレ確信したんだ。」 「何を?」 そう言って高峯を見上げる結花の顔は輝いていた。そして、次の言葉を継ぐことができずに戸惑う高峯をよそに、結花はバッグから何かを取り出した。 それは、高峯と同じ、あの時の半券であった。 「なんで、お前もそれ持ってんの?」 「だって…、これ私の宝物だもん。」 「…。」 「それから、…これ。」 結花はバッグからもう一つ小さな袋を取り出した。 「プレゼント。開けてみて。」 高峯は言われるまま、その袋を開けた。 中に入っていたのは…なんと、バスケットシューズの紐だった。 それは高峯が先日買ったものと同じメーカーのものだった。しかも、色も全く同じ、あの、薄いピンクがかったそれであった。 そして、高峯は思わず学生服のポケットを探った。…しかし、そこにあるはずの靴紐は姿を消していた。 けれど、もう高峯は少しも驚くことはなかった。それどころか妙に納得していた。 そんな、靴紐を見つめたまま何も言わない高峯に、結花は構わず続けた。 「紐…切れちゃってたでしょ。だから…」 「あ…。」 あの時…、先週の部活の時、紐が切れてしまって、体育館の隅に坐っていた自分に…結花は気付いてくれていたのだ…。バレーボールを追うのに夢中で、全然オレのことなんか気にもかけていないと思ってた…結花…ちゃんとオレのこと…見ていてくれたんだ。 その事実を知って高峯はちょっぴり感動した。 そして、「それでね…。」と、結花は再び高峯の手にあった靴紐を取って何かを説明しようとした。…その結花の白い手を、高峯は紐ごと握りしめ、自分の胸に引き寄せた。 高峯は結花を抱きしめていた。 小さな結花の背は高峯の胸にようやく届くほどでしかなく、高峯は結花の頭を包み込むようにそっとその手を背中に回した。そして、そっと告げた。 「オレ、お前が好きだ…」 結花は直接その言葉には返事をしなかった。 しかし、自分の背中に回っている彼女の手…その指先に加わった仄かな力がそれへの確かな返事になっていた。 そして、結花は高峯の腕の中で続けた。 「紐、気に入ってくれた…?」 「うん。サンキュ。」 「ちょっと赤っぽいけど。タカネのシューズにもあうでしょ。実は…私とオソロなの。…私 のシューズにはちょっと合わないかも知れないけど…、女バレのユニフォームが赤だから 試合の時はいいかなって。 あ、…でも、目立たないから大丈夫よ…オソロって分からないから…。」 高峯は自分の胸に向かって喋っている結花の言葉を聞きながら、 「…うちの女バレのユニフォームって『青』じゃなかったっけ…」と、そんなことをぼんやりと考えていた。 …でも、そんなことはどうでもいいことだった。 「どうせ、この世は矛盾だらけなんだ…。」高峯は心の中で呟いていた。 自分にとっては、結花さえいてくれればよかった。 自分にとって、何よりも大切なもの、確かなもの…。そう、それは今自分の腕の中にあった。 それだけで十分だった。 「結花と一緒なら、どこだっていいさ…。」 高峯は、今度は結花に聞こえるように小さく呟いた。 と、またどこからともなく、静かに風が吹き始めた。 そして、また、あの甘い桃の花の香りが二人を包むのだった…。 《了》↓ご愛読有り難うございました。また、感想聴かせてね。《狼》
Mar 31, 2008
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いよいよ大詰めです 連載第16回 高峯は寄り掛かってた樹の幹に頭を何度もぶつけながら、嫌になるほどの確かな「現実」を感じていた。 「…ったく、どこが『桃源郷』だよ。結花のいない世界なんかつまんねえよ…。」 高峯は暫くぼんやりとしていたが、また財布を取り出して、あのチケットを取り出すのだった。それが、彼女が存在していた唯一の証拠、心の拠り所だった。 そして、そこに書き込まれている、可愛らしい結花の文字に目をやった…。 ところが、ふとした拍子に、あらぬ事か、チケットを脇へ落としてしまったのだ。 「しまった」 と、すぐに手を伸ばしたが、そこへ折からの風が吹き、チケットはふわりと樹の向こうへと飛ばされていった。 そして、その先の小さな池の水面に落ちてしまった。 「ヤべ」 と、高峯は立ち上がると、すぐに側に落ちていた木の枝を掴むと、水面で揺れているチケットをすくい上げた。…見れば、チケットの表面はもう水を含んでひたひたになって、印刷も所々が滲み始めている。 そしてそれを裏返しにした時、高峯は目を疑った。 「ない…。」 そこには、確かに書かれていた筈の、あの「loveタカネ」の文字はなかった。 「濡れて消えてしまったのだろうか…、いや、そんな筈はない、あれはどう見ても鉛筆で書 かれていた。鉛筆が水で消えるわけがない、それに、仮に水性のペンだとしても、少し濡 れたぐらいで全く跡形もなくなってしまうなんてことは…。」 高峯は混乱してしまった。 文字が消えたこともそうであるが、自分にとってそれは結花がいたことを表す唯一の証拠、結花そのものと言っても過言でない筆跡だったのだ。 それを自分の不注意で失ってしまったことに、もの凄い後悔と、じわじわと噴きあがって来る喪失感を感じていた。 「なんてことを…。ああ、オレは一体…。」 …その時であった。 高峯の鼻を、またあの時のような桃の花の甘い香りがくすぐった。 「えっ。」 高峯は思わず辺りを見回した。 「…今日はあたたかいけれど、まだ花は咲いていない。ここに登ってくる途中も、花をつけ ている木は一本もなかったし、匂いもしていなかった。」 高峯は、何かしら心の底から湧き上がってくる力のようなものを感じ、その場に立ち上がると、またこの間と同じようにその桃の大きな樹を振り仰いだ。 しかし、やはりどこにも花を見つけることはできなかった。 そして、暫くすると甘い香りもまた何処かへ行ってしまった。 高峯は再びそこへ座り込んでしまった。濡れたチケットが虚しく高峯の手の中で萎れていた。 「本当は、オレは蝶で…これが『夢』なのか。…いっそ、そうだったらいいのに…。」 木の幹を背に、目をつむっていると涙が頬を伝っていくのが分かった。 …と、目をつむっていた高峯の鼻にまた桃の花の香りが漂ってきた。そして、同時に誰かが坂を上ってくる気配がした。 「…高校生の男がこんな所で泣いているなんて、端から見るとおかしいと思われても仕方が ない。」 高峯は学生服の右袖で涙を拭うと、立ち上がって学生服に付いた枯草や泥を払った。 その足音は次第に高峯の方に近づき、ついにその主は姿を現した。 結花だった。 それは、紛れもない結花その人だった。 高峯は本当に夢でも見ているのではないかと自分の目を疑った。そして、思わず駆け寄ると、結花の肩を両手で掴み、強く揺すぶった。 「結花、結花だよね…。」 結花は少し驚いたような顔で、「どうしたの、タカネくん。今更…。私に決まってるじゃない。樋口結花、17歳よ。」 そう言って微笑む結花は結花そのものだった。 高峯は掴んでいた結花の肩から手を離すと、すぐさま桃の樹の裏に回ってみた。 そこには、確かに二つの刻印があった…。 つづく ↓明日は長いエピローグ…
Mar 30, 2008
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今日は少し多めに…ネ 連載第15回 「そうか…。」 結花を最後に見たのは、先週の金曜日だった。あの、漢文の時間のピースサイン…。そして、あの白い幕は日曜日の朝にはもうあった…。 「オレはてっきり月曜日から結花がいなくなったんだとばかり思ってた…。じゃあ、いつか ら…。」 そして、高峯はもう一度あの金曜日のことを丹念に思い出してみることにした。 学校を出て、自転車置き場まで行って引き返したこと。部室に寄って…それから靴紐を買いに寄ったこと、山道を歩いて帰ったこと。 …そして、あの桃の林を通り抜けたこと…。 そこで、高峯はやっと思い至ったのである。 「ひょっとしたら、あの時…。」 高峯は夢に見たあの桃の大木のそばで、一瞬妙な目眩に似た感覚に襲われたことを思い出していた。そのとき嗅いだ…鮮やかな桃の花の香りとともに。 「あの日、帰りに荷物はあまり持っていなかった。自転車がパンクしていたので、勉強道具 もほとんど学校に置きっぱなしで…。携帯も家に置いたままだったし。 …そうか、あの時オレは何かを通り抜けたんだ。 財布だけは肌身離さず持っていた、だから…きっと向こうの世界からそのまま持ってきた のは…、 財布だけ…。あのチケットだけだったんだ。」 その日は、試験が2科目だけだったので、それが終わると高峯は速攻で学校を飛び出した。「いっそのこと、学校に行く前に…」とも思ったが、それは自重することにした。 そして、試験が終わって家に帰ると、「ちょっと出かけてくる」と母に告げ、すぐに裏山への道を駆け出した。 もう、陽射しはすっかり春めいていて、ちょっと山を上り始めただけで、すぐ学生服の下のトレーナーが汗ばんでくるのが分かった。 道脇の枯草の間から緑色の若草が所々顔を出している。芽吹き始めた樹々もあるのだろう、遠目に見ると山肌は浅黄色のベールがかかっているように見える。 暫く歩くと、高峯の目の前に、再び見慣れた風景が広がってきた。 「…この間は、夕暮れ時にここを家に向かって下ったんだ…。ひょっとしたらあの時…オレ は、もうこちらの世界に来ていたのかも知れない。」 そう思うと、自分が向かう先が、何か得体の知れない場所のような気がして、少し足が竦むような気さえもした。しかし、高峯の中にある結花への思いが彼をあの桃の大木のもとへと駆り立てていた。 そして、あの桃の樹が見えてきた。 しかし、高峯はすぐにその樹に近寄ることをしなかった。そして慎重に一週間前の自分の行動を振り返った。 「もしも、自分が向こうからこちらの世界に来たのなら、全く反対に動けば、ひょっとした ら元に戻れるかも知れない。SF小説なんかでも良くある話だ。」 高峯は、自分がよろけそうになった場所に恐る恐る近づくと、前と同じように桃の樹を見上げた。 時間はまだこの間よりも随分と早く、まだ花も芽もついていない茶褐色の枝のバックには薄い水色の空が広がっている。 そして…、高峯はゆっくりと確かめるように、あの時自分が回ってきた方向と反対向きに樹の裏へ周り込むと、恐る恐る幹の裏側にあるはずの二つの刻印に目をやった。 しかし…。 そこにあったのは、高峯の腰の辺りにつけられた一本の線だけであった。それは明らかに、幼い高峯の背を表した、比較的高い所にある刻印だった。少し右上がりにつけられたそれは、間違いなく自分のつけたものであった。 高峯は落胆した。 「やっぱり。だめか…。」 「本当に、結花のことは全ておれの妄想だったんだろうか。」 彼は何度かその樹の周りをぐるぐると回ってみたが、期待していた変化は何も起こらなかった。そして、最後は幹を背に、そこへ座り込んでしまった。 「『胡蝶の夢』か…。 …胡蝶は、桃源郷には行けなかったんだ…。」 虚ろな目で見上げた空。…それは、淡い春の色に満ちていた。けれども、どことなく頼りなげな空だった。 つづく ↓残す所あと2回です~
