異能者特務機関:TMI 第 27 話「アポカリプス3」
アリナは哿、フローレンスと合流し B チームに後を任せ支部に戻る。そこにはイグネイシャスと相方のナターシャが待っていた。
「戻ったね、今世界中のTMI支部が大混乱だ。本部もゴタゴタしててね、日本支部は代理で俺が指揮することになった。代理の長官の代理って所だ」
イグネイシャスは大きくのけぞった姿勢で座っていたがゆっくりと立ち上がりナターシャに目配せをして頷く。
「注目してください。念爆者からのメッセージを先ほど全世界のTMIに向け送信しました、その動画を再生します」
ナターシャはタブレットを操作する。
『 TMI 全世界支部の諸君、儂はサイコボマー(念爆者)!突然の世界中の爆発驚いただろう?これはほんのあいさつ代わりだ。その気になれば全世界を吹き飛ばすことも可能だという事は知ってるだろう?潜伏期間にありとあらゆる都市に念爆を仕掛けておいた。後は発動させるだけ。儂の異能は進化している、今は全世界に仕掛けることが可能という訳だ。このメッセージは君たちに宣戦布告をするものではない、共に協力し世界を救おうじゃないかという申し出だ。儂とて世界を破壊したいわけじゃない、現に破壊したのは治安の悪化がひどい犯罪街だ。儂だけで世界を救うには人類の半数が犠牲になる可能性が高い。しかし、諸君ら TMI が協力すればもっと少ない犠牲で済むだろう。強制はしない、 1 週間待とう。それまでにいい答えが聞けなければ儂は全世界救済計画を進める。対立するのなら TMI 本部を見つけ出し爆破しよう、以上だ』
念爆者杉田幻赫は白の壁を背に、ゆっくりと手ぶり身振りを交えながらハッキリと言い放った。
「これは!?」
哿はタブレットに近づき声を上げた。
「昨日捕らえたサイバネ戦闘員が音声データを持っていたんだ。今日本各地で暴れてる奴らっすね」
「ブラックヴァリーとはまた違うのですね」
「戦闘員らは『選ばれし戦士』と自らを称しているんすよ。念爆者を神の使いとまであがめているって所っすね。菊彩学園を襲ったアトラースって男もそれっす」
「神の使いって……マインドコントロールでもされてるのでしょうか?」
「検査にかけたがそうではないらしいっすねぇ。戦闘員の殆どは外科医でもある念爆者の元患者、関係者ということが分かっています。虹色の光事件以降急激に増えている新型悪性腫瘍の影響により全世界でのサイバネ人口は爆発的に増えたのは皆さんもご存じっすよね?」
「はい」
「新型悪性腫瘍は転移こそほぼしないんすが進行は驚くほど速くしかも骨と神経から蝕むもの。取ってしまえば再発は無いがどうしても欠損してしまう。だからサイバネ技術が発展した、今や 50 人に 1 人がサイバネ手術を受けている時代っす。まぁ悪用して武装にする奴らも出てきたんすが……」
「新型悪性腫瘍の事は皆学校で習うので知ってますよイグネイシャスさん。それと念爆者と何が関係ありますか?」
「新型悪性腫瘍は異能者には発症しないんすよ。世間には公表されてないです。一般人の言うエスパー、 TMI で言うカテゴリー1の人らの事なんすけどその人らの中にも新型悪性腫瘍の発症者は居ない異能の強度に関係なく発症しない。そこに目を付けたのが念爆者。奴は人工的に異能者を作り出すことに成功した。すでにサイバネ手術を受けた者の家族やその恋人、サイバネと化した者にも部分的クローンを用いて肉体を再生し再発防止に異能を与えたりしてるという事なんすよ」
「??じゃあ戦闘員がサイバネなのは単純に武装化するために自ら希望して再サイバネ化したとでも?」
「そう、その手順を踏めば異能者であってもサイバネ者という人間が出来上がる。カテゴリー1の異能はティッシュを浮かせたり暗い所で見えるようになったり豆電球を発光させたりする程度、精々人に見せて楽しませてるくらいの物だから、戦闘に使ったりすることはできないんすよね。つまり戦闘力を上げるためのサイバネ化」
