マジック・ザ・メイカ― 10 話
「そいつの名前はペルデュラボ。アイツの作ったのは アタシのカードの模造品やね。今世の中に出回ってるのはそれをただ印刷しただけなんやけど。アイツが自分でつくったのはそれなりのもんやったで。それもほとんどは回収したけど」
「ぺるでゅ……?」
晴凛は首をかしげた。
「知らんかったらええよ、別にあんなのの名前覚える必要はない。晴凛ちゃんは変にオタク知識もついて無いしそのままでいてね」
『そうなんだよな、オカルトマニアで一般に売ってる本とか映画とかアニメとかで頭でっかちになってる奴はダメだね。そういう知識はこっちの世界では邪魔になるんだ』
スフィンクスは頷いて言った。
「ええええ~っ!そうなんですか?これからネットとかでガッツリ魔法の知識蓄えようとか思ってたんですけど……」
「そ、そうなんや……じゃあアタシの持ってる本貸してあげるわ。分からんところはスフィンクスに聞いてね」
冥珂はハードカバーの古めかしい本を取り出して置いた。晴凛はさっそくページをめくる。すると……中身はコマで割っておりセリフがついていた。漫画だった。
「え!?漫画なんですけど!!?」
「漫画なん?晴凛ちゃんにとって読みやすくて頭に入るのは漫画って事やね。その本魔法で作ったもんやし、晴凛ちゃんの他の人が見てもただのルーン文字並んでる本しか見えへんのよ」
「え?え!?どういう事です??」
「本が晴凛ちゃんの脳に直接働きかけてるねん。アタシが子供の時に森の魔女から貰った本を再現したものや」
「おぉ~……ありがとうございます!」
「それ読んで魔女の事少しは知っといて。さてと……一息ついたら買い物済ませて宇宙人らに物資渡してリアダンのアホを迎えんとな晴凛ちゃんには……」
冥珂は 8 番調整のカードを取り出した。
「アマト出ておいで!」
「ふあ~い……」
カードから煙が吹きだし現れたのは、側頭部にダチョウの羽飾りを装飾した仮面を着けた薄緑ドレスの女性であった。
「晴凛ちゃんのこと頼むで」
「ええ~……まぁやるっすけど」
アマトは蛇の紋章が入った剣を頭上にかざして言った後、オウムの姿に変わり晴凛の肩にとまった。
「冥珂さんこの子は?」
「こんなんやけどやることはきっちりやるで。晴凛ちゃんを守ってくれる、スフィンクスとはまた違うタイプやけどね……それにいざとなったら魔法少女に変身してくれたら」
「そ、それはまだ早いというか心の準備が……」
「気軽にポンと一回なっとき。あ、そうそうステッキは絶対に忘れんと持っとくんやでアマトにも気を付けるように言っとくけど。お風呂入る時も一応手の届くところにね」
「は、はぁ」
冥珂は宇宙人たちの買い物リストを眺めたあとコンパクトで姿を変える。眼鏡とスーツ姿のビジネスウーマンに。
「これで一般人に認識はされるやろうけど記憶には残らへんはずや。買い物するのに問題は無し」
「いつものライダースジャケット姿とそんなに印象変わりませんね」
晴凛は素直に感想を述べた。ライダースジャケットからビジネススーツに姿を変えた冥珂を見ても晴凛には『魔女の冥珂』にしか見えない。
「晴凛ちゃんにはね~。一応暗示の魔術で他の一般の者にはだれでもないスーツのおばちゃんに見えるで」
「いや、冥珂さんきれいですしおばちゃんって感じじゃないですよ。おねえさんです」
「ありがとうれしいなぁ!こんな年になってもうれしんもんなんやね。魔女の飴全部持ってき!」
冥珂は飴の瓶を晴凛に持たせる。
「わぁこんなに……!?」
「じゃあそろそろ出るわ。じゃあ晴凛ちゃんまた明日ね」
「あ、はい!また明日~」
―交方市街の空き家
「クソックソックソガアアア!!あのババア!!レヴィイイイイイイ!!」
ダイニングテーブルを蹴り飛ばし食器棚をひっくり返し声を荒らげるのはリアダン。
台所に置いた小型モバイル PC の画面にはシルクハットの中性的な人物が映っている。
「おやおや……わたくしの作品を使っておいてしくじるとは」
静かな声を発する人物。その声は二人の人物が同時に発したかのように重なって聞こえる。
「黙れマーリン!私はしくじってなどいない!予定が狂っただけだ!!」
