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迷路の花嫁【電子書籍】[ 横溝 正史 ] いささかのもたもた感は否めない。 本作を読むと大正史の嘆きが聴こえてくる。 俺はこんなものを書きたかったんじゃない。 そもそも冒頭が、おどろおどろしい正史の世界だったというのに、なんとそれがいつの間にか、まるで氷が水になるがごとく溶けて、清張の社会派ミステリー的なものに化けていくのだ。 そう上記の表紙絵の猫が化け猫だったがのごとく…。 冒頭もたもたしていると書いたのは、そもそも冒頭で謎が全部解けるはずだったということを私は書きたかったのだ。 それが終盤まで引っ張られる。 この作品は一種の、Who done it?であるが、ミステリーリーダーとしては、犯人が誰かということを知っても全く動ずることはない。 終盤まで引っ張るのなら、逆に倒叙の方が気持ちよかったろうにね。 たださまざまな人々の人間模様が語られていて、それはそれでドラマがあって、ミステリーでなかったら、どんなに素晴らしい作品だったのだろうな、なんて思うほどの出来だった。 ただし残念ながらその関係性が複雑で、読み手は容易に理解できない点もあった。 けれども作品を世に出すこと言うことは、大変なことなんだな、大作家にしても実に苦労している、ということがひしひしと感じられるのだった。 そりゃあ、読みたくなければ読まなければよろしい、それは読書の原則だ。 けれども読み手は何とかして読了したがる者。 そのせいで1冊が進まず読書が嫌いになった例が数多ある。 この辺について、読み手としての断捨離が必要なのだと思う。 読書術(法)で断捨離を進めることに私は賛成だ。(10/16記)
2024.01.02
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幽霊座【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 歌舞伎といえばやはりLGBTQの世界。 それが実に自然な世界でもある。 それはともかく昭和11年の役者消失事件が昭和28年になって再燃する。 本作には大掛かりな仕掛けが施される。 その中におけるシレッとした毒殺が発生する。 端緒は缶に入ったチョコレート。 これはよくある仕掛けだ。 誰が毒の入ったチョコレートを食べるのか。 このトリックは古今東西ミステリー界マジック界で語られ演じられてきた事柄だ。 正史はこの期に及んで古来からの仕掛けつまりクラシックトリックを好んで使いはじめつつ彼得意な複雑な血縁関係を用いてそれを中編にまとめるという荒業に出てきたのだ! その心地よさと言ったらミステリーリーダーを唸らせる。 新正史の誕生だ。 しかしそれらの珠玉の中編は半世紀以上誰にも認められず,有名長編の脇に積読されていただけなんだな。 実にもったいない話だ。 ただね,私はそこに多作家症候群を乗り越えた大作家の矜持を感じるのだよ。 最近また正史モノを読む機会が増えた。 というのもKindle Unlimitedでまた盛んに正史の作品を出してくれているからだ。 私はKindleに感謝する。 ミステリー作家は読めば読むほどその内面が痛いほどわかってくる。 それが魅力でもある。(7/30記)
2023.10.01
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金田一耕助ファイル14 七つの仮面【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 正史はミステリー史に燦然と輝く作家だ。 その正史が角川に見出され文庫と映画で大ブレイクしたのが昭和50年ころ。 つまり今からおよそ半世紀前の話である。 正史の有名な作品は市川崑監督(本陣殺人事件,八つ墓村は野村芳太郎監督等)により映画化され角川文庫に入ることによりさらにブラッシュアップされたのだが,それ以外の作品はほとんど日の目を見ることがなかった。 読者も映画化された有名作品以外に正史の作品があろうなんてことは思いもよらなかったことだ。 そうして半世紀が過ぎ,定年退職後にミステリーリーダーになった私は,再度正史を読み始めた。 半世紀前の話を自分の記憶から掘り出すことは極めて困難であったけれど幸いKindle Unlimitedという現代の本によりもう一度ゆっくりと読み進めながら正史の作品の解明を進めることができた。 その結果正史には有名作品後の多作家症候群罹患中の低迷期がありその後中編を書くことによりミステリーライターとして再び台頭してきた経緯が認められる。 正史が,どうぞつまらない作品も読んでください,そして作者の苦悩を感じてください,といったのは実はそこのところではないかと私は推論した。 さて本作はそのような低迷期を経た正史が,作中古典的な密室の典型と言いながらそのトリックを使って殺人を行ったものだ。 この頃の彼の作品は今のLGBTQ問題も色濃く反映されている。 本作もそうだ。 それを不快とするか否かはその人の感じ方次第だろうが、この頃の正史はトリックにLGBTQを混在させることがマイブームだったんだろうな。 映画化されたような大時代なものではない本作のような中編に正史本来の味のあるミステリーがあるようだ。 まだまだ大正史の世界は深い。(7/30記)
2023.09.30
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死神の矢【電子書籍】[ 横溝 正史 ] わけのわからぬ本を読んだ後だったので本作は実に刺激的で私の脳内を話が駆け巡っていった。 本作は密室モノである。 そもそもミステリーにおいては登場人物全員がそれこそ金田一耕助もそれから所轄の刑事も誰もが犯人候補である。 だから本作の犯人が誰かわかっても別に驚きはしない。 ただ直前に読了した金田一耕助の冒険や本作は明らかに従前の正史モノとは違う感じになっている。 それは時代がそうしたのだろう。 正史は明らかに本格推理小説に挑戦したのだ。 さて本作における密室のトリックはどうであったろうか。 トリックの仕掛人の最終盤における告白,のようなもの,は少しリアルに欠ける。 そこをして全部金田一先生にはお見通し状態だったなどと言わせているけれど,これくらいの細工が見破れずしてミステリーリーダーも実の鑑識も務まりはしない。 この点について本作はいささか後出しじゃんけんが過ぎた。 ただこれだけは言える。 すなわち第一発見者こそ第一の容疑者なんだということ。 ミステリールールでは従者は犯人にしてはならないことになっているが正史はそこを巧妙に仕掛けてもいた。 多作家症候群に罹患していたころと比べるといよ大正史,復活したな,しかも新しい筆致で,と声掛けしたいところだ。 (7/28記)
2023.09.28
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金田一耕助の冒険【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 11の作品からなる短編集。 さすが大正史とうなってしまう。 珠玉の短編集である。 金田一に関しては昭和50年代に角川で映画と文庫本が大ブレイクしたのだった。 有名な作品は市川崑監督石坂浩二主演で映画化された。 さらに古谷一行主演のテレビドラマも人気を博した。 今を去ること約50年前の出来事である。 映画で人気を博した作品はいずれも長編であった。 それらの作品は大正史の代表作になっていった。 だから本短編集のような大正史のミステリー作家の矜持をしっかり表している作品に出会うと言う事は私のようなミステリーリーダーが深堀する以外に見当たらなかったと言う事になる。 本作品集は精緻に練りに練られたしっかりしたプロットとトリックが描かれている。 多作家症候群罹患中の正史の作風は双子に代表される。 さらにわらべ歌やら年増ヒロインやら戦後間もない農村を舞台にしたものが多かった。 本作ではそれらの作風からさらりと足を洗って,まあいわば金田一の一人の相棒といえる等々力警部との冒険譚が語られる。 特にリップリーディングの話が秀逸だった。 しっかり読者にヒントを提示しそのうえで,Who done it?の形をとっていた。 本作品集はどれから読んでも面白い。 ミステリーファンにはぜひ一読してもらいたいものだ。(7/28記)
2023.09.26
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華やかな野獣【電子書籍】[ 横溝 正史 ] エロ・グロ・ナンセンス路線に正史は入らざるを得なかったんだろうな。 その苦しいうめき声が聞こえてきそうだ。 今回は舞台が秘密倶楽部。 LGBTQ問題よりこっちのほうが実に違法有害だ。 大正史先生そんな中いやいや本作を書いたのだろう。 ついには麻薬係の刑事を殉職させる。 しかしさあ,秘密クラブを運営し,しかも自己もそれに耽溺している女が麻薬は一切だめなんてことで麻薬係に相談するかねえ。 その時代の背景が今ひとつ読めないからなんとも言えないけれど,異常な欲望に駆られた女が誰でもいいようなそんな話だった。 それでもミステリー作家の矜持として,赤色絨毯に残された血痕と絞殺の跡が残された死体とその位置の不可解さから見事な推理を披露する金田一は,まさに名探偵になったということだね。 この時代の金田一はシリーズ前半にして多くが映画化された有名作品の探偵役よりもずっと充実しているのではないか。 さて件の金田一なぜ秘密倶楽部にいたのかという問題は実は主宰者から相談を受けていたからだということが判明して読み手はホッとするのだった。 ミステリーの一つの形態に、残された証拠を一つ一つつなぎ合わせていくという作業がある。 だから書き手は多くの証拠を残さなければならない。 それができるんだね正史は。 やはり正史は大正史だ。(7/23記)
2023.09.25
