法律と漫画のブログ
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僕は漫画に影響されやすいのだが,数年前・・・いやもう15年くらい前か,ふと急にヘロドトスを読みたいと思うことがあった。歴史 上(ヘロドトス) (岩波文庫 青405-1) [ ヘロドトス ]漫画,『ヒストリエ』には,主人公エウメネウスが「何か奴にたつところを見せてみろ」と言われ,「ヘロドトスを教えましょう!」と村人にいうシーンがある。ここでヘロドトスというのは,要するにヘロドトスの著作,『歴史』のことである。以下,僕もエウメネウスにならって,著者も著作もまとめてヘロドトスということにしよう。(『ヒストリエ』3巻,ヘロドトスの講義はかなり好評であった)なんとなく先入観だが,作中では手ぶらのエウメネウスが気軽に「ヘロドトスを教えましょう」と言っていること,紙の発明もない時代だから,東洋で言えば『論語』みたく暗記できる程度の分量を思い描いていた。また,ヘロドトスというのはギリシア人であるわけで,『歴史』というそのものずばりなタイトルなのだから,本書はギリシア人の歴史を書いた書物なんだろうと思っていた。また,これが全然違ったのだ・・・。まず,分量がえげつない。岩波文庫で全3巻ある。後ろ4分の1くらいが注釈だから,ぎっしり3冊ではないがそれでも多い。人間というのは歌ならば長くても覚えられるもので『イリアス』くらいなら暗唱できる人がいても不思議ではないが,ヘロドトスを暗唱できる程まで読み込むというのはかなり大変だろうなぁ。次に内容なのだが,あまりギリシアのことが描かれているわけではない。上巻には1~3巻がまとめられているのだが,おおよそこうだ。1巻 リュディア王国(現トルコ)の興亡。2巻 エジプトの地理と歴史3巻 ペルシア王カンビュセス2世とダレイオス1世の登極合間にちよいちょいスパルタの歴史なんかも語られるものの,基本的にギリシア以外の国の話ばかりである。そういれば,僕たちは普通にペルシア人のことを「ダレイオス」など発音するのが慣例になっているけれど,これはギリシア語であって,ペルシア風にいえば「ダーヤラワウ」なんだよね。たぶん,ペルシア人なんかは碑文なんかで歴史を石に刻んだりはしていたようだけれど,携帯に便利で,石に比べれば分量の制限もあまりない書物という形で自分で歴史を残さなかったのがよくなかったのかもしれない。そんなヘロドトスの大きな欠点としては,神話と歴史の区別がされていなかったり,年号が書かれていないためにある出来事がいつ起きたのかということが全く分らないと言うことである。昔から気になっていたが,ギリシア人は「ダレイオス1世の何年」というように年を計算しなかったようだ。塩野七生を読んでいると,古代ローマだと「誰々が執政官の年」みたくやっていたそうだが,後世の歴史家は出来事が起きた順を並べるのに苦労しただろう。それから,神話と歴史の区別がロクにされていないのも問題だ。リュディア王国の祖先はヘラクレスだという話になっているが,わりと当たり前のように,ヘラクレスが至る所に登場する。また,ギリシアから離れた土地には一つ目の民族が住んでいるとか,食人種がいるとか,翼のある蛇がいるとか・・・。著者が聞いた話をファクトチェックも不十分なままに掲載しているからこういうことになるのだろう。こう思うと,司馬遷の『史記』というやつ,きっちり神話を排除したという点はすごいことだったのだなと感心する。個人的にはもっとも興味深かったのが,ペルシア人の歴史物語である。なんといっても,ヘロドトスはカンビュセス2世をボロクソに誹謗中傷しており,精神障害のある暴君としている。たぶん,カンビュセス2世に侵略されたエジプトあたりの記録から取ってるから,ここまで酷くなっているのかもしれない。藤子不二雄の名作,「カンビュセスくじ」という,カニバリズムを扱ったSF漫画のものになった逸話もあるのだが,肝心の食人ネタの出典がヘロドトスだというと,とたんに嘘くさくなってきたなぁ・・・。藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編(4) (てんとう虫コミックス(少年)) [ 藤子・F・ 不二雄 ]はっきり言って,歴史的な正確性を考えると,そうとうヘロドトスは微妙だと思う。正確な歴史を読みたければ,講談社学術文庫でも読んでいる方がいいだろう。最後に,歴史から少し離れて神話の話を。以前,僕は『アレクサンドロス大王東征記』を読んだとき,やっぱりエジプトだとかインドだとか,いたるところにヘラクレスが伝説を残している話に違和感を覚えたものの,どうやらこの時代のギリシア的解釈というので,現地の神々をギリシアの神々で置き換えるのが普通に行われていたようだ。たとえば,ヘロドトスは外国に天空を司る神がいれば,それは「ゼウス」と記述してしまう。現代人は家の中でもテレビでもネットから情報が得られるが,当時のギリシア人は「ゼウス」は理解できても,「天空神」という概念は理解できなかったかもしれない。日本でも,仏教と神道が混ざり合った世界観を作り出しているけれど,ヘロドトスを読んでいると世界各地の神話が混ざり合っていく過程が分って興味深い。歴史 上(ヘロドトス) (岩波文庫 青405-1) [ ヘロドトス ]しnんw
2021.06.22
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