異能者特務機関:TMI 第 30 話「ラグナロク2」
転送を終え戻って来るジェームズ。
「ほぼ転送時の感覚は無かっただろう?テレポーターの他はね」
「あの長官ここは?」
哿が質問する。
「日本支部のフロアーごと大阪城近くの地下施設に移動した。移動前の支部は東京に近かったが今度はここだ。ハリケーン台風空母にもここからなら対処しやすい」
「具体的には?」
「格納庫だよ。この国の特殊犯罪対策組織のね。広さ的にもここなら問題無い。電気、水は今まで通り本部から転送されてくるから心配なく。大戦時の縁でね、作戦中なら貸してくれるそうだ」
「地下……ジェットヘリで連絡してある太平洋上の自衛隊の護衛艦まで向かうのですがここからどうやって行くつもりですか?」
「大阪府警の屋上へリポートを貸してもらう。なので準備が整い次第そこに移動する」
「分かりました」
***
―翌日
アリナは自室で鏡台の前に座り薄目を開けてじっとしていた。後ろに立つフローレンスはほんの少し椿油をしみこませたつげの櫛でアリナの髪を梳いていた。
「アリナ……敵を討った後の事考えてくれた?」
「ええ、少し」
「聞かせて」
「父と同じ警察官を目指そうかと。もしくは医療の道を」
「どちらもきっとアリナにぴったりとあてはまる。じゃあ私は警察医か看護師になる。やっぱり故郷のフランスに戻るのかしら?」
「……フランスは確かに生まれ故郷ですが、過ごした時間は日本の方が多いので迷っています」
「そう、私はどの国でもアリナと一緒なら構わない。 TMI はどうするの?」
「カテゴリー5のわたしは監視下に置かれますが、臨時エージェントとして一般生活を送ることが出来ますからそうしようかと思っています。幻赫を斃した後どのような心境に至るのか想像もできませんし、そのままエージェントを続ける自信もありません」
「今のアリナ、とても穏やか」
「……この前病院で暴走しかけました、あの任務の後思う所がありまして。これまでは敵を追って追い続け怒りを燃やしてきました。でも今は違いますもう敵を追う必要はありません後は斃すだけです。そう考えるとわたしの中で燃えていたものは鉱石のように硬いものへと変化したのです。それから少し気持ち穏やかに過ごせることが増えました」
「ええ、感じる。揺らいでいたアリナの中のものが凝縮されキラキラとし始めている」
「幻赫を斃した後また変化すると思います」
「きっと良い変化よ」
フローレンスはアリナの髪をいつものように後ろで二つにくくる。
「そういえばフランス支部からテレポーターのジョリス・シモンが来るようですね」
「はい」
「ジョリス・シモンはアリナに随分付きまとっていたと聞いていますが」
「フランス支部では同じチームでしたので。それだけです他には何もありません」
アリナは振り返りフローレンスの顔を見つめる。
「フロー、ジョリス・シモンに会うのが嫌なのですか」
「正直に言うとそうですね」
「フローが気に入るタイプではないですね」
髪を整え終わり立ち上がるアリナ、フローレンスと共に会議室に向かう。
そこには既に本部を通じて転送された世界中から TMI のエージェントが集まっていた。
「アリナ!!」
茶髪の男が瞬間移動で飛び出した。
「ひさしぶりですねジョリス・シモン」
「君は相変わらず悲しい目をしているな……こんなにも強く美しいのに!」
「……」
アリナの横にいるフローレンスが一瞬だけジョリスを睨みつけた。
「アリナ、フランスに帰ろう!狂戦士のように戦い傷つき汚れていく君の状態は耐えがたい!フランスで俺と一緒にふさわしいヒーロー活動をしよう!!」
「ジョリス・シモンあなたは……!」
前に出るフローレンスをアリナは止めた。
「ジョリス・シモン、言いたいことはそれだけですか?」
「アリナ、復讐なんてやめるんだ、何も生まない!そんな事したって死んだ人たちは帰ってこない。君が不幸になるのを望んでいるはずがないだろう?」
「以上ですか?」
「まだまだあるさ、 U チームのメンバーは君にふさわしくない!男か女か分からないような奴と、君にべったりの冷血女!健全じゃない!!」
「度し難いですねジョリス・シモン」
「怒ったのか?いいさ怒ればいい、だけど俺の言ってることが正しいって分かるさ!その時君は俺に感謝する、そして幸せを手にする!!」
ジョリス・シモンは両手を広げ大きな声で言い放った。
「アリナ、後ろを向いて」
フローレンスがアリナの肩に手を乗せてささやいた。次の瞬間、フローレンスの平手打ちがジョリス・シモンの頬に命中した。
