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2010年06月22日
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大人の特権





 天真はいらいらしていた。

「いったい、どこへ行きやがったんだ。」

 息抜きにと連れ出したのは藤姫から聞いていた。貴族だから、徒歩ではなく牛車で連れ出したのも百歩譲って理解する。そして貴族だから、従者がそれなりの人数ついているということも。

「ええ、ですから、神子様をお出ししたのですわ。そうでなければ友雅殿と二人きりでお出かけなど心配で心配で。」
「そうだろう、そうだよな、藤姫! あいつと二人きりなんて絶対あぶねーよな!」

 こくんこくんと力強く頷く藤姫は、心の中では失敗したかとひやひやしていた。確かに天真の心配するとおり、二人の帰りはいつになく遅かった。日暮れまでに帰る約束が、もう日はとっぷりと暮れ、空には夕闇も広がって、一つ二つと見える星が増えていた。

(人払い……という方法がありますから……)

 二人きりになると何がどう危ないのかは藤姫にはよくわからなかったが、天真の様子から何かとても危険なことに思えた。友雅が女房たちを訪ねている時の様子が脳裏をよぎった。友雅が何をしていたのか乳母に聞いても乳母は口を濁すばかり、はかばかしい返事もなく話を逸らすのは、藤姫に聞かせたくない何かなのだろう。

「その辺りまで見て参りましょうか。武士団の者にも声をかけましょう。」


 行き先を聞いておかなかったのが悔やまれた。聞いておいたとしても気まぐれな友雅のこと、本当にそこに行っているのかどうかも怪しいが。

 じっとしてなどいられるかと、天真も頼久についていった。僕も行くよと、詩紋も出かけた。イノリくんにとひとりごちる声が聞こえたから、きっと話に行くのだろう。

(本当に、友雅殿には困ります……。)

 神子のために整えた庭に目をやって、藤姫は大きく嘆息した。表に牛車の音がしないかと耳をすませた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 友雅の牛車は、まもなく四条の通りにかかるところだった。
 藤姫の心配をよそに、神子は友雅の膝の上でぐっすりと寝入っていた。

(まったく、無防備なことだ、ねんねさん。)

 車の振動で体がもっていかれるからと膝に抱き取ったのだった。最初こそ、男の胸に抱かれる不安からか緊張した面もちだったが、遠出の疲れにだんだんと瞼が重くなり、「着いたら起こすよ」と一言囁き込んだら、あっさりと夢の国に旅立ってしまった。

(君にとって、私は何なのだろうねえ……。)

 ぷっくりと柔らかそうな唇にそっと指を乗せてみた。そのまま引き寄せて口づけたい衝動を理性で押し込めた。龍神の鼻先からかすめ取るには時期が悪すぎた。京を救うのは帝の命。


(龍の宝玉の成せる技…かな。)

 そう思うならそういうことにしておけばいいと晴明殿も言った。人を恋うのに理由がいるのかと笑った。取り立てて美しくもなく、人に優れた才があるわけでもない凡庸なこの娘に惹かれる自分が不思議だっただけだ。この娘が他人と異なるのは、龍神に選ばれた神子であり、自分がその八葉であるというただその一点のみ。

 考えても詮無いことと、友雅は扇を鳴らした。御前に、と、従者が御簾の元へ立った。

「土御門に先触れを。神子殿がお帰りだと伝えよ。」
「は。」



「ふふ、どうやらお迎えが来たようだね。」
「てめ、友雅、どこ行ってやがった! 今、何時だと思ってやがる!」

 御簾の外には、イノリが顔を真っ赤にして立っていた。  



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「だからイノリくん、そんなに怒らないで、寝ちゃったのは私も悪いんだから……」
「そんなこと怒ってねえよ。あかねをこんなに疲れさせるくらい、どこへ連れてってたんだって!」

 廂の柱に凭れた友雅は、ぱちんぱちんと扇を鳴らすだけで何も語らない。それがいよいよ、イノリをいらだたせるようだった。
 詩紋がおろおろとあかねの顔を見ている。天真もぶすっと押し黙ったきり何も言わない。頼久が庭で警護しているのはいつもと同じだが、友雅の言動次第では剣を抜きかねない殺気が感じられる。

「あの、友雅殿……」

 おそるおそる、藤姫が口を開いた。先触れの従者の口上で事を知った藤姫が頼久に連絡を取り、皆を土御門に帰らせたのだった。

「夜のしじまは、神子様にどんな穢れをもたらすかわかりません。ですから、お戻りは日のあるうちにとお願いをしておりました……。」

 友雅は薄く笑ったが、やはり何も言わなかった。

「てめ、何とか言ったらどうだ!」

 天真が拳を振り上げた。頼久の手が柄にかかった。あかねがびくんと肩をふるわせた。

「暴力はやめて。あかねちゃんが怖がってるよ。」

 詩紋が止めた。

「だいたい、あかねもあかねなんだ。もう帰ろうとか遅くなるとか、言えなかったのかよ。」
「……だって、すごく綺麗だったから……」
「お前、それが友雅の思うつぼだって、わかんねえのかよ。」
「思うつぼって……友雅さんはそんな悪い人じゃ……」
「お前、本当に何もわかってねえのな。こいつがどれくらいひどいタラシかって……」
「友雅さんのことを悪く言わないで!」

 振り向いたあかねの剣幕に、天真は一瞬引いたが、負けずに言葉を継いだ。

「……だまされてんだぞ。知ってるか?」
「だまされてなんかない。友雅さんは悪くない!」
「あかね……」

 あかねの顔は涙でくしゃくしゃにゆがんでいた。
 友雅がふいに立ち上がった。あかねの側に座し、単衣の袖を引きだしてあかねの涙を拭った。

「私のために泣いてくれるのかい?」

 あかねはこくこくと頷いた。

「優しいね、神子殿は。だから私は、こんなにも君に惹かれるのかもしれないな……。ありがとう、神子殿。今はそれで十分だよ。」

 座の空気が色めいた。が、友雅がそれ以上あかねに何もせず、ついと立ち上がって御簾をくぐるから、振り上げた拳の行き先に困ってしまったようだった。

「あの、友雅殿……?」

 藤姫がそっと声をかけた。

「また来ますよ。次からは少し自重しましょう。可愛い姫君の涙のためにね。」

 悠々と立ち去る友雅の後ろ姿に、天真やイノリは何も言葉が出なかった。

「なんだあいつ……」
「……なんかむかつく。」
「くそ!」

 悔しいけれど、何か手を出せない。殴りかかっても軽くいなされそうで、怖いというのは絶対違うが、妙に敵わない空気が辺りに満ちていて、天真もイノリも、庭の頼久でさえも、歯がみして悔しがるしかなかった。

「あれが、大人の貫禄ってヤツか……?」

 拳をぎゅっと握りしめた。手のひらの汗がきゅうっと鳴る音がした。





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最終更新日  2010年06月22日 23時27分57秒
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