わけのわからぬ本を読んだ後だったので本作は実に刺激的で私の脳内を話が駆け巡っていった。
本作は密室モノである。
そもそもミステリーにおいては登場人物全員がそれこそ金田一耕助もそれから所轄の刑事も誰もが犯人候補である。
だから本作の犯人が誰かわかっても別に驚きはしない。
ただ直前に読了した金田一耕助の冒険や本作は明らかに従前の正史モノとは違う感じになっている。
それは時代がそうしたのだろう。
正史は明らかに本格推理小説に挑戦したのだ。
さて本作における密室のトリックはどうであったろうか。
トリックの仕掛人の最終盤における告白,のようなもの,は少しリアルに欠ける。
そこをして全部金田一先生にはお見通し状態だったなどと言わせているけれど,これくらいの細工が見破れずしてミステリーリーダーも実の鑑識も務まりはしない。
この点について本作はいささか後出しじゃんけんが過ぎた。
ただこれだけは言える。
すなわち第一発見者こそ第一の容疑者なんだということ。
ミステリールールでは従者は犯人にしてはならないことになっているが正史はそこを巧妙に仕掛けてもいた。
多作家症候群に罹患していたころと比べるといよ大正史,復活したな,しかも新しい筆致で,と声掛けしたいところだ。 (7/28記)