マジック・ザ・メイカー 24 話「魔女と少女達」
冥珂が目を覚ますとそこは京都に借りている家のベッドであった。テントの様に大きな透明の幕にベッドごとつつまれ左腕には点滴がつけられている。
「あ、気が付きましたね師匠。あれから丸 2 日間寝てたのですよ」
「ん……リティーシャ……あれからどうなったん?」
「気を失った師匠を回収するために私はすぐにナイトケースハートを送って師匠に装着させてここまで運んだのです」
「あんたの持ってる特殊魔術鎧ね」冥珂はゆっくりと体を起こして小さくあくびをした。
「すぐに私は回収した師匠の治療を開始、フィッシュメンの始末はトーヤを叩き起こして向かわせましたね。オンラインゲームで夜更かしして眠そうでしたが」
「ああ、あんたの相棒の男の子……悪い事させてもうたね。でもトーヤくんだけで大丈夫やったん?晴凛ちゃんは?」
「セリンは魔法少女になって奮闘してたようですね。他には教会と思われる連中とか闇の住人が動いてたみたいですよ。トーヤの報告が雑なのとセリンの話を聞いただけなのでなんとも……あ、それから白い軍服みたいなのを着た三人組が巨大魚人を倒してくれたみたいです」
「げ……白い軍服……かぁ……」
「異能者特務機関、 Talent's secret military institutions 通称 TMI のメンバーですね恐らく」
「何で大阪に……北海道におるのと違うのん?」
「任務か何かで来たのでは?というか師匠はTMIをあからさまに避けてますよね?」
「いや……ほら……TMIって組織できたのって元をただせばアタシが関係してるしそれはほら……前の弟子の起こした事件のね……」
「ペルデュラボ……またの名をアレイスター・クロウリーの起こした事件の話ですよね」
「……ある時期までは良い弟子やったんよあの子も。悪い部分だけ分離したような状態になってからおかしくなってん」冥珂は煙草を探すもリティーシャがそれを阻止する。
「過去は変えれませんし師匠のせいでもありませんし事件は解決してますしペルデュラボのことはもういいでしょう。TMIを避けるのはそれだけが原因です?」
「えっと……うーん、あんたにはいずれ話さないとなーって思ってたんよ」
「今がその時期では?私は魔女の弟子であり科学者の天才なので力になれますよ」
「白魔女ってあんたも知ってるやん?それとTMIの長官は繋がってるのよ」
「…………ややこしい事になってるんですね」
「せやねん、な?関わりたくないって思うやろ?」
「そう……ですね。話が通じない白魔女の者とは関わりたくないですね。魔女を捕まえようとしますしね」
「保護だ~とかいって捕まえて白魔女に洗脳して引き込む気なんやであいつら。魔女が何人かあっちに行ってしもうてるもん。マジックアカデミーがペルデュラモに潰された影響もあるけど。TMIはTMIで頑張ってるみたいやし白魔女と一緒になんかやってる風ではないけど……知られるのはあんまりなぁ」
「私は表向きは太陽光アレルギーの天才美少女科学者ですので接触しても問題は無さそうですけどね」堂々と言い放つリティーシャ。
「TMIの話はこの辺にして……晴凛ちゃんと話がしたいわ水晶玉とって」
「携帯電話でいいじゃないですか……」
「毎回番号ポチポチ入れるの大変やん」
「履歴とか電話帳の機能使いましょうよ……それに携帯電話に話しかけても相手に繋がる機能付いてますって前にも説明したのですが」
「……忘れてたわ」
「覚える気全くないですね」リティーシャは透明の幕に入り冥珂に携帯電話を渡す。
「晴凛ちゃんに電話」冥珂は受け取った携帯電話に話しかける。
『本郷晴凛さん に 繋げます』携帯電話が感情の無い声で答えた。
「もしもし晴凛ちゃん」
『冥珂さん!起きたんですね~良かった……気になってアマちゃんに冥珂さんの様子何回も聞いてたんですよ~』
