マジック・ザ・メイカー 17 話
藤一を抱えて蔵に戻っためいかが見た者は黒焦げ死体になった黒谷幽遊斎であった。
『脱出しようとして黒焦げ死か。当然だなあの魔術は魔獣も閉じ込める』
「……」
『これからどうするんだ?』
「藤一と村の皆を殺した親玉を潰す……」
『幽遊斎とやらが戻ってこないと知れば次の刺客を送ってくるかもな……あまり時間は無いぞ』
「うん……」
めいかは泣きながら蔵の横に藤一を埋めた。その後蔵に入り、手のひら程の大きさに切った和紙数十枚にルーン図形を書き込み色を付けていく。早打気砲の弾を込め、補充の弾を袋に詰める。脇差と鏡を手に取り帯と革袋に詰める。鋼弩にはルーンを刻み込む。
『それは何を書いてるんだ?』
「名前や……冥珂……漢字かけるようになったから自分の名前書いて藤一に見せようと思っとったんや」
冥珂は和紙に名前を書いた。
『この国の字か』
「あたしは立花冥珂。夫、立花藤一の敵を討つ!」
冥珂はすぐに神社向かい倒れていた覆面男の胸に針を刺す。そして覆面男の周りに図形とルーンを描き降霊術を行う。
「ああああ……やめてくれぇ……寒い苦しい……お願いだ……入れないでくれぇ」
男の体から人型の青白いもやが立ち上っている。周囲にいた地縛霊を男に憑依させかけてその苦痛から尋問する死霊術の応用であった。
「楽にして欲しかったら答えるんやな!村を襲うように指示したのは誰や!!」
「丸安の年寄家の……丸安永衛門」
「どこにおる!!」
「山を越えた所にある屋敷……」
冥珂は早打気砲を銃剣にしたほうきに乗り山を越える。白壁の屋敷が見えてくる。袋から鏡を取り出しダークパワーを集中させる。すると鏡に屋敷が映し出される。
『暗視グラスの代わりか』
「丸安の親玉はどこや……」
ゆっくりと降下し屋根の上に降りる。通気穴から忍び込んだ冥珂はほうきで浮きながら鏡を覗き込み、下の部屋の様子を探る。
『あの爺さんがそうじゃないか?』
一人で本に向かっている老人を見つけた。冥珂は慎重に天井板を外し音もなく老人の背後に降り、目をふさいで喉元に脇差を突き付けた。
「騒いだら殺す……お前が立花藤一を……村を襲撃するように仕向けた親玉か」
「だ、誰だ……忍か?」
「村の生き残りや。あたしの他は全員死んだ……」
「そうだと言ったら殺すか?そうでないと言ったら殺さないか?……フフフ、やはり忍では無いな甘い甘い」
「あたしに失うものはもう無い。順番に聞いていくだけや」
『馬鹿、冥珂。こういう時は何も余計な事は言わず名前を聞けばいいんだぜ……』
「お前の名前は!」
「丸安永衛門……」
「なら死ね」
「どうかな?嘘かもしれんぞ……フフフ」
老人は一瞬の隙をついて体をひねり冥珂を投げ飛ばす。そして掛け軸のそばにあった刀を手に取って抜き「であえ!であえ!曲者じゃあ!」と叫んだ。
「くっ……」
『暗殺者めいた慣れない真似をするからだ。どうする?こうなったらもうやるところまでやるしかないぞ?』
「うああああああっ!藤一の敵!皆の敵!!」
早打気砲の弾丸を老人に浴びせる冥珂。すぐに障子を破って飛び出して上昇する。「永衛門さま!」「お館様!」と言う声が聞こえた。
『当たりだったな!これで気が済んだか?』
「村に戻って皆を埋めてあげないと……」
『そうか、そうだな……』
村に戻った冥珂はルーンを使い土を操作して村人の遺体を埋めて行った。全て終えた時には日が昇り始めていた。
『冥珂しっかりしろ!ここにいるのはまずいぞ』
「せやな……でもどこに行けば?」
『とりあえず山に入るぞ』
山に入る冥珂。ルーンを書いた和紙を木々に張り付けて人払い獣除けをしたあと枝の上に寝床を作って横になった。これらの作業は森を好む魔女にとってはできて当たり前の事であった。
『俺様が見張っておいてやる休め』
「……」
『気絶したか……』
丸一日寝込んだ冥珂、目を覚ますと使い魔のチャーリーが話しかけてきた。
『妙なことになってるぞ冥珂……黒焦げになったはずの黒谷幽遊斎が何人も山に入ってきている』
「……どういう事?」
『仮面をつけてるせいで分からなかったが、ありゃあ洗脳魔法の一種だな。黒谷幽遊斎となった奴らが本人に操られてるんだ。あいつの自動人形を見ただろう?』