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壺中美人【電子書籍】[ 横溝 正史 ] けだし名作である。 ミステリーというものはこういうものでなければならないというお手本のような作品だ。 本作が決して古くないのは今話題の多様化社会LGBTQがテーマだからだ(これは失敬,重大なネタバレだ!)。 壺中に入るトリックが問題なのではないかと私は読中ずっと考えていたけれど,ヒントとして中盤金田一がある男を見てLGBTQを話題にしたことから私はその線かとミステリーリーダーとして勘づいたのだった。 伏線として序盤殺されかけた川崎巡査の感覚も実は明らかなヒントとして出されていた。 やはり大正史である。 おみごと。 LGBTQをして今の世の多様化のシンボルみたいに言っているけれどそのことはつまり本作が書かれた頃から話題になっていたことで,ただその頃は道徳とか倫理という面で否定されていたことなのだろうけれど,今のように大手を振るよな事態になるとは誰も思っていなかったろうな。 嗜虐は人それぞれ,そんなこと大手を振っていいのかな。 逆に言うと多様化だからこそ嫌悪することも許されると思う。 権利云々の前にしっかり議論してほしい。 ただただ権利を訴えるやり方は感心しない。 そこまで行くのなら嫌悪権も認められて然るべきだがその点が全く無視されているのが現状ではないのか。 正史の作品でここまで意見を述べることができるなんてつまり本作が問題作でもあるということなのだ。 私はミステリーこうあるべきだ論の代表作としてこの作品を上げたい。 久しぶりに正史ワールドを堪能した。(7/23記)
2023.09.24
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毒の矢【電子書籍】[ 横溝 正史 ] ドイルを彷彿とさせる中編。 ただ最終盤がまとまりに欠けたな。 どたばたでドイルとは似ても非なるものになってしまった。 それまでの連続投函されてきた切り貼り手紙のトリックは精緻だった。 それに比して終盤から最終盤にかけてのドタバタが気に食わない。 それはともかく金田一が切り貼りを見て新聞三紙のうちのどれかとか一つだけ雑誌だとか,切り貼りの裏の映画の広告の掲載日とかでその一つの外れ手紙の謎を解いたところまでは実にパーフェクト! その後入れ墨とか米国のサーカスとかが入ってきて台無しにしてしまったな。 最近障碍のある方が芥川賞に選出されたが,まさか正史がこの時期からそういうことを予想していたわけじゃあるまい。 車椅子に乗った若い女性が何故必要なのか,LGBTQがなぜ悪い遊びにふけるなどと表現するのか。 当時は怖いもの見たさの表現だったろうが今正史のような表現の作品が出たら不快以外の何物でもない。 本当に今時代の深いうねりを感じるな。 それでも大正史これだけの作品を書けるのだから本当に終盤をきちんと抑えてほしかった。 終盤を書くあたりになにかあったんでしょうかね。 ここからは推測。 正史は金田一に手紙の謎を解かせてそれでチャンチャンにした。 しかし編集陣がそれを許さなかった。 そこで終盤サイコホラー的にそしてできるだけ将来に禍根をのこす,つまり未来の人々が不快になる話を作り上げた。 のではないか?(7/22記)
2023.09.22
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貸しボート十三号【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 中編である。 けだし佳作だ。 たしかにこれまで首無し死体ミステリーは数々読んできた。 しかし本作のように首が切られているが残されている死体のミステリーはなかった。 そこに大学の名門ボート部の名誉やら何やらが混在してくる。 検視も解剖もきちんとするであろうから本件における謎はなぜ二人の男女が殺されるに至ったかという謎解きだ。 特に難しいトリックはないけれどなぜ男女の凄惨な死体が隅田川で見つかるに至ったかの謎解きとなる。 まずはWho done it?だ。 二人の被害者を殺したものは同一人物や否や。 後の死体損壊はいかに。 それらの理由が理路整然と本作において披瀝される。 トリックはないけれど本作をミステリーと認めない訳にはいかない。 つまり犯人は登場人物の中にいるのだから。 そこいらへんが大正史のみせどころなんだね。 こういう作品を数多く読んだであろうかそして警察の現実の捜査の仕方を取材しているかどうか更に刑事法をよく勉強しているかでそのミステリー作家の素地が決まる。 だから私はこれからミステリー作家を目指すのであれば,乱歩,正史,清張,森村,東野をよく読みなさいと言いたいわけだ。 その上で警察の取材,そして刑事法の勉強を積み重ねて初めてミステリーの基礎となる。 何よりリアルがなければミステリーは生きない。 高校の文芸部ではだめなのだ。(7/19記)
2023.09.20
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扉の影の女 (角川文庫) [ 横溝 正史 ] 正史の場合代表作でないものは正史自身が言うように駄作も読んでほしいという弱音から分かるとおり自分でもその作品の質が落ちると言う事を自覚していたんだろう,たしかに大きくその質が落ち込んでいることがわかる。 本作もそのような作品の一つである。 しかしさすがに大正史,現代とは全く趣の違う昭和30年初頭の一コマを実に正史的に眺めていて後代の研究家には垂涎の参考になるのである。 大正史は大正史だ。 まず現代の,LGBTQが本作の題材である。 当時は認められていない陰の存在だった。 そして,血液をごまかすために鶏の血液をぶちまけるなどという行為も入っているけれど,現代の科学捜査からは全く無駄なことだとわかりつつ当時の捜査技術はそんなもんなのだろうなと納得させられる。 そしてターゲットの勘違い,勘違いされたターゲットの名前が近似などというトリックはまさに苦し紛れの多作家症候群,この多作家症候群を深掘りするにはまずこの大正史を一番に持ってこなければだめなのかもしれんぞと思うほど稚拙なトリックを大正史たるものがよく書いたものだと逆にあたしはその大正史の潔さに惚れ惚れしてしまうのだった。 ミステリーリーダーとして研究していく中で見えてきた論点は3つある。 多作家症候群と映画vs.原作と紙の本vs.電子本である。 この3つがミステリーを読んでいる中で浮かんできたのだ。 これから4つ5つと出てくるのか出てこないのかはともかく今の私の喫緊の課題は東野の後継を誰にするかということ。 様々読んでいるが絞れない。(1/29記)
2023.04.19
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魔女の暦 (角川文庫) [ 横溝 正史 ] 本書は,表題作である,魔女の暦,と,火の十字架,の2中編からなる。 いずれも東京の浅草などにあるストリップ小屋などが舞台になる。 これまでの正史のオドロオドロした作風とは違い,正史自身がそのような先入観念から脱けだしてなんとか新たな作風を作りたいという思いが感じられる2作品だ。 と同時に実に質が悪くて,これが正史かというがっかり感が強い。 ただし正史自身が出来の悪い作品もぜひ読んでくれと言っているわけで,その点こういう出来の悪い作品は正史の確信犯でもある。 それはともかく,魔女の暦はトリックというよりも謎のカレンダー書きの場面が印象に残る作品だった。 作りとしては,正史の数え歌モノと同じで,カレンダーに書かれたとおりに人が殺されるのである。 犯人に関する根拠が薄弱で,これと言った納得感はない。 それに比し火の十字架は結構練られていた。 まず東京大空襲の昭和20年3月10日の殺人というところがすごいね。 それが戦後ストリップ小屋を渡り歩くストリッパーの話になって,それからこの頃ミステリーリーダーたる私が遭遇している,殺されずにトランクのようなものに入れられている女が怪しい説が本作にも使われていて,さらに塩酸で顔が焼かれているなんてシーンがあって,すわまた人交換と思いきや,そうじゃないなどという話は,この頃の正史にしては上出来ですね。 犯人は男でなければ女だということ,障害者には化けることができるということなどなどこの作品は正史のポリシーがてんこ盛りだった。 この時期に及んでまだまだkindle unlimitedに正史があるんだよねえ。 もう少し正史に付き合おうか。 そんなふうに考えた私だった。(1/25記)
2023.04.17
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支那扇の女 (角川文庫) [ 横溝 正史 ] 本作は154ページの中編。 まずもってほらまた出てきました,いとこの,大伯母の,という血。 血,は正史の,テ。 さて本作のポイントであるが,誰が棺に肖像画を入れたか,なぜ夢遊病者になるか,なぜ2人が殺されたのか,犯罪史は本物なのかということ。 正史の頭の中では混乱しないのだろうが,読み手は登場人物が次から次へと出てきてわけがわからなくなってしまう。 正史モノには珍しい活劇シーンもある。 舞台は神宮外苑。 パンパンと拳銃が撃たれ,可哀想なドン・キホーテやら真犯人が撃たれ,哀れ真犯人は正史モノのお約束どおり毒をあおって死んでしまう、とうびんと…とうびんとは山形の昔話の語りの最後の言葉,つまりThe end.Fine。 正史からおどろおどろしさを取ったら平板なミステリーになってしまう。 真犯人は我らミステリーリーダーには全部みろっとめろっとお見通しだい状態。 先に書いた4つのポイントを全部読み解けば自然に犯人にたどりつく。 さて本作はもう一編,女の決闘,という短編がつく。 この作品も支那扇の女同様のトリックでしたな。 傾向と対策,犯人探しで2-1=1なんて話が延々と出てきたらそれは犯人ではない説,それは非常に確率が高い。 でもその公式はヒントにはなる。 死んだはずなのに生存したわけはなんてことにこだわったら犯人に行き着く。 あとは題名。 支那扇の女,にも,女の決闘,にもある同じ漢字に注目! これは正史からの何よりのヒントですよね。(1/20記)
2023.04.13
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夜の黒豹【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 正史モノにしては正史モノを感じない作品だった。 というのは正史といえば離れ小島とかドロドロした血とか凄惨な大虐殺シーンなどがイメージとして出来上がってしまっていて,本作のような東京という大都会を舞台にして,アオトカゲと称される怪人が暴れまくるなどという作品は少ないからだ。 とはいえこれまたネーミング理論だろうねえ,なぜアオトカゲであってはいけなかったのか。 爬虫類ではだめか。 だから黒豹なのか… それはともかく冒頭の葉山チカ子だけが生存者でその後行方不明になった点,その後アオトカゲによって若い女性が殺される点,設定から話の筋が見えてくるのは私がミステリーリーダーだからか。 それとも賢明な読み手は既に気づいていたか。 その仕掛けには気づいたものの,登場人物は誰もが犯人足りうるという造りは,既に正史が盛りを過ぎたということの証左だったのかもしれない。 そうだとしても正史が立派だなと思うのは,正史が,読み手よ,できの悪い作品も是非読んでほしい!と声を大にして言っていたところだ。 何も本作が駄作だと言っているのではない。 寧ろ本作は冒頭書いた通りこれまでの正史モノにはない異作なのであり,研究者としては正史モノとして特異な作品に分類しておきたいところだ。 それにしても正史モノでは現在では使えない差別用語も武器の一つで,本の最後にそのような表現があることをご了承願いたいと出版社側が書かなければならないご時世になってしまった。 さらに本作では児童ポルノ的な表現も多々あり,はて表現の自由とは一体何なのだろうなんて思ってしまう。 このご時世現代の作家は様々な箍に嵌りながら書かなければならないのは本当に大変なことなんだなとつくづく思う。(1/18記)