「心配かけてごめんね……アタシが寝てる間大丈夫やった?」いつの間にか口にした煙草、ふーっと大きく煙を吐き出しながら冥珂は申し訳なさそうに言った。横にいるリティーシャは慌てて幕を上げて煙を外に逃がす。
『なんとか大丈夫です!それで気になったことがあったんですけど……フィッシュメンの目撃者の記憶が変わってたんです!友達の和美も見たって言ってたんですけど、フィッシュメンじゃなくて何故か不法入国したテロリストだって。冥珂さんは倒れてたし……リティーシャさんが?』
「う~ん……」冥珂がリティーシャを見ると首を振って否定した。「魔女以外にも動いたところがあったみたいやねん。そいつらが上手い事やってくれたんやろね。ホンマやったらアタシかリティーシャがしないとあかんかったんやけど」
『そうなんですか!やっぱり他の不思議組織が……実は新しい友達ができまして。フィッシュメンの騒ぎを鎮めるためにやっつけてた時に知り合った子なんですけど』
「そうなん?その話聞きたいわぁ」
冥珂が気絶した後、晴凛はフィッシュメンを無力化して回った。冥珂のような魔法が使えるわけではないので力ずくで気絶させていった。そして倒れたフィッシュメンを消して回っていた者たちがいた。
黒いワゴン車から飛び出した白い軍服を思わせる制服の人物。背は高くがっしりとした体格の短髪の白人男性。年齢は 40 代後半~ 50 代。その人物が倒れたフィッシュメンに手を触れると一瞬にして消滅した。
「……それで、この人も魔法使いなのかなーって深くは考えてなかったんですよね。その後、和美の住んでるマンションの駐車場にフィッシュメンらと大きなフィッシュメンみたいなのが居るのを見つけて、うわ~どうしようって考えてたらワゴン車から同じような白い軍服っぽい女の子が三人……あ~一人は男の子だったかも?が、飛び出してきてあっという間にやっつけたんです」
「ほう~……」
『で、次の日のその子たちの一人と創作イタリアン料理の店の前でばったりと会って。「特盛 20 倍ミートパスタを注文したいのですけど一人では断られてどうしようかと思ってたのです」とか声かけてきて、一緒に店に入って座ってるだけで良いしお金も出すというのでつきあったんです』
「へぇ~」
『 15 分ぐらいで超巨大パスタを一人で食べ切ったその子は待ち合わせまで時間があるっていうので、私も和美との約束の時間までまだあったから近くの公園でお話することにしたんです』
「どんな子なん?」
『日本人とフランス人の両親を持つ子で、名前は終夜(よもすがら)アリナ。綺麗な金髪でスタイルもいいし姿勢もいいし可愛かったですね。日本の文化?相撲とか剣道とか茶道とかそういうのが好きだっていってました。で、話が盛りあがっちゃってまたお話しようねってケータイメッセージの交換をしたんですよ』
「何者かって話はせえへんかったん?晴凛ちゃんも聞かれたりせんかったん?」
『そういう話はないですね~お互い何が好きだの友達のやらかした話とか食べ物とかファッションとか……他愛のない話題ですよ~』
「……はぁ~若いってええなぁ……」冥珂は大きく煙を吐き出す。リティーシャは顔をしかめて手で煙を散らせた。
『どうしたんですか冥珂さん?』
「いや、なんでもないよ。アリナちゃんと仲良くね、若い時にできた友達は一生の付き合いになるかもしれんし」
『そうなればいいですね~!あ……冥珂さんそろそろ電話切りますね、これから和美の家に行くことになってるので』
「ほなまたね、そのうち顔見せに行くしねぇ」
『はーい!それじゃまた~』
冥珂は携帯電話を切ると煙草の火を消して再び横になる。
「リティーシャ、この点滴どれくらいで終わる?」