「……うん」
冥珂は魔女の中に自動人形やゴーレムを制作するのを得意とする者が居るのを思い出した。
『厄介だぜ……あの類は本体を叩かない限り終わらない……そしてああいう性質の奴は安全な所にいるもんだ』
「……それでも倒す!藤一と皆の敵!!」
『面と向かって戦うのはお前に向いてない。お前は誰かと組んでそいつに適した道具や薬、武器なんかを作ってやるのに向いているメイカーって呼ばれるくらいだからな』
「……もうメイカーやない!レヴィでもない!!立花冥珂や!!だから……」
『分かってる協力してやるよ。今までもこれからもな』
「どうやって戦ったらええ?」
『下に降りずに木を飛び移りながら狙撃していくんだ。ルーンの罠も仕掛けておけ』
「わかった」
冥珂は木々を飛び移りながら罠を仕掛けて黒谷幽遊斎を探す。鬼面をつけた煌びやかな着物の男は目立つためすぐに発見できた。
『あの仮面……怪しいな、狙ってみろ』
「うん」
ルーンを刻んだ鋼弩に矢を乗せる冥珂。ルーンの効果で矢の軌道を一度だけ曲げられる。息を殺し冥珂は黒谷幽遊斎の仮面めがけて矢を放つ。外れたかに思えたが矢は軌道を変え仮面に命中。仮面がはじけ飛ぶと糸が切れたかのように倒れた。
『この調子で行くぞ。今まで戦闘なんか訓練くらいしかしてなかったんだ、焦るなよ。毒の霧や自動追尾する魔獣でも召喚できればすぐなんだがな……』
「そういえば昔アカデミーで……」
『ん?』
「そう、確か弓が得意な魔女がこんな風に……」
和紙に描いたルーンを矢に取り付け鋼弩を引く冥珂。藤一の工夫で特殊な歯車機構になっており冥珂にも弦が引けるほど軽かった。
矢を放つと無数の光に分かれ木々に反射する。冥珂は鏡を取り出し光の矢が魔法陣を描いていくのを見つめる。
『なるほど、一瞬で陣地を作ったのか。おもしろいやりかただな、これなら幽遊斎全員の居場所が分かる』
「そんなに長い時間張り続けられへんけど……今はこれで十分、居場所が分かれば」
陣地の効果が切れる前に木を飛びまわり仮面を狙って狙撃していく冥珂。 20 人の幽遊斎は一人を残すのみとなった。
『もうすぐ陣地の効果が切れるぞ』
「あと一人!」
最後の一人に狙いをつける冥珂。
幽遊斎に向かって放たれる矢。仮面に命中する寸前で幽遊斎は片手で受け止めた。
「あ……」
『あれが本体のようだな。こっちに気づいたようだ向かってくるぞ』
幽遊斎は懐から札を取り出し矢に張り付け投げる。加速し一直線に冥珂に向かって飛んでくる。
『ちっ!』
チャーリーは冥珂の袖を引っぱり回避させる。慌てて早打気砲銃剣ほうきを飛ばす冥珂、木の枝から飛び上がり上空で幽遊斎を待ち受ける。
幽遊斎は背負っていた桐箱から顔は鳥の人型の羽の生えたからくり人形を取り出した。幽遊斎は人形に体を掴ませると飛び上がらせて冥珂を追ってくる。
『距離を取れ冥珂!』
「速い……」
「妖術使い、逃がさぬぞ」
幽遊斎は腰に下げた太刀を抜いた。
「色々と聞き来たいことはあるがそうも言ってられぬ。雇い主をやられたのでな」
太刀で突いてくる幽遊斎、冥珂はトンボ返りで回避する。
「……藤一の、村の皆の敵!!」
『ちっ……近接に付き合うな!逃げろ、逃げながら戦うんだ!』
「どうやって?」
『さっきの山の中に入るんだ罠を仕掛けたろ?うまく誘導しろ』
「分かった」
急降下する冥珂、山の中に入り張り付けたルーンを確認する。
『ギリギリまで引き付けて発動させろ、動きが止まったら早打気砲を全弾発射だ。それで仕留めきれなかったら俺がぶちかましてやる』
「来た!」
「逃げてもこちらの飛行速度の方が上、無駄。それにこんな木など」
幽遊斎は太刀を持った手首だけを回転させ枝を伐採しながら進んでくる。
『今だ!』
ルーンを発動させる冥珂、幽遊斎は爆風をまともに受け大木の幹に叩きつけられる。
『撃て冥珂!』
『うああああああああああっ!!』
早打気砲を全弾撃ち込む。幽遊斎の体は衝撃で痙攣する。
『なんだ?手ごたえが妙だぞ?』
「ふっふっふ……見事。拙をここまで傷つけたのは貴女方が初めてだ」
「なんやお前は!なんで平気なんや!!」
「拙は鬼なるもの也」
「オニ……?」
『よく分からんがこの国でいう所の人ならざる存在か』
