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黒澤明が、自分の見た夢をもとに撮りあげたオムニバス。全8話の構成で描く、幻想と映像美の世界――― この作品は、黒澤映画のなかでも、特に長いこと見たい気持ちになれなかった。怖そうで。ホラー作品や人間ドラマにある怖さじゃなく、畏れに近い。いい心持ちには、絶対なれないとわかっているんだから。大人になって黒澤作品に触れていくうち、ようやく享受できる用意ができた気がして、やっと鑑賞してみたら、やっぱり想像していたとおり怖いし、恐ろしい。けれど、監督が自らの夢にかぶせて伝えたいと思った、反戦や反核のメッセージは、立派に観る者の心を動かす異色な良作だった。 だれがこんな形で、夢を映画にしてしまえるというのだろう。世界の黒澤にしかできない所業だろうと思う。しかも、殆どが恐ろしすぎる悪夢で、人類に警鐘を鳴らす形のオムニバスなのだ。楽しむどころじゃなく、ただただ胸を抉られる感覚で、胸をさすってやりつつ見終える。「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤富士」「鬼哭」「水車のある村」この8つのなかで、唯一ほっとできるのは「鴉」と最後の「水車のある村」。「鴉」は、ある画家が美術館でゴッホの絵画を眺めるうちに、絵のなかに入り込んでしまう――というお話。ゴッホ役はなんとマーティン・スコセッシが演じている。「水車のある村」は、お歳を召した笠智衆さんにほっとさせられた。村の賑やかな葬式が羨ましくて、自分もこんなふうに踊りながら愉快に送り出してもらえたら、きっと幸せだろうな。少しは気を抜けたのが二話目「桃畑」。けれど、桃の木を切り倒す人々への苦言でもあるわけで、しかもかの有名な雛壇を模したおっかないほどの超絶ロングショットが、おそろしく奇麗であり、奇麗だからこそ怖いので困る(笑)。「トンネル」『どですかでん』を彷彿とさせる、奇抜な色遣いは、効果的に畏れを煽って、どこまでも怖かった、、、。映画としては、とても楽しいものでないし、教育されている感覚があって、おちおちしていられないけれど、ある程度黒澤監督のファンになったあとでなら、楽しめるのではないでしょうか。はじめから本作を観てしまった方は、、、お察しします。画家・黒澤明が全面に出ている一本でした。特殊撮影はアメリカのインダストリアル・ライト&マジック(ILM)が担当、スピルバーグとルーカスが製作に協力しています。世界配給はワーナー・ブラザーズだったそう。● ● ● ●監督・脚本・編集/ 黒澤明 製作総指揮/ スティーヴン・スピルバーグ 衣裳/ ワダ・エミ 音楽/ 池辺晋一郎 出演/ 寺尾聰 倍賞美津子 原田美枝子 根岸季衣 井川比佐志 いかりや長介 笠智衆 マーティン・スコセッシ (カラー/121分/日本=アメリカ合作)
2010.02.20
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オリンピック、男子フィギュアの高橋大輔選手。ついに銅メダルを獲得しましたねー!当日はお仕事で、待機時間の合間にワンセグですこしだけ見てた。今日はじめて、フリーの演技を通しで見ました。4回転ジャンプで転んだことも、結果もすでにわかっていたけれど、このフリーの演技をみて、ほんとうに感動してしまいました。たぶん、わたしだけじゃない、映画ファンには格別なプログラムだったんじゃないかなぁ。高橋大輔の曲目はフェリーニの『道』より、ニーノ・ロータですよ。映画の内容はこんな感じ。――大道芸人ザンパノに買われた白痴の女ジェルソミーナ。彼女はザンパノと一緒に旅回りをしながら、粗暴な振る舞いにも逆らわず、健気に道化を続けた。しかし男は、ジェルソミーナを捨ててしまう。ある町で、彼女の口ずさんでいた歌を耳にしたザンパノは・・・・・・。粗暴な男に、僅かに残っていた人間性が蘇えるまでを描いた名作。演技の冒頭から、ジェルソミーナの道化師が頭に浮かびます。二人の出会いから別れまで、パントマイムを交えたコミカルな演技も、すべて素晴らしかった!!