2023.04.10
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真説 金田一耕助【電子書籍】[ 横溝 正史 ]☆ 真説金田一耕助 この本は研究者にとって座右にすべきものである。 例えば、仮面舞踏会は8回か9回書いたきりで中絶とか、自分最高の作品は「悪魔が来りて笛を吹く」であるとか、おどろおどろしさ好き、病弱から昭和50年代の角川での大ブレイクなどなど、正史研究家には実に参考になる。 そのうちでも、 「作家を評価するにはその作家の最高の作品だけを基準としてはならない。その作家の最低の作品も基準とすべきである。その作家がいかに愚にもつかないことを臆面もなく書けるかということも、評価の基準にしなければならない」という評論に関し、私が正史を読んできて分析したことそのものが書かれている。 この評論に関して私は「多作家症候群」などという造語をもって記してきたところだ。 まあそれにしても正史モノはあの角川での大ブレイク前にも多くの作品が映画化されていた事がわかり、私は驚愕したのだった。 私と正史の関係は、先ほどから書いている昭和50年代の角川での大ブレイクから始まる。 映画が先だったか角川文庫が先だったかは覚えていない。 とにかく観て読んで読んで観ての連続でしたな。 映画は市川崑監督石坂浩二主演の作品を主に観て、テレビでは古谷一行主演のシリーズ物を観、暇さえあれば角川文庫の金田一モノを読み、そして、ATG高林陽一監督田村高廣主演(金田一は中尾彬)とか野村芳太郎監督ショーケン主演(金田一は寅)も観て、大学時代が終わったようなものだ。 そして今私は、定年退職後、乱歩、正史、清張、森村を系統的に研究するミステリーリーダーになった。 正史に関して本書を読む前につらつら思ったことを書いてきたが、それが本書で裏付けられることになり、とてもうれしい。 研究の甲斐がありましたな。 だんだん読み進むに連れ、正史が血を絞りながら作家を続けてきたことがわかった。 終盤では、正史は本当に全精力を原稿用紙にこめて書いていたんだなと思った。 正史のプロ意識の高さに脱帽である。 正史が大ブレイクすることを読んだ角川春樹等の方々の炯眼には驚愕せずにはおれない。
2022.12.16
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大迷宮【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 果たしてあの怪獣男爵、ゴリラ男爵は一体どこへ行ったものかと思っていたら(当然心配なんかしていないよ)本作に出てきましたな。 彼は不死身なのかどうかはわからないが、本作では、最期という記述があったもののその死体は見つからなかったからこれからまだ復活の余地はある。 さてそれはともかく本作であるが、言うに事欠いて2を3にするトリックを取り入れてきましたな、正史は。 読み手は笑うほかない。 双子が三つ子になって、正史得意の同じ部屋2つが3つになって.‥。 そういう発想ができるうちが華なのだろう。 少年モノとは言えこれだけのまとまった少年モノの冒険活劇が描けるというのは凄いことだと思うよ。 で、金田一と等々力コンビだ。 金田一は個性が封印してある。 そういやあ前回の怪獣男爵は三津木俊介、由利麟太郎モノじゃなかったっけか。 間違っていたらごめんなさい。 ということでここに来て正史の作品は俄然少年モノが多くなってきたな。 ある意味少年モノを書くのは楽なのかもしれない。 なぜなら発想が自由だもの。 ミステリーリーダーのダメ出しがないもの。 本作の立体感は半端ないな。 まあそれにしても三つ子の存在理由があったにしても、3つの同じ屋敷の必要性がどこにあったのだろうかととても気になる。
2022.08.09
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怪獣男爵【電子書籍】[ 横溝 正史 ] さて正史先生またやってくれましたな。 同じような話、脳の移植で見た目を変えるという発想は、正史の時代から考えられていたということだろうが、しかしながら21世紀の現代でもそれは可能な技術とはなっていない点そして本作のような脳の移植話について他の作品ではありえない話として、最後にその実験は失敗に終わり、成功したように一人二役でなりきっていたという話だったことで、私は快哉を叫んだのだった。 ところが本作はなんと脳をゴリラに移植してしまったものだから、怪獣男爵、ゴリラ男爵などという怪物が世の中を跋扈することになったのだ。 それ以外の何者でもない話だった。 怪獣男爵はそっちこっちを暴れまくる。 だから読み手はとても怖い思いをするのだった。 正史は最後にきちんとでもないか、とにかく怪獣男爵を行方知れずにしたから、それは好感が持てる。 だがこのような怪物が次から次へとわるさをすることに関してときの読み手である少年達がはたして快感を得ていたのだろうか。 私は不快感以外の何も残らなかったのではないかなと思う。 それでも一作一作を正史が責任を持って書いていたということがよくわかるのであり私自身は怪獣男爵のような存在は認めたくないものの、正史ワールドにおいて存在するのは仕方がないのかなと思うのである。 それにしても正史は非常に多作だなと思う。 子供もの大人もの金田一耕助、由利麟太郎、三津木俊介、探偵小僧とヒーローは数多、警察を代表するのは等々力警部、そして必ずトリックを作ってくれるから、正史は大ミステリー作家なのだ。 トリックのないミステリーはありえないというのが私の持論である。 トリックは機会、方法、動機の三つが相まって成立するものであり、動機のみのトリックはありえない。 そこのところ清張によってうやむやにされてしまったのかなと私は思う。 しかし正史を精緻に読むことによってそして正史と清張の違いを理解することによってミステリーの何たるかがわかってきたような気もする今日この頃である。
2022.08.05
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幽霊鉄仮面【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 正史、清張、正史、清張と代わる代わるに読み込んでくると、その視点が全く違うので、自分の脳がクラクラしてしまうのだ。 それはともかく本作は、由利麟太郎モノ、三津木俊介記者、探偵小僧が出てくる子供向けの冒険活劇だ。 その話の内容は、江戸川乱歩の流れを汲むものといえよう。 ただし正史は乱歩と違い人を平気で殺してしまうのだ。 それから平気で探偵を犯人にしてしまう癖がある。 だから、本作を読み始めた瞬間、犯人は探偵だ! と読み手は読んでしまうのだ。 それが当たっていたかどうかは、読んでからのお楽しみということで…。 内容は普通に考えれば、リアリズムに欠け、その話全体を肯定できるものではない。 しかし夢見る少年が、冒険活劇として、本作のような話を自分の脳内に仕掛けてスパークするのは、脳そのものの活性化という意味でも否定はできないのではなかろうか。 どうなんだろうね、正史はおどろおどろしい場面を想像しつつそれを文章に翻訳化していったのだろうか。 美少女の背中に金のありかの地図を刺青するなんて、とてもじゃないが常人には考えられないことだ。 軽気球で飛ばされたものがたとえ主人公だとしても助かるわけがないじゃないか。 つまりリアリズムを大きく逸脱しているのだ。 そこがどうも夢物語であって、単なる子供の読み物になってしまうのが否めない。 そもそもミステリーを自認するのだから、名前のアナグラムであるとか、ダイイングメッセージを出してくるのは分かるし、先に言った通りミステリーでは反則であるところの探偵が犯人というやつで、 ナイフを至近距離の人間が投擲したにも関わらずそれが窓の外からボウガンのような装置を使って被害者に向けられたなどという話をしてしまうんだものなあ、それはミステリー作家の性とも言えるものだろうけれども、本作においてはいかがなものだったのだろうか。 はっきり言って今までの横溝正史の世界が全てごった煮になってしまいしかも乱歩の世界も彷彿させるような、いわばサイケデリックな作品だったというのがこの作品に対する私の感想である。 ますます乱歩、正史と清張の距離が遠ざかってしまった気がする。 いったい私は次に何を読むべきなのだろうか。
2022.08.01
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真珠塔・獣人魔島【電子書籍】[ 横溝 正史 ] とにかく正史は人を殺すのが好きで好きでたまらないようだ。 それが少年ものであってもだ。 劇中の親戚だろうがなんだろうがとにかく死ぬのだ。 いや本当に凄いものだ。 叔父姪の関係でも遠慮会釈ない。 今回も双子が出てきてその双子は性格が別で、変装の名人も出てきて、誰も見分けがつかなくて、秘密の造りの家も出てきて、危うくやられそうになって云々…。 それに比べると後の作品は面白い結末だ。 世の中には結末がわかってしまうと途端に面白くなくなる作品がある。 獣人魔島はまさにそういう思考の作品だ。 真珠塔にしろ獣人魔島にしろいずれにしろ少年ものだけに、多分今の時代にはそぐわない、 今の子供たちに読ませてはならないものなのかもしれない。 しかしその時代の少年たちはきっと胸をわくわくさせて読んでいたのだろうな。 探偵小僧たちの冒険の模様が読み手の脳にしっかりスパークする。 そういう特技を正史は持っている。 主人公たちと一緒に読み手の私たちが冒険をしているのだ。 こういう話ができるのは正史だけだ。 だから人殺しなどないようにしよう、そういう防犯的な取り扱いを考えよう、などということはナンセンス極まりない、ということになる。 ここは一つ正史の世界に埋没しようじゃないか。 正史は一つの文化だと言っても過言ではないのかもしれない。 単純に正史を楽しもうじゃないか。