「部分的クローンも皮膚とか臓器のごく限られた部分しか認められてないはずですよね」
「技術的には完全体クローンも可能なんですよね、だれも言わないっすが」
「あと、気になったのは念爆者の人類の半数が犠牲になるかもしれないという発言。あれは一体…… TMI に協力させる理由とは……」
「念爆者の企みはハッキリしないんすが……一つ奴にはできないことが分かってるっす」
「それは?」
「本部の爆破はまず不可能という事」
イグネイシャスは片手を広げて爆発のゼスチャーを見せた後、首を振った。
「そうなんですか?上空 1 万メートルに浮かんでいる本部が?」
「上空 1 万メートルに浮かんでいることは確かなんすが、それを実際に外から見た者は居ないんすよ。何故だか分かりますか?」
「ステルス機能が付いてるとか?」
「いえもっと驚く理由っす、実は別次元にあるんすよ。そして本部自体が異能者なんです。支部の部屋から本部までテレポートできる理由はそれっす、本部が判別してテレポートさせているという訳」
「え!別次元!?それに本部は生きている……?」
「詳しい事はわかんないんすが大体そんなところみたいっす。だからまぁ本部に居れば一応は安全っすね」
「あ、だから昔あった異能者大戦でも本部は無事だったのですか」
「らしいっすね、実はこの事は昨日知ったばっかりで長官から聞いたものです」
「……イグネイシャスさん、念爆者の居場所はどこですか?」
それまで黙っていたアリナが言った。
「ああ、そうだねそれも言わなきゃね。ナターシャちゃんお願い」
「はい」
ナターシャはタブレットを操作して天気図を立体的に映し出す。
「奴は奄美群島付近に発生した瞬間最大風速がハリケーン並の超大型台風の中心にいます」
「どういうことです?」
「ハリケーン台風の中心に見たことも無いほど巨大な影があってそこに奴の反応あるんすよ、それが何なのか衛星の高感度カメラでも分からなかったんです」
「巨大な影?何かがハリケーン台風の中心に浮いているとでも?」
「影の形から想像するに船、空母……なんだけど海からは浮いている。一応確かめる案はあるんすよ、セレスティア博士の開発した飛行型戦闘スーツで上空からハリケーン台風の中に飛び込み風の流れに沿いながら中心に向かって接近するってのが。ただ、これはシミュレーションでの話。実際問題あの風の中で平衡感覚を失わずに飛び続けるのはとても難しいだろうね……となると、海中から中心を目指すか」
「わたしは感覚を強化すればどのような体勢になっても平気です」
「そうだろうけど……戦闘スーツに不具合が生じた時飛べないアリナちゃんはどうしようも無くなるっすからね。テレポートも暴風域層の距離がありすぎてあまりお勧めできないし哿くんも止めといた方がいいっすね」
イグネイシャスはタブレットを操作してシミュレーションの映像を見せた。
「では暴風を制御しながら飛行能力もある異能者が適任と?」
フローレンスがアリナの横から言った。
「暴風圏内を通り抜ける方法ならそうだねぇ……海中からの突入は遠隔操作の飛行ユニットで試みるつもりっすよ」
***
―アメリカ合衆国ニューヨーク
バクテリア事件の直前から始まった変異モンスターとの戦闘は尚も続いていた。
「奴ら……進化している!」
TMI アメリカ支部長のハリー・ハーマンは上空から街を進むモンスターらを眺め言った。ハリーの異能はサイコキネシスによる強化。終夜アリナとは違い異能の力を全身に纏い操作することで飛行も可能、異能発動中でなければ一般人と変わらないところであった。
「 GUAAAAAAA ……」
厳戒態勢が敷かれ街は封鎖されている。バクテリアによる生物の狂暴化ゾンビ化はワクチンにより一時鎮静化の兆しを見せたが行き渡る前に再び拡散し始めた。その中にスーパークリーチャーと呼ばれる巨大化狂暴化した個体が現れ始めた。
「念爆者との決戦が迫っているというのに……」ハリーは耳にかけた小型カメラを操作しながらつぶやいた。
