異能者特務機関: TMI 第 7 話「首狩り斬鬼 5 」
―俺は正義の味方だ。あいつもそう言ってくれた
―守れなかった。何が正義の味方だ。
―俺の憧れていた正義の味方は警察官ではなかった。
―悪は滅ぼさなくてはならない。好き勝手に蔓延るあいつらが許せない。
―俺の考えに賛同してくれる者がいた。ドンドン増えていった。
―力を貸してくれる者がいた。だから俺は、俺たちはそいつが望むものをくれてやった。
―首だ。法律で裁けない悪人の首を刎ねて欲しがるそいつにくれてやる。
―俺たちはブラックヴァリー。正義執行の為には手を汚す。血で塗れて染まろうとも。
―ブラックヴァリーの邪魔をするものは始末しなければならない。
能力制御の手錠をつけた吉岡警部補ら他二人を B チームに引き渡したアリナ達は発信機をつけたトラックを追う。サービスエリアで買い込んだパンとドリンクをアリナに与えるフローレンス。
「選んでる時間はなかったのアリナ、好きな物だけ食べて」
「大丈夫ですよフロー、ありがたく頂きます」
綺麗な所作でパンくずを一つもワゴン車に落とすことなく食べていくアリナ。
「トラックは利根別自然公園の中で止まりましたね」
「首狩り斬鬼……ブラックヴァリーにはまだ異能者がいる可能性があります」
「十分気を付けて行きましょう」
利根別自然公園の前で停車する TMI ワゴン車。ブラックヴァリーのトラックが見える。アリナはゆっくりとワゴンから降りる。哿とフローレンスは車内でガス銃を構える。
「……」
吹き矢がアリナを襲った。のどに触れる寸前でガントレットで受け止める。
「無駄ですよ。わたしの身体強化は筋力をあげるだけではありません、知覚も上げているのでわずかな動きも見逃しませんよ」
アリナはベヤリング弾を打ち出す。茂みから小さなうめき声が聞こえた。
「化物め……これがカテゴリー5か……」
別の茂みから姿を現したのは上山刑事部長であった。
「 B チームがあなたを監視してたはずですが」
「簡単な事だ。体格の似た部下に顔面の人工皮膚を被らせたんだこれが意外とバレない。有名な怪盗もこの手口を使っている」
「……」
「終夜アリナ、お前のおかげでブラックヴァリーはめちゃくちゃだ。たった一度会っただけで俺を疑い、二日でここまでやるとはな。舐めていたつもりは無かったがあまりにも予想外だった。俺はお前に会うべきでは無かった。警察内部の誰であろうと捜査を操れる立場の俺に逆らえる奴はいない。署長はカテゴリー0、異能者は全て俺がブラックヴァリーに取り込んだ。誰にも知られず誰にも邪魔されないはずだった…… TMI は適当なサイコパスを逮捕させ去ってもらう予定だった……全てお前のせいで狂った、だがもう終わりだ」
「ここで姿を見せて白状し迎え撃つということは、わたしに対抗できる手段があるという事ですか」
アリナは鋭い眼光を上山刑事部長に向ける。
「もちろんだとも……防衛省が極秘に開発した戦闘スーツだ」
上山刑事部長がコートを脱ぎ捨てると全身を包み込む金属製のスーツが現れた。
「ロケットランチャーの直撃、 2000 度の炎にも耐える。全身に鎮圧用の装備が仕込まれている。カテゴリー 5 に対抗するように開発されたのだ。更に!」
左腕に装着されたダイアルを回す。全身に張り巡らされたチューブが紫色に輝いていく。
「装着した異能者の力に反応しエネルギーへと変換するサイコパワーフレーム搭載だ」
ヘルメットを装着する上山刑事部長。
「そしてこのヘルメットはテレパスの影響を 99 %カット。テレパスである俺自身の能力も使えなくはなるがこの状況では関係ない。サイコパワーフレームは人間相手に使うのがこれが初めてだ。巨大熊も 6 秒で始末できた、お前は何秒もつかな?」
突進する上山刑事部長、右ストレートを繰り出す。アリナは左にスウェー左ボディブローを撃ち込む。上山刑事部長の体が浮き上がる。
「チッ!」
ジャブストレートのワンツーから左フック、右回し蹴りを繰り出す。アリナは全て躱し右回し蹴りが引くのに合わせて右ストレートを胸に打ち込んだ。たたらを踏む上山刑事部長。
「くっ……」
姿勢を低くしタックルを仕掛ける上山刑事部長。アリナは右腕を伸ばして首に巻き付け左腕は上山刑事部長の脇の下から滑り込ませて受け止める。そして締め上げながら後方に投げつけた。
「この程度でわたしに対抗できると?」
「このスーツは格闘戦だけのものではない、見せてやる」