Mar 29, 2008
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あと少し、お付き合い下さいネ《狼》 連載第14回 数日が過ぎた。 卒業式も終わり、先輩達との別れも終えた。そして、その直後に始まった試験も既に初日が終わっていた。 「学年末こそは。」と思っていたのに、初日が終わった時点で、もう結果が悲惨なものであろうということは容易に想像できる情況になっていた。 「明日はもう金曜日か…。」 その夜、高峯はベッドの中でぼんやりと考えていた。 「…しかし、どうして、あの半券だけが残っているのだろう。他のものはすべて完璧と言っ て良いほど、残っていないのに。」 そう考えながら、高峯は何度考えたかわからない「なぜ」の答えを探していた。 「やはり、全てが自分の妄想なのか。誰かが自分を陥れようとしているのか。それとも、天 罰なのか。はたまた、SFみたいにどこか別の世界に入り込んでしまっったのか…。」 そこで、高峯は中学の時に読んだSF小説の内容を思い出していた。 「『時空連続体』って言うんだったか、この世界と同じような、別の世界が、次元を異にし た所には、数限りなく存在する…って。でも、そんなのあり得ないし…。」 結局、「樋口結花」という女の子の存在が、自分が創り上げた妄想だという結論が、一番納得できるものであった。しかし、そうなるとあの半券に書かれた「loveタカネ」の文字の説明がつかなくなってしまうのだった。 そうやって高峯は、ここのところ毎日、悩みながら眠っていく…というパターンを繰り返していたが、今夜も例に漏れず、知らない間に余り安らかでない眠りに陥っていた。 その夜、また高峯は夢を見た。 高峯は蝶になっていた。 そして、あの裏山の斜面に広がる桃畑をゆらゆらと飛んでいるのだった。 スローモーションのように流れていく景色…。いつの間にか、高峯は吸い寄せられるようにあの桃の大木の側へと舞い降りていた。 そこには、美しいピンク色の桃の花が咲き乱れており、高峯はその花の一つにとまった。 …そこから見下ろした所には、ランドセルを背負った小学生の女の子が1人立っていた。 それは、見覚えのある少女…小学生の結花であった。 そしてその少女は1人で樹の幹に向かって何かをしていた。 ちょうど背中をこちらに向けており、よく見えなかったが、高峯には、その少女が何をしているのは分かっていた。その少女、結花は自分の背の高さの所の幹を削っているのだ。 高峯は、結花らしきその少女の側に行こうと飛び立った。 しかし、何故か急に吹き始めた強い風に煽られて前に進めなくなってしまった。それどころか、逆にどんどんその樹から離されて、少女の姿が小さくなっていく。 「結花」、「結花」と声をかけようとしても声が出ない。見れば、自分の口はまさしく、ぐるぐると渦巻いたチューブのような蝶のそれであり、どう足掻いても声など出せそうにないのだった。 「結花」、「結花」と心の中で叫びながら必死に飛び続け… そして、そこでまた目が覚めた。 時計を見るとまた5時50分であった。 暫くして我に返ると、高峯は淡い期待を胸にベッドから起きあがった。 窓際に立つとカーテンを開けて、窓に付いた水滴を手のひらで拭うと、流れていく水滴の向こうに歪んだ朝の風景が見えた。 しかし、結花の家の方向を見ても、そこには相変わらず白い幕がかかった四角の建物しか見えなかった。 「もう、あれから一週間か…」 そう呟きかけて、高峯はふと或ることを思い出したのだった。 つづく ↓4位に上がれるかな?
Mar 28, 2008
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いつも読んで下さってありがとー《狼》 連載第13回 とにかく、自分には全く記憶がなかった。 「篠崎さんと一緒に帰った? その時何があったんだ?」 高峯は篠崎さんのことは、それほど知らないし、結花の仲良しだという認識があるという程度のことだった。 結花とは全く違うタイプで、控え目で可愛い子だが、彼女にしたいとかそういう目で見たことは一度もなかった…。しかし、それは置いておくとしても…。 「でも…。一体」 高峯は頭を整理することにした。 「どうやら、自分がライブに行ったのは事実のようである。…ただ、どうやら1人で行ったことになっている。で…確か、結花とオレが並んで坐った座席は、結花が通路からすぐの所で、オレがその隣だった…。」 そして、高峯の記憶にもう一つの確信めいたものが甦っていた。 「さっき篠崎さんが言ってたけど、ライブの最後にやった曲は『Little Blossom』ってタイ トルだった。最近、新曲として発売になったばかりだから、間違いない。 ライブでの曲紹介の時、そのタイトルが、『可愛い女の子』っていう意味だと説明されて いたので、結花は『bloosomって花が咲くって意味だよね。何だか私の為に創ってくれた 曲みたいで嬉しい…。』と、そう言っていた。 これははっきりと記憶がある。 ただ、今までのこと…。ライブのことも、全て結花が存在しなかったように説明できる、 それはそれとして辻褄があっている。 …しかし。…今の自分の手の中にある唯一の証拠は、この半券に書かれたメッセージだけ だ。 でも、それが別な人の書いたものだったら…。一体オレはこのチケットをどこで手に入れ たのだろう…。」 まだまだ謎は深まるばかりであった。取りあえず、この筆跡が篠崎みゆきその人のものかどうかは調べてみる価値がありそうだった。 昼休み、卒業式が迫っている学校内では、部ごとに先輩へのプレゼントや送別会の計画が進んでいた。ちょうど、運良く坂本のところに、色紙の束が届いていた。バレー部は、1人の先輩に対して男女が同じ色紙メッセージを書いているようで、高峯は坂本に言って、一枚見せてもらった。 もう、そこにはかなりぎっしりと色とりどりのペンでメッセージが書き込まれていた。そして、高峯はそれを目を皿のようにして眺めた。 もちろん、探したのは結花のものではなかった。 結花のものがそこに無いなどと言うことは期待もしていなかった。…それよりも、今は篠崎の筆跡の方がポイントなのであった。 …そして、高峯が見つけた、篠崎みゆきの文字は、形の整った綺麗な文字だった。 「チカ先輩、また遊びに来て下さいネ。お世話になりました。みゆき。」 それは、チケットに書かれていたそれとは全く違う筆跡だった。 高峯は確信した。「結花はいる。」 高峯にとって、頼りになるものはその半券だけであった。高峯は何度も何度もそのチケットを取り出してはその裏側に記された文字に見入った。結花の存在しない世界において、そのチケットは彼にとって「結花」そのものであると言えた。 …そして、今ここに存在しない結花を、たまらなく愛おしいと思う、その気持ちの拠り所でもあった。 しかし…。 高峯は、その後もそのチケットを頼りに、出来る限りの「捜索」を試みた。が、その結果は虚しいものに終わっていた。どうやら、ライブに行く為のチケットは自分が自宅のパソコンを使ってネットで買ったもののようだった。 それが、パソコンの履歴から確認できたのだ。 つづく ↓只今5位停滞中
Mar 27, 2008
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今日もよろしくね 連載第12回 次の日、一晩中降り続いた雨は上がっていた。 まだ、芽を吹いていない樹々も、その枝の先に輝く透明な粒をまとい、辺りには春らしい光が漲っていた。 そんな春の気配の中、いつになく元気に自転車を漕いでいく高峯の姿があった。 彼は、学校に行くと早速捜索を開始した。 二人で行ったライブ。その、バンドの名前は「POSTPONE CLUB」。今売り出し中のバンドで、まだそれほど知名度は高くないけれど、やっと地方のツアーを始めた…そんなバンドだった。 高峯は、実のところは結花に誘われるまで、そのバンドの存在を知らなかったのだが、ライブを見て一気に好きになってしまった。ギターとベースとドラムのシンプルな3人編成のそのバンドは、ヴォーカルの声と、歌詞の言葉遣いに凄く特徴があった。 高峯は、よくあるパターンのにわかファンであったが、結花はというと、しっかりとインディーズの頃から目をつけていたらしく、メンバーの経歴なんかについてもかなり詳しかった。 …しかし、それについても自分の妄想なのか…。…いや、そんな筈はない。 高峯は、音楽好きの友人に片っ端から「オレ『POSTPONE CLUB』のライブ行った話したっけ?」と探りを入れた、勿論、自分から「ライブ行ったぜ」って話をした記憶もあるにはあったのだが、ひょっとしたらまた事実と違うことになっているのかも知れない…という恐れがあったからである。 しかし、坂田を始め、バスケ部の仲間からも「ああ、『行った』って言ってたよな。」という返事が普通に戻ってきた。 ただ、高峯にとっては、「結花と一緒に行った」と言うことを伏せていたのが結果的に裏目に出た感じだった。 「オレ、誰かと一緒に行ったって言ってた?」という次の質問には、「知らない。」とか、「お前…、ホント最近大丈夫か?」などと、逆に心配されるような始末だった。 そして、高峯は最後の手段である、結花が最初に「一緒に行く」と言っていたD組の篠崎みゆきに尋ねることにしたのだ。 余り面識のない篠崎だったが、高峯のやや唐突とも思われるような「去年の『POSTPONE CLUB』のライブのことだけど」という質問にも、彼女は真面目に答えてくれた。 ただ、その時彼女は凄く不審そうな顔をした。そして、帰ってきた返事に高峯はまた驚かされることになった。 「片桐くん、『POSTPONE CLUB』好きだって知らなかったから、私本当にビックリしたんだ よ。良かったよね、あのライブ。」 「…。」 高峯は絶句した。しかし、それは想定内であるといえばそうであり、ここで怯むワケにもいかない。馬鹿にされるのを覚悟で尋ねた。 