フィニッシュでは映画のラストシーンを。人間性が蘇り、深い後悔から涙する悲壮感たっぷりなザンパノを、見事に演じて目が離せません。ただでさえ完璧な演技だったのに、あの名曲を聴き、あの物悲しい物語を回想するのは輪をかけた感動で、なんか涙が出た。ほんとうに高橋選手、素晴らしい演技をありがとう!!ちなみに、織田信也選手はチャップリンでした。作品名は忘れてしまったけれど、チャップリン自らが作曲したあのステキなメロディを、コミカルに演じていた織田選手にも感動しました。ハプニングに泣かされ残念だったけれど、ほんとうに素晴らしかった。映画ファンのみなさん、プラスアルファの思い入れ、ありませんでしたか。かなり感激して観た、はる*なのでありました。 いつか、チャップリンの『ライムライト』を書いたとき、ジェルソミーナにも触れたことがあったのでリンクしておきます。
2010.02.19
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怪しげな賭けに手を出したシャオカンは、激しい暴行を受けて瀕死の重傷を負う。行き倒れる寸前、通りかかったインド人労働者たちに助けられ、そのうちの一人ラワンの手厚い看護で徐々に回復していく。一方、小さな食堂で働いているシャンチーは、女主人の寝たきりの息子の世話もさせられ、一日中働きづめの毎日。ある日、ふたりは偶然出会い、一目で惹かれ合うのだが・・・。 マレーシアの首都、クアラルンプール。この街の底辺に、蠢くように生きる人々の物語。問題というにはあまりに痛いものを抱えて、主人公たちは淀んだ毎日を送っている。こころ許せる相手に出会い、はじめて重苦しい日常から脱し、浮上してゆく様を淡々と綴っていく。意地悪な女主人にこき使われているシャンチーも、外国人労働者の男ラワンも、行き倒れのシャオカンも、だれもが生きる意味を失い孤独。その最たる者は、植物状態である、女主人の息子なのかもしれない。三人の出会いは、ほんの少しの救いを与えあい、寄り添うことで生きる意味となっていくけれど、ベッドの上で生命を維持しているだけの青年には、どんな救いも訪れることはなく・・・虚しい。口の利けないらしいシャオカンはずっと無言で、彼ばかりでなく、みんなほとんど言葉を発することはなかった。あるのは音楽と、雑音としての声ばかり。『西瓜』までは、おもしろく観てきたけれど、さすがにここまでくると辛くなってくる。ミンリャン作品はどんどん病んでいくように思うのは気のせいかしらん。寝たきりの青年とシャオカンの二役を演じたリー・カンションは、変わらない存在感で文句なしだった。シャンチー役の女優チェン・シャンチーも、いつもすごいと思う。ふたりは『ふたつの時、ふたりの時間』あたりから、もうずっとこの名前のまま、同じ役者が監督の分身のように演じてきた。映像を見れば、ツァイ・ミンリャン監督の作品だと、すぐにわかるほどだ。画面には必ずリー・カンションがいて、不快感な排泄シーンがあり、じっとりした長回しが多用される独特の世界。廃屋の溜め池、汗、ジュース、尿・・・どこも水=生命力で溢れている。主人公たちがどんなに枯れていても。水に浮かべたマットで眠り漂いながら、驚くほどの安らぎが浮かびあがるラストが印象的だった。それが幸せに通じるものなのかはわからないけれど、不思議な浮遊感で幕を閉じていった。● ● ● ●監督・脚本/ ツァイ・ミンリャン 製作/ ブリュノ・ペズリー ヴィンセント・ワン 撮影/ リャオ・ペンロン 出演/ リー・カンション チェン・シャンチー ノーマン・アトン (カラー/118分/台湾=フランス=オーストリア合作)
2010.02.15
