異能者特務機関:TMI 第 3 話「首狩り斬鬼」
『ごくろうだったね。しかし一日と経たずに終えるとは……』
ジェームズの通信の声はため息交じりであった。
「簡単な仕事です。フランス支部の任務に比べればどうという事無いです」
『キミが向こうでどんな任務に就いていたのかはシャルルくんに聞いているよ。こっちではまず君の従事していたような任務は無いと思ってくれて良い、もう少し肩の力をぬいてもいいんだよ』
「油断は死に繋がります。そういったメンバーを多く見てきました。なのでわたしはわたしのやり方でいきます」
『シャルルくんも心配してるんだよ……とにかくおとなしめで頼むよ』
「善処します」
「結局アリナ一人でほぼやってしまいましたね」
「すみません全然お役に立てなくて……」
「いえ、二人には二人にしかしかできない仕事があるので。わたしは戦闘だけが取り柄ですからたまたまです」
アリナは清涼院を担ぎ上げ裏門へと向かう。回収班のワゴン車に乗り込み清涼院を捕獲カプセルに押し込む。そこで再びジェームズの声がした。
『任務は完了だが手続きがあるから放課後まで学校で過ごしたまえよ。菊彩学園の食堂ランチは美味しいらしいよ?』
「……長官、こんな茶番じみた任務何の為に?学校の 問題児などTMIのテレパスを使えばもっと楽に解決できたでしょう 」
『君には簡単すぎる任務だとは思ったんだ。けどね、もっと慎重に時間をかけて哿(かなり)くん、フローレンスくんと 連携して静かに遂行して欲しかったんだよ。君がずんずんと突撃して終わりじゃなくてね 』
「真意を量りかねますね」
『駄目なんだよアリナくん。もっとコミュニケーションをとって目立たずに静かにスパイ映画のエージェントのようにだね』
「……?スパイ映画の主人公は大抵無茶を沢山してますが?」
『イメージだよイメージ!たとえが悪かったすまん。ニンジャ……そう、忍者のようにやってくれると良かった』
「忍者ですか……そういえば長官、わたしのガントレットとブーツは何故使用させてくれないのですか?」
『あのねぇ……学生を捕まえるのに軍隊と戦える戦闘力はいらないんだよアリナくん。 そんなもの必要ないだろう? 』
「この国にいるはずのわたしの敵(かたき)と出会った時に困るので」
『 ……それなんだけどねぇ見つけていたら TMI が真っ先に対処するんだがね。中々尻尾を掴ませないんだよ。君の事情は良く知っている、だから隠すようなことはしないと誓うよ 』
「長官、今ここに敵が現れたらどうするのですか?ガントレットとブーツをわたしから取り上げないでください」
『……もしそこに君の敵 が 現れたら私自ら対処しよう』
ジェームズはいつもの軽い口調ではなくゆっくりと低いトーンでそう言った。
「……分かりました」
『よろしい、では支部に帰ってくるのを待ってるよじゃあね! À plus tard ! 』
依頼主の校長および教頭らに報告をする哿。校長はアリナを特待生で迎え入れたいと申し出るがこれを拒否。わずか 1 日で三人の私立菊彩学園の生活は終了。アリナが食堂のカレーライスを 10 ㎏平らげたことは菊彩学園の伝説となった。
***
―3日後
長官ジェームズ・スチュワートは再び上空 1 万メートルに浮いているTMI本部に足を運んでいた。目の前にはフランス支部長のシャルル・ベルナールド。
「アリナは……どうですか?」
シャルルは額の汗をぬぐいながら目を合わさずに言った。
「優秀だよ。この前の任務中にターゲットと戦闘になったが圧倒的だったよ」
「同僚とはなじめてますか?」
「そうだねぇ……フローレンスくんはアリナくんを気に入ってるようだしアリナくんも嫌っている様子はないね。哿くんとも話をしたりして馴染んでると思うが。なぜだね?」
「実は……フランス支部のメンバーがアリナを戻すように抗議して動き始めてるのです。ジョリスという男が中心になって声をあげていまして……」
「それで?」
「アリナを戻さなければストライキもあり得るとか言い出す始末でして……長官と会いたがってます」
「君はアリナくんを異動させた理由をきちんと伝えなかったのかね?」
ジェームズは葉巻をカットして火をつける。
「はぁ……その……生まれ故郷の日本の支部が人手不足だから抜擢されたと……」
「それが納得できないと言ってるのだろう?シャルルくん、本当の理由は言わなかったのかね?」
「例のカテゴリー 6 の情報をアリナが知ってしまった件ですよね?」
「そうだ、君はうっかりしてアリナくんに知られた。よりによって彼女が探していたカテゴリー 6 の特徴に合致してしまった」
「……長官、自分には彼女を止めることはできないですよ。サーカスから逃げ出したライオンを威嚇の声一つで大人しくさせた事もありますし、 TMI 最強クラスのサイコキネシス身体強化の能力者なんですから」