「篠崎さんも、行ったんだ?」。 すると、これも、覚悟はしていたものの、驚くべき返事が帰ってきたのだ。 「やだァー。もう忘れちゃったの? 会場で、偶然片桐くんと隣の席になったんじゃな い。」 高峯は唖然としつつも、追及の姿勢を崩さなかった。…すぐに話を合わせて言った。 「ごめん。そうだったよね。それで、ライブの後どうしたんだっけ。」 「ホント、片桐くんって頭いいくせに、忘れっぽいんだね。どっちも1人で来てたから、帰 りは一緒に電車で帰ったんじゃないの。もう。」 高峯は、それ以上話をすることもできなくなってしまい、「ごめんごめん。」と適当に話 を合わせつつ、苦しまぎれに「…今度の新曲、なかなかいいよね。」とつないだ。すると、 篠崎は顔を輝かせて、 「でしょー。あのライブの最後にやった曲よね。あの時は聴き慣れてなかったから、あまり ピンとこなかったけど。聴き込むと最高だよネ。」 と、笑顔を輝かせながら、凄く嬉しそうなコメントが帰ってきた。 「ありがとう…。それじゃあ。」 そう言い残すと高峯は篠崎を残して慌ててその場を立ち去ったのだった。 …そこで、なぜ高峯が慌てたのかというと、その時の篠崎の自分を観る目に、何となくただならないものを感じたからである。 「…篠崎みゆきは、はっきり言って凄く可愛い。もし、女子の人気投票をしたら必ず学年で もベスト3には入るだろう。結花は…ベスト10には入るだろうけれど…。」 だから、正直言って、この情況に高峯自身が怯んだというのが正直な所ではあった。 …が、今はそれどころではなかった。 つづく ↓ポチっとネ
Mar 26, 2008
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いよいよ!佳境? 連載第11回 「少しは勉強もしなければ…」と思いつつ机に向かっていた高峯であったが、全く手につかないまま、すぐにぼんやりと虚空を見つめてしまうのだった。 そして、思い出そうとすればするほどに、自分の頭の中の結花の記憶、結花の笑顔の輝きが少しずつ色褪せていくような気がした…。 ただ、それが恐ろしいことのような、しかし、どこか安心するような、不思議な感覚に襲われるのだった。 ふと、高峯は何かを思い出しそうな気がした。 そして…、脱いだ学生服のポケットからおもむろに財布を取り出した。別段、そこに「何かがある」と確信したからではないが、何となくそこに気持ちが向いたのだった。 …そして、財布の中を開いた。 レンタルショップのカードとファミレスのカード。そして、コンビニのレシートが数枚溜まっている。…と、目に留まったのは、札入れの所に千円札と一緒に挟まったオレンジ色の紙だった。「あった。」 思わず高峯は声を上げた。そのオレンジ色の紙は、結花とコンサートに行った時の半券であった。コンサートから帰っても、何となく捨てられなくて、財布にいれたままにしていた…その、チケットなのである。 その存在をすっかり忘れていたのだ。 高峯は、財布の札入れの部分から、恐る恐るそっとそれを抜き出した。 それは、確かに結花と一緒に行ったライブのものである。時刻も『11月17日(土)午後6時開演』と記されている。日付も自分の記憶通りだ。 そして、高峯は何か、他に手がかりになるものはないか…と、それを裏返しにした時、思わず息を呑んだ。 その半券に決定的なものを見つけたのである。 そこには、 「loveタカネ」 …と小さく記されていた。 凄く小さく、遠慮がちではあるけれど、鉛筆であろうか…、それはしっかりと書きこまれていた。その少し丸みのかかった、少し濃い筆跡は、紛れもない結花のものであった。 「こんなベタなセリフ…」そう呟きながらも、その文字を見ていると、高峯はなぜか無性に涙が込み上げてきた。 しかし、高峯には、まだそれが信じられなかった。…それが、結花のものだという確証はどこにもないのだ。 …ひょっとしたら、これは別人の筆跡で、オレは誰か別な人とそのライブに行っていたということなのかも知れない…。 しかし、結花がもし本当に存在しているなら…、手がかりはこれしかない。 高峯は、久し振りに腹の底から湧き上がってくる「力」を感じていた。 外は、知らない間に雨が降りはじめていた。 どことなく、あたたかい感じのする…、それは「春の雨」だった。 つづく ↓応援してね
Mar 25, 2008
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今日で折り返し地点ぐらいかな? 連載第10回 その日の学校も、何事もなく過ぎていった。ただ、それは「結花がいない」という状況下においてのことでしかなく、高峯にとっては決して「何事もなく」ではなかった。 しかし自分の思いとは裏腹に、全く平然と過ぎていく日常に、高峯は、「やっぱり全ては自分の妄想で、今までのことが長い長い夢だったのか。」 と、そんな気分にさえなっていくのだった。 その日の帰り道だった。…高峯はとうとう、「やはり、『樋口結花』の存在は妄想だったのではないのか。」 という思いが、自分の心の中で確かな感触を持ち始めていることに気付いてしまった。そして、それは同時に、結花がいないということ以上の喪失感を彼自身にもたらすのだった。 家に着いてからも、高峯の苦悩は続いた。 結花が存在しないことが、はじめは、全く信じられないことであり、それでも「結花がいた」ということに強い確信を持っていたが、誰一人としてそれを認めてくれないし、証拠もない。…そして、何はともあれ「結花」という人格を持った一人の人間そのものがどこにも存在しない…。「本当に結花はいたのか???」 高峯の「確信」は、もはや湧き上がってくる疑念を抑え込むだけの力を失いつつあった。 そして、高峯の感情はあらぬ方向へと動き始めたのだ。 月曜日の朝から、結花のことで頭の中が一杯だった…。その反動もあってか、彼の胸中には怒りにも似た反問さえもが渦巻き始めていた。「しかし…、だからどうだっていうのだ…。そうさ、『結花』って子が仮に存在していたとしても、オレにとってはただの幼なじみでしかない。別に付き合っていたワケでもないし…あいつがいなくなったって、別段オレの人生が変わるワケでも…。」 しかし、思い詰めていけば行くほどに、心の底に、単純にそう割り切ることはできない「核」のようなものがあることもまた一つの「確信」なのであった。 結花の手紙、結花のメール、結花の写真…、探せば探すほど、自分の周りには結花が存在した確たる証拠が数多くあったことが確認できた。が、しかし、それはあくまで「あったはず」のことでしかなかった。 そして、今となっては「証拠」と言えるものは、自分自身の心の中で生きている結花のみであった。 ただ、それは何の証拠にもならないけれど、何よりもはっきりとした鮮やかな感覚であった。 …だからこそ、逆にそれらが全て妄想だということを認めたくはなかった。 幼い頃からの記憶…。 一緒に遊んだ結花。ランドセルの結花。運動会で先頭を元気よく走る結花。中学校になって、セーラー服を着て照れる結花。体育館で真剣にボールを追う結花。偶然逢った橋の上、夕陽を見ながら話し込んだ時の結花。「一緒の高校だね」と自分の背中をいきなり叩いて満面の笑顔を浮かべる結花。授業中の一生懸命な表情の結花。飼っていた犬が死んだと言って、夜になって突然訪ねてきて泣きじゃくった結花。 …結花、結花、結花。 あれが全て妄想、夢だなんてそんなことがあるはずがない…。 樋口結花という一人の女の子は、「片桐高峯」というの一人の人間の歴史の中にしっかりと刻み込まれている。…いや、結花は或る意味自分の歴史の大切な一部分…。 …何より自分の心の中から消し去ることができそうにない「核」。それは、結花への恋心、結花を愛おしむ気持ちそのものだった。 やっとのことで、それを自覚できた高峯だった。それなのに、皮肉なことにその対象となる相手、結花その人自身は…どこにも存在しないのだ。 少なくとも今、自分のいる世界に結花が存在した証拠はどこにもないのだ。 結花に誘われて一緒に行ったたライブ。顔を輝かせながら舞台を見つめる結花の横顔。 …あれが、幻だなんて…。 まだまだつづく ↓皆さんいつも有り難う
Mar 24, 2008
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さあ、今日も頑張るぞ 連載第9回 昨日、自分の部屋の窓から見えなかった結花の家。 実は、高峯はそれも気になっていたのだ。 全速力で自転車を漕ぎ、高峯が辿り着いたそこには、建築中の家が、白いシートを張って立てられていた。 そして、その場所は………結花の家があった所だった。 白いシートで、結花の家が見えなくなっていたのではなく、結花の家そのものが無くなっていたのだ。 絶句して立ちつくす高峯であったが、そこへちょうど隣の家のおばさんが自転車を押して門から出てきた。昔から顔を知っているおばさんだった。 すかさず高峯は尋ねた。 「あの…。ここに樋口さんって方の家がありませんでしたか。」 おばさんの方もどうやら高峯の顔に覚えがあったようで、一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに表情を緩め、 「あら、片桐くんじゃない。大きくなったわね。えーっと、…樋口さんって言った? …い いえ、ここは空き地だったのよ。おばさんがここに家を建ててからずっとだから、もう2 0年以上になるかしら。ずうっと空き地だったわよ。片桐くんも小さい時にここらでよく 遊んでたんじゃなかったかしら?」 高峯はその言葉を聞き、言葉を失い、「あ、どうも。」と、返事をするのが精一杯だった。 …そして、力無くふらふらと自転車を漕いで家に戻って行った。 時折吹く風にはもうすっかり春の匂いが込められていた。しかし、高峯にとって、それは冷え切った真冬の風よりも冷たく感じられるのだった。 「ただいま。」 小さな声で家に入ると、母がすぐに、 「どうしたの。元気がないわね。それに、今日はいつもよりずっと早いのね。…調子でも悪 いの?」 「べつに、そんなじゃないけど。」 心配そうな顔をする母に、高峯はダメもとで尋ねるのだった。 「母さん。オレの幼なじみの女の子っていたっけ。」 母は、いきなり何よ…というような表情をしたが、すぐに彼の質問に答えるべく、少し間を置いて言った。 「…男の子はいっぱいいるわよね…。そこの達哉くんでしょ、それから敦司くん…。でも 『女の子』、よね…。