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ヤン・シュヴァンクマイエルが描く『不思議の国のアリス』。氏の作品を敬愛する人にとっては、たまらないキッチュさだけれど、万人受けはぜったいにしないだろうな~。『不思議の国のアリス』は、もともと、イギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンという人が、ルイス・キャロルのペンネームで書きあげた物語なのだそうだ。児童書にしては、かなりブラックで奇妙なお話だと思ってきたけど。視点を変えたら、こんなにまで悪夢と化すのか!そう思ったらおかしかった。キッチュというと、響きがかわい過ぎるから、同じ意味でもあえて俗悪と称したい感じ(笑) 登場する人間は、アリスを演じたクリスティーナ・コホトヴァちゃんだけ。アリスがちいさくなると、彼女の代わりに人形が役を引き継いで動く。しかもその人形がちょっとホラーチックで不気味だったりするのだ。得意の人形アニメーションとコマ撮りで、3年の歳月を費やして撮りあげたのだそう。相当グロテスクで、気持ちが悪いけどユーモラス。苦笑しながら見るもよし。カチカチ鳴らす前歯がこわーい剥製のウサギや、珈琲めちゃくちゃ溢しながら内臓見えてるキチガイ帽子屋さんなど、キャラも濃い。女王だけでなく、どこまでもなんか酷いの、みんなが・・・。人形アニメーションという手法の魅力が満載で、CGには出せない個性に満ちた、おもしろい無二の作品となっています。ちなみに、今年公開の『アリス・イン・ワンダーランド』も、不思議の国のアリスがモデルとなっている。監督はティム・バートン、ジョニー・デップ主演で、アリスの10年後を描くとか。なんだかバートン・ワンダーランドでこちらも面白そう!『不思議の国のアリス』はどんな風にも解釈できる、大人にとっても興味湧く題材なのだなぁ。今回DVDを買ったけれど、シュヴァンクマイエル版はとても子ども向けではないので、しばらくは一人で楽しむことになりそうだ。 ● ● ● ●監督・脚本/ ヤン・シュヴァンクマイエル 製作/ ペーター・クリスティアン・フューター 撮影/ スヴァトプルク・マリー 出演/ クリスティーナ・コホトヴァ (カラー/86分/チェコ=スイス=イギリス=西ドイツ合作)
2010.02.14
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なにはなくても予告で観たときから気になっていた、上の画像に惚れぼれ。このカットをまず思いついてから、物語は膨らんでいったのでは? なんて思うほどステキなシーンだった。ウォン・カーウァイ初となるアメリカが舞台の本編は、有名な俳優陣を起用したロードムービー。 ニューヨーク、失恋したエリザベスは、とあるカフェにいた。閉店間際、いつも売れ残るブルーベリー・パイを食べに通うエリザベスを、オーナーのジェレミーが優しく見守る。いつしか彼の優しさと、パイの味に癒されていくエリザベスだったが・・・どうしても立ち直れない彼女は、ついに宛のない旅に出るのだった―――。 旅の途中で出会う人々との出来事は、かなり王道をゆくものだ。デヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマン、出会う面々の豪華さは、特筆事項かもしれない。なんと音楽は、あのライ・クーダー氏が手がけている。どうりで音楽にはムードがあったわけだ。 他人の愛の形、ふたつの死、自分とまったく違った人生を見る―――そこに浮かんでくるのは自分自身の姿。出会いから学んで、新しい道を歩み始めるきっかけとなっていくのは、じつにシンプルで、じつにありがちなのだけれど。エリザベスが旅に出てから、ジェレミーの元には、時折り便りが届くようになる。彼女が旅先で綴った思いを受け止めつつ、彼女に恋している自分を知っていく。消息を追い求め、探すのも諦めた頃、長い旅から戻った彼女を変わらずに出迎える―――なんともロマンチックな物語だった。ありあがちだからこそ、ここにしかないものはと考えると、やっぱり冒頭のキスシーンか。ありそうでなかったカメラアングルに、愛らしいノラと、文句なしにカッコいいジュード・ロウの横顔が映える。まるで甘いデザートのように、物語のラストを華々しく飾る。ウォン・カーウァイファンには、 カメラマンが相棒クリストファー・ドイルじゃないせいか、いつもの浮遊感がなくて残念かも。本作のカメラマン、ダリウス・コンジ氏は、多くの有名作を手がけてきた人。やはり作品自体がアジアというお得意の魅力のマジックから離れて、よりハリウッド的になってしまった雰囲気のなさなのかもしれない。