両手を前に突き出すと上腕部から飛び出す銃口。弾丸が連続で発射される。アリナは両腕のガントレットで防いで接近。ワンツーから左フック、右回し蹴りを瞬時に叩き込む。上山刑事部長は地面を転げる。
「グウウウウウウ……お前俺と同じコンビネーションを……」
「わたしと同じカウンターはできませんでしたね」
「おちょくりやがって……」
「いいえ。そのスーツがカテゴリー5に対抗できるというのなら、わたしと同じ事ができるのではないかと考えただけです」
「次はこうだ!」
スーツの掌から火炎を放射する。大きく跳躍したアリナは空中から右踵を落とし、首に右足をかけたまま左腕を掴み包み込むように体を滑らせ挟み込むように右膝を顔面に打ち込む。そして一気に左腕を捻りあげて頭部を地面に叩きつけた。
「何……」
「さぁどうです?この動きがあなたにできますか」
「大した格闘技術だがこのスーツを着ている俺にダメージは無い。そんな動きが出来たところでダメージが入らなければ意味は無い!できる必要など無い!!」
「そうですか、ならば」
片手で上山刑事部長を空中に放り投げるアリナ。落ちてきた所に正拳突きを叩き込む。上山刑事部長は弾丸めいて水平に吹き飛んで電柱に叩きつけられる。電柱は折れ上山刑事部長は勢いあまって錐もみを描いて地面を転がった。
「がはっ……スーツの損傷率 67 %だと !? たった一撃で……」
「次の一撃は更に強度を上げます」
歩いて近づいていくアリナ。
「……だがこのスーツは単体だけの性能ではない!」
左手のダイヤルを操作すると後方のトラックが変形し人型の作業用重機に。上山刑事部長はそれに乗り込む。
「これだ!このパワードフレームローダーは米国と共同開発された軍事用スーツと連動し自分の体のように操作できる、戦車に代わる新たな戦力だ!!」
パワードフレームローダーの右手をアリナに向ける。
「くらえ!!」
パワードフレームローダーの拳が発射される。ワイヤーの着いた直径 50cm の金属の拳がアリナに襲い掛かる。
「……」
ガントレットの十字ブロックで受け止めるアリナ、衝撃で1 m ほど下がる。金属の拳はワイヤーで巻き取られ腕に収まった。
「このロケットパンチを受け止めただと……それなら次は」
パワードフレームローダーの背部装甲が開くとミサイルが4発上空に向けて発射、空中で分解し火の玉となって降り注ぐ。
「どうだ!」
アリナの周囲が火の海と化す。
「度し難いですね、こんな兵器を対人で使うとは。ブラックヴァリーは大量殺人集団以外の何者でもありませんね」
アリナが足を振ると周囲の炎は全て消し飛んだ。
「馬鹿な……焼夷弾は身体強化で防げるようなものでは……」
「ベヤリング弾で軌道を反らし落ちた焼夷弾は地面を捲りあげ吹き飛ばしただけの事」
「うおおおおおおおおっ!!」
パワードフレームローダー突進させ両腕でラッシュを仕掛ける。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねー!!ブラックヴァリーの正義の為に!!」
「……」
ラッシュに合わせアリナは拳を連続で叩き込む。
「パワーは互角のようだなカテゴリー5!」
「互角?わたしが全力を出しているとでも?」
拳の打ち合いの衝撃でパワードフレームローダーの両肘が崩壊していく。
「くっ……まだだ!高速徹甲弾で砕け散れ!!」
後ろに飛ぶパワードフレームローダー。肩から砲門が伸びアリナをロックする。対するアリナは右腕のガントレットのアンカーボルトを拳にセットする。
「高速徹甲弾発射!!」
「はっ!」
高速徹甲弾を左手で受け止め受け流すように右足を軸にして回転。回転しながらアンカーボルトの拳を高速徹甲弾の後部に撃ち込むアリナ。砲弾が割れ弾芯が飛び出し、パワードフレームローダーの左脚部に命中した。
「何が起きた!?……左脚部損傷だと?」
「アンカーボルトセット」
アンカーボルトを交換、今度は両拳にセットするアリナ。
「まさか砲弾をはね返したのか?それがお前の全力か……」
「いいえ違います、アンカーボルトに頼っただけの事。全力を出す時ではありませんので」
「くそっ……」
「終わりです」
「お前は無理でもワゴン車に乗ってる仲間だけでも道連れにしてや……」
パワードフレームローダーの右腕部が千切れ飛ぶ。一気に踏み込んだアリナがアンカボルトの左ストレートで破壊した。
「なっ……」
