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2024.04.23
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カテゴリ: 鈴木藤三郎
鈴木藤三郎報徳日めくり

23日
およそ人は自己の心をもって他人を擬すと。燕雀いずくん鴻鵠の心を知らんや。




☆鈴木藤三郎より岡田良一郎宛の書簡本文(読みやすくするため漢字やカタカナをひらがなにするなどした。原文については、「地方史静岡」第7巻62~66頁を参照されたい。)

拝啓 ますます御清適大賀奉り候 陳ぶれば過般中はご多忙も顧みず敢えて再三御出京を請求申し上げ候義は事情止むを得ざるの次第にござ候ところ、尊台ご多忙にして御出京成りがたき旨再応申し上げ越し、最後に本月5日発御書簡をもって兼ねて申し上げたる件につき、詳細氷訳の事由御説示に相成り候あいだ、この上は拙者においても敢えて詮索するの必要もこれ無きにつき、尊翰余白に各重役の捺印を得て、ひとまずこの事件は無事終局に相成り候あいだ憚りながら御放慮くださるべく候。
本月7日重役会において社長より亀高村地所買約成立の報告あり。これは兼ねて拙子申し上げたる値段則ち2万5千円かつて決議の通り正統の買収にござ候。而して工事着手の相談致し候ところ、先頃中は拙者の工事急速を主張せし大いに非謗したる諸氏にして、かえって今日は一日も急速に落成を期さんため、相当の懸賞説を唱うる奇観を現したるは漸くにして急速の利益たる理由を悟了せられたるなれども、いわゆる(十日の菊)の感なきあたわずと雖も、とにかく会社のため賀すべき次第と存じ奉り候。
 却説(話かわって)繰事ながら一条申上げ候。


(以下 略)

およそ人は自己の心をもって他人を擬すと。燕雀いずくん鴻鵠の心を知らんや。それ漸くにして利害損失を悟了するときは、光陰は人を待たず。いわゆる(六日の菖蒲十日の菊)(むいかのあやめとおかのきく:時機に遅れて役に立たないこと。5月5日の端午の節句に用いる菖蒲は6日では間に合わず、9月9日の重陽の節句に用いる菊は10日ではもう遅い。)
それ我れ糖業の前途多望にして国家の一大事業たらしめ自他の公益を謀らんと欲する主旨はかつて日本糖業論に愚意を概述せしもいかんせん。事業は活物にあらず。活物はただ人にあるのみ。この人たるもの会社に有りては重役なり。それ然り。然りと雖もこの人にして理非不明・玉石混交・条理不立いたずらに情実拘泥、凡情に流れヤヤもすれば事業の進行を渋滞ならしむるものとせば、何をもって前途の抱負得て望むべけんや。滔々たる天下この種の会社皆然り。浮薄の徒、集合体にして甲は乙を疑い、乙は丙を狐疑し、いたずらに眼前の小利を争い、識見全体に及ばざるもの枚挙にイトマあらず。孫子曰く、三軍の弊狐疑に生ずと。むべなるかな。己を知らず人を知らざる近視的俗輩と大事を共にする事、愚拙の快とせざる処なるをもって、更に理由を株主に開陳して潔く決心する処あらんとせしも、最後の尊翰によりて首述のごとく全く氷解の実終局を結びたるをもって愚拙もまた氷解し、敢て憤りを遷さず。事理一たび判明するときは既往の繰事詮無きものなれば、更に工事に着手して一日も速やかに落成を期するをもって任とし、倍々勇奮尽力致さんとす。幸いに尊台御放慮あらん事を希う。
先は長々しく雑言恐縮の至りに候。固より拙者の不文にして誠意を尽くすあたわずと雖も、希(こうねがわ)くは微衷のある処、御洞察下されたく候 頓首
 明治32年10月17日
         鈴木藤三郎 再拝
  岡田良一郎様  貴下