大好きな『花様年華』にあったあのムードは、ほとんどない。 これからは、大失恋してもうほんとうに人生のどん底で、なにもかも捨てたい友人には、旅をすすめよう。旅に出るまでの勇気は、かなりいるだろうが、立ち直るきっかけとしてはベストかもしれない。くよくよ悩んでいるより、そうとう早く復活できるに違いない。失意のどん底だった、あの日あの時、この映画を知っていたら、わたしも旅に出ていたかもしれないと思う。一年もの旅じゃなくても、ほんの一週間でも休みをとって旅に出るというのは、失恋の妙薬になるに違いない。 ● ● ● ●原案・監督/ ウォン・カーウァイ 脚本/ ローレンス・ブロック ウォン・カーウァイ 撮影/ ダリウス・コンジ 音楽/ ライ・クーダー 出演/ ノラ・ジョーンズ ジュード・ロウ デヴィッド・ストラザーン レイチェル・ワイズ ナタリー・ポートマン (カラー/95分/香港=中国=フランス合作)
2010.02.13
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解説で椎名誠さんは言う。――インドはまことに不思議な国なので、なんとなく行けば誰でもなにがしかのことは書ける―――。私もそう思う。国別に書かれた関連本で、一番多いのはインドなのだ。たかのてるこさん、磯部 和子さん、中谷美紀さんの見聞録は、どれもなかなかに面白かった。ただ物足りなさは残って、いつも次のインド本を探していた。だから、本書を開いた時の感動ったらなかった。たぶん、もうしばらくは、他のインド旅行記を探さないだろう。努力と執念と好奇心に溢れた、全ページ手書き(文章も!)の本書は、四半世紀経った今でも、わたしたちにインドの姿を分かりやすく伝えてくれる。インド旅行では、往々にして考えさせられ、度肝をぬかれるような出来事に出会うだろう。つい後の旅行記で、読みぐるしい言葉を綴りたくもなるのかもしれないが、河童さんの態度は違う。堂々たる感受性の塊で、どんな経験をしても、きっちりと五感で受け止めて、緻密な絵と文章に昇華される。行くならほんとうにさりげなく行って、そして帰って来たいなぁとひしと思う。
2010.02.12
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きょうは朝から、車で1時間ほどの場所にある新篠津へ、いつぞやのワカサギ釣りに出掛けるつもりでいた。(場所は別)先着40名様まで、温泉付きで、竿も貸してくれて、温かい小屋の中で釣りができるという、至れり尽くせりのプランがあるのだ。しかし、6時に目覚ましをかけていたのに、7時起床。混雑する祝日に、予約開始時刻に起きてしまう、、、。9時に到着すると、もちろんすでにいっぱいで、待っていても空かないとのこと・・・。しかたないので予定変更して、美唄名物、焼き鳥を食べて帰ることにした。 この塩味、炭火焼のモツは最高に美味しい!!串を10本と、それぞれにランチを注文。わたしは月見蕎麦と、しゃけのおにぎりと、さらにモツ串をチョイス。 ボリュームたっぷりでお腹いっぱいになって帰路につきました。ワカサギ釣りは、とっても残念だったけど。夕方からは、小さい家人のバレンタインのチョコ作りを、イヤイヤ手伝う。この習慣がメンドウくさいわたしとしては、せっかくの休日なのにーキー!となってしまうところだが、当の本人は大マジメ。けなげな姿に、ついラッピングまで手伝ってしまった。バレンタインって、年間行事のなかで5本の指に入るキライ行事だなぁ。
2010.02.11
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1987年初版というから、もう随分古い。いつか出先の古本屋で買い求めて、本棚に並べていた本。狐狸庵ものと随筆とは、見つけるとつい欲しくなる。こちらは「生と死」「東京」「自分と他人と動物」「趣味と興味」について考える、エッセイ総集版。遠藤氏の興味をそそる出来事は、大半がおんなじように興味深くて、思考はいつも魅力的。しかも、出版された時代が背景にあるだろう、ユング、深層心理、生まれ変わり、臨死体験といった、非科学的なことにたくさん触れた中身は、とっても興味の惹くお話ばかりだった。いつもながらクスクスと笑わせてもらって、本を閉じる。紹介されていた本には、読みたいと思うもの多数。『転生の秘密』『走馬灯』『死ぬ瞬間』etc。それから「きっと見たまえ」という映画 『田舎の日曜日』 はぜったいに見ようと思う。