2022.07.25
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女が見ていた【電子書籍】[ 横溝 正史 本作も金田一、由井先生はおろか三津木俊介、探偵小僧さらには等々力警部さえ出てこないのだけれども、なかなか読み応えのある名作だった。 推理小説に何を求めるかであるが、私は普通に考えている。 つまりそれはミステリーの要素である、動機、機会、方法がきちんと揃っていることだ。 すなわちそれはまた別名、トリック、という言葉でも表せることでもある。 当然、動機、機会、方法が=トリックではないけれども、私はそれらの全部の要素があるものをまとめてトリックと言ってもいいのではないかと考えている。 その点で正史は、きちんとしたミステリーを毎回書いていると感心している。 それが駄作と思われるものであっても、正史はきちんとトリックを意識しながら書いている作家だと思う。 その点清張ははっきり言ってトリックのない作家としか私は評価のしようがない。 さて本作であるが、女房殺しという殺人事件である。 亭主が飲み屋をほっつき歩いているうちにいつのまにか女房が殺されており、冤罪に入っていくという話なのだ。 そこに亭主を尾行してきたと思料される女3人とか新聞記者などが入り乱れてそして本作では小田切警部補という祭文語りが捜査を指揮していくわけなのだ。 Who done it?という視点から読むとひとりひとりへって言って結局消去法で犯人が残るわけだから、そんなに面白いものではないのだ。 それでは3人の女がなぜ尾行したのかという点は後半になってその理由が尾行者の動機として明らかになってくるのだ。 途中で殺される新聞記者が容疑者を探すために自ら指紋採取を試みたりするのだけれども、この作業をなぜ正史は書いたのだろうか。 そもそも指紋が一致するには12点が一致しなければならないのである。 それを素人か指紋採取した上に照合して同じだなどということを簡単にできるものではない。 多分渦状紋であるとか弓状紋であるとかそういう形だけで簡単に決まるものだと思っていたんだろうなあ、正史は。 それだったら最初から警察の鑑識を出動させて指紋採取すればよかったのだ。 そうすれば次の殺人は防ぐことができたのだ。 そうすると結局物語が面白くなくなるということなんだろうけれども、常々私が言ってる通り私が求めるのは、ミステリーにおいてはトリックでありそしてまた映画や小説において求めるものはリアルだから、本作における新聞記者の誤った独走は支持するわけにはいかないのだ。 さて本作でトリックと言えるところは一体何処なのだろうかと考えた場合、まるで清張の小説のように無いということになるのかななどと考えてしまう。 ただ人を大きなトランクで運ぶとかそういうのはやっぱり正史なんだなあと思う。 ま、難しい話はない。 動機もさっぱりしているし、機会、方法はその時々で失敗した殺人もあったし、つまり殺人未遂としての電車ホームにおける押し出し失敗事件とかそういうのがあって、なかなか動的な小説だったと思う。
2022.07.23
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まぼろしの怪人【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 辟易という言葉は便利だな。 正史の子供モノというのには辟易するのだ。 そもそも正史を読むにあたりなんの先入観念もいれていないから、読み始めるまで詳細不明なのだ。 ただKindle Unlimitedでは、金田一耕助だけは分かる仕組みになっているけれど、由井先生モノか探偵小僧ものなのかは判然としない。 本作は探偵小僧vs.まぼろしの怪人で、それがわかった瞬間私は冒頭のとおり辟易としたわけだ。 この構図は正史が明らかに乱歩の少年探偵団やポケット探偵をもとにしたものに違いない。 それはともかく本作を読み進めていくと実は、まぼろしの怪人の怪盗モノの他に、別の殺人譚が含まれていることに気づく。 実に巧妙な仕掛けだ。 その上精緻にして丁寧な話になっていて、正史が子供モノとは言え決して手を抜いていない、まさに正史が大正史であることの証明となる作品だったのだ! そう乱歩の二十面相が殺人はおろか決して人を傷つけなかったのと同様本作におけるまぼろしの怪人も殺人、傷害は犯さない、しかし本作において連続殺人が起こる、そのミステリーとしての質の高さですなあ、これは本当に読み手であってよかったとかえすがえすも思う、読み手としての醍醐味を感じることができる名作が本作なのだった。 最終シーンに関して、さすがの大怪盗が賽銭盗を犯し、現行犯逮捕されるのだが、ここは、あっと驚いてしまう。 正史のセンスの良さですなあ。 ということで辟易しつつ感動するのが本作なのであった。 こういう素晴らしい作品を書ける作家が今見いだせないのは私だけなのだろうか。 私にとって大を付けることができる作家は乱歩と正史だけだ。 清張もそうならないのだから今ならなおさらなのかもしれない。
2022.07.19
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呪いの塔【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 本作は傑作である。 金田一モノでも由井先生モノでもない。 しかも金田一モノでよく出てくる岡山の田舎の話でもない。 そういう意味で本作は金田一モノ、由井モノを抜け出した正史作品として一つの金字塔を打ち立てた作品と言えよう。 現場は迷路風の階段のあるバベルの塔と名付けられたタワーである。 ここで高名な推理小説作家が刺殺される。 その他映画監督や俳優も殺されてしまう。 関係者は10名くらい。 だからその中の誰が犯人か、つまりWHO DONE IT?なのである。 だから読み手はWHO DONE IT?の観点から読み進めて行くことになる。 果たして誰が犯人なのかトリックはどこにあるのか。 そして正史の特徴である身代わり、これが出てくるのか出てこないのかなどなど読み手としての興味は津々としてくるわけだ。 変わったヤサが公開される。 それは本作の探偵役である白井三郎の住まいである。 畳と窓ガラス以外古新聞が敷き詰められている。 著者に言わせれば、図書館なのだそうだが、そこに本件の謎を解く記事が仕組まれていたのだった。 白井三郎は推理作家である。 殺された大江黒潮も推理作家である。 そこに何らかの繋がりがある。 これは読み手としての他の読み手に対するサービス的なヒントである。 さらに示せば、それは二つあって、一つは黒潮の妻ともう一つは白井三郎の部屋の古い新聞記事に出てくる女、これ以上書けばネタばらしになるのでやめておこう。 この作品を正史はかなり吟味して書いたのだと思う。 どうしても人気作家ゆえ締め切りを迫られて、どうでもいい風な作品まで出していることは、この作家の読み手としてたくさんのものを読んでいることから分かるのである。 その苦しさの反面、本作のような傑作ができるのであるから、つまり、駄作もまた傑作の原料足り得るということだろう。
2022.07.18
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雪割草【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 残念ながら清張を読んだ後はその口直しをしなければならない状態が続いている。 私の場合、それが正史だ。 そもそも私は自称ミステリーリーダーであり、一生懸命ミステリーを読んでいるわけだ。 そしてまず乱歩から始め順当に正史に来たわけだ。 そして清張の順に読んでいるというのが表面上のミステリーリーダーとしての私の状況だ。 それがここ数作の私の清張に対する評論を読めばわかるとおり、清張非ミステリー作家論となっていて、実に不快な状態になっているのだ。 そこでその不快感から逃れるために口直しで正史をまた読む、という形になっている。 さて本作であるが、ミステリー作家の書いた非ミステリー作品である。 殺しもおどろおどろしい血も出てこない。 それなのに私なんざ、2回も涙を流してしまった。 本作は500ページ超えの大作であるとともに名作だ。 本当に読んで良かった。 正史はこれだけの文学を物にすることができる大作家なのだなあということを改めて感じた。 人物のシチュエーションが実に鋭い。 そもそも最初の入りが婚約破棄ですものなあ、これはかなりあれまっせ、と思うところ、荒れるよりもヒロインのそれからの危うい人生の幕開けだったということで、それが実に素晴らしい生き方をし、そしてまさに朝ドラ理論、読み手の思い通りになるという、最後は幸福感に包まれる、素晴らしい文学だったのだ。 本当に作品は読んでみないとわからない。 巨匠とか大作家とかいう評価は本作のような作品を書けるかどうかにかかるということだろうか。
2022.07.14
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塙侯爵一家【電子書籍】[ 横溝 正史 ] いやあ、本作は傑作でっせ。 金田一も由利先生も出てこない、それでいてしっかりした出来栄えのミステリーだ。 これまで大ミステリー作家だと思っていた松本清張にがっかりし始めた私は、また正史モノを見つけて、本作を選んだのだった。 本作は144ページ中37ページで、あいつは偽物だの投げ文がなされる。 とにかく世の中にそんなにそんなに似たものがいるわけないじゃないかとツッコミたくなるのが、正史モノだ。 双子だのそっくりさんだのとにかく正史は好きなのである。 好きなのだからそれでよろしい。 この正史の似た者ミステリー好きに関しては、読み手として私は辟易していたのであるけれども、こと本作に関してはこのそっくりさんモノが大きなミステリーのトリックでありポイントになるのだった。 一つの仮定としてと、私はメモをしていた。 それは入れ替わりしていなかったというのは? というもの。 最も入れ替わられるもの、それは塙侯爵家の跡継ぎのはずのものなのだがこれが阿片にやられているという表現が最初になされていたわけで、大きなバレーボールで言うところのブロックになっているのだった。 しかしそれはこれまた正史の得意技、後出しという見事な彼のテクニックが見え隠れしていたわけで私はメモの通りずっと疑って終始読み続けた。 さてミステリーであるから人が死ぬシーンが多いのだけれど、68ページにおいて老侯爵がピストルで殺されてしまうのだ。 ここから話は怒涛の進展を始める。 ミステリーというのはこういうものだ。 どうだ清張、こんなミステリーを書いてみろや!