「だといいのですが。あなたにお渡しした作品は例の物と交換で取引完了となりますので。果たせない場合は返してもらいます」
「分かってる!大体そんなに欲しければお前が自分で取りにくればいいだろう!!」
「ええ、ええ。おっしゃる通りですとも、ですから手に入ったのならそちらにお伺いします。何しろわたくしは忙しい身ですから、エイリアンとかレヴィとドンパチやってる場合では無いのですよ。ようやくこちらは片付いてきた所です、邪魔が多くてね。あれもこれも一々全部自分で処理はできないのです」
マーリンと呼ばれた人物はそう言うと指を左から右にスライドさせてウィンドウを開いた。そこには細かい文字とルーン、魔法陣が記されている。
「でもまぁあのレヴィが相手ならお渡しした作品の追加開放を致しましょう。本来なら貴女に追加料金を支払ってもらってからやるつもりでしたが」
「ふん、すぐに仕事で稼いで返してやるよ!追加開放、さっさとやれ!!」
画面の OK ボタンを押して契約書にサインをするリアダン。それを見たマーリンは取引成立と言い手を前に突き出す。モバイル画面から飛び出した手はリアダンの腰に下げた赤黒いリボルバーをつかんだ。
「さて……追加開放の影響に関してはわたくしは責任持ちませんがよろしいですね?」
「なんでもいい!負けたくないんだよ!!」
「おやおや……すっかり性格も変わってしまって。もうすでにかなり影響を受けていますねぇ?あなたにこの作品は向いてなかったのでは?追加開放すれば作品に飲まれてしまうかも?」
「いいんだよ!!私がこれを選んだのは、この銃の……この作品由来の男が好きだからだ!影響を受けて飲み込まれる?全然問題ないね!!」
リアダンの髪が三層に染まっていく。生え際は黒髪、中ほどは赤黒く、先は金髪に。画面から伸びたマーリンの手によってリボルバーの銃身は長くなり、赤黒い茨を巻き付けたかのような表面に変わった。
「その姿、伝えられしかの猛犬の英雄そのもの」
マーリンは手を戻し笑みを浮かべながら言った。
「ぐああああああああああああああああああっ」
頭を押さえるリアダン。白目を剥いて崩れ落ちる。
「があああああああああああああああああっ……」
体を震わせうずくまるリアダン。数十秒間痙攣してやがてゆっくりと立ち上がった。
「…………おい!!この『オレ』の剣はあるのか?」
マーリンに向かって叫ぶリアダンの表情は別人と化していた。
「もちろんですとも、『あなた』と言えばこの剣でしょう?」
「おうよ!」
マーリンは青く輝く刀身、金色の装飾が施された片手剣を取り出し画面の中からリアダンに差し出した。
「オリジナルはすでに失われていますのでわたくしが再現したものですが」
「へっ!十分だ、特に違和感も感じねぇ、大したもんだ。それで剣の代金は?」
「例の物を回収した後、そこから東にある大きな街でやってもらいたいことがあります。詳細はまた後程」
「ああ」
消えたモニターには振り返るそぶりも見せず、光輝く片手剣を見つめるリアダン。水平に振り、風切り音を鳴らす。衝撃刃が発生し部屋を仕切っている引き戸を切断した。
「もはやオレはパッとしない地味な魔女じゃねえ!」
『お前はオレでオレはお前だ。お前に勝利をもたらしてやる』
―漢山
修理中の宇宙船の前には既に戦闘態勢の冥珂。ライダースーツに 4 番皇帝のカードで作った金色のアーマーを装着、ほうきは軽機関砲、スフィンクスは肉食獣の姿になり最大の警戒態勢をとっている。
「リアダンの持っとったあの銃。考えられる可能性として高いのは……」
『ああ、考えたくはないが……ガエ・ボルガだな』
スフィンクスは牙をむいて言った。
「水晶での録画映像を何回も見たけどやっぱり 30 に分かれとるし 30 といえばガエ・ボルガて考えてまうな。せやけど本物って訳でもなさそうやねんな」
『複製魔法か?いや……複製魔法は一時的なものだ。それに大層な儀式が必要だ、冥珂お前のカードなら同じような事はできるだろうが……いやあの銃は確かにこの次元に実在してる物質だ。ダークパワーで作った物じゃねぇ」
「ガエ・ボルガとしても防ぐ方法はいくつか思いついてるで」
『実際恐ろしい武器だが防ぐ方法は無いわけじゃねえしな』
『敵!接近です!!危険危険!!』
冥珂の 2 番女教皇のカードから声がした。