この辺りにあんたと同じくらいの歳の女の子はいなかったんじゃない かな。でも、どうしてそんなこと唐突に聞くの?」 「樋口さん…樋口結花って子、この辺にいなかったっけ。」 「『樋口』さん…? 誰かしら。初耳ね。あまりこの辺りでは聞いたことない苗字だけど。 その子がどうかしたの?」 「いや。いいんだ。」 そう言い残すと、すぐに二階の自分の部屋に駆け込んだ。 高峯はどうしても諦めきれず、すぐに本棚から中学の卒業アルバムを引っ張り出した。 久し振りに開くそれは、とても懐かしい感じがしたが、そんなノスタルジックな感傷に耽る 間もなく、急いで堅い厚手のページを一枚一枚めくっていった。 「結花は中3の時は確か3組だったよな…。」 しかし、案の定「3組」の所に結花の姿はなかった。 「ひょっとしたら自分の思い違いだったかも知れない…。」 と、もう一度全クラスを見渡したが、どこにも結花はいなかった。 そして、小学校のアルバムにも、自分の持っていたスナップ写真にも、どこにも結花の姿はなかった。 高峯が次に思いついたのが、携帯電話であった。しかし、そのメモリーの中にも、メールはおろか、アドレスも着信履歴も何もかもが無くなっていた。携帯電話があまり好きでない高峯ではあったが、たまには結花とメールのやりとりをすることもあった。 高峯に来るメールのほとんどが男友達やバスケ部の連絡などであったが、結花にもらったメールは、何となく特別な感じがし、メモリーを超えて消えてしまうのが寂しくて、プロテクトをかけていたのだ…。 しかし、それについても、影も形もなくなっていた。 登録していた筈のアドレズや電話番号についても、同じであった。 「やっぱり、夢だったんだろうか、いや…、でも、そんなワケはない。」 高峯の精神状態は、もう勉強どころではなくなっていた。 必死で、どこか自分の周辺に「樋口結花」という女の子ががいた証拠がないものか…と、あれやこれやと探し回った。 本棚や抽斗の中をひっくり返して、どんな小さなものでもいいと思って探しまくった。しかし、どこにも結花の痕跡を見つけることはできなかった。 そして、途方に暮れてしまった高峯はベッドに仰向けになって、ぼんやりと天井を見つめていた。 その時点で、高峯はもはや半ば「結花」の存在を確かめる術を失っていた。 そして、疑心の矛先を自分自身に向けざるを得なくなっていた。 「本当に、俺どうかしちゃったんだろうか。それにしてももし、結花が存在しないこの世界 が現実なんだったら、どうして、オレは結花なんて子がいたなんて信じてるんだろう、ど うして…。」 夕食の時も、風呂に浸かっている時も、ベッドに入っても、高峯の頭の中は結花のことばかりが巡っていた。そして、これがもし悪い夢なら、一度眠りについて、目が覚めれば、ひょっとしたら何もかもが元通りになっていないだろうか…、と淡い期待を胸に目を閉じるのだった。 高峯は布団を頭から被って、「夢なら醒めてくれ」と本当に口に出して何度も繰り返した。そして、布団にもぐったまま体を丸くしていると、知らない間に眠りに落ちていた。 その夜、高峯は夢を見た。 そこでは、もう既にあの、新築の家は完成しており、そこに入る新しい入居者が挨拶回りをしていると母が自分に告げるのだった。 そして、高峯の家にもそこに転住してきた一家が挨拶に訪れた。 呼び鈴が鳴って、高峯がドアを開けると、そこにいたのは中学校の時の担任の先生、中原先生であった。そして、先生が「お世話になります。これは娘です…」と、そう言って紹介した女の子は、何と結花であった。 …しかし、高峯自身はそれに対してあまり驚くこともなく、平然とし、妙に納得していた。 ただ、結花には何となく「どうして」って声をかけるのだった。 すると、結花は悲しそうな顔で「ごめんね。」と一言い、その後で「うちの家族はみんなあ の家に住むんだけど、私だけ、また遠くに行っちゃうの。だからサヨナラを言いに来た の…。」と。 高峯は、それを聞いて何だか凄く淋しくなり、それで何かを残そうと思い立ち、「じゃあサインして」と自分の部屋に中学の卒業アルバムを取りに行った。 卒業アルバムの一番後ろのページにサインをしてもらおうと考えたのである。しかし、自分の部屋に取りに入っても、そこにあった筈の卒業アルバムが何故か見つからない。「おかしいな」と本棚を幾ら探しても見つからない。 気持ちはとても焦るのだが、どうしても見つからず、困り果てながら、それでも本棚をかき回していた…………ところで、目が覚めた。 背中は汗びっしょりだった。布団を被って寝たから暑かったのかもしれないな、と意外に冷静な自分であったが、時計を見ると5時50分だった。 2月末の夜は6時前でも、まだまだ明けてはいなかった。 高峯は布団から起き出してカーテンを開けると、仄暗い外を眺めた。はっきりとは分からないが、結花の家の屋根が見える辺りに、白っぽいものがぼんやりと浮き上がって見える。 …それが、新築の家を囲う白い幕であることは、容易に見て取ることができた。 「やはり、夢じゃないんだ。」 高峯は秘かに懐いていた淡い期待も、その薄闇に溶けていくような気がしていた。そして、洞窟の中に溜まる水のように、暗い気分がゆっくりと心を充たしていくのを感じ取っていた。 窓ガラスにかかる息が、白い生き物のようにふわふわと波打つのを、焦点の合わない目で眺めながら、高峯は随分と長い間、そこに立ち尽くしいた。 次第に外は明るくなり、素足の足先はいつの間にか冷え切っていた。 …そして、 「やはり、これは夢ではないのか?」 しかし、幾らそう思ってみても、それだけはどうしても否定できそうになかった。高峯は、嫌という程全身に感じられる、自分の生々しい現実の生の感覚を、これほどまでに腹立たしいものに思ったことはなかった。 つづく ↓読者が増えますように
Mar 23, 2008
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今日もたっぷりね 連載第8回 気もそぞろのまま4時間目を終え、高峯は取りあえず食欲のないまま弁当を食べていた。いつもなら、5分ほどで食べてしまう彼も、今日は10分程かけても、まだ半分ぐらいしか食べ終えていなかった。 好物のウインナーも、ゴムを噛んでいるような感触だった。 仲間達もぼんやりしている高峯にあえて声を掛けない様子であったが、そんな中、校内放送が入った。 「卒業生を送る会の打ち合わせがあるので、各部の部長は12時45分に第2多目的教室へ 集合して下さい。」 弱小チームではあったが、高峯は一応バスケットボール部の部長を引き継いでいるのだ。その放送を聞き、やっと我に返ると、残りの弁当を一気にかき込んだ。 そして、「おい、片桐行こうぜ」と、声を掛けてきた坂田と一緒に、集合場所にへ向かった。 そして、12:45分が来た。生徒会の役員と生徒会係の竹中先生は時計を見ながら、 「さすが部長たちだな。しっかり時間通りに集まっているようで感心、感心。」 と、ご機嫌な様子だった。 そこで、副会長の清水さんが出席を取り始めた。 「それでは主席をとりまーす。 野球部…、山本くん。」 「ういっす。」 「テニス部、男子、吉田くん。テニス部、女子、滝沢さん。…」 と順番に呼ばれていく。 そして、バレー部の所まできた。 「男バレ、坂田くん」 「はーい。」 高峯は、そこで息を呑んだ。…そして、坂田の軽い返事の次に呼ばれたのは 「女バレ、浅野さん…」 確かに、今普通に「女子バレー部の部長」として、A組の「浅野」が呼ばれて返事をした。 代役なら、必ず「代わりです」とか言うはずの所である。いつもなら、そうである。しかし、普通に浅野さんが来ていて、普通に返事をしたのだ。 「やっぱり、おかしい」 高峯はぼんやりと思っていると、「バスケ部」のところで、思わず返事が遅れてしまい、隣の坂田に突っつかれてしまった。 「まさか、学校を挙げてオレを騙すわけないよな…。」 高峯は本当にワケがわからず、混乱した気持ちのまま打ち合わせ会を終えると、すぐに坂田に尋ねた。 「坂ちゃん…。オレ、ホント頭がおかしくなっちまったんだろーか…。『樋口さん』ってい なかったか。…女バレの部長でセッターの。」 真剣な表情の高峯に対して、坂田はあまり邪険にもできないと思ったのか、真面目な顔で答えた。 「お前、ホント大丈夫か…?。何か悪い夢でも見たんじゃないか? オレ『樋口』って苗字 なんて聞いたこともないぜ。女バレの部長は前から浅野さんだし、セッターは1年だ ぜ。」 高峯はもう、坂田にそれ以上言う言葉を失っていた。 皮肉にも、5時間目の漢文の授業はそんな高峯に追い打ちを掛けるような内容であった。 先生は、いつもの調子で授業を始めると、 「えーっ…とだな。前回やった『桃花源記』は、今回の試験では一番大事な所だから、よく 復習をしておくようにな。 …しかし、この辺りは桃の産地だから、お前達にも関わりがあるよな。この話を創った陶 淵明という人は、賄賂政治なんかで乱れていた世の中を憂えて、こういう場所を夢想した んだな。そういえば、…この間、『桃源郷』って言葉の意味を尋ねたよな。片桐。」 高峯は、この前「田舎」と答えて笑われたのを思い出しながら、 「あ、理想郷…」 と、ぽつりと口にすると、 「はい、よろしい。…そうだ、この前もお前に尋ねて、ちゃんと答えたから褒めてやったん だったな。悪かった悪かった。ワシも最近忘れっぽくなってるな。ははは。」 漢文の高田先生は、そう言って一人で笑ったが、高峯は全く笑えなかった。 「この間、質問にきちんと答えたのは結花である。オレじゃない…。結花がオレに向けて出 したピースサイン…。あれは、絶対夢なんかじゃない…。でも、なぜかそうなってい る…。」 そして、その5時間目の漢文の授業内容も、実に意味深なものだった。 高田先生は、 「今日やるのは『荘子』という、思想書です。思想については、本格的には3年になってや るが、これは面白い話だから、ちょっと齧ってみようかなと思ってな…。」 教科書の内容は『胡蝶の夢』というものであった。 高峯は予習をし忘れていたので、山崎に英語2のお返しとしてノートを借りていたが、読んでみればその話の内容はとても短く、予習なしでも乗り切れそうなものだった。 そして、その内容はというと、「荘周」という登場人物の、夢物語のような話だった。 荘周は夢の中で、蝶になって空を飛んでいたのだが、夢から醒めて、ふと「さっきまで、自由気ままに空を飛んでいた蝶が本当の自分で、今ここにいる自分はその蝶が夢を見ているのではないか…」と考え始めた。すると、何が現実で、何が夢なのかが分からなくなってしまった…というものであった。 先生は、「これは、難しく言うと『懐疑論』といってな、自分が普段『絶対』とか『常識』だとか思っているものってのは、実は非常にもろいものなのだ、ということを比喩として示しているんだよ。なかなか面白いだろう。」 高峯はその言葉を呆然として聞いていた。 自分にとっては、本当に洒落にも何もならない内容だった。 まさに高峯自身、その話の中の「荘周」か「胡蝶」かというような情況にいた。 しかし、本当にどうなっているのだろう。高峯は、ベタな漫画のワンシーンのように本当に自分の頬をつねってみた。 激しく痛かった…。 こうなると、学校では埒があかない。高峯はそう考えて、7限目が終わるや否や、掃除当番も放り出して、すぐさま学校を後にした。 そして、自転車で向かったのは…当然結花の家であった。 つづく ↓明日も読んでね