続いて右ストレートで左腕部が吹き飛ぶ。仰向けに倒れるパワードフレームローダー。アリナは取りつき装甲を引きはがして上山刑事部長を引きずり出した。
「ひぃ……や、やめ……てくれ……」
「確保するだけですよ。まさかわたしがお前を殺すとでも?ありえませんね、わたしが殺すと決めているのはただ一人だけです」
「だ、誰なんだそれは……」
「おまえに言う必要はありませんよ。ところで……ホテルを襲撃したブラックヴァリーの近くにお前はいて能力で指示を出していましたね?それと狩った首はどうしてたのです?」
「ふ……そこまで分かっていたのか……そうだ俺はお前らの部屋の隣にいて暗殺の命令を出した。首はスポンサー……に渡した。そいつはブラックヴァリーに出資、支援する代わりに首を欲しがった。目的は知らない……ここで俺を逮捕したところでブラックヴァリーのメンバーは残っているそして増え続けるだろう止められはしない。ブラックヴァリーは作戦指揮官は居てもボスの存在は不明だ、俺は作戦指揮官にすぎない」
ひきつった顔で上山刑事部長は答える。
「スポンサーに会ったことは?」
「誰も会って無い、いつも違う代理人を介してやり取りをしていたからな。ブラックヴァリーの立て直しには時間がかかるだろうが必ず復活する。お前に対抗しうる異能者や兵器を集めてな……」
「気絶させる前にもう一つ、カテゴリー 6 の話を聞いたことは?」
「カテゴリー 6 だと?そんなものは聞いたことがないお前で 5 なら 6 はどんな奴なんだか……」
「そうですか……」
アリナは脳震盪で上山刑事部長を気絶させ戦闘スーツを剥ぎ取りワイヤーで縛り付ける。
「哿さん、フロー、制圧完了しました」
「お疲れ様……他のブラックヴァリーのメンバーは姿が見えませんね」
銃を構えワゴン車から降りる哿。
「気配は感じませんね」
フローレンスも銃を持って降りてくる。
「他のメンバーはここで解散したという事でしょう。どうしますか哿さん」
「上山刑事部長を確保して長官に報告します」
テレポートで上山刑事部長を拾いワゴン車に乗せる哿。ジェームズと通信をする。
『早いねぇ~……もう首狩り斬鬼事件の首謀者 4 名を確保とは。ブラックヴァリーとやらの異能者はその 4 名だけとは限らないけど一段落着いたね』
「長官、次はどうすれば?」
『上山刑事部長を B チームに引き渡してとりあえずは……待機だ。捕まえた 4 名の異能者を尋問しなければならないからね。まぁ 1 日はかかるだろうその間は休みだね』
「長官」
アリナが割って入る。
『なんだねアリナくん』
「ブラックヴァリーの背後にいるスポンサーが気になります。この者の捜索を」
『放っては置けないね、でもそれはアリナくんの U チームが担当するかはまだ決めてないよ』
「しかし長官」
『……アリナくん、私を信用して待ってくれないか?焦る気持ちはわかるけどね。もしカテゴリー 6 の手がかりとなるのなら君個人の問題だけではすまないのだから』
「……はい」
『さぁ後は本部で報告を聞こう、ジンギスカンを好きなだけ食べてくるがいい』
***
「追加のオーダーお願いします。ラム肉 5 皿、スープ、野菜盛り合わせ 5 皿で」
アリナは 20 皿目のラム肉を鉄板に乗せながら言った。
「ブラックヴァリーとは結局何だったんですかね……」
哿が焼いたもやしを食べながら言った。
「ニンジャとか?いえ、ジョークではなく今時の忍者みたいなものかと思いまして。アリナはどう思う?」
フローレンスがホルモンを食べながら言った。
「ニンジャがいてもおかしくは無いと思いますね。ただ、ブラックヴァリーは壊滅させる必要があります」
「うんうん」
「忍者ですか……そうですね超能力者いるんですから居てもおかしくないですよね。そういえば B チームからつい先ほどメッセージが届いたのですけど……」
「どんなメッセージなんですか?哿さん」
アリナは届けられた皿を受け取りながら言った。
「アリナさんの今回の戦闘記録を訓練施設の子供たちに見せて良いか?ですって。アリナさん人気だから……」
「早乙女ルキナのようにわたしに挑んでくる者もいるくらいですからね」
「あの人はちょっと特殊で……他は純粋なファンじゃないですかね」
「まぁ良いですよ、施設の子供たちに見せても。そう返事しておいてください」
「はい!」
続く
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