異能者特務機関:TMI 第 29 話「ラグナロク」
―念爆者の世界救済計画まであと 4 日
TMI 日本支部ビルの屋上に着陸したジェットヘリ。物資と共にセレスティアの戦闘スーツが届いた。 TMI の作業ロボットとジェットヘリから降りた研究員が運び出す。
「ごきげんよう TMI の皆様……この強風、ハリケーン台風の影響が出始めていますね」
ジェットヘリの貨物室から降りてくる戦闘スーツの女性。展開し中からセレスティアが現れた。強風で金髪が揺れている。
「や、どーもセレスティア博士。ハリケーン台風は明日の正午ごろに那覇市に到着するとの事っす。進路予想はそのまま本州を横断するように北西に移動だと発表されていますしかし……」
イグネイシャスは逆立った赤髪をかきながら続ける。
「ハリケーン台風の中身は念爆者の空母っすから天気予想はあてにはならない……それっぽく動いてるだけでいつ進路を変えるかわからないっすね」
「日本の主要都市を全て通るつもりでしょう。期限の4日後には東京上空に位置するかと」
「ええ、だから到着する前に全て終わらせるんすよ。とりあえず中にどうぞ、そこで難しい顔してるアナスタシアちゃんも」
「では」
「分かっています!」
アナスタシアはイグネイシャスを睨みつけた。
「訓練生時代の同期だからといって勘違いしないで欲しいわねなれなれしい」
「仲良くして悪いって事はないっしょ?国同士の付き合いでもないし」
「私もそのうちカテゴリー5になって追いつく、いつまでも上からものが言えるなんて思わないことね!」
「ああ、覚えておくよ」イグネイシャスはアナスタシアのすぐ横に歩み寄る「……博士の様子はどうだった?」
「……隠しているわ異能力を。あれはカテゴリー3なんかじゃないわよ、どういう理由なのかは分からないけど」
「そうか……引き続き頼むよ。くれぐれも短気を起こさないようにね」
「そういう言い方が嫌なのよ!」
アナスタシアはイグネイシャスを押しのけてセレスティアに付いていく。
「やれやれ……ん?なんだ??」
ビル屋上に突如出現した無数のドローン。イグネイシャスは一瞬で戦闘態勢に入る。
「ちっ!」
イグネイシャスは両指から炎弾を発射、ドローンを撃墜していく。炎弾の直撃を免れたドローンがレーザーを放ってくる。
「やべぇ!皆伏せろ!!目を守れ!!」
レーザーを放ちながら作業員、コンテナに迫るドローン。
「しまった!!」
取りついたドローンは一斉に自爆、屋上は爆炎に包まれる。作業員は吹き飛び、コンテナの半数は破壊され戦闘スーツの残骸が散らばっている。オートガードで防いだイグネイシャスは煙の中から一人の男が現れたのを見た。
「ヘーパイストス参上!!」
男の足元には灼熱の溶けた物質が溜まっていた。
「何者だっ……と聞くまでもないか、異能兵士の一人だな?」
「神に選ばれし戦士の一人ヘーパイストス!!今日ここで TMI 日本支部は壊滅だ!」
ヘーパイストスの足元の灼熱の塊がうねり、蛇のようにイグネイシャスに襲い掛かる。
「おっと……パイロキネシスの俺にその異能は相性悪いんじゃないか?」
苦もなく弾くイグネイシャス。その様子をみたヘーパイストスは笑みを浮かべる。
「いいや!好相性だ!!貴様に対抗するには我こそが最適!!」
数本の灼熱の帯がイグネイシャスの襲い掛かる。今度は弾かずに回避する。
「相性が良いだって?それにしてもお前ひとりで乗り込んできてどうにかなるとでも?」
「フン、我の任務は貴様の始末のみ!他の任務の事など知るか!!」
「(他にもこの日本支部に送り込んでくるって事か。マズイっすな、思ったより敵はこちらの動きに敏感だ)」
騒ぎを聞きつけた警護の人間とアナスタシアが戻ってきた。
「アナスタシア!来るな!!下にいる日本支部の皆に連絡しろ!!あいつは俺が何とかする!!」
「いいえ!ここであなたをサポートする!!またここで後悔したくないの!雷帝兄様に付いて行かなかった事を私はずっと後悔してるの!!」
雪の結晶を纏うアナスタシア。
「だったら警備のアンタ、連絡頼むぜ!」
「ハイ!!」
アサルトライフルをもった警備の男は踵を返しビルの中へ戻っていく。
「イグネイシャス、私に反対しないのね」
