2010/09/04
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カテゴリ: 物語補助
※続きです


月ノ章_00-00【屍族】
============================================================
【改稿・加筆/ミュークと仮面の人物の駆け引き】

 豪奢な細工の施された天窓から洩れる月明かりが照らし出す仮面の下、その陥没した眼底から発せられる視線に、尋常ならざる強靭さを宿していたからでもある。

 「仮面の君よ。 其方は客人に対し、その顔を隠さねば非礼になるほど醜悪な相貌をしておるのかや?」

 痛烈な皮肉である。 身分を明かせない理由がある事を察した上であるのだから尚更だ。

 「これは手厳しい。 しかし、素顔を見せぬのは信頼の証。 何より私の素性を知れば、貴女に危害が及ぶと考慮したからです」

 仮面の男の言葉に偽りがないことはミュークにもわかっていた。
 無論、男が指す“信頼”とはミューク自身にではなく、その“力”にこそ向けられているのだろうが―――

 「そのようじゃな。  其方はワチキが継ぎし“血統アルカナ”の『力』をよく存じているとみえる。 じゃが良いのかの? 商王殿は如何にも無防備じゃぞ。 其方からお主の正体を“視る”事もワチキには可能じゃ」

 ミュークの鋭い眼光がヘリソンを射抜く。
 室内に鈍い音が響き、毛足の長い絨毯の上で無様に這い蹲るヘリソン。 その両眼には人間が屍族に抱く根源的な恐怖が宿っていた。

 仮面の男は片手をあげ給仕の娘を呼び寄せると、

 「ヘリソン様はご気分が優れぬご様子。 すぐに私室の方にお連れしなさい」

 仮面の男はヘリソンが這う這うの体で退席するのを見届け苦笑する。

 「面倒なことじゃな」

 ミュークが誰にともなくそう呟く。

 「彼には私の後見人としてこの場に同席して頂きましたが、気の毒な事をしてしまったようです」

 仮面の男が傷心を装っているのは明らかだった。

 「まぁ、良い。 して、ワチキの『力』を必要とは如何なる理由でかの?」

 「それは貴女の返答しだいでお話することになります」

 ミュークはこの会談の行方をいぶかしんでいた。
 秘密裏にことを遂行したい場合、最初に依頼内容を明かさぬのも常等手段であることは確かだが・・・

 「ワチキの受諾の有無がなければ話せぬ内容かや?」

 「そうなりましょうか」

 言葉を釣り糸にしての、心裡の探りあいを拒むように、仮面の男は円卓におかれた貴紅酒を盃に注ぐと、丁寧に勧めてくる。
 貴紅酒は大陸北部の寒冷地帯でのみ生息するプリウスの果汁を発酵させた果実酒である。 天然に濃縮されたプリウスの果汁は、甘味と酸味が豊富で人間の血液と酷似した含有成分を持ち、屍族の吸血欲求を満たす代用品として広く知られていた。
 しかし、貴紅酒はメナディルの法では禁じられた銘柄であった。 プリウスの実には多量の麻薬成分が含まれており、度を越せば飲む者を廃人にする。

 ミュークは貴紅酒が並々と注がれた盃を口元にあげると、一気に飲み干した。 この塔に招かれてから、既に相当の量を嗜んでいる筈だが、彼女は平然としていた。
 例え屍族であったとしても、摂取しすぎれば毒にしかならない貴紅酒を、自らの手で更に盃に注ぐと、不意に悪戯めいたことを企む子供のような笑顔をみせた。

 「ふむ、面白くはないが、興味深いの・・・」

 「?」

 全ての感情を遮断していた仮面の下から、男の動揺に似た戸惑いの色が窺えた。
 ミュークは目の前の男から発せられる不可思議な既視感に耽溺していた。 警戒と好奇心が綯交ぜになり、さらに興味を増長する。

 「商王を傅かせる人間の腹の裡を知るのも暇つぶしぐらいにはなるじゃろう。 それに貴重な貴紅酒をこれだけ頂いている。 これで断れば非礼となろうしな」

 ミュークは肩上で短く切り揃えられた栗色の髪を気だるげに掻き揚げると、

 「では、その密事とやらの趣旨を窺うとしようかの?」

 先程までの慎重さが嘘のように、興味深げな態度。 ミュークは茶目っ気を帯びる表情でにんまりとする。
 仮面の男はミュークの態度を了承の意思と受け取ったのだろう。 満足そうに頷くと口を開く。