会議室の集まっていたエージェント達の視線が集まる。
「許さない!これ以上アリナに話しかけないで!!」
「おっと……これはこれは」
ジョリス・シモンがテレポートを行うべく演算をするも目の前にアリナが立ったことに気づき中止する。
「何をするつもりですジョリス・シモン」
「何って?そりゃあ男子の顔を打ったこの無礼な女にお仕置きをね!」
「それなら代わりにわたしにすればいい。それを無視してフローに何かするつもりなら今度はわたしが打つことになりますよ」
「じゃあ君の唇と俺の唇を重ねてもいいかな?お仕置きだよ」
「これ以上わたしを怒らせて良い事など無いと思いますが?」
「ジョリス!ちょっと来てくれないかな?」
後ろの扉の方からイグネイシャスの声がした。後で行くよと返すもすぐに来いと再度イグネイシャスが言うとしぶしぶアリナ達の前から去っていった。
「何なんですかあの男……とても不快です」
「あのジョリス・シモンはわたしを怒らせて自分自身を意識させようとしてるのでしょう。最終的に自分が正しいと証明できる自信があるのです」
「許せない!アリナにあんな言葉を浴びせるなんて」
「大丈夫ですフロー、ジョリス・シモンの言葉は何一つわたしに響いていません。少し苛立ちましたがもう平気です。フローがあの男ことを考える時間はもったいないですよ」
アリナはフローレンスの手を取って言い聞かせる。
「つい手を上げてしまいました……作戦に支障をきたさなければ良いのですが」
「大丈夫ですよフロー、あのような男でも私情とは別に任務は真面目にやります」
「いえその……」
「感謝しますフロー、あの平手打ちわたしがやっていれば加減を間違えてジョリス・シモンの顎を粉砕していた可能性があります、あの場面では口喧嘩を続けるよりも効果的です」
「そんな」
「気持ちの良い一撃でしたよ。貴女は悪くない」
「アリナ……」
手を握り返し額をつけるフローレンス、目を閉じ数秒間そのままの状態でじっとする。
「もう平気ですアリナ、皆さんも見てますし席に着きましょう」
「そうですね」
***
―空母アイスクラーピウス
「ヘーパイストスが失敗いたしました」
金色の長い髪の女性が頭を下げ幻赫に言った。
「愚か、先走った結果だな。イグネイシャスを孤立させヘーパイストスに始末させるつもりであったが。儂が日本支部を吹っ飛ばしてしまった方が早かったな」
「幻赫さまは抑止力にございます。神に匹敵するそのお力は軽々しく揮うものではありません。どうか我ら『神に選ばれし戦士』にお任せを」
「そうするか。儂は患者を診なくてはならんアイスクラーピウスは世界最高峰の医療施設でもあるからな」
タブレットの電子カルテを開く。そこには各国の政治家や軍関係者、大企業の役員などが記されている。
「新たなる人類史は優れた人間達とアイスクラーピウスから始まる」
―アイスクラーピウス隔離室
一切の光も無く、音の無い部屋に閉じこめられた電人 G 。
しかし彼は少しの動揺も無く部屋の中央に微動だにせず銀色の体で座禅を組んでいる
『フォッシーの構築 46 %』
アリナとの戦闘で脳死状態になったはずの異能ゴリラ、触れた相手の異能を遮断するフォッシーは電人 G の中で電子生命体として再生しようとしていた。
雷帝フョードルを打ち破った力を使えばこの部屋から出ることは可能であったがしなかった。今はただフォッシーの構築に専念している。
電人 G と化し電子の海を漂い膨大な情報を閲覧し、またセキュリティやウィルスと戦い徐々に五所川原振之助としての自分が変わっていくの感じた。人間性は失われただのデータとなっていく恐怖でどうにかなりそうだった。自我を保てたのはセレスティアに対する思いであった。
始めは恋愛感情だった。ごく普通に五所川原振之助は男性としてセレスティアを女性と見ていた。セレスティアと話し、共に研究を続け、彼女の事を知るにつれてその思いは変わり彼女の人生に参加する事が目的となっていった。
神名一族に入りたかった。
自分の限界はもう見えている。
セレスティアを支援したい。
夫婦となり家庭を築きたいわけじゃない。
いつしかセレスティアの為に行動することが快感になり他の事は目に入らなくなっていった。熱狂的な信者ともいえる状態で五所川原振之助にとって人生で一番充実している時間だった。
そして五所川原振之助は電人 G へとなった。
『フォッシーの構築 50% (フォッシーはセレスティアを支える同士……我々は幻赫の信者共になど負けん。我々のセレスティアは幻赫よりも上だ)』
