マジック・ザ・メイカー 18 話「魔女と昔話4」
ソードエースと名付けた短剣が冥珂の右手から投げ放たれる。それは閃光を発し、幽遊斎に向かって一直線に飛ぶ。
「把ッ!」
幽遊斎は急上昇し冥珂のソードエースを回避……したかに見えたが。
「!?」
ソードエースは木々を避け不規則な動きで幽遊斎めがけて戻って来る。
「うまくいった!?」
冥珂が叫ぶ。
「ぬうん!」
幽遊斎は太刀でソードエースを迎え撃つ。鋭い一撃がソードエースと衝突、火花を散らし跳ね飛ばす。そのまま墜落したかに見えたがソードエースは勢い衰えず空中で旋回し再び幽遊斎を狙う。
『冥珂、何を呆けている!あの魔法剣に合わせて次の攻撃を準備するんだ!できなければ逃げろ!』
「えっと……」
冥珂は飛び回りながら木の幹にルーンを刻んでいく。
「ビナー、ケブラー、ヘット。シゲル、アンスール、ケン」
『それは無茶だ!全身が崩壊するぞ!!』
「……多分大丈夫、発動させるタイミングと組み方を分かってれば!」
冥珂の体の数か所から血が噴き出す。
「うああああああああ……ソードエース!もっとや!そいつを貫けえええええっ!!」
ルーンを発動させる冥珂の叫びに呼応するようにソードエースは加速する。幽遊斎はソードエースの速度に次第に対応できなくなっていく。
「……こうなれば拙も奥の手を出すとするか」
顔に袖をかざす幽遊斎。一瞬で鬼面は獅子鬼面に変わる。背負っていた自動人形は四散。ソードエースをはじきながら部品を幽遊斎の体へ張り付いていく。
『自動人形と融合したか!』
「この形態は後で元の姿に戻るのが面倒でな。だがそうも言ってられない状況」
ソードエースから身を守りながら太刀を振り回し冥珂への距離を詰める幽遊斎。
『冥珂このままじゃあ………』
「チャーリー!今アタシの頭にあるイメージを書き出して!」
『薔薇十字章…… 6 本の剣……ティファレト! 』
冥珂の周囲に 6 本の剣が出現する。目と鼻から血がにじみ出している。
「ぬうん!」
幽遊斎の一撃をほうきから飛び上がって回避する冥珂。空中で手を広げると 6 本の剣は先を合わせ黄金の光を放つ。
「ぐうううあああああああ……」
光を浴びた幽遊斎は燃え上がる。
「今や!ソードエース……!!」
流星の如く加速したソードエースが幽遊斎を背中から貫いた。
「……見事……」
落下していく幽遊斎。冥珂は空中でチャーリーの操るほうきに受け止められる。
―気絶した冥珂は木の上で目を覚ました。
「……チャーリー、どうなったん?」
「どうもこうもないぜ。奴はくたばりお前は体力を使い果たして気絶って訳だ」
「そっか……」
「これからどうする?」
「うん……」
「これだけの騒ぎを起こしちまったんだここにはいられないだろうよ」
「せやね……この国はこの村しか知らんし」
「海を渡って大陸に行くか。そっから西へ西へ進めば来た道に戻るだろう」
「……ほとぼりが冷めたらまたこの国に来るわ。来たいわ」
『そうか、じゃあ港に向かうか』
「いや……飛んでいく。高ーく飛んで出発する……」
『飛んで大陸まで行くつもりか?夜通し飛ぶつもりか?』
「うん……飛ぶことに集中してる間は落ち込む暇なんてないしな」
『分かった、気絶しそうになったら起こしてやるよ』
「チャーリー、アタシの事どうしようもない魔女やと思ってる?」
『別に。魔女なんてのはもっとどうしようもないもんだ。お前なんか良い子ちゃんだと思うぜ』
「そっか……」
冥珂はほうきに飛び乗った。月の夜空にゆっくりと上昇し北を向いて出発した。
冥珂が覚えていたのはここまで―
冥珂の去った後、山の中でゆっくりと歩く影があった。
「幽遊斎を倒すとは」
影は幽遊斎の死体から仮面を回収する。
「『まじょ』と言ってたな……異国の術使いか」
「ふん!幽遊斎、情けない奴め……」
もう一人近づいてきたのは冥珂に撃たれたはずの丸安永衛門。
「……」
