マジック・ザ・メイカー9話
―翌日
冥珂の家に朝から晴凛が押しかけていた。水晶越しに見た映像の感想、疑問を冥珂にぶつけていた。
「晴凛ちゃん徹夜オールでテンションおかしなってんちゃう?」
「あんなの見て寝れませんよ!ええ、寝れませんとも!!誰かに話さずにいられないですよ!超常現象の山盛りてんこ盛りなんですから!!」
晴凛の目の下にはクマ、髪はボサボサでまとまっておらず、服装はジャージ姿であった。
「見せてしもたアタシも悪いなぁ……でも晴凛ちゃんにはこういう経験もして欲しかったんよ」
冥珂は煙草をくゆらせながら木製の背もたれに身を預けて言った。
「ど、どういうことです?」
「危険なことはして欲しくはないんやけど……なんていうたらいいかな。アタシは魔女やし普通の人とはお付き合いできひんねん。でもな、この星は人間社会といってもいいやん?せやから普通の人でアタシと合う人が欲しいねん」
冥珂は窓側を向いて言った。
「……それって冥珂さん普通のお友達が欲しいって事です?」
「…………そうなるかな。あはは……」
冥珂はぎこちない作り笑いをしながら言った。
「もう私たち友達っしょ?それに冥珂さん友達多そうなのに不思議」
「ありがとう晴凛ちゃん。でもな純粋な友人て3人もおらんよ。裏も無く対等に付き合えて楽しい関係なんて魔女には難しいんよ。魔女同士の友人なんて上っ面だけの薄っぺらいもんなんや。長く生きてるとちょっと話すと相手が何を考えてるか分かってしまうんよだから余計にね」
「魔女って大変なんですね……私は何も考えてないしなぁ」
「晴凛ちゃんは魔女に向いてるよ。でも軽い気持ちでなったら大変よ、魔法少女くらいで止めといた方がええかもしれんし」
「魔法少女……前もそんな事いってたような?」
「藤邑が手下に魔法使えようにしとったやん?あれと一緒、魔女が力を与えることで限定的に魔法使いになれる。晴凛ちゃんは未成年やし魔法少女になれるんや」
「ええ~無理無理!無理ですって!!フクロウ頭やら怖い魔女相手にできませんよ~……あ、でもほうきで空飛んだり魔法でちゃちゃっと家事片づけたりはしたいかなー」
振り向いた冥珂は晴凛を見て微笑んだ。
「あ~笑いましたね!」
「ちゃうねん、つくづく晴凛ちゃんは魔女に向いてるなと思ってね。アタシの昔を思い出したんよ」
「え~!冥珂さんの昔!?聞きたいです!!」
「それはまた今度な?晴凛ちゃん、アタシからは強制はせえへんけど、もし魔法少女になりたかったら教えてな。もしも……やけど、もしもの話やで?」
『冥珂お前……まどろっこしいやり方するんだな』
スフィンクスは晴凛に聞こえないようにテレパシーでつぶやく。
『ええやん、この子の素質は抜群にも程がある……スフィンクス、あんたも気付いてるやろ?この前の同調で。だからこそ慎重に行きたいねん』
『……まぁな。数億人に一人の逸材だ』
『可愛そうな気もするけどこの子しかおらんとビビッと来たんよ。アタシに何かあったらこの子と契約したってな。あんたの創造主によろしく』
『世界最高峰の魔法使いが何を弱気になってんだ?それともなんだ?例の夢の事を気にしてるのか?』
『虹色のほうき星のな……』
『あの夢の続きは見れたのか?』
『ちょっとだけな……あれの落下地点はこの街じゃあないみたいやな……でもかなり近づいとる。21の宇宙のカードを使って一か月先くらい見てみたんよ。そしたらビンゴ!ここから東の方でほうき星が落ちてくのを発見!せやしこの街にいられるんも長くて1週間かな』
『お前1か月分も見たのか?体良く持ったな……そうかここから東の街か……1か月後となるとあんまり余裕ないな』
『やろ?だから藤邑の後始末は晴凛ちゃんにやって欲しいねん。スフィンクスがついてくれたらよっぽどじゃない限り大丈夫と思ってんねん』
『魔女が使い魔を貸すなんてよ……マジでお前どうしたんだ?夢で死ぬところでも見たか?』
『20の永劫のカード……晴凛ちゃんにさっき引かせたらこれが出た。この子にアタシは可能性を見たんよ。アタシが成し遂げられてないこともこの子ならやってくれるかもしれへん』
『そういう事なら……しゃあねえな付き合ってやるよ』
「どうしたんです冥珂さんぼーっとして?」
晴凛は冥珂の前で手を振って見せる。
「ちょっと考え事してただけよ。なぁ晴凛ちゃん、アタシあと1週間ほどでこの街出ていくんやけど……その後も少し変な事件とかなんかおかしなの現れるかもしれんねん。藤邑の影響でな」
「ええー!そうなんですか……えぇ~」
「ホンマは全部片づけてから行きたいねんけどあんまり時間に余裕ないねん。多分やけど藤邑の後始末に魔術師やら来ると思うねんな。関わらずに知らんふりするんやで、スフィンクス置いてくし守ってくれるわ」