表向きはセレスティアと敵対。そうしなければ彼女は自由に動けない。だから離れて行動する。言葉を直接交わさなくても、電波を利用し Adele 経由で暗号化したメッセージを送ることはできる。自分は世界中の TMI に追われているモンスター、セレスティアを一方的に信奉している存在でなくてはならない。
『(超高速ステルス潜水艦ポセイドン。脳波コントロール飛翔兵器ナポレオン。攻撃衛星ソール・ハンマー)』
数日前に偶然か必然か、会ったセレスティアが口にした言葉。それを聞いた電人 G は分身をそれぞれの兵器に送り込み既に掌握していた。
『(これは幻赫の信者共が所有している兵器……なるほど)』
幻赫はセレスティアを監視しており、 TMI の動きを知るためにスパイとして利用していると電人 G は気が付いた。
『何らかの理由でセレスティアは表立って幻赫に敵対できない。ならばワタシのすべきことは……』
自身の 90 %をアイスクラーピウスに潜入させることに成功した。捕らえられるまでは想定内。電人である自分にはサイコメトリーも催眠も無効。読むことも口を割らせることなどできない。
TMI が幻赫討伐作戦を開始する。セレスティアも動くだろう、その時に最大限の支援が出来るようにする。準備をしておく。
***
― TMI 日本支部(仮)
「ちょっといいですかアナスタシアさん」
セレスティアは作業着のままゴーグルを上げてアナスタシアを呼び止めた。
「……何ですか?」
「破壊された戦闘スーツからパーツを合わせて全部で6体確保できました。会議では 5 体と言いましたがスタッフの頑張りもあってもう 1 体用意することが出来ました」
「それで?」
壁に体重を預けたまま答えるアナスタシア。
「私の使用する戦闘スーツの予備を破棄して用意したものなのですが、ぜひアナスタシアさんに使っていただきたく思いまして」
「戦闘スーツなんて着た事ありませんし使い方は分かりませんわ」
「ご心配なく、 10 分ほどの学習映像を見ていただければ後はスーツ内部の AI がサポートします。元々私のスーツですのでサイズも問題ありません」
セレスティアは笑顔でマニュアルの入ったタブレットを渡す。
「どういう風の吹き回しかしら?セレスティア博士」
「仲直りをしたいのです。言葉だけで信じてもらえるとは思っていませんのでこのスーツを差し上げます。これがあれば今回の作戦で後方支援に回る必要はありません、カテゴリー 5 へと覚醒した貴女の力を存分に揮うことが出来ます」
「……」
アナスタシアは地面に視線を落とす。
「嘘かどうかは終夜アリナさんを連れてきて私を観察させればよいでしょう」
「どうして?理解できない、他にも活躍できそうなエージェントは居るわ」
「アリナさん、ルキナさん、マイケルさん、長官、イグネイシャスさんの分は当然としてあと一つはテレポーターと普通は考えるでしょう。ですが飛行可能なテレポーターにスーツは必要ありません、酸素マスクがあれば十分です。貴女を選んだ理由は単純に気に入ったからなのです」
「え?」
「氷の女王、貴女の活躍に期待します。なので私は戦闘スーツを用意しました。気に入らなければ返していただいてかまいません、試してみませんか?」
「……まぁ試してあげてもいいですよ。使うかどうかはそれから決めることにします」
「ではこちらに」
作業場に向かう二人。そこにはアリナ、フローレンス、哿、イグネイシャスに長官ジェームズ。そして早乙女ルキナ、カレン・ユン、マイケル・カルーヤ、チームエンジェルのメンバーの姿があった。アメリカでの任務を終え本部から転送されてきたのであった。
「來美ちゃんのテレパシーのお陰で会議は聞いていたから問題ないわよ」
早乙女ルキナは鏡で自分の姿を確認しながら言った。カレンとマイケルも頷いた。
「あら?アナスタシア、あんたも参加するの?」
「一応ね」
ルキナの問いにそう答えるアナスタシア。戦闘スーツを装着しながらマニュアルを見ている。
「終夜アリナ」
「何でしょう早乙女ルキナ」
「あたしの活躍見てなさいよ!」
「もちろんです」
ほんの僅か微笑むアリナ。
「……少し変わったわねあんた」
「そうかもしれません」
「良い意味でってことだからね!」
それぞれ自分の用意された戦闘スーツを装着に掛かる。
「では準備が出来次第作戦開始だ!」
時計を見てジェームズが言った。
続く
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