「ここで反対するような男じゃあないっすよ俺は!」
灼熱の帯を振り回すヘーパイストス、残っているコンテナの破壊にかかる。だが灼熱の帯は砕け散る。
「させませんわ!」
アナスタシアの出現させた鋭い氷柱によって灼熱帯は下から切断されたのであった。
「フン、火と雪のコンビか」
灼熱の帯を縮め足元に戻す。
「アナスタシア、奴の異能なんだか分かるか」
「操作系かしら……切断した感じでは金属っぽかったわ」
「パイロキネシスの俺に対して有利だと考えてるって事は同じ系統とは考えにくいよな」
ヘーパイストスは体の全面に灼熱の壁を作って突進。避けるイグネイシャスとアナスタシア、すれ違いざまに炎弾と氷片を投げつけた。炎弾はヘーパイストスの帯に吸収され、氷片は突き刺さった後に砕け散る。
「なるほど……」
「??効いて無いじゃない!」
「そうだけど何とかなりそうだ、とりあえず牽制しながら奴の攻撃は慎重に回避するんだ」
アナスタシアは床を凍らせながら鋭い氷刃を走らせる。飛び上がったイグネイシャスはバレーボール大の炎弾を投げつける。
「フン!ハァ!」
灼熱帯を振るい氷刃と炎弾を砕いて吸収する。その後距離を詰めながら二人に攻撃する。イグネイシャスは空中で回避、アナスタシアは氷壁で受け流した。
「さぁもっと攻撃してこい火使い!無駄だと知れ雪使い!!」
「アナスタシア、奴を一瞬で包みこむ氷結をやってくれ」
「ええ!」
両手を前に突き出すアナスタシア、それを見て攻撃を仕掛けるヘーパイストス。イグネイシャスはアナスタシアを抱えて飛び上がる。
「~~っ!」
「集中して!」
雪の結晶がヘーパイストスの周囲に出現、一斉に冷気を放つ。すさまじい水蒸気の白煙が巻き起こる。
「ぐぐ……」
ヘーパイストスの灼熱帯は黒く変色し硬化、完全に動きを停止させている。
「……母様のようなカテゴリー5のフロストキネシスならもっと一瞬でもっと低温で放てるのに」
「十分っすよ」
イグネイシャスは転がっていたコンテナの破片を拾い投げつける。炎の噴射で加速した破片は固まっているヘーパイストスに命中。
「おのれぇ……この程度で我は倒れん!」
のけぞった状態から体を戻すヘーパイストス。手を上げて合図をするとビルの屋上に二人の黒戦闘服ブラックヴァリーが現れた。そして二本の筒をヘーパイストスに投げ渡した。
「!?」
「雪使い、お前の力を侮っていた。だがもうこれで終わりだ」
二つの筒を開けた。2種類の金属の粉末がヘーパイストスの足元で混ざる。
「ちっ!」
炎弾を放つイグネイシャス。一瞬早く金属粉末から火柱が上がりかき消した。硬化していた塊は再び灼熱の帯となり蠢き始める。
「瞬殺させてもらう!」
灼熱の帯がアナスタシアに向けて伸びる。反射的に氷壁を出現させ受け流す。上に逸らされた灼熱の帯は再びアナスタシアを狙う。
「うっ……」
アナスタシアの足に銃弾が命中。消音器拳銃をブラックヴァリーが構えている。
「クソッ!」
火炎放射でブラックヴァリーを焼き払うイグネイシャス。もう一人のブラックヴァリーも炎弾で撃ち抜いた。
「死ねい!」
振り返ると足を撃たれ倒れているアナスタシアに灼熱の帯が振り下ろされようとしている。
足の激痛。
集中を乱される。
ここが限界。
死。
アナスタシアの脳裏を様々な思考が駆け巡る。
今は亡き両親と意識不明の兄の顔が浮かぶ。
ここで終わりたくない。
こんな最後認められない。
私が死ねば家は終わり。
「あああああああっ!!」
アナスタシアの全身から夥しい量の氷片が放たれる。直撃を受けたヘーパイストスは床に転げた。ゆっくりと立ち上がるアナスタシア。凍り付いた弾丸が足から排出され傷は氷でふさいでいる。見開かれた目は薄水色に光を放っていた。
「まさか……カテゴリー5への覚醒か」
イグネイシャスがつぶやいた。自分自身がカテゴリー5へと覚醒した時の事を思い出していた。
「フン、この程度の攻撃なんでもない。雪使い、お前の攻撃では今の俺を止めることはできぬぞ」
「黙りなさい!私は雪使いじゃない!!氷の女王よ!!」
アナスタシアの手からレーザーめいた冷気が放たれる。灼熱の帯の一本は瞬間で凍結し黒く変色、動きを止めた。