「……冥珂さん携帯持ってましたっけ?」
「無い……ね。必要な時だけ買ってすぐ手放すし、なんで?」
「……だって目の前でヤバいのがなんかしてて見て見ぬふりなんてできませんもん!怖いけど……」
「そっか……じゃあスフィンクスの他にも晴凛ちゃんに渡しておこうかな」
冥珂はテーブルの欲にある金属で枠をかたどった木箱の鍵を開ける。昔からよく知られている所謂宝箱から20センチほどの装飾が施されたステッキを取り出した。
「これと……後は……」
冥珂は 4 枚のカードを取り出しステッキに吸い込ませていく。
「スフィンクスとこれで大丈夫やと思う」
「何がですか?」
「このステッキを晴凛ちゃんに預けとく。いざとなったら使うんやで、スフィンクスの忠告は守ってや」
「えっと……?」
「このステッキを使えばアタシと繋がることができる。アタシの体の一部から作ったもんやしね。そのステッキを携帯代わりに使えばいいし、4枚のカードを使えるようにしといた。晴凛ちゃんでも使いやすいやつをね」
「つまり……?」
「ヤバいことになったら魔法少女としてなんとか切り抜けてねって事よ」
「えええええっ!?」
晴凛の動揺を見てスフィンクスは苦笑いをする。
「ま、とんでもねぇヤバい奴は冥珂と俺様が片づけてから行ってやるよ。お前は後始末程度でいい、厄介なのは首突っ込む必要もねぇよ、できる範囲でやってこうぜ」
「藤邑の件、まだ解決したとは思ってない連中がこの街に来るやろうしそういう連中から身を守る意味でもね」
冥珂は心当たりのあるいくつかの組織を思い浮かべてため息をついた。
「そうだなぁ……」
スフィンクスもため息をついた。
「それはどういう……」
「くわしい事は俺様が追々説明してやるよ。一度に言っても理解しきれるもんじゃねぇ」
「ええ~……超不安なんだけど」
晴凛は青ざめた顔で首を振った。
「せやんなあ……分かる。アタシも最初魔女になった時そんな感じやった。なんだかよく分からんうちに魔女になってたし」
冥珂は自分が 10 歳の時初めてほうきで飛んだ時の事を思い出していた。
「え!?そうなんですか?」
「今みたいにパソコンも無いし乗り物だって大したものがなかったしほうきで飛べるって事はめちゃくちゃ便利やったんよ。イギリスの片田舎ではね」
「え?パソコンが無いってそれいつの……」
「まぁまぁええやん、ずっとずっと昔って事で。アタシは本が好きな子供でひたすら村の書物を読みふけってたんよ。で、普通の本を読むのも飽きたからある日、図書館の書庫に侵入して見たことのない字で書いてある本をこっそり借りてきたんよ」
「うんうん」
「読めへんからまた書庫に侵入して解読に必要な本を探してたんよそしたら声がして……その声にしたがって古ぼけた本を手に取った。それには色んな図、模様、設計図が書かれててね。アタシは読めへん本の事は忘れてそっちの本に夢中になったんよ。で、図とか模写しまくった。そんな事を何か月か繰り返して遊んでたら銀色の毛むくじゃらの生き物がアタシの庭に来るようになった」
「それって?」
「スフィンクスやね。その当時は今のように猫型じゃなかったし名前もついてなかった。会話もできひんかったしね。最初は怖かったけど少し離れたところから見てるだけやったし、何かをする様子も無かったから気にせんかったんよ。そのうちスフィンクスはアタシについてくるようになり、アタシもなついたと勝手に思ってペット感覚で接するようになったの。親がいない時に始めてスフィンクスを部屋に入れた時、いきなり本棚に飛びついたからびっくりしたんよね。なんでそんなことしたのかと思ってスフィンクスを見たら、あの読めへんかった本を咥えてた」
冥珂は短くなった煙草を消して新しいケースから一本取り出し火をつけた。
「器用に前足でページをめくっていってね、何ページかめくった後そこをトントンと叩くんよ。驚きながらもアタシはそのページに手を置いてみた。そしたら目の前が真っ暗になって何にもない空間にアタシとスフィンクスだけ。上から生暖かい風が当たるなと思って見上げたらとんでもなくでっかいラクダみたいな生き物に乗ってる王冠かぶった黒ずくめの男か女か分からん者がおってね、雷のような爆発音のような声で何か言うんよ。アタシはあまりの恐ろしさにただただ震えるだけでしゃがみこんで『何でもするから助けてください』って言ってしまったんよ」
「それで……!?」
