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2009年11月04日
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カテゴリ: ウマく行く恋愛術


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花火大会の余韻が冷めない頃、電話が鳴った。

「もしもし。俺」
(あ。佐伯君。どうしたの)

何時もの彼なら、二言目には食って掛かる。
でも、今回は優しげな口調の向こう側に不自然な”笑い”が含まれていた。

「なぁ。お前、今日も暇だろ?天気良いし海日和だし、これから浜に来ないか?」

(ちょっと、引っ掛かるけど良いかも)
”喫茶・珊瑚礁”の営業で頭が一杯の彼も、たまには息抜きがしたいのかな。

「決まり!!じゃあ、急いでな」
彼は、言葉を付け足した。
「水着、忘れんなよ」

私は、聞き咎めた。
(忘れないよ?だって。海に、行くんでしょ?)

また、笑い声が漏れた。
「はは」
(?)

彼は、受話器の向こうで私を面白がっている様子だった。
「言っとくけど、スクール水着とか言う呆けは無し。いや。今時は、返ってそう言うのも」

(?)
私は、若王子先生との遣り取りが心に引っ掛かっていた。
不審を覚えながらも、彼なりに私と話し合う機会を持ちたいのかも知れないと思い我慢した。

「兎に角、早く来いよ。あ。ほら、じきにビーチ込むからさ。珊瑚礁で、待ってる」
(珊瑚礁ね。判った)

でも、嫌な予感が当て嵌まった。
私は、海辺付近の商店街でしこたま荷物を抱え込む羽目になった。

(ええ。ウェハースとスタッフドオリーブともやしと蕎麦玉、買って来たよ)
目線の先には、真っ裸にオレンジ色のエプロンだけを付けた佐伯瑛君がいた。

「お疲れ。じゃあ、次はトロピカル焼き蕎麦上がってるから3番テーブルへ」
私は、目の置きどころにさえ困りながら思い切って訊いた。

(ね。今日、誘ってくれたのってもしかしてお店のお手伝い?)

彼は、取り付く島が無かった。
「考えるな。働け。話は、それからだ。で。さっさと、水着に着替えてエプロン付けたらフロアな」

私は、消え入りそうな声で訴えた。
(それ、どうしてもやるの?やっぱり、恥ずかしいよ)

ただ、冷淡な”命令”が響いただけだった。
「恥ずかしくない。水着エプロンの女子高生が珊瑚礁に与える経済効果を考えろ」

(佐伯君、親父。悪魔)
「何とでも言え。つーか!!トロピカル焼き蕎麦、早く!!」

お客様は、増え続けている。
私は、自棄っぱちで動き回るしか無かった。

家に戻った私は、テーブルに突っ伏した。
鼻先には、彼から受け取った”アルバイト料”が置かれている。
でも、封筒の中のお札を数える気にもなれなかった。

このまま、嫌な気分を引き摺った状態で夏休みが終わってしまうのは耐えられない。

「志波です」
(もしもし)
「用事があって、掛けて来たんだろ?早くしろ」

彼の声は、普段通りだった。
名前を名乗り、用件を告げた。

(次の日曜日、海に行かない?)
「暇だから、付き合う」

私は、”喫茶・珊瑚礁”で身に着けたものとは違う水着を買い直した。
”あんなお金”は、長く持っていたくない。

「じゃ。着替えたら、また此処で」
(うん)

ところが。
考え事をしながら歩いていた私は、ふと見覚えの無い光景の真ん中に立っていた。
(あれ。この辺じゃ無かったっけ。ひょっとして、あっちかな)

右に、ふらふら。
また、戻って左にふらふら。

(違ったみたい。ひょっとして、私迷子?)
視界には、大勢の家族連れやカップルが思い思いに憩っている。

(志波君、心配してるかも。あーん!!どうしよう!!)
賑やかな浜辺で、自分だけが不幸に思える。
へなへなとへたり込んで、人目も憚らずに泣き出してしまいそうだった。

「はぁはぁ」
ふと、背中で激しい息遣いが聞こえた。

彼だった。
盛夏の昼間の銀色の日差しを浴びて、私の眼前に立ち此方を見据えている。

「はぁはぁ」
(志波君、走って来たの?)

普段は、冷静沈着な彼が顔面蒼白で肩を上下させている。
「中々、戻って来ないから何かあったのかと。あまり、心配させるな」

私は、初めてお使いに出た子供の様に頼りなかった。
(ごめんなさい。迷っちゃって)

志波勝己君は、呟いた。
「俺達がいたところから、真正面の店に行ったのにどうすれば迷える?」

私は、泣きそうな顔になっていたと思う。
(・・・)

志波君は、少し落ち着いたみたいだった。
「兎に角、無事で良かっ・・・く!!本当にお前、どう言う方向感覚・・・」

私は私で、嗚咽寸前だった。
(そんなに、笑わなくても)

だが、彼は急に相好を崩した。
「くくくっ!!悪りぃ、悪りぃ」

(んもう)

2人の為に買ったジュースは、すっかり温くなってしまっていた。
私の胸に、次第に大きな安心感が広がっていた。

(でも、こんなに笑っている志波君って貴重かも)






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最終更新日  2009年11月04日 18時12分03秒
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