「アリナくんは能力うんぬんよりも異常なまでに強い目力と、隙を見せればすぐにでも飛び掛かってきそうな圧力を感じる猛獣めいた子だからね。まぁ気持ちはわかるよ、それでも君は支部長なんだからもう少し上手い事やって欲しかったねぇ」
「……はい」
「まぁ、アリナくんの事は私に任せたまえ。そっちの問題はシャルルくんが何とかしてくれよ?日本は支部長が不在だから私が兼任してるんだ忙しいのだよ。君は仕事ができる人間だ大丈夫。少し心配症な所が玉にキズだがね」
ジェームズは葉巻の火を消して立ち上がる。
「ちょ、長官!お待ちを!!」
「また何かあれば連絡くれたまえ。私はこれからアメリカ支部長のハリーくんと会う約束をしててね」
***
―菊彩学園の任務から 1 週間後
日本支部にアリナ、フローレンス、哿の三人の姿が見える。相変わらず他の机は空いている。アリナは次々と牛丼を口に運び、フローレンスは医学書を広げ、哿はパソコンに向かって書類仕事をしている。
「諸君!任務だぞ!!」
ジェームズは大きな声をあげてオフィスに入って来る。
「長官、わざわざ来られなくても放送で呼んでくれれば部屋までお尋ねしますのに」
哿は驚いて言った。アリナは一瞬箸を止めるもすぐに食事を再開。フローレンスは少しだけ会釈を返して医学書に視線を戻す。
「君たちを集めるよりもこうして私が来た方がやりやすいと思ってね。そのまま聞いてくれたまえ。次の任務は異能者の連続猟奇殺人犯の確保だ。場所は北海道、地元警察に話は通してある。早速向かってもらうよ。詳細は後で説明する」
「長官」
アリナは牛丼を食べ終えて箸を置いて言った。
「なんだねアリナくん?」
「ガントレットとブーツの使用は許可していただけますか?」
「許可しよう。今回はかなり危険な任務となる可能性がある。哿くんもフローレンスくんも万全の準備で挑むように。準備が出来次第、私の部屋に来るように解散」
アリナはロッカールームでガントレット、ブーツを身に着け腰のポーチにベヤリング弾と応急処置薬、炭素ワイヤー、予備の通信機を入れる。
フローレンスは防弾ジャケットに暗視ゴーグル、圧縮ガス銃を身に着けアタッシュケースに予備の通信機と医療キットを詰め込む。
哿は光学迷彩スーツに圧縮ガス銃、予備の通信機に防弾使用の PDA をカバンに詰める。
準備を終えた三人は長官室に入る。
「今回のターゲットは『首狩り斬鬼』と呼ばれる者だ。日本刀のようなもので次々と罪のない人々を襲い首を狩って殺害している。地元警察は監視カメラで姿は捕らえているが逮捕までは至ってない。警察をあざ笑うかのように監視カメラの目の前で殺人を行う始末だ。現場に駆け付けた異能者の警察官も姿を見ることはできず片腕を失う重傷を負った。『首狩り斬鬼』は異能者だ」
「長官、質問があります」
「何だね哿くん」
「警察官が首を切られずに助かったのはどうしてですか?」
「それは二つ理由がある、警察官は 40 代後半の男性だ。首狩り斬鬼の被害者は全て若者だった。奴は若者の首にしか興味を示さなかったと考える。もう一つはこの警察官がテレポーターの異能者だったから現場を離脱出来て助かったのだよ」
「首狩り斬鬼を認識できないとはどういうことですか?」
「奴もテレポーターではないかと考えられている。哿くんと同じ別次元を利用した座標移動なのか、もしくは切られた警察官のように空間置換移動のものか、あるいは他の系統か詳しい事は分かっていない」
「長官、大雨や雪の日の被害は?」
「良い質問だね哿くん。テレポーターにとって激しい雨雪は厄介なものだからね。座標移動系の場合は情報量が多すぎると出現位置がズレる場合がある。空間置換系の場合は操作を誤りやすくなる……首狩り斬鬼は雨の日には出現してない。そのことからもテレポーターである可能性が濃厚だ」
「長官わたしからも質問が」
アリナが静かに言った。
「なにかね?」
「今回も生かして捕らえるのですか?」
「当然だ。だが今回は痛めつけるなとは言わないがね」
「わかりました」
「ジェームズ長官私からも質問が。首狩り斬鬼は男性ですか女性ですか?」
フローレンスが言った。
「性別年齢全て不明だ。監視カメラの映像の姿は大きなロングコートにフードをかぶっている。身長もあてにはならない」
「神出鬼没の怪人ですか……」
「まさにその話題でマスコミが嗅ぎ付けようとしている。警察は情報規制に躍起になっているよ」
「被害にあった若者の共通点はありますか?」
「特には無い……無差別というわけではなさそうだ。二人組の一人だけが首を切られた例もある」
「そうですか……」
ジェームズとフローレンスの話を聞きながらアリナはじっとモニターに映し出された資料を眺めている。
「どうしたのアリナ?」
「……いえ、何でもありませんフロー。フランスにいた頃に似たような猟奇殺人事件がありましたので思い出していました。その犯人の手口は爆破でしたが。追い詰められたその犯人は最後に大勢の人を巻き込んで自爆。同僚は巻き込まれ死亡しました」