「気が付いたらベッドで寝てた。両親が心配そうに顔を覗き込んでた、アタシは何かすっきりした気分であの恐ろしい存在の事がトラウマにもならず普通に受け入れてたんよ。あの時からまるでアタシは何か別の存在になってしまった感あった。んで、普通に起きてご飯食べて例の本を開いた。そしたら今まで読めなかった文字がすらすらと読めるようになってた。もう一つの本の図や設計図の意味もね。それでアタシは気になってた空飛ぶほうきを作ってみる事にした、子供やったしめちゃくちゃ浮かれてたんやろね。ああそうそう、スフィンクスの言葉も理解できるようになってたね。アタシは勝手にリリって名前付けたっけ」
冥珂はスフィンクスを見やると呆れたように目をそらした。
「あの存在に気に入られたアタシは契約してしまったみたいでね、スフィンクスを使い魔としてくれたんよ。あの当時のアタシは本に書いてあることを次々試すことに夢中でスフィンクスの小難しい話は全然聞かへんかった。スフィンクスもめんどくさがって子供のアタシに根気よく押しようとはせえへんかった。アタシは調子に乗ってお使いにほうきで飛んだり簡単な魔法を使ったりして遊んでた」
「ほうほう……」
「そんなことしてたら小さな村ではすぐに知れ渡ってほうき乗りの小さな運び屋としてちょっとした有名人になった。でもアタシは本の事は誰にも話さなかった。スフィンクスもそれは絶対にするなと。あの時の世間では魔法使いは珍しくなかったけどそれは占いとかまじないをする程度やった。だからアタシみたいにほうきで空飛ぶとかできてしまったら天才魔術師とかもてはやされてしまったんよ。んでまぁそうこうしてると良くない連中も来るわけでね……」
「良くない連中……ですか」
ごくりと唾を飲み込む晴凛。
「裏社会の人間とか、本物の魔法使いが様子見に来るようになった。最初は浮かれてたアタシやったけど常時監視されてることに気が付いてだんだん気味が悪くなってね。両親もすっかり疲れてしまったんよ。それで家族みんなで密かに村を出てして魔法ももう使わないようにしようと決めて計画を立てて翌日に出ようとしたんやけど……その日の夜にアタシの家は火をつけられた。スフィンクスのおかげで何とかアタシは助かったけど両親はあかんかった。逃げのびたアタシは行く当ても無くふらふらと森の中に隠れるように入っていった。そこで出会った魔女にアタシは引き取られ色んなことを知っていったんよ」
「それでそれで!?」
「知るにつれて不安は大きくなっていって魔法使いなんてやめたいって思うようになったんよね。数年間はほとんど森から出ないで魔女の指導の下、学問と魔法と戦闘訓練ばっかりしてた。そのあと晴凛ちゃんくらいの年になって森の魔女の紹介で施設に入ることになった。そこは魔術師ばっかりのところで今で言う大学みたいな……まぁ……この辺にしとこ?続きは追々ね」
「ええぇ~続きが気になりますよ~!!」
「だ~め、ここまで」
「施設……あの頃の冥珂は退屈しなかったぜ……ケケケ」
「スフィンクス!あかんで!」
「チッ……」
「あはは……そのうち聞かせてくださいね」
晴凛は勝手に黒髪おさげの黒いローブを来た冥珂を想像してた。
「そのうちね。まぁ長々と関係ない話してしまったけどアタシが街を出て行った後の事、不安やろうけど晴凛ちゃんなんとかうまい事やってね」
「はぁ……できる範囲でやってみます。ところで冥珂さんのような魔女はもう来ないんですかね……?あの変わった銃を持った人とかは?」
「魔女なんてそうそう会えるもんやないからね。この国では特にね。藤邑級の奴はまず来ないと思ってええよ。銃を持った……リアダンはアタシがきっちり退治していくし心配せんでええよ」
「宇宙人さんたちを狙ってまた来るんですよねあのリアダンって魔女……」
「今日の夜にでも来るんちゃうかな。宇宙人らが回収したあの物質は絶対に流出させたらあかんねん」
「あの物質はなんなんですか?」
晴凛の質問に冥珂は少し考え……
「存在してはあかんものとだけいっとくわ。全てのものにとっての悪やね。アタシの契約してる存在にとっても敵や」
「そんな怖い奴なんですか」
「この世の何もかもに影響を及ぼすことができる存在なんよ。本体はもうどこにもないし、それと繋がる鍵はもう消えたし、その鍵を手に入れる方法を記した本ももう無いよ」
冥珂は煙草をくゆらせた。スフィンクスは大きくため息をつく。
「……色々あって解決したはずだったんだよ。だからあの虹色のを見つけたときは驚いたぜ……」
「はぁ……ヤバいものがあるんですね……」
「昔ね……阿呆がこじらせてそのヤバいのと関わる鍵を手に入れよったんよ。その問題は解決したんやけど他にもやらかしよったからその後始末にアタシは世界中回ってるわけ」
「阿呆……ですか?」
晴凛は首をかしげる。
「そ、 【宇宙観念の物質的確立】をアタシから学んでトート・タロットを作った奴 」
続く
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