Mar 22, 2008
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今日も頑張ります。 連載第7回 結花の机がないことに気付いた高峯は、もう数学の授業どころではなくなっていた。 「え~??? 一体どういうこと??? 転校? まさか。 …タチの悪い悪戯? いや、それにしても… そんなはずは…。 え~???」 と、高峯は掃除用具入れの前のスペースを穴の空くほど見ていたところ、 「おーい、片桐。いいかナ。」と先生に注意を受けてしまった。 高峯は取りあえず視線を黒板へ移したものの、その時間中はずっと、目に映る数字も、頭の中の数字も、全て「?」に自動的に変換されてしまうのだった。 チャイムが鳴って、「起立」、「礼」が終わるか終わらないかのうちに、高峯は湧き上がってくる不安や疑念の入り交じった妙な気持ちを抑えながら、それとなく後ろの席の高山に尋ねてみた。 「樋口…さん、休むなんて珍しいよな。」 しかし、高山は無愛想に「え?誰のこと?」と言ったままぷいと後ろの方へ行ってしまった。 「何てヤツだ。クラスメートの名前も覚えていないのか。」と、高峯は少し腹が立ったが、次は体育だったため余りもたもたしてはいられなかった。 着替え始めた男子を後目に、女子たちはそそくさと更衣室へと出て行った。いつものように、お調子者の東は女子がまだ後ろの方に残っているのに、早くもトランクス姿になっている。 高峯は訊いた相手が悪かったかなと、体操着をロッカーへ取りに行き、そこにいた坂田にもう一度言った。「坂ちゃん、今日樋口どうしたのかなァ。」…と、やはり坂田は「え?」っていうような顔をして、横田と同じ反応をしたのである。 「誰だそれ?うちのクラス?」 坂田は結花と同じバレー部であり、キャプテン同士だから、まさか知らないわけがない。高峯はてっきりからかわれているのだろうと思って、 「何言ってんだよ。樋口結花だよ、おかしいよな…今日は席も無いんだぜ。」 すると坂田は、 「おまえ、勉強しすぎで頭がおかしくなっちまったんじゃないか。樋口って誰だよ、そんな やついねーシ。」 と半分マジな顔になって言う。高峯はきつねにつままれたような気がして、思わず意識がとびそうになってしまった。 ぼおっとしていた高峯に、すかさず、坂田は突っ込みを入れてきた。 「おーい、片桐が勉強かゲームのしすぎでおかしくなっちゃってるゼ。」 後ろの方で着替えていた東たちが、それを聞いて「おいおい」「やベー」などと騒いでいるが、高峯はそれに眼もくれず、すぐに教卓の所に行くと、そこに置いてある座席表に目を落とした。しかし、そこにも「樋口」の苗字はなかった。 一番左の列の最後尾は「池田」で終わっている。しかも、その後ろには机を表す□の枠さえもないのだった。目を凝らしてみても、誰かが、消しゴムやホワイトで消した痕跡も無かった。 高峯は本当にあっけにとられてしまったが、取りあえず次の体育に遅れたらマズイということで、そこはてきぱきと着替えを済ませるとグラウンドへ向かった。 体育が終わって、3限目の地理の授業前、着替えている高峯の所に約束通り山崎がやって来た。「お願ぇしますだ」と、ふざけて揉み手をする山崎に、「英2はバッチリだから、昼休みに漢文たのむぜ」と言いながら高峯は小声で尋ねた「お前さ、オレの幼なじみの樋口さんって、知ってるよな。」と。 しかし、やはり山崎も同じような反応で「え?」と言うと、「誰それ?」と続け不思議そうな顔をした。そして、ちょうどチャイムが鳴り始めたので、「じゃあな」と言い残すとB組へ帰ってしまった。 次の時間も、高峯は半分上の空で、授業はほとんど頭に入ってこなかった。 「ひょっとして、みんなでオレを騙そうとしているのだろうか。でも、そのために結花が休むなんて大がかりなことをするだろうか…。他の奴らならまだしも、クソ真面目な横田までもが一緒になってオレを騙すとも思えないし。まさか、急な転校? いや、それもあり得ない。」 高峯はそう考えると、「もし、オレを騙そうとしているのなら、自分の様子を窺って楽しんでいるやつがいるに違いない。」と思い、それとなくきょろきょろとして仲間達の様子を窺っていた。すると、今度は日本史の大島先生にまで注意を受けてしまった。 「片桐くん。どうしたのかな、誰か気になるのかな?」 と、すかさず東が、 「先生、片桐くんは日本史の勉強のしすぎです。」 と茶々を入れ、またまた教室を湧かせてしまった。 「東のやつ、オレが日本史が苦手なのを知っていて、わざと言いやがって…。」 しかし、東が言うと少々キツいことでも、毒がない。先生も、みんなが笑って雰囲気が良くなった感じを受けて、機嫌を損ねることなく、 「そうか、じゃあ片桐よ、学年末は期待しているぞ。」 と言うと、「じゃあ資料集を開いて…」と授業へ戻った。 そこは、難を逃れた高峯であったが、彼にとってはそれどころではなかった。 そして高峯は、頭を掻きながら、みんなの様子がごく自然であることにも気付いていた。 「何かおかしい。一体どうなってるんだ。」 そして、昼休み。高峯にとって「決定的」なことが発生した。 つづく ↓応援してね
Mar 21, 2008
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今日は休日なのでたっぷりどうぞ。 連載第6回 「えっ。」 と高峯は思わず声を出した。 「もう、咲きはじめた…?」 しかし高峯が振り仰いだその先にあったのは、無数の木の枝のシルエットに区切られた、ぼんやりとした薄暮の空だけであった。 「どこかに、咲き始めの枝があるのだろうか…。」そう思って、目を凝らして見ても、何も探すことができないまま、高峯は見上げた首を下へ降ろそうとした。 長い間上を見上げていたためであろうか、その時高峯は軽い目眩のようなものを感じて思わずよろけてしまった。 そして、気がつくともう甘い香りはどこかへ消え去っていた。 「どこか他の樹かな」 と思うものの、まだ時期的に早く、見渡す限り周囲の樹にも花はついてはいない様子であった。 …しかし、先程の匂いは紛れもない桃の花の香であり、それは否定できない鮮やかな感覚であった。 高峯は、ちょっぴりノスタルジックな思いを懐きながら、その大きな桃の樹に背を向けて歩き始めた。途中、誰かに呼び止められるような気がして、何度もその樹を振り返りながら…。 再び、暫く柔らかい桃畑の斜面を踏みしめて歩き、先程のコンクリートの道に出ると、高峯は自分の家のある谷へと少しスピードを上げて降りていった。 その週末は、取りあえずの試験期間ということで、家から殆ど出ることもなく、高峯も一応テスト勉強に取り組んだ。 試験は卒業式の翌日の木曜日からなのだが、その前の月曜日と火曜日には授業が思い切りあるので、その予習もしなければならない。しかも、提出物も溜まっていて、することは山ほどある高峯であった。 日曜日の午後になって、「これでは明日までには到底間に合わない」と思った高峯は「困った時の結花様」で、プリントを写させてもらおうと、お願いメールを打とうかと携帯電話を取り出した。 高峯は携帯電話があまり好きではないので、よく机の抽斗に入れっぱなしにしになっている。思えば、木曜日の夜からそのままだった、と取り出して開いてみたが、寂しいことに着信もメールも殆ど入っていなかった。 試験期間中だから、部活動の連絡も入っていないし、そもそも自分から進んで使っていない携帯だから仕方がない。結花のアドレスも知ってはいるが、あまりメール交換などしたことが無いのも事実だった。 …そして。高峯は暫く待ち受け画面を眺めていたが、一旦取り出した携帯を閉じて、また机の中にしまい込んだ。 実のところ、高峯は、この間のライブ帰りの電車の中で、「これからは勉強も部活も気合いを入れる。」と、結花の前で格好つけて宣言したばかりだったのだ。 ということで、さすがにちょっと頼みにくく、「まあテスト範囲だし」と、できるだけ自分の力でやろうと思い直したのだった。 高峯の家から結花の家までは、ほんの100メートルほど。少しではあるが、高峯の部屋から結花の家の屋根が見える。 「結花のやつ『ガリ勉モード』でやってんのかな…。」 中学時代は結花よりも高峯の方が成績も良かったので、結花はよく「タカネくんと同じ高校にいけるように頑張る。」と言っていたものだった。が、高校に入ってからは、のほほんと暮らしている高峯をよそに、結花はこつこつと勉強して、2年の中程辺りからは、定期考査はおろか、実力テストでもすっかり逆転されてしまっているというのが現状であった。 「今度はオレが追いかける番なんだよな…」そんなことをあれこれと考えながら、窓際に立って外を眺めた高峯であったが、新築の家であろうか、白い幕がかかった建物が結花の家の辺りに建ち始めており、それがちょうど目隠しになって結花の家は見えなくなってしまっていた。 「あんな所に家が建ってたっけ」と思いつつ、「結花の家はどうせ見えても屋根だけだしな…。」と、高峯は空を見上げた。 山際にうっすらと黄色がかった靄のようなものがかかっているのが見える。きっと、黄砂であろう、…もう春はすぐそこまでやって来ている。 それを見て、高峯は「オレにも春がこなくっちゃね。」と少し気合いを入れると、再び机に向かうのだった。 翌日。いつもより早く家を出た高峯は修理した自転車の走りを確かめるようにペダルを踏みしめた。しっかりと空気が入ったタイヤはぐいぐいとその力を受け、どんどんとスピードが上がっていく。襟足を抜ける風が冷たく心地よい。 早く家を出た時には、結花と時々遭遇する曲がり角が近づいてきた。 「結花、ちょうど出てこないかな…。