2010.02.10
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事故で夫と最愛の娘を失った主人公ジュリーが、作曲家だった亡き夫の未完成交響曲を完成させることで、悲しみから立ち直っていく姿を描く―――。 十数年ぶりの再見。フランス国旗の色“ 自由・平等・博愛 ”をモチーフにした3部作の第1作目、テーマ色はブルー。鮮烈な青のイメージが記憶にあったのは、劇中に登場する硝子のオーナメントがとても印象的だったから。今回は、色をあまり意識せず、ただただ悲しみから自由になっていくビノシュの姿に、じっと魅入ってしまった。著名な作曲家だった夫の曲は、じつはジュリーが作曲していたのだろうか。。そうだとしても、夫が死んでしまった今では、未完成交響曲が日の目をみることはない。なぜなら、偉業はすべて夫のものであり、彼女は陰の存在だったのだから、、、。家族を失った悲しみと同時に、ジュリーは音楽に対する諦めも抱いたように、わたしには見えた。なにもかも捨てて、独りになろうとする姿は、悲壮感たっぷり。亡き夫のパートナーで、ずっと彼女に思いを寄せてきた男の深い愛さえ、撥ねつけてしまう。それでも男は「曲を完成させる」と世間に発表することで彼女と繋がろうとする・・・。音楽も邸もなにもかも、家族を思い出すすべてと離れていたいジュリーに、未完の楽譜と向き合うことは深い意味を持つ。いつしか再生へと歩む彼女に希望の光はみえるのだが。ぬぐえない悲しみの涙が、同時に頬を伝い流れるのだった―――。音楽と映像が絶妙に絡んだ物語で、とくにラストの合唱はとても素晴らしい!ジュリエット・ビノシュという女優さんの魅力に、今度も圧倒されてしまう。当時、まだアメリカ映画ばかり多く見ていたわたしにとって、ヨーロッパ映画の寡黙さは脅威だった。悲しみひとつとってみても、じっくりと静かに切り込んでくる大人な描写が、すぐに好きになった。刺激を受けた頃を思い返して懐かしい。完成後は監督を廃業したため、このシリーズがキェシロフスキの遺作となっています。● ● ● ●監督・脚本/ クシシュトフ・キェシロフスキ 製作/ クシシュトフ・キェシロフスキ マラン・カルミッツ 撮影/ スワヴォミール・イジャック 音楽/ ズビグニエフ・プレイスネル 出演/ ジュリエット・ビノシュ ブノワ・レジャン エレーヌ・ヴァンサン(カラー/99分)
2010.02.08
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パスポートを失って空港から出られなくなった学者(ロシュフォール)を主人公に、各々の事情で空港のトランジット・ゾーン(外国人用処理区域)に棲みついている人々の悲喜劇を綴るコメディ。 スピルバーグ監督の『ターミナル』(2004年)とは、主人公のモデルが一緒なのだそう。どうりで似ているわけだ。完全なリメイクではないけれど原点はここらしい。両方みると国柄がよく出ていておもしろい。こちらはあざとさのない、温かな気持ちになれる粋な物語で、フランス映画の良さここにありーと思うような小品だった。それぞれの事情を抱え、トランジット・ゾーンで暮らす人々は、大真面目なんだけれどユーモラス。突然空港で足どめされた主人公さえ、許される限り居心地良く居ようとし、人との繋がりを求め、好奇心とトキメく心を忘れないでいる。人生を楽しむってこういうことなんだろう。正のパワーがすごくいい。私的に空港という場所は大好き。流動する人々を見ているだけで、立ち止まっていることに焦りを感じるほど、色んな人生が交差していて。そこに留まるなんて正気じゃないけれど、半分諦めて、心ではもがいて、登場人物たちは、ちゃっかりしっかりゾーン内の暮らしに馴染んでいる。