「後 10 分くらいですね。それにしても師匠の体、神経も血管も筋肉もズタズタでしたよ。人間なら即死レベルです。ナイトケースハートの自己修復機能を応用して応急処置&投薬で一命を取り留めたんです。今ついてる点滴はただの栄養ですので後は自分の魔法でなんとかしてください、師匠の場合薬使うよりその方がきっと早く治りますよ」
「 2 日間も寝てたんやね……その間こっちは何もなかった?」
「師匠の危惧するようなものは何も。トーヤが若干街の闇の住人ともめたくらいですかね。後は……そう、魔女の私書箱に手紙が届いてましたよ?スキャンしましたが何も怪しい術や毒などは見つかりませんでした」
「誰から?」
「さぁ?封筒には何も書いて無いですね。封蝋もついてないただの糊です」
「見せて」
リティーシャから手紙を受け取る冥珂。 1 枚の便箋にそれほど長くない文に目を通す。
「……はぁ~」
「誰からです?」
「知り合いの面倒な奴からの手紙よ。…………感謝と謝罪、それと提案やね」
「そうですか」リティーシャはそれ以上聞かずに終わりそうな点滴を眺める。
「予知能力を持った奴でね、今回の事件の事と藤邑の事。それからこれから起こる最悪の事態について話したいんやって。向こうは向こうで色々調べたり厄介ごとを片付けてたみたいやねん。リティーシャあんたの事も書いてあったで」
「え?どのような事です?」
「オーグルのサンプルについてと特殊魔術鎧に興味があるんやって。今回の事件で現れた化物のサンプルを分ける見返りとか」
「天才美少女の私を頼りたいのは分かりますが、信用できるんですかその人物……」
「ジェームズ・スチュワートって男なんやけど……信用はできるよ好きじゃないけど」
「無理ですね。男って時点でアウトです……でもまぁ師匠とトーヤと一緒なら会う事を考えてもいいですよ、それで何者なんですか?」
「TMIの長官……」冥珂はリティーシャから視線を外して小さくつぶやいた。
「は!?」
「一緒にヘルメス・トリスメギストスのエメラルドタブレットの捜索をしたこともあるんよ……」
「はあああああああああ!?」リティーシャは思わず声を張り上げた。
「興味出た?会う……やろ?」
「…………いくら私が天才でも言わなければ分からないことがありますよ。なんで今まで黙ってたんです?いつもそうなんですよ師匠は!ついさっきTMIの話してたじゃないですか!……ええ、いいですよジェームズ・スチュアートに会いますよ、トーヤと一緒に。師匠も会うのでしょ?」
「アタシは水晶玉越しでええよ。ハイテク機械とかコンピューターに囲まれた場所なんて行きとうないし珍しい生き物見るような目で見られるのも嫌やし」
「そうですか、それで約束の日は?」
「三日後……」
「えぇえ~……」
さんざん文句を言った後リティーシャは冥珂の点滴を抜き、煙草を取り上げると透明の幕を下ろして隣の部屋のパソコンを並べた机に座った。机の上のミルクボトルにストローを指し一気に飲み干すとジェームズ・スチュワートに見せる用の資料の作成に取り掛かった。
冥珂はリティーシャの京都監視システムと連動しているルーンを発動、その情報を水晶玉を使って見る。
「そういえば……」冥珂は少し前にここを訪れた少年の事を思い出した。「リティーシャ、あの少年の件はどうなったん?」
「ジローの事ですか?割とすんなりいきましたよ、頼まれていたこの国最高位の吸血鬼と会ってきました。偶然にも東京で教会の幹部とコネを作ってましたからね。その幹部がジローの父親だとはその時気が付きましたが……結局幹部とジロー親子、吸血鬼とその娘、全員を引きわせて終わりです。私のしたことは教会のセキュリティに侵入してロック解除と情報閲覧の制限がかかってるファイルを開いただけです」
あっさりとリティーシャは答える。さまざまなトラブルが発生したことは言わなかった。
「そう、それは良かった。アンタが来てくれてホンマ助かってるわ」