(手紙本文意訳)
拝啓 ますますご清適と大賀奉ります。先日来ご多忙中を顧みず、あえて再三東京に出られることを請求しましたのは止むを得ない事情がありましたが、あなた様が東京に出ることができないと再び申されました。最後に本月(明治32年10月)5日発のお手紙で、かねてから申し上げていた件について氷が解けるように解決するようにとご説示をいただきましたが、さる7日重役会の際に出席した諸氏に先日来あなた様へ往復した手紙及び最後の手紙まで一同に見せたところ、森氏を始め外の重役諸氏も例の件は氷解したことはもとより、お手紙のとおり相違がない旨名言しました。この上は私においてもあえて詮索する必要もないので、お手紙の余白に各重役捺印を得て、ひとまずこの事件は無事終局となりましたのでご安心ください。
 本月7日重役会において社長から亀高村の地所の売買契約書が成立したとの報告がありました。これはかねて私が申し上げた値段すなわち25,000円。かつて決議の適正の買収であり、工事着手の相談をしました。先頃までは私が工事を急いで行うべきだという主張をおおいに非難した諸氏もかえって今日は一日でもすぐにでも落成させるために懸賞を出そうと唱える奇観となったのは、ようやく急速な工場新設が利益であることが了解されたようだが、(10日の菊)時期を失する感がないわけではないが、会社のために喜んでいる次第です。
さて繰り言になりますが、一件について申し上げます。最初私の案の方針で進行するときは現在既に工事が半ばを過ぎ本年中に落成できたでしょう。しかし9月9日の会議で突然神谷氏から甲地の案を提出されました。当時の重役諸氏は実地調査もせず、また工事の難易も考察しないで、みだりに値段が安い地と誤認して異口同音に是認しました。しかし私はもとからこの地があることを知っていないわけでなかったのが現在水田で工事が大変難しいこと、その上これを敷地にするのに数日月を要するだけでなく、莫大な費用がかかるため、かえって高い価格の地となってしまい落成の期日が数月を遅延することから生ずるところの損失は数万円と分かったため、あえてこれを進めなかった。たとえば機械と鉄材のようなもので、鉄は機械に比べて廉価ではあるが、工作を加えなければ用をなさない。また田地は価格は安いが土木工事を加えなければ敷地の用をなさない。ましてやその価格が安くなければなおさらである。しかし会議でこれをよいとした以上はやむを得ない。そしてこの買収を神谷氏に一任しようとするに際して、私は以前この地所の売り主が唱えるところが、25,000円であればこの金額を極度とすることを提案してこれに決定した。なお私は言葉をついで、もし売り主がこれより高値を唱えるときは、神谷氏はすぐに手を引くように。そうすれば必ず私からさきほど決議した金額以内で買収する胸算用があると言った。神谷氏以外の重役もこれを承諾した。しかるに9月12日に神谷氏からの通知で昨11日に右地所を28,000円で買収の契約の着手金として金2,000円を渡したと言う。これはあの時、私がこの買収の契約が先日の決議に矛盾するとして承諾を拒んだ理由でその不当なことを社長に迫った。それと同時に、一方持ち主に向かっては更に25,000円で買い受けるよう会社に相談するからと2,3日猶予するようにさせた。これは当該地所はまだ正当な売約がない証拠とし、更に25,000円で私から買収の手続きを行うよう決議をおこした。売り主に交渉した結果、神谷氏の方から破談を申し込んで、すぐに25,000円で買収すると約束した結果、これがまた売り主方の疑惑を生じて数日をいたずらに費やした。まさしくこれは前非を悔いないでかえって正を憾むという事情から生じた事は争うことができない。しかし私は、結局会社はこの決議の通り25,000円ですぐに買収すれば足りるとし、あえて是非を論じることをしなかった。むしろ最後には神谷氏に恥をかかせないようにすることに配慮した。さらに社長が大いに尽力の労を取られたと感謝し、10月4日になってようやく決議の価格と違わずに間違いなく正当の売買契約を締結した。
もし私が最初に提出した案で決議していれば、8月7日総会後、ただちに進行し、地価は高値でも実際にはその実現は金に換算するときはかえって安く、さらに年賦で償却するに便利であって会社の計算上利益であった。加えて工事もすぐにできることから来期にはこの営業から得た利益等を計算する時は地価ぐらいは一期をまたずに消却することは計算上明白である。如何にせん、これを悟る者なく、かえって間違っていると認める。なんという嘆かわしいことではありませんか。また第二の地であっても前に述べたように神谷氏が決議を重んじて先方の値段が25,000円より高価であるときは、すぐに去って私に任せればその時すぐに買収することが容易であったから今日まで空しく日時を空費することもなかった。これを実行できなかったのは、これもまた第二の失策と言わなくて何と言おうか。
以上のように地所問題で道理と利益を度外視するような状況となったのは、ひとえに情実にこだわり、是非を明らかに分かつことができなかったのは、会社のために痛嘆せざるを得ない。それだけでなくかえって野卑な管の穴から見るような憶測で、私が選んだ土地がいいと主張するのは私利を謀るものであるとし、また工事を急ぐのも当を得ないと非難して、公然とこのことを私に詰め寄るにあたっては言語同断、沙汰の限りと言わないわけにいかない。ここにおいてやむを得ず職責上、是非を論ずる必要に迫られて各重役にあてて私が土地を選んだ理由書並びに比較利害得失表を送って、あわせて数回書面で尊意をうかがった理由である。
およそ人は自分の心で他人をなぞえます。「燕雀(えんじゃく)何ぞ鴻鵠(こうこく)の心を知ろうか。」それようやく利害得失を悟るときは、「光陰は人を待たず」。いわゆる「六日の菖蒲十日の菊」
そもそも私が糖業の前途は将来に多くの希望があり、国家の一大事業としよう、自他の公益を計ろうと望んだ主な次第はかつて日本糖業論に愚意をあらかた記したところです。いかんせん事業は活物ではない、活物はただ人にあるだけです。この人というのは会社にあっては重役です、それはそのとおりですが、この人が道理にかなっているかどうかは明らかではない。玉石が交わり、条理が立たず。いたずらに情実にこだわり、凡情に流れ、ややもすれば事業の進行を滞らせるものであれば、どうして前述の抱負を実現することを望めましょうか。トウトウとした天下、この種の会社皆同じです。浮ついた薄っぺらな者たちの集合体で、甲は乙を疑い、乙は丙を疑い、いたずらに目の前の小利を争って、識見全体に及ばないものは枚挙にいとまがありません。孫子曰く、三軍の弊、狐疑に生ずと。そのとおりです。己を知らず人を知らない近視眼的な俗輩と大事を共にすることは私が快くしない所であって、更に理由を株主に述べて潔く退くことを決心しようとしましたが、最後のお手紙によってこれまで述べてきたように全く氷解し、終局を結びました。私もまたあえて憤りを遷さず、事柄の理がひとたび判明するときには、既往の繰り言も詮のないものですから、更に工事に着手して、一日も早く落成を期することを任とし、ますます勇奮尽力しようと思います。幸いに尊台がご心配なさらないように願うところです。
まずは長々しく雑言、はなはだ恐縮の至りです。もとより私が学問がなく、誠意を尽くすことができませんが、私のまごころのあるところをご洞察くだされたくお願い申し上げます。
 明治32年10月17日
         鈴木藤三郎再拝





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最終更新日  2024.04.23 00:22:27


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