そんな、空港から出られない彼らの背を押したのは、風変わりな中年男の主人公。夜のパリへと繰り出した彼らに、規則より大切なものが見えてくる。引っかかっていた人生の歯車がそっと動き出すとき、また新たな人生が生まれてくるように。鮮やかな解放感と、自由の美しさで輝いたパリがステキだった。それが現実の切なさと相まって、しっぽりとした余韻を残していった。監督・脚本/ フィリップ・リオレ 製作/ ジル・ルグラン フレドリック・ブリリョン 撮影/ ティエリー・アルボガスト 音楽/ ジェフ・コーエン 出演/ ジャン・ロシュフォール ティッキー・オルガド マリサ・パレデス ラウラ・デル・ソル (カラー/91分)
2010.02.05
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わずか14歳で残忍な殺人鬼の犠牲となり天国へと旅立った少女スージー・サーモン。残された家族の崩壊と再生を見守りながら、自らも悲劇を乗り越えていく姿を、優しい眼差しでファンタジックかつサスペンスフルに綴る―――。 予告で『ゴースト/ニューヨークの幻』再来?・・・と勝手に思い込んでいたが別ものであった。激しい感涙は90年代の輝かしい名作に譲り、こちらは、『ブレインデッド』『乙女の祈り』のピーター・ジャクソン監督らしく、サスペンスフルで軽くダークな作品に仕上がっていた。予告で目にする鮮やかな世界は、殺されたスージーが辿りつく天国。そこは彼女にとっての理想郷であり、正確にいえば天国の手間のようなところで、同時に煉獄のようだ。たくさんを思い残したまま14歳で無惨に殺された彼女には、死を受け入れることも、家族と離れることもできなくて、犯人への憎しみは増すばかり、、。仏教的にいうと成仏することができない。死を描いた作品は、死生観が自分に近いぶんだけ感情移入しやすく、本作の死後の世界はなかなか違和感のない世界で好きだった。すこし幼稚に感じるのは、スージーがまだ14歳で、彼女にとっての天国だからだろう。時折、悪夢のようにユートピアに翳りが差すところもまた好み。不思議大好き、ダークサイド大好きなジャクソン監督らしく(笑)、変にしみったれた作品になっていない、独自の宗教観・死生観がよかった。犯人は冒頭からわかっているけれど、男の過去や、次にスージーの妹が狙われることで、気が抜けない展開になっていく。しかも家族はバラバラで、喪失感から立ち直れない両親の姿は痛々しい。最終的には、『ゴースト』のような劇的な奇蹟は起こらないし、死者と生者が意思の疎通を持てることもない。現実とはそういうものだ。それでも、是が非でも伝えたい想いは、強く念ずることや生ける者の執念で、もしかしたら伝わり、叶い、報われることもあるのかもしれない・・・・・。悪は滅び、愛は勝つ。希望の一端にかろうじてしがみ付いて、幸せが見えるラストが救い。殺されて、まるで煉獄のような世界にいたスージー。安直に<死=お花畑的天国>ではないところに、監督の伝えたいことが描かれているみたい。殺された者は、死を受け入れらず、犯人を激しく憎悪して、きっと簡単に成仏なんかできないはずだ。それが本人や遺族にとってどれほど理不尽で苦しいことかを、痛感する物語だった。感動作とあるけれども、一度も涙は流れなくて、死んだ者も生きてる側も乗り越えなくてはいけない赦しや諦めに心打たれたお話だった。● ● ● ●監督/ ピーター・ジャクソン 原作/ アリス・シーボルド 『ラブリー・ボーン』 脚本/ フラン・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン ピーター・ジャクソン 撮影/ アンドリュー・レスニー 音楽/ ブライアン・イーノ 出演/ マーク・ウォールバーグ レイチェル・ワイズ スーザン・サランドンスタンリー・トゥッチ シアーシャ・ローナン (カラー/135分/アメリカ=イギリス=ニュージーランド合作)
2010.02.01
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