2022.07.12
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青い外套を着た女【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 大正史も海外に行ったら公訴時効停止ということを知らなかったんだろうな。 犯罪者が最終盤に大見得を切るのだが、いかんせんその時に海外に脱出していた、などということを話すんだものな。 それは編集がチェックしなければならないことなんじゃないのか。 いくら大先生の書いた本でもリアルから大きくハズレたら、笑われるのは大先生じゃないか。 大先生と言われる人は日本の文化だ。 それを守るのは編集者じゃないのかな。 やはり代表作でないと落ちるのが正史かな。 そこが乱歩との違いなのかもしれない。 それはともかく本作であるが一種のユーモア小説だろうな。 最後のオチがね、笑わせる。 青い外套を着た女という映画か。 大見得はギャング団と多くの警察官が見守る中で行われたのだ。 何という恥知らずな。 と言いたくなる。 多くの作品を読んでいると時々本作のような間尺に合わない作品に出会ってしまうのだ。 それは仕方のないことだろうが、読み手を生業とする者にとっては許しがたい暴挙となる。 プロットは面白かったのにな。 ミステリーにしろサスペンスにしろ普通の小説にしろ法律のリアルから抜け出すわけにはいかないのだ。 まあそれでも読了しなければその事も言えないということになろう。
2022.07.09
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空蝉処女【電子書籍】[ 横溝 正史 ] ライトな話である。 正史モノでは珍しくミステリーではない。 本作ではヒロインが記憶喪失者だ。 記憶喪失の話はよく出てくる。 ミステリーよりライトな分サスペンスとでもいうのだろうか。 終盤ハッピーとは言えぬまでもなんとかなったからそれで良し。 いわゆる朝ドラ理論ですな。 まあ、正史と言えば今まで何百人も人を殺してきたから、姉の子を見失った妹がその責任の重さから記憶喪失の中、その子のことだけを思い出してしまうというシチュエーションにミステリーを挿入することは極めて困難なことだったということになろう。 その結果正史らしからぬ小品が出来上がったのだ。 もちろん本作のような作品ばかりでは正史も人から読まれることがなくなる。 ま、逆に言うと忙中閑、少しは毛色の違った作品もぽつんとあってよろしいということになろう。 それにしても正史の文章力は大したものだ。 短編なのに精緻に状況が描かれている。 それがきちんと脳内でスパークする。 本作なんざ、もう私の脳内に刻みこまれてしまった。 まあしかし、私が読んでいるのはプロの作品、どこぞの高校の文芸部の作品ではない。 その違いというのは文章を読むとつくづく感じてしまう。 だからプロの小説は面白いのだ。
2022.07.08
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憑かれた女【電子書籍】[ 横溝 正史 ] うむ、久しぶりのミステリーだ。 中編とでも言うのかな、120ページの作品である。 そもそも私が一番怪しいなと思ったのは、井手江南という探偵作家だ。 正史は時々こういう作家を犯人に仕立て上げたりするからだ。 つまりミステリーの読み手とすると私以外の読み手も多分彼を怪しいと思い始めることだろう。 正史得意の後出しは、井手江南が単なる探偵作家ではなくもう一個探偵作家に関連することではあるのだが、別の仕掛けを持っていたということである。 それはそれで、私自身後出しで明らかにされても、井手江南をマークしていたので何もびっくりすることではなかった。 本作のヒロインであるエマ子がなぜ幻想を抱くになったのかという点について考察してみると、これは当然正史の薬好きから来ているんじゃないかと私は考えた。 薬は薬でも結局、エマ子のアルコール依存症が一つの原因でもあったと思われる。 本作では正史は、幻覚剤などと言う薬を持ち出しはしなかった。 じゃあ誰がどのような殺人を行ったと言うのか。 Who done it?ということで本編は実は素晴らしいミステリーだったということを一言添えおく。 まあそれにしても多作家の出来不出来の悲哀を今回も感じたな。 書いて出稿した以上、待ったはかけられないだろうからな。 正史は一体どれくらい刑法、刑事訴訟法、少年法を知っていたんだろう。 外国に行っていたら時効は停止されるし、少年による殺人は微妙なものだし、留置されていたものと釈放の場面もどうもいい加減だしそれは西京的だし。 ミステリーリーダーを生業とする者にとっては見過ごすことができない点なのだけれど、大正史は物故者ゆえなんともならぬ。
2022.07.03
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血蝙蝠【電子書籍】[ 横溝 正史 ] さて本作は短編である。 それにしても正史はよくもまあこれだけ多くの人を殺せるものだなとほとほと感心する。 一方相変わらず障害者が登場する。 または双子あるいは両方が登場するのが正史流である。 だから話が混乱する。 しかしそんなことにめげていては正史を読み込めませんぞ。 そもそもそういう人たちを出すのは、おどろおどろしい世界を演出するとともにトリックの目くらましということもあるのだ。 ようするにトリックというものには少なくとも2種類あって、一つは機械的なもの、もう一つは常識的なことあるいは秘密の暴露すなわち犯人しか知り得ないことまたは犯人あるいは犯人の周囲にいるものしか知り得ないことなのだ。 本作は秘密の暴露がトリックになる。 ただしそれは後出しだからご注意を。 しかしそれについては、正史的には実にフェアに、その舞台については幽霊屋敷と記載するのと蝙蝠屋敷と記載するのを微妙に分けていた。この辺が実に正史らしいねえ、憎い。 まあしかしそれにしても推理小説あるいはミステリーまたは探偵小説とは言え、あまりにも無辜な人が殺され続けるのには納得がいかないな。 殺しに何らかの動機、否、読み手が唸るような憎い動機がなければそれはミステリーとは言えまい。 動機がしっかりしていなければ、文学として成り立たないのではなかろうか。 今更正史にそのことを求めるわけには行かないけれど、逆に正史を読み続けたことで、ミステリーの大事なファクトの一つである動機が、実は文学なのだと言うことに今頃気づいた私なのだった。
2022.07.02
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金田一耕助ファイル14 七つの仮面【電子書籍】[ 横溝 正史 ] さて本作であるが深窓の令嬢が娼婦に出るまでの話だ。 さらに金田一耕助が入り場を盛り上げる。 しかしだからといってひたすら読みはだめだ。 したがってミステリーリーダーとして全編魂を入れて矛盾点を指摘しながら読み上げなければならないのだ。 すなわち天から人が降ってくる場面があるが、それが誰の手によるものかを考えずに読み終えると、本作はミステリーリーダーにおいて単なる凡作になってしまう。 そもそもヒロインにつきまとう超近眼の醜女、彼女が本作では大きなポイントであり、本作における重要な場面に出てきて読み手を混乱させるのだが、これで誤った読み方をしてしまうと足をさらわれるぞ。 それにしても表題だが、天才的な彫塑家による7つの首像であり、その一つ一つの表情はいわば鬼の形相から天使の表情まであるというもので、本人がそれを見て感激してしまうという、このへんは正史的な話ですな、まあ、一体どんなトリックがあったかというと、前出の超近眼の女性の眼鏡が割れていた件、ヒロインが一階に降りてきたときに点から人が降ってきた件、ここは読み手として仔細に推理しなければなりませんぞ。 それはともかく金田一耕助は今回は何故か最後に犯人はあなただと指摘するのだけれど、いかんせん私立探偵、捜査権がありませんもんで、いやいやないからこその一事不再理の大原則違反ができた、ということになりましょうな。 それでまあ、本作も短編であるが、よくできていたと私は思う。 そこでまた正史を読みたくなる。 だからきちんと筋道立てて丁寧に精緻に描かなければならないということになろう、売れっ子作家は大変だけれど。 しかしそれにしても正史は子供に読ませるものでもないし、できれば正史には子供の読み物を出してほしくなかったな。
2022.07.01
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ペルシャ猫を抱く女【電子書籍】[ 横溝 正史 ] さて本作は短編であるが、細かいトリックながら本格ミステリーを彷彿させるものとなっている。 そもそもミステリー読みはどろどろした血の繋がりとか情になど興味がない。 見るのはトリックと機会と動機なのだ。 それにしても本作の数作前まで正史らしからぬ作品を読み続けてきたので、本作で久しぶりに私はホッとしたのだった。 それはともかく本作はちょっとした明治時代の小ネタを知らないと解けない作りになっている。 したがって本作を読み続けていると、おやおやまた障害のある僧侶か、などと思ってしまう。 さらに惨劇の中心が美人でしょう、さらにまたか、ですな。 すなわち乱歩色、正史色十分なのだ。 しかし本作はそこを一歩突っ込んで、障害のある僧侶の奸計を暴くのだ。 それで私はホッとしたのだった。 そこでまた正史を読み継ごうと思い直したのである。 しかしそれにしても世の中には数多のトリックが出現したわけで、その一つ一つをどうだらああだらなんてことはできないまでも、こりゃああーたこのトリックはどう考えても無理でしょうなんてものも大作家にもあり、そりゃあ私も突っ込むことになる。 反面本作のような事実に基づく真理暴きは快哉ですな。 こういうのが玄人受けというんでしょう、ネタバレになるから詳しくは書けないけれど。 まあ本作の真理を先に知ってしまうとつまらぬ一作になることはまちがいない。 それでも私はその真理を書きたくてしょうがない。 そこで今日はここまで。
2022.06.30
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迷宮の扉【電子書籍】[ 横溝 正史 ] しかしそれにしてもつくづく感じるのは多作家の悲哀だ。 そもそも本作のような駄作を果たして正史は頭の中に描ききっていたのだろうか。 私にはそれが信じられない。 さて本作では相変わらず双子が出てくる。 しかもシャム双生児だ。 それはともかくその双子の父親が生きるより死んだほうがましだなどと果たしていうのだろうか。 こうなると正史は紙上の殺人者に過ぎなくなる。 したがって被害者がひたすら増えていくことになる。 さらにシチュエーションがその度複雑になっていくのだ。 すなわち正史本人も話についていけなくなっているのではないか。 しかしこれまでは一つ一つ丁寧に仕上げていたのに、今回はかなり雑だったなとしか思えないほどはっきり申し上げて西村京太郎的だったなと、ミステリーリーダーとしては言わざるを得ない。 それでとてもがっかりしてしまった私は今後更に正史を読むべきかどうか迷っているのだ。 そこで一度休んでもう一度正史に戻る手もありそうだが、とにかくKindle Unlimitedで購入した分だけは読んでみることにしよう。 まあそれにしても当該作家の全作を読むということは光と影を読むことになるのだなとつくづく思った。
2022.06.29
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黄金の指紋【電子書籍】[ 横溝 正史 ] ミステリー読みを生業とする私にとって連続で正史のしかも金田一が子供モノでしかもトリックもなにもないと来ては、腐ってしまうな。 それはともかく本作は、明智得意の弾抜きもあり、もはや乱歩と何ら違わない。 しかしそれにしてもなぜ警部には、殿、をつけるのだろうか。 不思議でならない。 だって警部は下から、巡査、巡査部長、警部補の次の4番目でっせ。 その後警視、警視正、警視長、警視監、警視総監とつづくのだから、殿を付ける必要もないだろうに、相棒の杉下右京も殿ヅケでしょう、本当に不思議だ。 さて本作では警視総監が頭から顔からすっかり白い包帯で包まれる、なんてことになったら、これは普通でないわけで、そりゃあ金田一でなくともこの男は警視総監ではない、黄金の燭台をねらうやつということになりましょうなあ。 子供騙し! とにかく、作品には畸形が多い。 これで子供は怖がるとでも思っているのだろうか。 今はそれらは個性であって決して揶揄してはならないことになっているのだ。 このような作品を読んで心が傷んだ人がたくさんいたろうな。 大人の読み物ならともかく子供にいちいち畸形のもののことを出す必要性はないわけだ。 更に薬を使いすぎ。 眠り薬を嗅がせた後さらに注射を射つかね。 随所に怪獣男爵の間抜けぶりが現れるのだが、これほどの悪党がそんなに間抜けなものかねえ。 本作もまた多作家の弊害が出たねえ。
