2013/05/04
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カテゴリ: 物語
※文字数制限を越えたので二つに分けました。
初稿:2013.05.04
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※光ノ章の本編です

3-10【聖座】




 今、この好機を逃すわけにいかなかった。 再審となれば、カルロの聖布は無効とされるだろう。

「お待ちください。 貴老は罪人を聖座に据えるおつもりか?」

 ライオネル卿から不服の声が上がる。 シャルロットには、大罪人であるミルフィーナ・ド・グラドユニオンの逃亡幇助並びに、共犯の疑いもかけられている。 それはこの場にいる全ての人間が知るところだ。 彼の意見に同調する者も数多い。

「亡き聖下を害したのは、ミルフィーナ卿ではない。 これは聖下が遺した手記じゃ」

 ヴィルヘルムは、この機が訪れるのを待っていたのだろう。 懐から取り出した羊皮紙の束を祭壇に広げる。 そこには、ウェルティス・フォン・バレル三世の苦悩が綴られていた。 教会の改革を進めるために、病を克服する術が必要だったこと。 その為にオルカザード家の屍族と血の契約を交わした過去。 そして、全ての決着が着いた後、自分の愚かな行いを白日の下に晒して、償うつもりがあると締めくくられていた。
 屍族との取引を行った時点で、不測の事態に備えていたのだろう。 教皇付の侍従は指示されていた通り、密かに手記を持ち出すと、それを信頼できる人物へと届けていたのだ。

「聖下のご遺体は、納棺されずに何処かへ持ち運ばれていたようですわ」

 ファティマ・イスがレムギザロス大聖堂で垣間見た事実を明らかにする。
 教会の暗部が浮き彫りになる度に 白の間に動揺が走る。 それは暗い奔流となり、疚しき心を持つ者を炙りだす。

「世迷言を……ランスロット、早くこの者たちを捕らえるのだ」

 ライオネル卿は切羽詰ったように聖堂騎士団にわめき散らした。

「残念ですが私もファティマ卿と同意見です。 聖下のご遺体は内側から喰い破られるように損傷していました。 あれは人間の扱う武器で負う類の傷ではないと断言できます」

 ランスロットは戸惑う聖堂騎士団の動きを片手で制する。 成り行きを見守る司教評議会の列席者からざわめきが洩れた。
 ライオネル卿が呪詛の声をあげ、静粛を求めるが、彼の声に耳を傾ける者は既にいなかった。

「信じられません。 誰よりも不実を嫌い、善政に努めた聖下が……」

 アンヌベルク卿が呻くように呟いた。
 ウェルティス・フォン・バレル三世は歴代教皇の中でも屈指の聖人であった。 生前の教皇を見知った者には、俄かに信じられる話ではないだろう。

「聖下が為さろうとした宗教改革は、反対勢力との戦いというより、病に侵された己自身、それは時間との戦いだったのでしょう。 故に目的の為に手段を誤ったのかもしれませんわ」

 ファティマ・イスは偉大なる聖人も、またひとりの人間だったのだと説く。

「(これが…こんなものが……アルジャベータが命懸けで守ろうとしたものなの?)」

 シャルロットは目の前で展開する現実を、まるで遠い世界の出来事のように感じていた。 まるで現実感がない。 それは籠姫として俗世と隔離されて育った少女が、はじめて目の当りにした教会の姿だった。
 その時、何かが聞えた。 それを確かめようと視線を彷徨わせる。

「アンヌフォルト……」

 シャルロットのすぐ足元で、冷たくなったカルロの亡骸にすがりついて泣きじゃくる少女がいた。 その子が何者であるのかは直ぐにわかった。 そして、この幼い少女にとって聖座を得ることよりも、大事な存在があることにも。