ここで結花が出てきたら今日はラッキーデーというこ とにしよう…。」 ちょっぴりそんな願いを思い浮かべながら、クリーニング屋のあるその角に近づいた。けれども、カーブミラーにはヘルメットをかぶった中学生の姿しか映っていなかった。 「残念…。でも、結花のやつ、もう学校に行ってんのかな。ひょっとして、オレが早かった のかな…。ま、とにかく学校、学校。」 高峯は一段とペダルを強く踏んだ。 学校が近づくと、徒歩通学の者や自転車通学の者が次々に姿を現し、当然のことながら、その集団は全て校門へと吸収されていく。当たり前のことではあるが、何だか不思議な感じもするものだ。そんなことを感じつつ、高峯もその中の一人として校門に向かっていった。 高峯は自転車のスピードを落とすと、いつものように徒歩で歩いている山崎の肩を叩き、「うーっす」と声をかけた。後から、 「今日の英2のノート貸してくれよ、3限目な~。」と野太い声が追いかけてくる。 「おお、いいぜ、そのかわり漢文ヘルプな~。」 高峯の学校は、自転車置き場が教室から遠いところにある。特に2年生の教室は自転車置き場から下駄箱まで軽く100メートルはあるので、直接教室に行ける徒歩通の者に合わせてはいられない。お互いに「後、教室で。」ということは良く分かっているのだ。 ということで、高峯は山崎を置き去りにして走り去った。 自転車置き場まで行き着くと、いつもなら遅刻ぎりぎりで停められないほどなのだが、今日はまだまだ空いていた。 気分よく自転車を降りて、駐輪すると、大きなエナメルのバッグを肩に掛けて歩き出した。いつもなら部活の着替えなどでパンパンのバッグも今日は大きくへこんでいる。 ふと、高峯は自分の置き場の隣のブロックに目をやった。そこは自分と同じ、2年C組の女子のスペースである。が、そこに見慣れた結花の白い自転車はなかった。 これまで、結花が高峯より遅いことなど殆どないというのが事実だった。それも、1年に1回あるかどうかほどの確率だった。 「どうしたのかな、やっぱり今日はオレが早すぎたのかな…」高峯は思ったが、時計を見るとそれほど早いわけでもない。小学校から一日も休んだことのない「皆勤娘」の結花が休むとも思えなかった。 ちょっと立ち止まってあれこれ考えたが、歩き始めるとそのままそのことはもうすっかり忘れ、前を少し猫背で歩いているクラスメートの川田の姿を見つけると、高峯は小走りで駆け出していた。 教室に入ると、いつもの仲間達がすぐに集まってきた。そして、トイレの横にある廊下の突き当たりの出っ張った所、通称「でっぱり」へ移動して暫く喋っていた。 大体話題の中心はというと、「週末いかに勉強していなかったか」ということで、それぞれが頽廃的な週末の報告を熱心にし合うのだった。が、そんな自虐的な話題に花を咲かせながらも、「もう俺達受験生だよな~」という雰囲気も、言外に漂う微妙な時期でもあった。 予鈴が鳴っても、まだ暫く話していたが、廊下の向こうから数学の山下先生が登場した。いつものように、指示棒をタクトのように振りながら歩いてくる。と、一緒に話をしていた坂本が「やっべ~。オレ板書するの忘れてた~。」と言うや否や猛ダッシュで教室へ駆け込んで行った。皆、苦笑してはいたが、そろそろ本鈴が鳴る頃だということも察知し、三々五々教室へ散っていった。 異変に気がついたのは、授業が始まって半分ぐらいたってからだった。 はじめ、高峯は自分の目を疑った。 高峯は2月の席替えで、席が前の方になってしまったので、反対に一番後に席が移動した結花にはそれまで全く目が行っていなかったのだ。 いつものことながら、正面の黒板に書ききれなかった答案は後ろの黒板にも書かれるのだが、解説のために先生が教室の後ろに移動して、説明を始めた時であった。 「あれ。結花は?」 窓際から2番目の列の一番後ろには黒ぶち眼鏡の池田さんがいる。結花はその列の最後尾だったはずなのだが、結花の姿はそこになかった。 というか、そこには結花の机自体が存在しなかった。 つづく ↓さあ、本格的に始まりましたヨ
Mar 20, 2008
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今日も朝更新でーす。 連載第5回 幼い時から遊び友だちで、小・中学校、そして進んだ高校も同じ。 しかも、どちらも文系へと進み、示し合わせたかのように選択教科も一緒だったので今はクラスも同じになっている高峯と結花であった。 そんな二人ではあったが、中学の終わり頃から少しずつ、会話をする機会は少なくなっていたのも事実であった。 高峯自身も、決して女の子にモテないワケではなかったし、結花も平均よりはうんと可愛かった。中学校の頃から結花を好きだという男子は高峯の周りにも結構いて、幼なじみということで、羨ましがられたり、結花との仲を取り持って欲しいと頼まれたりすることもあった。 そんな時感じる、少し嬉しいような、困ったような、くすぐったい思い…。それを、高峯自身どう処理して良いか分からずにいるのだった。 かと思えば、反対に結花の方から、「タカネのことを好きだっていう子がいるんだけど、どうする…」なんて話を持ちかけられることもあった。 そんな時は「どう思う?」と、お互いに相談役を勤めるのだった。でも結局はどうすることもできず、結果、どちらも決まった彼女や彼氏を作ることはなく、今に至っていた。 ただ、そんな結花が1ヶ月ほど前に突然自分を誘ってくれたことがあった。 それは、最近売り出し中のロックバンドのライブであった。 「どうして突然…」、と尋ねる高峯に「だって、一緒に行ってくれるはずのミユキがドタキ ャンするんだもん。で、…。」 「ちぇっ。仕方なくかよ。」 「仕方なく、なんて言ってないし。」 「言ってるのと一緒だよ。」 …とは言いながら、二人で笑い合った。高峯は久し振りに間近で結花の笑顔を見て、何だか懐かしいような照れくさいような気分で、凄く昂揚している自分を感じていた。 というのも、秋頃から結花に、「ひょっとしたら彼氏がいるんじゃないか…」という雰囲気が漂っており、実際にそんな噂もあったからなのである。そして、高峯自身、それを確かめることもできずにいたのだった。 以前なら、気軽に聞くこともできたろうに、それができなくなっていることに、高峯は二人の間にできている確かな距離のようなものを感じずにはいられなかった。ただ、その「距離」とは、子供から大人になっていく上で必ず生じるものなのかも知れない、とそんなことも考えていた。 だから、高峯は正直結花に誘われたことが嬉しかった。 ただ、その時のデートと言ったら…電車に乗って、ライブ観て、何処にも寄らずに真っ直ぐ家に帰ってくるという、本当に色気も素っ気もないものであった。 それでも、行き帰りの数時間の間に、高峯は本当に久し振りに結花と話をした。 …でも、結局それだけのことでしかなく、それがきっかけで二人が恋人同士に発展するなんて兆しは全く感じられかった。 木の幹につけた傷…。古い大きな樹木を傷つけるということは、子供心にも少しの罪悪感を感じていたのだろう、それは目立たない木の裏側にこっそりとつけられたものであった。 「きっと、これを知っているのは自分と結花の二人だけかもしれない。」 「でも、ひょっとしたら、このこと…結花も忘れているのかもしれない。」 そんな気もする高峯だった。 ちょうど陽の当たらない陰の部分に、その傷はあった。高い所と低い所に一つずつ。それは、当時の自分と結花の背の高さを示していた。 「あいつ、あの頃からちっちゃかったんだ」と、今の自分の腰ほどしかない「結花」の印と、その10センチほど上につけられた「自分」の印。その二つの古い傷に、高峯はそっと指先で触れてみるのだった。 と、静かに風が吹いた。どこからか漂ってきた甘い香りが高峯の鼻をくすぐった。それは間違いなく、嗅ぎ慣れた桃の花の香であった。 つづく ↓頑張ります
Mar 19, 2008
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今日から朝更新しまーす。 連載第4回 「あの樹…まだあるかなあ。」 高峯は道を外れて、脇の桃林の中に足を踏み入れていった。そして、暫く自分の家とは反対方向に斜面を下っていくと、そこだけが少し抉れたようになっている、斜面のへこんだ所に降りた。 そこには、5メートル四方ぐらいの小さな溜め池がり、その脇には、比較的大きな桃の木が一本生えていた。 果実を取るための桃の樹には、それほど大きなものはなく、作業がしやすいように低い所で枝分かれさせられているものが普通であったが、その樹だけは別だった。 いつ頃からここに生えているのだろうか、その樹は幹がすっと上に伸びており、高いところから枝が分かれている。そういう意味では果実を取るには不向きであるが、この樹については、どこの所有とかそういうことが決まっていないようであった。何やら、この辺り一帯を守っている、そんな趣すら感じられる堂々とした樹であった。 何やら曰くのありそうな雰囲気を持っているその樹であったが、高峯にとっては子供の頃この周りでよく遊んだ、見慣れた樹なのである。 桃の実の受粉や、袋かけ、収穫の時期は慌ただしく、この辺りでちょろちょろしていると邪魔にもなるし、池もあって危ないと、大人達にひどく叱られもしたが、子ども達にとっては本当に良い遊び場であった。 高峯はその大きな桃の樹の下に歩み寄った。そして、少し腰をかがめて幹のあたりを眺めながら或るものを探しはじめた。 …果たして、それはそこにあった。 高峯が小学校の2年の時のこと。幼なじみの結花と一緒にここで遊んでいて、何を思ったか一緒に背比べをしたのだ。そして、これまた何を思ったのか、その時の結果をその樹の幹に刻んだのである。 今から思えば、大切な桃の樹に何と馬鹿なことをしたものか、と思うものの、それは自分にとっては幼少の大切な思い出なのであった。 高峯は子供の頃から身長がすごく高くて、それに対して結花はかなり小さかった。 そして彼はそれからもすくすくと成長し、高校3年を迎えようという現在では、もう180センチを超えている。 一方結花は、少しずつ大きくはなったものの、依然として集団の中では小さいままであった。尋ねてはないのだが、きっと150センチ台であることは、一目瞭然であった。 さすがに、もう背比べなんかはしないし、身長のことなどは話題にすることもなかったため、確かめる術もなかったのであるが。…というより、結花と話をする機会それ自体も、最近では随分と減っていたのが事実だった。 尖った石で削ったその二つの刻印は、10年が経とうとしている今もしっかり残っていた。 「幼なじみ」ってそんなもんなんだろうな。 高峯は、今ではすっかり黒ずんではいるが、それでもはっきりと刻みつけられた樹の幹の小さな傷を見つめながら、暫くぼんやりとしていた。 ↓応援してね。