「オホン……首狩り斬鬼の情報は向こうの警察署にもあるからね確認しておくように」
軽く咳払いをした後ジェームズは葉巻に火をつけた。
屋上のヘリコプターに乗り込む三人。機内のモニターに資料が映し出される。
「……」
「どうしたのですかアリナさん?」
モニターをじっと見つめるアリナ、哿が聞く。
「首狩り斬鬼の担当警察官を見てまして」
「首狩り斬鬼に片腕を切断された警察官ですよね、何か気になることでも?」
「全国警察剣道大会の優勝経験がある人物ですね。名前は吉岡矗十郎(よしおかちくじゅうろう) 46 歳、警部補」
「はい」
「到着してまずは吉岡警部補に話を聞きに行きます。北海道警察とのやり取りは哿さんお願いします」
「あ、はい……今回は情報集めからですかアリナさん」
「ええ、ターゲットの居場所が分かっていませんので」
***
北海道警察のヘリポートに着陸する TMI の機体。到着してすぐに署長室に通される。
「署長の鷲塚だ。ジェームズ長官が何を言ったかは知らないが君たちは我々の指示に従って動いてもらう。単独行動は許さん、署の警察官と常に行動するように」
アリナは鋭い眼光を署長に向ける。
「な、なんだその目は!!小娘がこのワシを誰だと思ってる!!」
「吉岡警部補と話がしたいのですが」
「なにぃ!?そんな事するは必要ない!!さっさと資料を受け取って会議室で大人しくしてろ!!勝手に出るんじゃないぞ!!」
「……」
「わかったら返事をしろ!!」
「わたし達は警察官ではありませんしあなたの部下でもありませんよ。一般人に対してもこのような扱いをするのですか?」
ゆっくりと署長に近づくアリナ。
「だだだだ、だまれ!嫌なら帰れ!! TMI の手など借りずとも署の威信にかけて必ず連続殺人犯を捕まえてやる!!」
「署長、失礼します」
入ってきたのはダークスーツの背の高い姿勢の良い男性。
「上山君!丁度良かったこの者たちを連れて事件の詳細を説明したまえ」
「承知いたしました」
上山と呼ばれた男性はアリナ達に名刺を渡す。役職は刑事部長。
「上山です、さぁ別室で打ち合わせをしましょうこちらへ」
廊下を歩き一番奥の資料室の隣の部屋に入る。
「先ほどは署長が失礼を。この所ストレスで情緒不安定になってしまっているのです、お許しを。平常時ならああでは無いのですが」
「哿希世美です」
「終夜(よもすがら)アリナです」
「フローレンス・フランシスです」
「改めて自己紹介を。上山晴亮です。思ってた以上にお若い方が来られて驚いています。ジェームズ長官には以前お世話になりましてね。私の弟が能力に目覚め暴走に困っていた時に力になっていただいたのです。弟は日本の TMI 関連施設で訓練を受けています」
「そうでしたか」
哿は上山という名前に聞き覚えがあった。 TMI の施設は両親の元を離れ寮生活を送っている 22 歳までの少年少女が暮らしている。哿もそこで育った。
「署長はああいってましたが、あなたたちは基本束縛されることはありません。私への報告さえしていただければ自由に動いてもらってかまいません。ただ場合によってはこちらに行動を合わせていただきたいです。特別捜査官用の ID カードと連絡用の携帯を渡しておきます」
「ありがとうございます。それでこれからの行動ですが……」
「わたしは吉岡警部補と話がしたいです。それと……上山刑事部長、貴方も異能者ですね?」
アリナはじっと上山刑事部長に目をあわせる。
「これは参りましたね、その通りです。強度は低いですが一応異能者ですテレパス系の。少し離れた場所の会話が壁越しでも聞こえる程度のものです。頭の中まで読めればどんな犯人も追及できたのですがね」
「頭の中まで読める、そのようなことができるのは TMI でも 3 人しかいません」
「はは……そうですか。終夜アリナさんはお若いのに相当に経験を積んでいるようで」
「何故そう思うのですか?」
「鬼教官と呼ばれた方でさえもひるませそうな目力と圧を貴女から感じるので」
「わたしは首狩り斬鬼と警察が繋がっているという可能性も視野に入れています貴方もその対象です、なので観察しています」
「ほう」
「アリナさん!失礼しました上山刑事部長……」
哿は慌ててアリナの目の前で手を振る。
「吉岡は退院して今は自宅にいるはずです、彼の住所はここです」
データを送信する上山刑事部長、哿の PDA を覗き込み地図を確認する。
「ではわたしはこれで。後は哿さんとフローに任せます、連絡はします」
アリナは立ち上がると会議室を出ていく。
「……いいのですか?」
「ええ、アリナさんは止められません」
「よほどお腹がすいていない限りは」
続く
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