2022.06.28
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仮面城【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 私の新職名ミステリーリーダー(仮称)からすると到底本作はとてもじゃないがミステリーの体をなしていないとしか言えない。 これが正史モノなのでとても悔しい思いがするのだけれど、とてもじゃないが、話がめちゃくちゃすぎて、例えばなぜ金田一がピストルを持っているのか、これは明らかな銃刀法違反ではないのか、それを等々力警部がなぜみすごすのかなどなど横溝正史としてはあまりにも情けない話に終始しているのだ。 横溝正史はこれまでフェア精神をもとに後出しで微小の矮小化されたトリックを出し、少なくとも1作品につきミステリーと呼べるファクトを必ず入れていたものであるが、本作はどう読んでも江戸川乱歩と見まごうような内容である。 しかも最後に三太などという少年探偵まで現れて、これなんざまさに乱歩の真似でしょう、たぶん本作は子供向けに書かれたものなのだろうけれども、そうだとすれば人殺しのシーンなど子供に読ませていいのかなどともツッコミたくなる。 相変わらず正史は人の成り代わりを書きたがる人で、ちょっとかっこのいい宝石商が出てきた時にはこれは怪しいぞと思っていたけれども、確かに怪しいのだった。 それでも正史はここにちょっとしたフェアプレーを入れている。 それは金田一耕助がこの宝石商を見る時の目が違うという表現がなされているのでその点は非常に好ましい。 しかしながら読み手が正史モノで読みたいと思っているのは江戸川乱歩のような冒険譚ではなくじっくりとしたミステリーなのだ。 読み手が残念がるような作品をなぜ書いたのだろうか。 それは結局流行作家の性なんだろう。 書かざるを得なかった大作家の苦しみが私にはヒシヒシと感じられた1作品だった。
2022.06.27
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双仮面【電子書籍】[ 横溝 正史 ] ことここにいたりさらに双子に対してその情が深くなったのだろうか、双子と言えば正史とでも言ってもらいたいのだろうか、そろそろ双子以外のトリックも読みたいところ、今回はそもそも題名が双仮面、のっけからこりゃあ双子だろうとみろっとめろっと全部お見通し状態になるのだった。 それはともかく今回は成り代わりではなく、双子ABの性格が正反対という騙しが入り、最最終盤で正史的には大逆転を狙ったのだろうが、はっきり言ってそれは大ファール、食傷、大正史にしては大失敗作と言ってよろしいのではないのかな。 それでも正史がフェアだと思えるのは、由利先生の表情が変わるというところ、読み手はここを絶対に読み落としてはいけませんぜ、黒と白の裏表が目まぐるしく変わるところ、この大ヒントは後々まで効いてくる。 まあそれにしても私は今堂々と自分の職業がミステリー・リーダーと言っているわけで、それはつまり、ひたすらミステリーを読みブログにアップする、つまり今の私の有り様なのである。 などと言いながら実は一回読んでもその筋は覚えきれるものではない。 ブログにアップするということはつまり私的には一つの読書ノートの作成なので、後から読み返して何らかの記憶を呼び起こしたいところ、それじゃあネタバレも良いんじゃないかと思いつつ、それはフェアじゃないと自制する。 これまで乱歩、正史、清張と読み込んできたが、その結果売れっ子作家の苦しみというのがわかるようになってきた。 苦しみ抜いて書き落とすとでもいうのかなあ。 正史はおそらく本作を良しとは思わなかったろう。
2022.06.26
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悪魔の設計図【電子書籍】[ 横溝 正史 ] いよいよミステリー読みを公然と自分の生業とすると公言するか。 しかしそれにしても本作はまれにみるドタバタ劇だったな。 とにかく正史は人殺しがお好き。 第一の殺人に仕掛けがある。 つまり、Who done it?の観点からなのだが、現場は舞台、早変わりのため薄暗い前景には代役が入っており、それを本人と思って殺してしまう、つまり犯人は違う人を殺してしまうのだ。 故に単純な引き算で犯人がわかるという仕掛けなのである。 しかしそれにしても殺人の動機が本作のように憎々しい女の遺児をいたぶるためなどということがいかなるミステリーでも認められるものなのだろうか。 否、決して認められない。 その点今までフェアな作家だと思っていた正史が本作において、その座、その高名から引きずり降ろされるような、ミステリールール上重要なミスを犯したのだ! ミステリーの基本は言うまでもなく、動機、機会、方法である。 それが成文であるとすると不文で、探偵、召使いを犯人としてはいけないというものがある。 どこにも憎々しい女の遺児をいたぶるための殺人がいけないなどということは書かれてもいないし論議されたこともないだろうが、そのために無辜な、しかも犯人から見たら自分の子供を殺してもよろしいということにはならないのではなかろうか。 その意味で本作は大いなる問題作であると私は思う。 などなどいよいよ私はミステリー読みが生業だと自認することから公言するに至る道程を歩み始めたのである。 とにかくひたすら読むぞ!
2022.06.25
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幻の女【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 正史は売れっ子作家としてとにかく書きまくっていたんだろうな。 だから本作のようなかなり粗い作品ができあがってしまう。 私は本作のできは悪いと思う。 しかもストーリーが稚拙だ。 それはともかく本作でも人間交換が行われていた。 そもそも切り取られた片腕の腕輪の中が更にえぐり取られていて、本来そのえぐり取られたところにあるものは、ハート2つを貫く矢、というではないか。 この瞬間、死体は別人と確定するのだ、ミステリー上は。 それにしても本作はツッコミどころ満載。 従者は黒人の大男、実は日本人の有井というもので、墨を塗りつけているお粗末な話、ヒロインはファントムという女傑、それが表題幻の女の由来だ。 最終盤舞台は湘南の海が見える邸宅、ここで女と男の会話が広げられ、海の上のヨットには、交渉次第で赤旗か白旗が上げられ、赤なら爆発、白なら救出というサインなのだが、憐れ、ヨットは大爆発させられてしまう。 なかなか土曜ワイド劇場的ですな。 個人識別という点で現代はDNA鑑定の精度の向上、指紋という最大の個人識別の技術により、正史が得意とする人間交換はほぼ不可能と考えてよろしい。 それが本作のポイントなので本作が現代ではつまらない作品になったということなのだ。 いずれにしろ多作家にはつまらない作品もあるということ。 これは多作家ゆえの当然の帰結なので、ミステリー読みはそれもまた良きものとして接しなければならない。
2022.06.24
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花髑髏【電子書籍】[ 横溝 正史 ] こちらは由利先生シリーズ。 由利先生は金田一ほど有名ではないが、正史モノとしては結構な量がある。 さて本作は80ページほどの小品で昭和12年作というから85年ほど昔の作品ということになる。 現在乱歩にしろ正史にしろ清張にしろ彼ら大作家が書いた作品に書かれている今は語ってはならない差別用語も原作の雰囲気を失わないためにそのままという注意書きをつけ、出版されているのは当然と言えよう。 言論の自由と言いながら諸障害者のことを指す国語を文化として認めない有り様はもっと議論されるべきものではないのか。 それはともかく本作のプロットは簡単で、殺人予告の手紙、長持ちに入っていた短剣が刺された美女、アサオという戸籍のものの行方が主なポイントになる。 読んでいくうち大体の構図は見えてきて、アサオが何者かということを考える段になって全てのパズルはぴたっと、全部みろっとめろっとお見通し状態になるのだ。 これは実に気持ちのいいことだ。 しかしそれにしても本作が書かれた昭和初期というのは、精神的な病を持つ人をいとも簡単に差別していたんだなと、正史モノを読むたび思う。 だから出版社側も注意しなければならないということなのだろうけれど、そのことを小説にも書けないということになるとこの国の文化は急速にしぼんでしまうんじゃないのかなあ。 言論は文化を見据えてなされなければならない。 言葉を差別しては表現に支障が出る。 故に文学表現で遠慮してはならないし、そのことをそのことのみをもって批判してはならない。 そうしなければせっかくの脳内スパークする文学が姿を消してしまう。 私はそのことを憂える。 本作における差別的表現云々に関する出版社側の注意書きを読んでそんなことを思った。
2022.06.23
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蔵の中・鬼火【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 本作も正史モノとして有名な作品であり、先日紹介した鬼火よりもポピュラーなのかもしれないけれども、量も質もやっぱり鬼火の方が私は上かなと思う。 本作のプロットは有名なもので、覗き見とか女装など怪しげな世界におけるミステリーとなろう。 腕利きの編集者に持ち込まれた原稿はその編集者を覗き見していた内容だった。 原稿に書いてある通り編集者が被覗き見宅に行くと、当該作品の作者が待ち受けており、さらにその続きを編集者に読ませる。 それはまるで作者が指摘している通り合わせ鏡の無限のようなものだった。 ただし原稿の半分は真実であり半分はフィクションだったのだ。 ここまで正史モノを読んできて乱歩と正史は同流だと感じる。 まるで法然上人と親鸞聖人のような感じだ。 だがしかし、その世界観も違うだろうから、読み手としてはその微細な違いを味わいたい。 それが乱歩と正史の読み手の醍醐味と言えよう。 この二人がみまかってからそれを超えるだけの大作家が出ていないのはとても残念だ。 なんとか清張を読み込もうとしているのだけれども、清張の場合残念ながら本格的なミステリー書きというわけではないのだ。 清張はリアルに凝りすぎて、リアルに埋もれてしまい、時代が過ぎれば、大時代な作品になってしまっている。 その点乱歩と正史は時代が変わっても楽しめるミステリーなのだ。 本作に立ち返ろうか。 果たして蔵の中では一体どのような痴戯が行われていたのだろうか。 私は決して正史が書いたような世界だけではないと思う。 原稿を持ち寄った青年は4年の時を経て蔵の中に帰ったのだが、その間体格も変わり考えも変わってそれでも蔵の中に四年前の様々な痴戯の道具を出してみてはその過去を思い出すというその儚い行為に私は人の儚さを想い戦慄を覚える。
2022.06.22
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蔵の中・鬼火【電子書籍】[ 横溝 正史 ] まず鬼火。 これはすごい。 傑作だ。 正史モノのうち今まで読んだどれよりも優れていると私は思う。 憎み合う従兄弟二人にスポットライトを当てその間に女を入れて、さらには未曾有の大列車事故も取り入れそして舞台は諏訪湖だ。 憎み合いつつ二人は類稀なる絵心を持つ。 そこがポイントだ。 先に大列車事故と書いたが、それが顔をめちゃめちゃにし、マスクを付けなければならない羽目に陥る。 もう一つの舞台諏訪湖に底なしの箇所を設定して…。 これらを実に巧妙にかつ繊細な文章力で紡いでいくわけだ。 顔を潰し仮面ありとなればなりかわり、これはミステリーの常套手段なのだが、顔がなくなった彼にはもう一つの重大な障害があったのだ! ミステリーの読み手として本作には快哉!のスタンディングオベーションをするほかない。 このミステリーこそ映画化されるべきじゃないのか。 今までのどの正史モノよりも映像上も優れている。 まず諏訪湖畔のアトリエにある裸体と蛇の絵を見てみたい。 凍った諏訪湖の穴に落ちても我慢するシーン、大量の蛇を絡ませるシーン、どれも脳内が大爆発だ。 それを映像でも見てみたい。 本作を超えることが果たしてできるだろうか。