幽遊斎は着物から上半身をあらわにする。肩に取り付けられたからくり義手、生身の腕は胸の下で組まれていた。弾丸は全て皮膚で止まっていた。
「立花藤一が死んでしまったのは誤算であった。仲間にしようと考えていたのだが」
「藤一はお前なんかとつるまへん!」
「ふっふっふ……果たしてそうかな?病を抱えながら完成の見えぬ研究を続けておったのだ。拙とくれば病など気にする必要は無くなるのだ」
「病!?嘘や!!藤一は病気になんか……!!」
「気が付かなかったのか?生きていたとしても藤一はもって後半年ほどであったぞ。全身を悪腫瘍が蝕む不治の病よ」
「そん……な……」
「まぁもうそれは過ぎた事。拙の興味は貴女方に移った。異国の術者に実際に出会う機会など今まで無かったのでな。殺すにはおしい」
太刀を向ける幽遊斎、手首が回転を始め空気を切り裂く男が聞こえる。そしてゆっくりと体を起こす。
「(どうするチャーリー……武器はもう脇差しか無い……)」
『距離を取れ、ほうきの操縦はサポートしてやる。逃げながら対抗策を考えるぞ』
「(わかった)」
ほうきを飛ばす冥珂。追う幽遊斎。
『その剣、ワキザシといったか?かなり特殊なものだぞダークパワーを感じる』
「(ただの脇差じゃない……けどあの幽遊斎相手に剣で戦うのは無謀やって)」
『お前の剣の腕じゃ無理だ。だからその剣を魔女の杖代わりにしてデカい一撃を食らわせてやれ。この前やったルーンの合わせ術で何とかならないか?』
「(……やってみる。セフィロトの樹を召喚。ケテル、ビナー、ベート)」
冥珂の体を淡い赤色のもやが包み込む。
「(イメージは剣……剣……と言えば……)」
『ちっ……幽遊斎の奴わざと追いつかないのか?一定の距離を保ってるぞ』
「(アタシの魔法に興味あるんとちゃうの?好都合やん、今のうちに術完成させる)」
冥珂は滑らすように脇差に手をかざしてダークパワーを纏わせる。
「(そういえばアカデミーで剣の魔女が居たなぁ……そうか剣……あの魔女のようにはいかないけど……やってみるかな。チャーリー、あたしの手の動きをサポートして。高速で動かしたい)」
『いいぜ』
そして脇差にルーンと図形、色を付けていく。
『これは……十字剣……』
「(うん……剣の魔女が一度だけ見せてくれた剣をイメージしてん。あの子は色んな聖剣魔剣をオリジナルに近い再現できる子やった。あたしにはそんなことはできひんけど複製の複製やけど、成功すればそれなりに威力のあるのを発動させれるはずや。あの魔女が再現して見せたのは……確かフラガ・ラッハ!)」
『フラガ・ラッハか。敵に向かって投げれば剣自らが敵を倒し戻ってくる。そしてつけられた傷は治らない……』
「(再現に大切なのはその物をどれだけ知っているか、どれだけ良いイメージで描けるか。どれだけオリジナルと自分のイメージの差を無くせるか……て言ってた)」
『お前の得意分野とは少し違うな……それはむしろ造形に近い。彫刻のようなものだ。お前が得意なのは絵や図形だ。その差をどうやって埋める?』
「(剣の魔女の再現したものも見てるしフラガ・ラッハについては気になってそれなりに調べたからイメージはできてる……後は自分で足りないものを補う!フラガ・ラッハは 1 本の剣……剣は風、混乱の雲は剣によって払われる。三日月、太陽、蛇、王冠……)」
『冥珂……無茶だぜ。ダークパワーで神経が千切れるぞ!こんなもん魔法書のルーンを発動させながらスクロールに描いていくものだ。空中で直接剣に刻むものじゃない』
「(大丈夫いける……フラガ・ラッハにはかなり遠い複製やけどこの剣なら……)」
脇差は輝く十字剣に変わる。刀身は根元から先に向かって徐々に細くなり。鍔は三日月と太陽のシンボル。柄はとぐろを巻いた蛇に形どられていた。
『おぉ……これは……並の魔法剣なんか超えてるぞ』
「(名付けてソードエース!コレを幽遊斎に当てる!!)」
それを見た幽遊斎が距離を詰める。回転する太刀は風車の如く。木々を伐採していく。
「さぁさぁ異国の術を拙に見せるのだ」
「ソード……」
冥珂は急ターンして幽遊斎に向き直す。
「エース!!」
続く
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