「何っ!?だが凍る前に……」
「凍る前に何かしら?その体で何をどうすると??」
前に進むヘーパイストスの足は既に凍結し膝から下は無く砕け散っている。アナスタシアはレーザーめいた冷気と同時に足からも冷気を放ち床からの同時攻撃を行っていた。
「な……なん……だ……と」
倒れるヘーパイストス、音を立てて全身が砕け散る。
「アナスタシア……ちゃん」
「……」
目から光が消えその場に座り込むアナスタシア。イグネイシャスは駆け寄って体を支える。
「やっぱりな、覚醒直後は体が慣れてないからこうなるんだよな」
「……だ、だからそういう上からの言い方をやめなさ……い」
***
アリナらが屋上駆けつけた時には既にヘーパイストスは凍結し倒れる寸前であった。周囲を警戒し破壊を免れたコンテナを運び出す。
「無事だった戦闘スーツは3体……ギリギリの数っすね」
イグネイシャスが言った。
「早乙女ルキナ、マイケル・カルーヤ、終夜アリナ3名の分ですね」
戦闘スーツをチェックするセレスティア。
「破壊された物も使えるパーツを組み合わせればあと何体か仕上げられますね。幸い死者は出ませんでしたのでフローレンスさんの力で回復後、作業に戻れるはずです」
「博士と戦闘スーツを本部に運べれば安全なんすがね……」
イグネイシャスは頭をかきながら長官ジェームズを見る。
「本部へは本部のコンピューターが認めた者しか入れない」
「ですよねぇ」
「日本支部の場所が敵に知られた今、移すべきかと」
治療を終え戻ってきたフローレンスが言った。
「……ふむ、一応日本支部の設置場所はもう一か所あるがそちらも安全かどうか。大戦の時からこの2ヶ所は同じ場所だからね」
「新しい場所は設置できないのですか?」
「今から入れる場所か……心当たりはあるにはあるがちょっと待ちたまえ」
ジェームズは携帯端末を取り出し電話をかける。
「私だジェームズだ。……あいさつはいい、急なお願いがあってね……詳しい事は後で話す、とりあえず例の地下施設使わせてもらえないかな?……………今すぐにだよ。20名ほどと物資があるんだ…………三日間だけでいいんだ」
数分の間交渉を続けるジェームズ。
「諸君、なんとか行けそうだ。大阪城からそう遠くない所だ。私は本部にいったん戻り転送の手続きをしてくる」
消えるジェームズ。アリナは自分用に作られた戦闘スーツを眺めている。
「どうですかアリナさん」とセレスティア。
「良い色です」
「アリナさんのガントレットブーツの装甲を参考にしました。気に入っていただけで何よりです。そのスーツは通信機能の他は飛行、潜水に特化しています。余計な武装は貴女には邪魔と判断しました。敵空母に到着後外したら搭載された AI にその場に待機させておいてください。帰りにまた装着してください」
「作戦は少し変更になりましたねセレスティア博士」
「ええ、ほとんどのドローンと戦闘スーツを失ってしまった今、早乙女ルキナさんの突入にかかっています。成功後マイケル・カルーヤさんのアポートでアリナさんを始め戦闘員を送り込む。場合によっては私も空母に突入します」
「明日到着予定の全世界から応援に駆け付ける TMI のエージェントはハリケーン台風を解除してからでなければ脱出できなくなりましたからセレスティア博士の力は必要になって来ると思います」
「疑問なのですが、マイケル・カルーヤさんの他にはアポート異能者はおられないのですか?」
セレスティアの質問にイグネイシャスが反応する。
「何人かはいるっすね。結構レアな異能なんで少ないのとマイケルより優秀なアポート異能者は居ないんすよ。物資だけとか時間がかかるとか……そういう理由です。マイケルもカテゴリー5候補ではあるんです」
「ではもしマイケルさんに何かあったら?」
「長官が無理してでもやるしかないっすね。それは最後の最後、他の方法も考えてるんで」
「そうですか、いえ私もその時は出来る限りの協力をいたします」
アリナと目を合わせるセレスティア。アリナはセレスティアの目を見た後、イグネイシャスに向けてゆっくりと頷いた。
続く
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