 「アルジャベータの聖女を生きたまま囚えて頂きたい」

 それは、ミュークの抱いた推量を遥かに超えたものであった。
 このナイトクランを中心に、様々な人間の思惑や陰謀が禍々しく世界に渦巻こうとしていた。


↓★推敲★↓

 屍族の鋭敏な感性が仮面に穿たれた目元から発せられる眼光に、尋常ならざる強靭さを感じ取っていたからである。

 「仮面の君よ。 其方は客人に顔を明かせぬほど醜悪な相貌をしておるのかや?」

 痛烈な皮肉である。 身分を明かせない理由がある事を察した上であるのだから尚更だ。

 「これは手厳しい。 しかし、素顔を見せぬのはミューク様に対する信頼の証。 これはそういったもので御座います」

 仮面の人物の言葉に偽りがないことはミュークにもわかっていた。
 無論、仮面の人物が指す“信頼”とはミューク自身にではなく、彼女が持つ“力”にこそ向けられている。

 「そのようじゃな。  其方はワチキが継ぎし“血統アルカナの力”をよく存じているとみえる。 じゃが良いのかの? 商王殿は如何にも無防備じゃぞ。 アチラからお主の正体を“視る”事もワチキには可能じゃ」

 ミュークの言葉に一拍遅れて、室内にヘリソンの悲鳴が響いた。 椅子から転げ落ちた拍子に、強か腰を打ちつけたようで、商王は毛足の長い絨毯の上で無様に這い蹲っていた。

 「わ、わたしは何も知らないのだ。 ただ、よい儲け話があると持ちかけられて……」

 聞いてもいないのにべらべらと喋りだすヘリソン。 どうやら理性の箍が外れてしまったようである。 その両眼には人族が屍族に抱く根源的な恐怖が宿っていた。
 苦笑した仮面の人物が大きく手を打ち鳴らして室外から給仕の娘を呼び寄せる。

 「ヘリソン殿はご気分が優れぬご様子。 すぐに私室の方にお連れしなさい」。

 「面倒なことじゃな」

 ミュークが誰にともなくそう呟く。

 「ヘリソン殿には仲介役としてこの場に同席して頂きましたが、気の毒な事をしてしまったようです」

 仮面の人物が傷心を装っているのは明らかだった。

 「まぁ、良い。 して、ワチキの“力”を必要とは如何なる理由でかの?」

 ミュークはこの会談の行方をいぶかしんでいた。 三大商王を仲介役として顎で使える者ならば、大概の望みは思いのままである。 それに先ほどのヘリソンの言葉。 三大商王の食指を動かすほどの儲け話などそこらに転がる小事である筈がない。

 「それはミューク様の返答次第となりますかな」

 仮面の男は円卓におかれた貴紅酒を盃に注ぐと、それを丁寧にミュークへと勧めてくる。 どうやら、言葉を釣り糸にしての心裡の探りあいは本意ではないらしい。

 「これはなかなかの上物じゃな」

 ミュークは貴紅酒が並々と注がれた盃を口元に近づけると、紅い舌でペロリと水面を打つ。
 貴紅酒は大陸北部の寒冷地帯でのみ生息するプリウスの果汁を発酵させた果実酒である。 天然に濃縮されたプリウスの果汁は、甘味と酸味が豊富で人間の血液と酷似した含有成分を持ち、屍族の吸血欲求を満たす代用品として広く知られていた。
 しかし、貴紅酒は教会法では禁じられた銘柄であり表の世界では流通していない。 プリウスの実には多量の麻薬成分が含まれており、度を越せば飲む者を廃人にする禁酒であるからだ。

 「ワチキの受諾の有無がなければ話せぬ内容かや?」

 「そうなりましょうか」

 「ふむ、気に入らぬこともあるが、興味深いの……」

 ミュークは手にした盃を傾けると、それを一気に飲み干して、悪戯めいた笑顔をみせる。
 全ての感情を遮断していた仮面の人物から動揺に似た戸惑いの色が窺えた。 ミュークの真意をはかり損ねたのだろう。