2022.06.21
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悪魔の家【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 悪魔は、ぼっとりんのように浮き上がった首、絵に描いたお閻魔様か、そうだ、朝鮮の道祖神にあるなんとか将軍(略)気味悪い声を出して笑ったというように弓枝という若い女と彼女から助けを求められて一緒に歩いていた記者三津木俊介、の冒険譚。 等々力警部が捜査陣の代表として出ている。 毎度のことながらヒーローにどうして捜査権を持たさないのか、つまりどうして警察官にしないのかという素朴な問題に私はさいなまれる。 しかしその訳は実に簡単なことに気づいた。 すなわち正史はリアルを求めた。 故に自分が知り得ない警察のことなど詳しくは書かないで、自分の創作した名探偵を活躍させることにした。 この辺も実にフェアですな、正史は。 そうなれば逮捕状も請求しないで逮捕状を出す警察官とか何日も留置施設に留め置いて然る後に送検する警察官などという者を出す必要がないものな。 目の前で被疑者に自殺されてもその責任は等々力警部を代表とする捜査機関にあるわけで、探偵は非難されない。 今回も探偵は緻密な捜査をしたが等々力警部は杜撰な捜査で真犯人から自殺されてしまった。 冒頭の悪魔はペン型の懐中電灯により映し出されたもので、その仕組や映し出された悪魔の姿は乱歩を彷彿させる。 時代とは言え毒が死因であるのが安易過ぎる。 安易過ぎるゆえ死なれても困る被疑者に対する監視は十分でなければなるまい。 そこまでミステリー作家に要求するのは贅沢か。 それでも私はリアルを好む。
2022.06.18
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金田一耕助ファイル10 幽霊男【電子書籍】[ 横溝 正史 ] まずはトランクに入れられた美女がホテルに運ばれホテルの浴室で死体となって発見された。 その湯は赤に染まっていた。 死体はその浴槽の中で最後の1滴まで失ったように全身白蝋のような色をしていたそうな。と、ここまではまるで乱歩。 怪人は、幽霊男である。 拉致された部屋の特徴は、毛皮が敷いてあること、外科手術に使うような電気がぶら下がっていること、夜光塗料を塗った鳩時計があること、さてはまた鏡付きの化粧ダンスがあることだということで、このことを読み手はしっかり覚えておけよと正史から指示を受ける。 ようするに歯が抜けていると思われる幽霊男と名乗る怪人が次から次へと殺人を繰り返し、その謎を金田一が追う話で、女がボイラー室の片隅で首を絞められて死んでいたりする。 死体の他に蝋人形の注文もこの殺人鬼はする。 その注文の内容は、手足の関節にゴムかバネを使い、自由に曲がるようにしてもらいたいなどというものだ。 本作の犯人はずばり複数。 ただしつながりが見えない部分もあるし、ミステリールール上犯人にしてはいけないだろう、などという人も繋がっていたりして、なかなか賑やかな作品だった。 賑やかな分正史も収拾がつかなくなったんじゃないかな。 のっけのトランク運び事件は最初は殺人のおそれがない事件だったのだが、真の幽霊男にそれをうまく利用されてしまったという感じなのだ。 まあいずれにしろ正史は一つひとつの作品を実に丁寧に書き下ろしているのだけれど、いかんせん出来不出来がはっきりしていてここ2作は読み手の琴線に触れないのだった。
2022.06.16
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金田一耕助ファイル11 首【電子書籍】[ 横溝 正史 ] ようするに本作は今を去ること300年以上前に起きたというから江戸時代の話となるか、生首が岩の上に乗っていて胴が別の場所で見つかった変死事件にかこつけて、最近になって、つまり、この話を正史が書く段になってまた同じ事件が発生したというミステリーだ。 まずは絶世の美女とほまれ高い熊の湯の娘に婿に来たものが、去年の秋首が獄門岩に乗っており、胴の方は首無しの淵に流れ寄ったという怪しげな死に方というよりも殺人被害者となって発見された。 前夜二人のものと猟に出て無惨な死に方をしたので、当然残りの二人が怪しいとなるが…。 熊の湯の娘道子はその後気が触れて首無しの淵に身を投げて死んだ。 次の被害者は映画監督の里村でやはり獄門岩の上に里村先生の生首が。 致命傷は心臓の一突きだった。 その謎解きを我らが金田一先生がするわけだな。 いつかも書いたが、何も金田一が名探偵である必要はないのである。 今回も等々力警部だったか磯川警部だったかがでているのだが、彼らに変わる警部殿でも金田一警部殿でもどうでもよろしい、きちんとした捜査権を与えてやれば良いのだ。 まあとにかく本件は第一の事件と第二の事件の犯人は違う。 第一のポイントは猟に出て野宿をしたのだが、なぜ犬を繋いでいたのかというところだった。 第二のポイントは岩の上方にあった観音様の姿が何故なくなっていたかということだった。 これらの材料は正史得意の後出しによりなされた。 まずは小難しくてこめんどくさいトリックではなくそこいらへんにある常識をさらっと出して事件の本質に迫るという金田一耕助の事件に好意を示したい。
2022.06.15
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金田一耕助ファイル13 三つ首塔【電子書籍】[ 横溝 正史 ] さて本作はちょっと毛色の違う金田一シリーズである。 相続権者である女性から書かれていること、テンポが早いこと、のんびりした風景がないことなど今までのシリーズとはちょっと違う印象だ。 ようするに相続権利者の逃避行に読み手がつきあわされる話だ。 ところで本シリーズを読み継いできて感じたことだが、なぜ金田一が私立探偵でなければならないのかということ、何も警察の一刑事で差し支えないじゃないか、その方が捜査権もあるわけだし、様々なことができるわけだし、だってあーた、彼は等々力警部と友達だということを良いことに捜査現場にしゃしゃり出るんでっせ、とても不自然だ。 本件における第一殺人はダンサー毒殺。 ついで第一相続権者と目される男が殺されるが、先のダンサーもまた相続権者だった。 相続はまず第一に被相続人が指定した男女が結婚した場合その夫婦になされ、それが不可能な場合は第二の条項として相続権者に均等配分されるというもの。 先に殺された男が第一条項の相続権者と目され話が複雑になっていくのだが、おれが本物の第一相続権者だと名乗り出るものがおリしかもこの男は最初から第一条項の女をモノにしていることからこと相続に関しては問題なしと認められるところ、次から次へと冒険活劇が起き、収拾がつかなくなるのである。 女性目線の文章は男性である正史の視線でもあるのでこの音禰という女性は明らかに正史好みということになりそれはまた男性読み手に受け入れられるものとなる。 だからそれは現代では受け入れられないことともなる…のかな。 なかなかテンポが早くてついていくのが大変だった。 それでも読了できてよかった。
2022.06.14
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金田一耕助ファイル9 女王蜂【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 41年ぶりに本作の映画を観たとライブドアブログ(夕顔絵夢二郎の江戸ハブ日記 20190930 女王蜂)にアップしているが、その記事にあるとおり人の記憶くらいあてにならぬものはなく、そして再観したのが3年前にも関わらずまた覚えていないことにも愕然とした。先のブログの記事に書いたとおり私の記憶では中井貴恵が絶世の美女に見えたのだが、先のブログで訂正しているとおりそれは萩尾みどりの間違いのようだった、と書いているにも関わらず、私はまだ本作を読んでいる最中にも絶世の美女は中井貴恵だと思いこんでいたのだ。 恐るべし人間の記憶。 そのクセして本作のディテールなど全く覚えておらず本作を読んではじめてああこうい話だったかなどと思った次第なのである。 ということでほぼ初見なのだった。 月琴島発祥なのだがこれがいつものように島にとどまった話だと思えばなんと東京に行ったりしてね、結構現場が動くのだった。 最終盤真相を2つに分けて金田一が説明する。 これは見事だ。 更にやんごとなき人も出てきたりして話が飛ぶ飛ぶ。 正史ワールド全開だ。 密室トリックを用いているので私は第一発見者が一番怪しいと踏んだし、被害者が生前話した蝙蝠は、きっとコウモリではなく鳥とも獣ともつかぬどっちつかずの人間と読んだが、当たらずとも遠からずだった。 まあ、全く皆目検討もつかぬミステリーでなくてよかったなと思っている。 というよりも私は本作は正史の金田一モノでは傑作の部類だと考える。
2022.06.13
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金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 本件は金田一も等々力警部も、あまりにも後味の悪い事件と評している事件だ。 どれほど不快なのかと思いながら読み進んだ。 まあようするにいわゆる公序良俗に反するような男女関係が軸になっている話だった。 それはともかく椿子爵は自殺なのか他殺なのかあるいは生きているのかを筆の力で曖昧模糊にするあたりは正史のずるさと言ったところで、私はまた双子でも出すのかなどと思った。 本件で第一の犠牲者が出たのは22%すぎだった。 殺されたのは玉虫元伯爵ですな。 椿元子爵は天銀堂事件と呼ばれる毒薬使用の宝石強盗殺人事件の有力容疑者だったが、アリバイが認められたもののそれが原因で自殺したものと言われていた。 この辺も筆マジックですな、アータ、ここに来て正史は筆マジックを使い始めたのでっせ、得意の後出しジャンケンでこの事件より前に嘆かわしい血の事実に気づいたということになっており、実は容疑者にされたことによる悩みよりももっと懊悩すべき血の恥があったということに気づいていたのだった。 それがつまり金田一にしろ等々力にしろ後味の悪さということにつながるということだけれど、考えてみれば自分でこの話を作っていて、登場人物たる金田一と等々力にそのことを語らせるかなあ、なんて単純な思いにも駆られた。 正史を読みこなすには何より人間関係をきちんと整理しなければならない。 特に血の繋がりにトリックを用いるのである程度の読みも必要になる。 そういう楽しみ方をしないと正史読みにはなれない。 逆に言うと正史の書いたことを真に受けるのではなく読み手自ら想像をたくましくすることも必要なのである。
2022.06.12
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毒の矢【電子書籍】[ 横溝 正史 ] まず結論から申せば本作は金田一モノでは傑作の部類に入る。 ポイントはトランプのカードが13枚だったか15枚だったかということ、殺害現場にあった赤いパテが何を意味するのか、新聞を切り抜いて作られた脅迫文の謎だろう。 ミステリーの読み手からすればツッコミどころも満載。 だから正史は面白い。 たとえば、新、と、欣、の字をまちがうかということ。 そのために先に書いた新聞の切り抜きを使わず、欣の字を手書きで草書体にして無理に新に見せかけるなどという小細工も弄することになる。 さらに307番地と205番地をまちがえるものか。 それだけ紛らわしい人が住んでいる場所なら郵便屋さんはそこに非常に神経を使って正確に配達してくれるはずだ。 さて本作ではP.46にして的場夫人が死亡する。 現場の状況から的場夫人は犯人を知っていたのではしゃいでいたものと考えられる。 ここは当たりでしたな。 その後先のポイントを明らかにしていって犯人に行き着く。 金田一は最後堂々の独壇場で犯人を指摘する。 そのお、岡山のど田舎など出さないまでも十分に本格ミステリーとして楽しめる一品なのだ。 どうぞご賞味あれ。 本作はゆっくり一日がかりで読もうかなどと悠長なことを考えていたのだけれど、あまりの面白さに引き込まれ一気に読了してしまったのだった。 いやあ、正史って素晴らしい!