軍隊の導入もされたがバクテリア感染した者に乗っ取られ始め更に被害を拡大する結果となった。
「鎮静化の方法を見つけなければ空爆によるニューヨーク殲滅作戦を大統領は開始すると言っている……」
ハリーは支部の人間と通信を繋げながらニューヨークを飛び回り生存者を探す。
「ん?なんだ?」
ハリーの眼下に痩せた肌色が悪い少女がフラフラと歩いていた。ハリーと驚かせたのはバクテリアモンスター達が彼女を避けていると光景であった。
「何故だ?あの子を避けている……どういうことだ?異能者か?」
観察を続けるハリー。少女はふらつきながらゆっくりとバクテリアモンスターの群れをかき分け進む。
「……」
巨体のバクテリアモンスターを前にした少女は右足をあげる。すると裾から緑黒の触手が複数伸び巨体のバクテリアモンスターに絡みつく。
「 GUAAAAAAAAA! 」
バクテリアモンスターは触手を引きちぎりにかかる。触手は分裂しモンスターの口から侵入。のたうち回るモンスター、やがて糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
「!?」
モンスターの口から緑黒の液状の物体が飛び出しそして少女の裾に戻る。
「徹底的に身体破壊しなければ活動停止に追い込めないバクテリアモンスターをあんなにあっさり……周りのバクテリアモンスターも彼女に襲い掛かる様子はない」
『ハリー支部長、どういう状況です?』
チームエンジェルの早乙女ルキナの声が通信機から聞こえた。
「おぉすまない、映像を送るよ」
ハリーは通信機を操作して映像を送る。
『あの女の子が?』
「ああ、とりあえず保護しようと思う。ルキナくん、君たちチームエンジェルはどうだね?」
『シェルターの周囲に集まって来てたバクテリアモンスターは片付けたわ』
「では支部に戻ってきてくれんか?この少女を連れていく」
『大丈夫ですの?』
「細心の注意を払うつもりだよ」
***
― TMI 日本支部
イグネイシャスとナターシャが本部に戻った後三人はシャワーで汗を流し、食堂で軽食を取っていた。
「期限は 1 週間……」
哿は冷凍パスタをフォークで巻きながら言った。
「念爆者は潜伏期間の間は日本にいたはずですが、設定した念爆物は世界中にばらまかれていたようですね。実際の爆弾とは違い何の変哲もない荷物などを念爆物に変えて部下にばら撒かせていれば分かりようがないです……」
フローレンスはシチューを口に運びながら言った。
「念爆者に近づくためにはやはりエアロキネシスの力が必要です」
アリナは 5 つ目のハンバーガーを食べ終えた。
「そうですね、アリナの言う通りハリケーン台風の風に対抗できる異能者となればエアロキネシス、そしてカテゴリー4数人か5が必要ですね」
「チームエンジェルは呼べないのですか?哿さん」
アリナの質問に少し困った顔をする哿。
「僕もチームエンジェルがハリケーン台風の調査に適任だと思います、でもアメリカもハリケーンの他にバクテリア変異モンスターが暴れててチームエンジェルは必要なんです……人手が足りていないのです。向こうは日本よりも異能者犯罪が多く、 TMI エージェントチームも 4 つあります。その下で動く調査員や戦闘員も民間の会社から派遣して対応してるのですが……」
「世界の危機が迫っているのです、どうにかならないのですか」
「この前の北海道の TMI 研究所調査でチームエンジェルがとても危険な状態になった事でアメリカ側は慎重になっているのもあります。イグネイシャスさんに聞いたのですが、向こうのスポンサー企業や議員の説得に時間がかかってるとの事。長官も大統領と話をしようとしていますが周りが中々そうはさせないみたいで……あちらとしては、貴重なハリケーンに対抗できる異能者を失う訳にはいかないし、北海道施設での借りがあるからむしろ合衆国に協力しろって感じらしいです」