Mar 18, 2008
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ごめんなさい。間違って消しちゃいました。同じ内容は18日の日記のところにあります。Nobubuさんの折角のコメントが消えちゃうので、取りあえず削除はしませんでした
Mar 17, 2008
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連載第3回 高峯は店を出ると、家の方へ向かって商店街をぶらぶらと歩いていたが、ふと思い立って、呉服屋の手前の細い路地を右に曲がると、裏道へ抜けた。そして、そこから山の方へと向かう坂道を上り始めた。 彼の住む町は山あいにある田舎町であった。しかし、大きな街までは比較的近く、車で30分程度、電車でも駅三つほどで行けた。 この町は昔から、農業、特に果樹栽培が盛んであったが、最近では都市部のベッドタウン化が進んでおり、郊外には大きな宅地やショッピングモールなどが次々に建っていた。ただ、そういう意味では昨今、全国どこにでも見られるような、ありふれた町だということも言えた。 高峯の通う高校はちょうど山の南側にあり、その裏手に広がる山のあちこちに蜜柑畑や桃畑があった。彼の家は、学校がある側から言うともう一つ西の谷にあり、自転車だと、大きく麓をぐるりと回るようにして帰らなければならない。しかし、少し山を登ってそこから隣の谷に降りると、すぐに自分の家があるのだった。 普段なら、当然自転車で町中を通って帰る、行程10分程の距離であったが、今日は何となく、久し振りに山を歩いてみたくなった高峯だった。 時間的には、それほど変わらないし、自転車屋は自分の家のすぐ近くであるから、ロスはほとんどない。 「どうせ歩くなら久し振りに山歩きもいいかな」と、ふと思い立ったのである。 「山歩き」と言っても、果樹園としてかなり整地がなされており、軽トラが行き来できるような道が斜面に張り巡らされているので、ちょっとした散歩程度ではある。 白っぽいコンクリートで舗装された道を、トレーニングをかねて、爪先に体重を載せて登っていくと、すぐに小高い丘まで出た。 そこからもまだ、山は上へと続いているが、高峯の家に行くにはその辺りから斜面を真横に突っ切って隣の谷まで渡ればよいのである。 麓を見下ろすと、高峯の通う学校の校舎はもう半分ぐらいが山の陰に隠れている。それでも、自分のHRの窓の辺りはまだ何とか見えていた。授業中、教室から見えていた通り、山はまだまだ枯れ葉色でモノトーンであったが、どことなくほんのりと緑ともピンクとも言えない薄い靄のようなものがかかっている感じがする。 それは、実際に山に入っても感じられるものであった。 先程まで自分が歩いていた、商店街に繋がる辺りの国道が見える。そこを走っている車は米粒ぐらいの大きさであった。 5分ぐらい歩くと、もう高峯の家のある谷が眼下に見えてきた。そして、今度は斜面を下っていく。その辺りに小さな竹藪があり、そこから下に通じる道がある。そこはもう高峯にとっては庭のようなものであった。 小さな頃、よくここらで遊んだものだ。と、ちょっぴり懐かしい気分に浸りながら、桃林の間を抜けていく。春はすぐそこまで来ている感じはあるけれど、桃の木の枝にはまだ赤茶色の、堅そうな、ツボミとも芽ともいえないようなものがついているだけである。 高峯の家の隣にある梅の木にはもう黄色い花がついていたので、もう少しで桃の花も咲き始める頃だろう。 「『桃源郷』…か。」 高峯は、今日の古典の時間に習った話を思い出していた。あの話は、桃の花の咲き乱れる林が川を挟んで数百メートルもあったということだったが、幾らここらが広い桃林だと言っても、せいぜい30メートルと言う所が関の山だと思った。 で、どう考えても、自分がこの桃畑の中で迷ったりはしそうになかった。 その時、高峯はふとあることを思い出したのだった。 つづく↓今回はスローなスタートで…。
Mar 17, 2008
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連載第2回プロローグ 漢文はその日最後の授業だった。今日は金曜日だからこれで今週は終わり。 来週は、月曜日と火曜日に授業があって、それから卒業式。それをはさんで学年末考査というのが予定だった。 「学校も、もう少し日程考えろよな。先輩と名残を惜しむ時間もありゃしない。」 そんなことをぶつぶつ考えながら、自転車置き場まで行った高峯は、そこに自分の愛車がないことに気付いた。 「そうか、パンクして修理に出してたんだ。折角自転車置き場まで回ってきたのに…。」 と、自分のミスではあったが、誰に文句も言えず、高峯は自転車置き場の入り口で立ち尽くしてしまった。 自転車に乗ったクラスメートの吉田と山崎が「じゃあな、片桐。」と、横を通り過ぎて行った。 2月の末、学校は試験期間中だった。ということで、部活動も禁止。高峯の通う高校は進学校であり、試験期間中ともなると、さすがに放課後の人の退けは早かった。もう、自転車置き場にも、残っている自転車はまばらだった。 そこで、高峯は気を取り直して自転車置き場に背中を向けると、校門へ向かって歩き出した。そして暫く歩いていたが、ふと思い出すことがあり、グラウンドの脇を曲がるとその先にある部室へ向かった。 「ばすけ部」と、誰が書いたのか判らない汚い字の表札のかかったドア。高峯はちょっと埃っぽい感じのする、そのドアノブに手を掛けると確かめるように捻った。 「カチャリ」と音がして、ドアが開いた。やはり、予想通りカギはかかっていなかった。 薄暗い部室の中から、静汗スプレーと汗の臭いが混じった独特のニオイのする冷たい空気が流れてくる。その中に高峯は入っていくと、自分のロッカーからバッシューを取り出した。 「しかし、ついてないよな…。」 そんなことを呟きながら、そこにあったパイプ椅子に腰掛けると、彼は自分のバスケットシューズを膝に置き、紐を緩めると、それを抜き始めた。 実は、試験発表前の最後の部活があった今週の水曜日。何となくシューズが緩い感じがしたので、締め直そうとして両手でぐいと引っ張った拍子に、片一方の紐が途中からぷつりと切れてしまったのだ。 入学以来、ずっと使っているシューズだから、まあ仕方ないかなという気はしたが、靴の紐が切れるなんてあまり縁起のいい話ではない。それでも、そんなに迷信深い自分でもないので、ここは気分一新して新しい紐と取り換えようと思っていた…そして、それをすっかり忘れてしまっていたのだ。 最初はシューズごと持って帰ろうと思っていたのだが、あいにく自転車も調子が悪いということで、重くてでかいシューズは部室に置いておき、紐だけ抜いて持って帰り、途中のスポーツショップで新しいものを買おうと思ったのだ。 抜き取った紐を縛って学生服のポケットに押し込むと、高峯は部室のドアを締め、再び校門の方へ歩き出した。 高峯の行きつけののスポーツショップは学校から比較的近い場所の、ちょうど帰り道のコース上にあった。 ちょっとさびれた商店街の外れにあるその店は、決して綺麗ではなかったが、昔から人のよさそうなおじさんがやっている店で、品揃えが良いのと、安いので評判の店だった。 「こんにちは。」 と言いながら、ガラガラと引き戸を開けて店に入ると、 「まいどォー。」 と、いつものおじさんの、尻上がりの調子の良い声。 高峯は、自分が買いに来たものが大したものではなかったので、ちょっと控え目に「あの…。」と言い、シューズの紐が切れた由を告げた。 おじさんは、「ああそうかい」と気さくに言って、すぐに高峯を店の片隅へ案内してくれた。 「白だったらすぐにあるけど、いい色のがなかったら、カタログで注文してもいいよ。急ぐ のかい? …試験中だよね、今。 多分、今日注文すれば、試験が終わるまでには間に合 うんじゃないかね。」 これも、いつもの調子でおじさんは、一方的に次々に話を進めていく。 それほど多くの種類があったわけではないが、高峯の目には、すぐに目にとまったものがあった。それは、少し赤味がかかった、独特の色合いのものであった。ピンクでも赤でもない、その押さえた色が、自分の持っている白地に赤のラインのバッシューにぴったりだと思ったのだ。 今までは普通の白い紐だったから、ちょっとイメチェンにもなるかなとも思ったのである。 高峯はポケットから縛った紐を取り出すと、「長さはいいかな」と思いながら暫く眺めていた。すると、おじさんは、 「そこに見えているのは男の子のバッシューにちょうどいいぐらいの長さのだと思うよ。隣 にあるのは女の子用だからね。色はだいたい同じのが揃ってると思うけど。」 と、やはりどんどんと先取りして話してくれる。 高峯はそれを聞きながら、別に女子用の紐と間違えて買ってなければいいや、という感じで、ちらりと横を見ると、おじさんの言うように、少し短めの紐がぶら下がっているのが目に入った。色は男物よりも少し種類が多そうであったが、自分が選んだそれと同じ色の紐がそこにもぶら下がっているのに気付いた。 その時、ふと高峯の頭に浮かんだ顔があった。しかし、高峯はそのイメージを自分で拭い去ると、選んだ紐を手に持ってレジへと向かった。↓淡々としたスタートですね…。
Mar 16, 2008