2022.06.11
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殺人鬼【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 正史は作中 ふんだんに血を流しゴロゴロするほどの死骸を将棋の駒を動かすようにおもちゃにして見せた。 それが受けた。と書いている。 これが正史の当時の偽らざる流行作家としての考えだったと推察する。 それはともかく本作は短編で、戦争帰りの傷痍軍人が義足をつけてコツコツコツコツと歩きまわることから、怖がる人頻り、そうして知り合った人妻とミステリー作家の短い話だ。 一体正史は長い話の方がきちっとしたストーリーを生み出すことができるのだろうか。 それはともかくほんの80ページほどの話の中で、話が飛ぶ飛ぶ、その上あーた、金田一耕助先生までお出ましになるんですよ、サービス精神満点だ。 それにしても正史は、本作において冒頭のような考えを表しているとともに、日本国における500人に1人の死因が殺人だとする。 目のつけどころが正史だ。 正史はそんなことを考えながら創作していたんだね。 本当に恐ろしいことを考えながら書いていたのだねえ。 いずれにしろ本作は今までにないテンポの早い話で、コツコツコツコツ義足人間は加奈子という女の元夫、今の夫は賀川と言いその賀川には正妻がいると言う独特の血的シチュエーションがあり、それに八代竜太というミステリー作家が絡んで、金田一先生も出てきて、最後は八代と加奈子が九州に逐電するのであるが、はっきり言ってミステリーミの字もない。 ミステリーと言うには動機、機会、方法が必要である。 果たしてどこに動機があり機会があって方法があったのか。 まあそれでも横溝正史を研究する者にとってはこの作品は実はとても参考になる作品ではなかろうか。 少なくとも正史は先ほどから書いているとおり、死骸がゴロゴロとか日本における死因で殺人も結構な数になっているなどの根本的なスタンスを明らかにしているわけで、そのようなイデオロギーのもとに書かれているのが正史ミステリーたということであり、なぜに彼の作品にこうも死体が出てくるのかということが垣間見えたような気がした。
2022.06.10
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金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄【電子書籍】[ 横溝 正史 ] まずはじめにどくどくと多くの人物が出てきて把握しきれないという悪弊のある小説だった。 まずもって恩田は本作における誰かだろう。 それから冒頭金田一が会ったおりんさんに化けた女が犯人のはずだ。 放庵の死体がないのは放庵が死んでいないからと思っていたら、きちんと殺されていましたな。 本件動機が最後まで判然としないなか手毬唄に合わせてうら若き女性が殺される。 本件においては先述からでている恩田という人物がポイントになる。 活弁士と恩田は同一人物だろうことは文脈からとれる。 恩田と咲江が一緒にいるなどと多くの人に恩田の女性関係が豊富だったことが伺われる。 そして別所春江の腹に千恵子という種を仁礼咲江の腹に文子という種をまいていたなどという表現からもその絶倫性が半端ないことがわかった。 しかしそれにしても実に読みづらい。 それはあまりにも多くの人が出ているからである。 後の怒涛の解決編はわかりやすかったものの、ツッコミどころは満載だ。 結局動機は正史によれば雄猫の論理なのだった。 メスに相手にしてもらえないオスは生まれてきた子猫を殺すのだそうだ。 本件ではオスとメスが逆になる。 この話も映画化され映画館の他DVDでも何度か観た。 それでも覚えていないのは読みづらいつまり分かりづらいのと動機がちょっと考えられないこと、その動機の割に手毬唄に合わせて人を殺すなどという手が込みすぎていること、などの理由が考えられる。 さらには猫車で死体を墓場まで運びさらには新仏の棺に入れるなどという猟奇的な行動もありとてもじゃないが私の脳内がスパークしきれない生理的嫌悪感というものがあったからに違いない。
2022.06.08
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金田一耕助ファイル5 犬神家の一族【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 本作はあまりにも有名な作品だ。 映画化もされそのおどろおどろしい映像が記憶に残っている。 特に湖水から足がニョッキリ出ているシーンは印象深い。 しかしながらこの作品のトリックであるとかデティールどういうものだったろうかなどということはとうの昔に忘れてしまった。 しかしど田舎のおどろおどろした風景を、八つ墓村の犬神家、などという表現を一般の人でもするのである。 それほど有名な作品だということだ。 さて改めて読んでみると、ミステリー作品的にどうも無理が多いな、と感じること多々。そもそも世紀が変わって科学捜査の時代になり個人の特定が血液型だけということもなくなった。 乱歩正史のラインで顔潰しは常套手段だから、顔が潰されたモノが出てくればそれは十中八九本人ではないという法則が導き出される。 だがなぜか絶対的個人識別手段である指紋が一致する。 私はそのトリックがあまりにもお粗末だったなあと今にして思う。 斧、琴、菊か。 象徴的な言葉にかけた殺人は正史が編み出した手法だ。 しかしそれは修飾でしかない。 本件犯人の犯人性に無理はないか。 先述の指紋一致の無理とあわせて残念ながら私は本作を好きになれないのだ。 Kindle Unlimitedが小出しではあるがまた金田一モノを流してくれるのでこれからも少しずつ正史を読んでいきたい。
2022.06.05
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金田一耕助ファイル6 人面瘡【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 本作は中編である。 金田一耕助と磯川警部が旅館で休んでいるところから話は始まる。 女性の自殺未遂だ。 どうも松代という女性の腋の下に由紀子と言う女の顔がつまり人面瘡が現れるようだ。 その由紀子を殺したという呵責から松代はカルチモンを飲んで自殺を図ったのだった。 その騒ぎの最中女が水に浮かぶ。 貞二が犯人は火傷の男だと叫ぶ。 これが序盤だ。 そしてこの種の話によくある夢遊病。 松代は夢遊病で由紀子を殺したものと思いこむ。 ここで私の推理。 犯人はやはり松代。 殺害後自殺未遂を図ったとみるのが順当だろう。 わっはっはっは大外れ。 正史は被害者が眼病であることを早くから提示していた。 大団円の部分で耳盥を提示した。 しかるに被害者の死因は溺死である。 人面瘡の話については正史の別の作品で読んだ記憶がある。 松代はその後金田一から紹介された T 先生の所で人面瘡の切開手術を受け貞二と結婚して幸せに過ごしたようだ。 本作は中編であるが正史の世界をあまりなく出した佳作である。 正史ファン金田一ファンには抜くことのできない物になろう。 しかしそれにしても Kindle Unlimited が金田一耕助ファイルを小出しにしてくれるのはちょっと嬉しいことだ。
2022.05.30
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金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇【電子書籍】[ 横溝 正史 ] 今までにない読み辛い話だった。 正史の金田一モノがこれほど難解なのは初めてだ。 まず人間関係がかなり複雑だ。 しかも取っ掛かりの事件が昭和5年と来ているからますます複雑になっているのだ。 果たして片腕の男などいたのか。 この辺は今までの経験上事件当時亡くなったはずだが本作における現時点で生きていると思わせるために 誰かがなりきっていいるのはミステリー読みにはみろっとめろっとお見通しだ。 物語には近視女性もでてくる。 更にはボケ老人も出てくる。 そういう人が言っているのだから片腕の男が偽物っぽいという読み手の推理は正しかろう。 が、この片腕の男がポイントであることは間違いのないことである。 容疑者と目される者一人ひとりを呼んで金田一も話を聞くあたりはミステリーとして実にフェアだ。 それでもなかなか決め手が見つからない。 その上本作は470ページに及ぶ長編なのだ。 そもそも片腕を切られたらとたんに大出血するわけだから生きていられるわけなどないのだ。 結局手品や奇術のように読み手の錯誤を利用しようとしたんだろうな。 誰かが片腕の男に扮していることは間違いないと私は推理した。 殺しの方法として滑車てこの原理を出している。 それだったら女子供も犯人足りうる。 結局先の話に戻るが、ひとりひとりから聞いても決め手が見つからなかったのだから本作では誰が犯人でも良かったということになる。
2022.05.28
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