「(この子はわたしと同じだ……)」

 ようやく、今自分が為すべきことに気づく。 シャルロットは巻きつけた布を解き、美しい装飾の施された長大な剣を露にする。

「(みんな……ごめんなさい)」

 これが神剣に宿る最期の神霊力であるのかもしれない。 命がけで得た神剣の最期の奇跡を、敵対する人間の為に使うことに反対されるかもしれない。 でも、ここで使わなければ自分は一生後悔し続けるだろう。

「アルジャベータ……力を貸して」

 アンネシュティフから暖かな光りが溢れ、白の間を包み込む。

「シャルロットさま!?」

 ミルフィーナが目を見張る。
 この時になって、周囲の人間もはじめてシャルロットの行動に気づいた。 だが、驚きはしたが、その行為を止めようとするものはいなかった。 まるで時間が止まったかのように、人知を超えた光景を見守っていた。

「法や宗教は人間が人間であろうとした結果生まれたものです。 ヒトは弱い、だから、生きる上で基準となるものは必要です。 でも、それは完全ではありません。 生まれや、立ち位置の違いだけで容易に相容れぬものへと変わってしまう」

 シャルロットが言葉を重ねていく。 その姿は純白の光りに包まれていた。

「教会は屍族を教敵として、忌むべき存在だと定めています。 でも、わたしをここまで導いてくれたのはひとりの屍族です。 聖下の命を奪ったのは屍族なのかもしれません。 ですが、過去に失われるはずだった聖下の命を救ったのも、また屍族です。 対話を避け、屍族と友好な関係を築く努力を怠らなければ、防ぐことができた悲しみもきっとある筈です」

 光りは命を宿した燐光となり、雪のように祭壇へと降り積もる。
 その一片がカルロの身体に溶けて消えた時、永久の眠りから醒めるように、閉じた鷹眼がゆっくりと開かれる。 優しく微笑んだシャルロットは、決然と立ち上がり白の間を見渡す。

「わたしは教会を正そうとは考えません。 先人の知恵から学びこそすれ、過去に生きるつもりはないからです。 人間の価値観は時代や世相に影響されて常にカタチを変えていくものだと思うから。 今必要なことは、今を生きているわたし達が決めることです」

 神剣アンネシュテイフを携えたシャルロットの姿は、白ノ間の円天井に描かれた聖女アルジャベータと重なってみえた。 それは神話の一場面のように神々しいものだった。


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※気まぐれに推敲致します。
推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。

次回で完結です。



■小説.■ファンタジー.■オリジナル.





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Last updated  2013/05/04 04:24:50 PM


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>> †Curse of blood†時更新


光ノ章【シャルロット編】
0-00【聖女】
0-01【妹姫】
0-02【夜冠】
0-03【聖船】
1-00【世界】
1-01【神都】
1-02【古怪】
1-03【呪夜】
1-04【蠱毒】
1-05【残光】
1-06【脱出】
2-00【老卿】
2-01【籠姫】
2-02【我意】
2-03【涜聖】
2-04【慫慂】
2-05【追跡】
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2-07【神韻】
2-08【首人】
3-00【過去】
3-01【鷹眼】
3-02【決断】
3-03【船旅】上
3-04【船旅】下
3-05【真実】
3-06【魂牢】上
3-07【魂牢】中
3-08【魂牢】下
3-09【神娘】
3-10【聖座】
3-11【終焉】完




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月ノ章【ミューク編】
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0-01【双子】上
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1-02【聖船】上
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2-08【転換】
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3-01【月兎】
3-02【思惑】
3-03【水都】
3-04【天敵】
3-05【語部】
3-06【捕竜】
3-07【取引】上
3-08【取引】中
3-09【取引】下
3-10【凶刃】上
3-11【凶刃】中
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4-00【迷途】
4-01【因縁】
4-02【再会】
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4-05【奇縁】
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4-07【霊廟】
4-08【奈落】上
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※以下略
>> †Curse of blood†時更新


血ノ章【ラグナウェル編】
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0-01【血契】
4-00【囚姫】
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4-02【目的】
4-03【煙街】
4-04【接触】
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4-08【姫妹】




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1-02【古怪】


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