「……借りなんていくらでも念爆者を斃した後に返してあげます。今、どういう危機が迫っていて何を優先するべきか。世界中の TMI が一丸となって考えて行動すべきですよ!」
アリナは少し声を荒らげて言った。
「ですよね……僕も悔しいです」
哿は唇をかみしめる。
「彼らにとっては遠く離れた小さな島国での出来事でいざとなれば核兵器でも何でも使ってハリケーン台風ごと吹き飛ばせばいいくらいに考えているのでは?」
フローレンスの眉間に皺が寄っている。
「そうさせない為にもチームエンジェルの力は絶対に必要です……なんとかチームエンジェルの力を借りることはできないのでしょうか?」
哿に言っても仕方のない事だと分かりながらも口にしてしまうフローレンス。
「北海道の研究所で早乙女ルキナが苦戦したのは場所が狭いだけが理由ではありません報告書にはそのように記載されていましたが彼女は狭い場所であってもその気になれば生物相手に後れを取ることはありません」
アリナは二人を見て言った。
「大気の濃度を変えれば対象が生物の場合はほぼ即死、わたしでも油断はできません。早乙女ルキナは兵士として戦うにはやさしすぎるのです。そのくせ負けず嫌いなところはあります、以前彼女に勝負を挑まれましたが全てスポーツやゲームでした完膚なきまでに叩きのめしましたが再戦の意欲は失っていないようでした」
「非情になり切れなくて負けず嫌いの早乙女ルキナさんは自分を追い込んでしまって研究所での戦闘で危険な状態に陥った、だけど今回は……戦う訳じゃないから早乙女ルキナさんらチームエンジェルは安心して全力を出せるとアリナは言いたい?」
「ええ、チームエンジェルは対自然災害や人命救助にこそ本領を発揮します。今回はわたしを、わたし達を運ぶためのルート確保です。戦闘は最低限で済むと思います」
「……チームエンジェルのカレンさんが危険を予測してハリケーン台風の風をルキナさんが突破してマイケルさんがアポートで呼べるだけの戦力を転送してくれれば理想ですよね?」
哿は二人を見て言った。
「敵の空母(仮)の迎撃装置がどのような物か分かりませんが、セレスティア博士の戦闘スーツを着ますし前回よりは怪我の危険性は低いと思います」
三人が話していると扉の近くに気配を感じ一瞬で戦闘モードにはいるアリナ。
「……長官とイグネイシャスさんですか」
「立ち聞きをするつもりは無かったんだがね聞かせて貰ったよ」
「いや~ごめんごめん……三人の話が正に今から話し合おうと思っていた内容だったからつい、ね!」
長官ジェームズはゆっくりと歩き葉巻を取り出す。イグネイシャスは指先の炎でそれを炙り火をつけた。
「ふ~……君たちの希望は叶った、チームエンジェルを呼び寄せる事になったよ」
「長官」「長官!」「長官……!」
アリナ、フローレンス、哿が声を上げた。
「アメリカも大変なんだけどね、どうにかこうにかあらゆるコネを使ってホワイトハウス側を納得させたよ。大きな借りと胃に穴が開くほどのストレスだったがね」
「チームエンジェルが抜けて大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。いつでも動かせるとも哿くん。それは問題ない、他にはあるけどね」
大きく煙を吐き出すジェームズ。
「問題とは……セレスティア博士のことだよ」
「?……セレスティア博士が??」
「彼女の行動に妙なものを感じて本部でも監視していたんだ。決定的なものは何も出て来なかったがこれまでの事を合わせるとねぇ」
ジェームズは哿から茶を受け取る。
「首狩り斬鬼事件の犯人が使用していた戦闘スーツとバクテリア事件の起きた研究所の戦闘スーツ、アメリカでテロが起きた時に現れた戦闘スーツ、そして電人 G の時に操られていた戦闘スーツ、これらすべて分析した所同じメーカーだったよ。まぁ基本パーツがって話なんだが」
「は、はぁ……」
続く
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