 「商王を傅かせる人間の腹の裡を知るのも暇つぶしぐらいにはなるじゃろう。 それに貴重な貴紅酒を頂いたことじゃしな。 これで断れば非礼となろう」

 ミュークは肩上で短く切り揃えられた栗色の髪を気だるげに掻き揚げると、

 「では、その密事とやらの趣旨を窺うとしようかの?」

 仮面の人物はミュークの言葉を了承の意思と受け取ったのだろう。 小さく頷くと口を開いた。

 「アダマストル第一皇女であるシャルロット・アルジャベータ・リュズレイを生きたまま囚えて頂きたい」

 それは、ミュークの抱いた推量を遥かに超えたものであった。
 このナイトクランを中心に、屍族と人族、様々な思惑や陰謀が禍々しく蠢きだしていた。

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※その他、誤字脱字の訂正、細かい形容などを追加致しました。





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Last updated  2010/09/04 01:58:03 PM
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アダマストル公国
聖アルジャベータ騎士団
メナディエル聖教
その他

【屍族世界】
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0-00【炎神】



13/05/05(日)new02
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13/05/04(土)
>>光ノ章 3-10【聖座】
11/08/22(月)
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11/08/11(木)
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11/08/11(木)
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11/07/27(水)
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11/07/20(水)
>>光ノ章 3-06【魂牢】上
11/06/28(火)
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11/06/21(火)
>>光ノ章 3-04【船旅】下
11/06/09(木)
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11/05/31(火)
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11/05/21(土)
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10/06/02(水)
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09/02/19(木)
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※以下略
>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
2-06【聖堂】
2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




16/01/13(水)new02
>>月ノ章 4-11【祟神】
16/01/09(火)
>>月ノ章 4-10【祟神】
15/12/22(火)
>>月ノ章 4-09【奈落】
13/08/05(月)
>>月ノ章 4-08【奈落】
13/07/22(月)
>>月ノ章 4-07【霊廟】
13/07/15(月)
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13/05/15(水)
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10/01/27(水)
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10/01/21(木)
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09/11/16(日)
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09/11/09(月)
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09/08/31(月)
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09/08/24(月)
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09/08/07(金)
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08/06/13(金)
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08/06/05(木)
>>月ノ章 0-01【闇商】上
※以下略
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月ノ章【ミューク編】
0-00【屍族】
0-01【双子】上
0-02【双子】中
0-03【双子】下
1-00【日常】
1-01【慧眼】
1-02【聖船】上
1-03【聖船】下
1-04【妹姫】
1-05【脱出】
1-06【余談】
2-00【呪地】
2-01【灯台】上
2-02【灯台】中
2-03【灯台】下
2-04【国境】
2-05【女難】
2-06【幻影】
2-07【血渇】
2-08【転換】
3-00【金策】
3-01【月兎】
3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
3-12【凶刃】下
4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
4-03【技師】
4-04【出立】
4-05【奇縁】
4-06【真因】
4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
4-09【奈落】下
4-10【祟神】上
4-11【祟神】下




16/03/08(火)new02
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>>血ノ章 4-04【接触】
13/04/16(火)
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>>血ノ章 0-00【夜娘】
※以下略
>> †Curse of blood†時更新


血ノ章【ラグナウェル編】
0-00【夜娘】
0-01【血契】
4-00【囚姫】
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4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
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4-07【姫妹】
4-08【姫妹】




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聖アルジャベータ騎士団


ウィズイッド家


メナディエル正教


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0-00【炎神】


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Ж―†【月ノ章】†―Ж


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3-09【取引】


3-10【凶刃】


3-11【凶刃】


3-12【凶刃】


4-00【迷途】


4-01【因縁】


4-02【再会】


4-03【技師】


4-04【出立】


4-05【奇縁】


4-06【真因】


4-07【霊廟】


4-08【奈落】


4-09【奈落】


4-10【祟神】


4-11【祟神】


【†ラグナ篇†】


Ж―†【血ノ章】†―Ж


0-00【夜娘】


0-01【血契】


4-00【囚姫】


4-01【変節】


4-02【目的】


4-03【煙街】


4-04【接触】


4-05【屍妹】


4-06【呪獄】


4-07【姫妹】


4-08【姫妹】


なぜなに吸血鬼


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