「それなんですよねー不思議なことに今回珍しく師匠が私を頼ってくれたおかげで何故か色々うまくいったんですよね」
「……う~ん、あの少年がアタシと会わなければどうなってたんやろね。そもそもなんでかあの少年と会ってしまったのよね、そうしないとアカン気がしたというか」
冥珂は女教皇のカードを取り出してベールをかぶった女性イッシーを召喚する。
「イッシー、アタシの体全快までどのくらいで治せる?」
「ん~……そうですねぇほぼ修復されてますしー 30 分くらいです。急いでます?」
「いや別に……買い物に行こうかなって。たまには自分で買いに行くのも悪くないかなーってね。リティーシャおるし留守番は大丈夫やし」
冥珂はシャワー室に向かう。後をついていくイッシー。部屋の隅で寝転んでいた大きな銀色の山猫姿のスフィンクスが一瞬だけ目を開け小さくため息をついた。
***
晴凛は和美のマンションに自転車で向かっていた。ほうきで飛べば一瞬なのになと考えながら走らせる。愛用のリュックの中には魔法少女ステッキが入っている。
『晴凛、晴凛ってば!』
晴凛の懐から声がする。カーディガンの下の首から下げるパスケースの中に戦車のカードが入っている。
「何アマちゃん?」
『いつごろ冥珂の所に行くっすか?アマチャンがんばったご褒美早く欲しいっす!』
「冥珂さん忙しそうだしこっちの事も片付いてからにしようよ。ホストクラブは逃げないでしょ?」
『くぁ~~~~っ!本当は今すぐ飛んで行きたいんすけど確かにこの街のダークスポットが無くなるの確認するまでは晴凛のそばにいないとダメっスからなぁ……さっそく何かいるのを感じるっす晴凛、その角曲がったところに 4 つ感じるっす!』
「ええ~……夜じゃないのに……」
晴凛が角を曲がるとカフェが見えた。そこにはオープンテラスに 4 人の女性と男性店員、配達業の中年男性の姿が見える。他の客は店内にいる。
「え、アマちゃん……どこ?」
『あのカフェの人間の誰かっす!人の姿に化けてるっすよ!!』
「悪い事しなさそうならほっといてもいいんじゃないの?アマちゃんと同じようなもんでしょ?」晴凛は再び自転車を漕ぎ出す。
『何でっすか晴凛!かなり強力なパワーを感じたっすよ!』
「でも誰か分かんないんでしょ?」
『それはもっと近づかないと分かんないんすよ、何十人もいるのに!』
「もぉ~……気になるならアマちゃん店の前で見てたら?何かあったらステッキ通して知らせてよ」
『今日のおやつ、アマチャンに譲るっすよ……』
「わかった、じゃあアマちゃんよろしくね~」
戦車のカードから飛び出すオウム姿のアマト。カフェの前のガードレールに止まって店内を観察する。晴凛はそのまま和美のマンションに向かって走り出した。
「あ、あんなところにオウムだ!」背の高いツインテールの少女が言った。
「あらあら、珍しいですねぇ。どこかから逃げてきたんやろか?」切れ長の目のポニーテールの女性が言った。
「いやん、羽が超きれい!」水色のワンピースの三白眼で胸の大きな女性がいった。
「ねぇ舞子~オウムがいるよ珍しい~ほらほら」ツインテールの少女が手招きする。
「ほんとだ……なんでこんな所に?」濃い茶色の髪をしたスラリとした足の少女がカフェオレを乗せたトレーをもってテラスの椅子に座る。「オウムは気になるけど噂の占い館見つからないのどうするの?わざわざ大阪に来たのに……」
アマトはしばらくこの 4 人を観察することにした。
終わり
マジック・ザ・メイカー23話「魔女と覆う… Jan 5, 2019
マジック・ザ・メイカー22話「魔女と覆う… Jan 2, 2019
マジック・ザ・メイカー21話「魔女と覆う… Dec 23, 2018
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