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いよいよスタートします。皆さん、気長にお付き合い下さいませ。 元気の出るコメント下さいね。 それではどうぞ(狼)プロローグ 「…ということでだ。この話から『桃源郷』という言葉ができたんだ。これは、故事成語として使われているんだが、どういう意味か分かるか…。 じゃあ、そこでぼんやりしている片桐。」 「えーっと…。」 本当に、ぼんやりしている所を攻撃された片桐高峯は、少し慌てて苦しまぎれに答えた。 「…『めちゃ田舎』って言う意味かと…。」 「アホか。」 田中先生の軽妙な突っ込みで、クラスはどっと沸いた。 「じゃあ、樋口…結花。どうだ。」 「はい。『理想郷』っていう意味で使われていると思います。」 「その通りだ。…えーっ、ということでだ、桃の花の咲き乱れる、この世とは隔絶した地 を、当時の中国人は夢想したんだな。これは日本語にもなっているんだぞ。覚えておくん だぞォー。」 田中先生ははいつもの口調で続け、黒板に何か字を書き始めた。 高峯はちらりと後ろの方を振り向いた、するとすぐに結花と目があった。結花はウインクをしながら小さくピースを送ってきた。 「ちぇっ。」と、高峯は心の中で舌打ちをした。 「…試験範囲が狭いのでだな。もうちょっと頑張って増やそうと思う。ということでだ、次 の時間は短い話を読むとするかな。月曜日には…教科書の78頁を予習しておくこと。そ こまでが範囲だぞ。」 高峯は、そんな「漢文オヤジ」こと田中先生の話を聞きながら、再びぼんやりと外を眺めていた。 まだ寒い2月末だけれど、何となく山の斜面や空の感じが違ってきているのが分かる。そろそろ、山が春の準備をしているのだ。 高峯はこの、春を待つ山の雰囲気が好きであった。 そして「春」は、本当にもうすぐそこまでやって来ているのだった。↓よろしくね。
Mar 15, 2008
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今日も帰りが遅くって、実は今夜あたりから連載をスタートさせようかと思っていました。でも、ちょっと帰るのが遅くなってしまい、残念ながら明日にまわすことにしました。ということで、明日からいよいよスタートです。タイトルは、やっぱり最後にNobubuさんに考えてもらいましょうかネ。これから、少し執筆して寝ます。お楽しみにね。
Mar 14, 2008
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昨日は、たくさんのご意見どうも恐縮です。いつまでもだらだら引っ張ってすみません。で、とうとう決定することにしました。ヒロインの名前は、「樋口結花」にしたいと思います。やっぱり、「花」の方が苗字とのバランスも、イメージ的にもいいかなと思いますね。ほぼ満場一致で決定という感じです。そして、本当にそろそろ連載を始めなきゃ、春が来ちゃいますよね。ということで、土曜日か日曜日辺りからいよいよスタートいたします。よろしくね。
Mar 13, 2008
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今日も遅くなっちゃいました。こんな時間に更新していると。ホント、アクセス数が増えなくって。でも、常連のお友達はちゃんと来て下さいます。ありがとうございますさて、小説のヒロインの名前ですが。結果的に二つの候補まで絞りました。「樋口結香」か、「樋口結花」ここまで絞って悩んでます。最後はやっぱりNobubuさんに決めて頂きましょうか。皆さん、どう思われます?忌憚のないご意見を聴かせて下さいね。そろそろ連載開始ですよ~
Mar 12, 2008
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今日もお疲れですが、そろそろ連載を開始しなければ、と思って何とかパソコンに向かっています。最終決定は明日ぐらいにはしたいと思いますが、とりあえず、名前は「樋口ゆか」にしたいと思います。ちょっと普通っぽいけど、そっちの方がいいかなって。それで、「ゆか」の漢字を今検討中です。皆さん、よければ、漢字を色々当てはめてみて下さーい。よろしくネ
Mar 11, 2008
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さっき帰りました。今日は随分遅くなりました。なんで、こんなに働いているのだろうって。ちょっと疑問も起こります。今週中には連載も始めたいと思うのですが、大丈夫かな~ってちょっと心配にも。ヒロインの名前、どうしましょう。苗字は、「樋口」ってのが気に入ってます。名前は「○か」か、「○○か」がいいかな。苗字は置いておいて、皆さん何か良いのがあればどんどん言ってみて下さいね
Mar 10, 2008
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昨日は久し振りにお休みでした。今日も、仕事はありますが、とりあえずお休みです。ということで、懸案の企画小説の構想を進めました。そして、ほぼ構想段階では完成かな?と言える所まで漕ぎ着けました。今回は、ファンタジーっぽくしてみました。今まで書いたことのないジャンルにチャレンジしてみたくって。ただ内容的には…自身がありません。読んで頂くに耐えうるかどうか…不安。すっごく独り善がりかも知れませんが、一度構想をまとめてしまうと、それが可愛くって…。どうかな~っと思いつつ最後まで行っちゃいました。来週も何やかんやで慌ただしいですが、そろそろ連載を始めなきゃね。春が来ちゃいます。ということで、ヒロインの名前も決定したいと思います。苗字もよろしくね。とにかく、一杯候補を挙げていただければ…。
Mar 9, 2008
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今日はお休みでした。で、小説の構想を練っていたら、すっかり更新するのを忘れてました。ということで、先に日曜日の記事を書いてしまい、それから気付いて、土曜日の更新もしました。長く続けているとこういうこともあるかもね。一応、開設以来、100%の更新率なので、紛らわしくってごめんなさい。
Mar 8, 2008
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今回の小説の主人公の苗字を募集したところ、色々と考えて下さいました。で、結果的に私のイメージで一番しっくりきたのは「片桐高峯」なんですね。nonmamaさん、ありがとうございます。ということで、後はヒロインですね。展開はヒミツですが、高峯くんの幼なじみという設定です。はじめ、ちょっと条件めいたことを考えていたのですが、ちょっとボツにしたので。普通に考えて頂ければと思います。たくさんのご応募をお待ちしております~。よろしくね
Mar 7, 2008
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昨日辺りから、国公立大学の前期試験の発表が始まっています。今日は、本校としてはかなり多くの受験者が発表を迎えました。合格するだろう、と思って合格する者まず無理だろう、と思って不合格の者合格するだろう、と思って落ちちゃう者まず無理だろう、と思っていて合格する者五分五分かな~、というところで合格した者五分五分かな~、というところで不合格の者と、本当に色々なパターンがあります。まさに、悲喜こもごもなんですね。そんな生徒達が、色々な顔をして職員室を尋ねて来ます。私たちも、生徒の心情をくんで色々な対応をします。でも、やっぱり合格した生徒の笑顔を見るのはとても嬉しいものです。そんなこんなで、一日があっという間に過ぎていきました。今夜は残念会&祝勝会でちょっとだけ1人でお酒を飲みました。
Mar 6, 2008
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こんどの企画小説ですが、主人公の名前が決まりました。「高峯(たかね)」くんです。ヒロインの名前も募集したいのですが、とりあえず「高峯」くんの苗字を決めたいなと思うのです。yucoさんは「佐藤」ってどう?とご意見を下さったのですが、もう少し募集してみたいです。皆さん、お気軽に二つ三つずつ提案して下さればと思います。よろしくお願いしますね
Mar 5, 2008
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日曜日の夕方、ちょっと時間があったので、凄く久し振りに車を洗ってやりました。って言っても、水で流してふきふきするぐらいです。結構キレイになって気分も良かったんですが…。昨日の朝雨が降っていて、日中はふと空を見上げると空が黄色いんです。そうです、黄砂…。帰りは暗かったので気が付きませんでしたが、今朝になって、車を見てびっくり。雨で濡れた上に黄砂がふって、それはそれは…日曜日の貴重な時間を返して~
Mar 4, 2008
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Nobubuさんに昨日主人公のお名前を考えていただくよう依頼した所、「高峯」って名前を頂戴しました。是非、これで行きましょう。ただ、苗字も考えて頂かなきゃね。「●●高峯」でお願いします。ストーリーの方ですが、頭の中では結構まとまっているのですが、どうも、最後のツメの部分で行き詰まった感じなんですね。実際に書き下ろしてみないとちょっと…ということろ。なのに、連日仕事に追い回されて…。名前を考えて頂いて、自分なりに外堀を埋めているつもりなんですが、もう暫くお待ち下さいね。
Mar 3, 2008
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卒業式も終わり、一段落です。そろそろ、構想もまとまりつつあるので、例の企画を進めていこうと思います。今回は高校生を主人公にして描こうと思っています。内容については、まだまだヒミツですが、前回はかなり硬派な話だったので、今回は恋愛小説的な要素を入れようと…そこで、主人公の男の子の名前をNobubuさんに考えて頂こうかと思っています。そして、ヒロインは公募しちゃおうかな…。取りあえず、Nobubuさんに男の子の名前を考えて貰ってからにします。ヒロインについてはちょっぴり条件があるので…。ということで、じわじわ始めていきたいと思います。
Mar 2, 2008
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今日は天気もよく、比較的あたたかくて、とてもいい卒業式日和でした。式は、しめやかに執り行われ、無事に卒業生達は巣立って行きました。まだ、進路先も決まっていない者も多いですが、それはそれとして、感慨深い一日でした。卒業祝賀会から、今やっと帰ったところです。3年団だと、飲まない訳にもいかないので。ほろ酔い気分です。今夜は、卒業アルバムでも眺めながらねます。おやすみなさい。
Mar 1, 2008
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