「ナイス、イッシー!リアダン来よったか」
宙に浮かべた軽機関砲ほうきに飛び乗りサーフボードのように操り上空へと飛び上がる。スフィンクスは羽を生やして付いてくる。
『おーおー……リアダンの奴すっかり変わっちまってるぜ。ありゃあまるでクー・ホリンそのものだ』
スフィンクスは豆粒ほど遠くに見えるリアダンを見て言った。
「あの銃……いや、銃に形を変えたガエ・ボルガがリアダンを変えたんやろな。どんな魔法を使ってあの銃を作ったのか分からへんけどガエ・ボルガを再現したとしてもあんな風にはならんはずや」
『あの銃は回収して調べた方が良さそうだな』
チャリオットに乗ったリアダンは冥珂を発見、スピードを上げ急接近してくる。
『んん?アイツ普通じゃねえ剣を持ってやがるな……クー・ホリンだとするとあれは……』
「クルージーン・カサド・ヒャンやなヤバイで」
剣を振り上げるリアダン、水平に剣を振ると衝撃波が放たれる。
「テメェはぶっ殺す!!」
「おおっと」
急速旋回する冥珂、衝撃波を回避する。後ろの山の木々がなぎ倒されていくのが見えた。
「剣の6!」
カードから出現した 6 本の剣、青白い光線が連続で放たれる。回避していくリアダン、6本目の光線は避けきれずチャリオットの車輪に命中、大きく体勢を崩す。
「スフィンクス!」
『おうよ!』
スフィンクスが大砲の形に変形する。
「そううまくいくもんかよ!!」
リアダンは赤黒いリボルバーを取り出した。
「いきなりか!イッシー、アーテナーの盾!!」
『はいな!』
冥珂は巨人の紋様の入った円形の盾を構える。対するリアダンは取り出したリボルバーのトリガーに指をかけ、冥珂ではなく下の UFO に銃口を向ける。
「ん!?……あ、しまった!!」
「最初からオレの狙いは宇宙船にある物だ!」
『クー・ホリン流石に戦慣れしてやがる!』
大砲の姿のままリアダンに特攻をかけるスフィンクス。リアダンはチャリオットから飛び上がりスフィンクスを回避、空中で体勢を整えクルージーンを振るう。衝撃波の直撃を受けたスフィンクスは墜落する。
『ちっ……』
「よっと」
チャリオットに着地するリアダン。アーテナーの盾を構えたまま冥珂はほうきを操りリアダンの射線上に身を滑り込ませる。
「させへんで」
「当然そう来るよな?だからこうする!」
リボルバーを構えたままチャリオットで迫るリアダン。冥珂は剣の6のカードから出現させてた 6 本の剣の切っ先を合わせ大きな光線を放って対抗する。
「それも来ると思ってた!ハァッ!!」
クルージーンを構えて光線を受け止めるリアダン。速度を徐々に落としながらもチャリオットを進めて冥珂を押しながら降下させる。
「ここだ!くらえ、ガエ・ボルガ!!」
「あかん! 21 番 The Universe (宇宙)!!」
冥珂の 21 番 The Universe のカードから光が広がりあたりを包み込んだ。
赤黒いリボルバー、ガエ・ボルガを構えたリアダンの動きはスローモーションをかけたかのようにゆっくりとしている。トリガーにかけた指がまだ引ききれていない。冥珂はほうきから乗り出しガエ・ボルガを持つリアダンの右手をアーテナーの盾で払いのけた。
「…………ハァハァ、ここまでか」
あたりを包み込んだ光は消え、リアダンは通常の動きに戻る。払い上げられた事に気が付かずそのままトリガーを引きガエ・ボルガを放つリアダン。
「なんだと!?」
槍の穂先のような弾丸が発射される。 30 に分かれた弾丸は山に降り注ぐ。
「何だ今のは?完全に決まったと思ったんだがな。まあいい、今日はあと 4 発まだ撃てる」
クルージーンを振るリアダン、アーテナーの盾で受け止める冥珂。間合いを取りたい冥珂に対しリアダンはクルージーンで剣戟を加えながらチャリオットを密着させ離させようとしない。
「(連続でガエ・ボルガは撃てへんみたいやけど……この状況ヤバい、接近戦はあっちのが上やし離れたいところやけど離れたら UFO に向かってガエ・ボルガを撃たれてしまう)」
「どうしたどうした!打つ手なしか?」
続く
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