「儂が黒谷の者共にどれほど支援してやったか忘れたわけではあるまいな?」
「もちろんですともお館様。黒谷の者はお館様の支援あってこそ」
「鬼の血を引く一族が今の世でやっていけるのは儂の力があってこそ、そうだな?」
「しかり」
「この国は近いうちに開国するはずだ。さすればお前たちにはますます働いてもらうことになる。儂の期待を裏切ってくれるなよ?」
「はっ」
「ふっふっふ……この国を支配するのは将軍ではないこの丸安永衛門よ」
丸安永衛門の犬歯は尖っていた。
―ファーストフード店
「立花さん?」
目の前の少年が言った。
「ん?どないしたん?話は聞いとったよ」
「いえ、何か辛そうでしたので」
「なんでもないよ、ちょっと昔の事思い出しただけ。君の話に戻ろっか……」
「はい」
「君は色んな者に関わってかなりややこしい事になってるね。せやけど目的はシンプルや。好きな子と家族を守りたい」
「そ、そうです」
「君の守りたい子のお母さん。その人にアタシが会うのはかなり難しいね。でも……アタシの弟子ならいけると思うねん」
「はぁ……」
「というのも、アタシの弟子は君のいう『教会』って組織の人間と知り合いなんよ」
「そうなんですか!」
「弟子の電話番号教えとくわ。今は東京におるけど近いうちに京都に来るんよ……そいつの名前はね……リティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ」
冥珂はメモと千円札を置くと煙草を消して立ち上がった。
「じゃあね少年、後はそいつと話してな」
「あ、ちょっと立花さん」
冥珂は振り返らずに手を振ってその後、煙のように姿を消した。
『冥珂……おせっかい焼きのお前が珍しいな』
スフィンクスが言った。
「そう?最良の手を打ったつもりやけどな。アタシが下手に動くよりアイツに任せた方がこういうのは上手くいくんよ。科学的アプローチができるからね」
『……なるほど』
「それにちょっと離れた所から見ときたいねん。この街全体の動きをね」
『大阪の晴凛の事はいいのか?』
「占いでは大丈夫って出てるしクー・ホリンがついてるし心配はしてへんよ。気にはなってるけど」
『池がちょっと気になるんだがな』
「ああ、例の半魚人の……」
『アメリカの港町のようなことにならなければいいが』
「アマトに見張らせてるしホンマにヤバかったらアタシが行くよ」
冥珂は姿を現し自室の椅子に腰を下ろした。
―大阪府交方市
晴凛はこのところ毎晩悪夢にうなされていた。
生臭い匂いのする知らない街で迷子になり、エラのついた魚眼のガラガラ声の住民に見つめられている。その中には半魚人もいる。当てもなくさまよい家に飛び込んだ晴凛は鍵をかけて隠れる。外でガラガラ声の住民が騒ぎ家の前に集まっている。晴凛は耐えられなくなり洗面台で顔を洗う。ふと鏡をみるとそこに映っているのはのどにエラのついた魚眼の自分の姿。絶叫しそこで目が覚める。
「はぁはぁ……また同じ夢だ……」
『大丈夫っすか晴凛?』
オウム姿のアマトが羽を広げて言った。晴凛は体を起こしタオルで汗をぬぐう。
「鵜蔵池……やっぱり気になるよアマちゃん!」
『え?もう解決して何も起きてないっすよ?』
「それでも……もっと調べた方がいいと思うんだ。あそこに現れた半魚人の事とか」
『マジっすか……知らない方がいい事もあったりするっすよ。あ、やべ……』
「え!?なになにアマちゃん、何か隠してるの?」
『なんでもないっすよー!未熟な晴凛が下手に手を出して事態を重くしない方がいいって事っすよー!』
「え~……でもうなされるの鵜蔵池が関係あると思うんだ」
『……うーん……じゃあ一回だけ調べに行くっすか、それで納得してよ?分からなかったら後は冥珂に任せたらいいっすよ』
「わかった……」
続く
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