異能者特務機関:TMI 第 32 話「ラグナロク 4 」
「海獣アスピドケロンをああも容易く撃退するとはエスパーもやるではないか」
「は?何?」
いきなり話しかけてきた灰色ローブ男を警戒するルキナ。
「ウィザード(魔法使い)の悪い癖なんだ、野蛮な戦士と違って観察したくなるものなのさ」
「 wizard ?何だか知らないけど念爆者の一味よね?邪魔するなら容赦しないわ」
「まぁ少しだけ私の話をきいてくれないかな?ウィザードなんてそう会える者じゃあないぞ?ああ、ウィッチ(魔女)もレアだがね。私の名はグレイストーム。魔法名 Ventus と言う。何故私が出てきたか、それは君たちエスパーと交渉するためだよ」
「交渉!?」
「 Mr .幻赫に逆らうのはやめないか?これ程の才能にあふれるエスパーたちを失うには惜しすぎる。ウィザードやウィッチになるのは無理にしてもマジシャン(魔術師)になればもっと活躍の場は広がり世界の治安は安定する 」
「全然言ってる意味が分からないわ!」
「ああ、まぁそうか……そもそも君たちのその力はどうして使えるか理解しているかな?」
グレイストームは両手を広げ大仰な仕草で言う。
「生まれ持ったものよ!それを鍛えてカテゴリー5にまでなったんだから!」
「素晴らしい!だがそれは才能に磨きをかけたに過ぎない。魔法に触れて磨きをかけていれば君は大魔術師に慣れたかもしれないよ?」
「魔法なんてお伽噺!あったとしてもあたしには関係ものよ!」
「いいや、魔法はリアルだよ。この風は私の魔法によるものだからね。エスパーの君にはこの風が普通では無い事は解っているのだろう?」
「それは……」
「魔法にできて超能力……異能にできない事は沢山ある、それは分かるかね?」
「……」
「例を出してみようか。君の異能は風、大気を操るものだ。ハリケーンを消すこともできるし空を飛ぶことだってできる。だけど風力発電の風車に半永久的に風を送ることは不可能だ。だが、魔法なら可能だ」
「そんな事……」
「魔法で風に意志を持たせ風車を回させるのさ。もちろんハリケーンなんかが来て消えてしまうこともあるだろうけど魔法の場合魔力源、もしくは術式を解除されない限り発動し続ける。この超巨大空母アイスクラーピウスを包んでいる風も魔法によるものなのだよ」
「……あたしを惑わせようとしてるのね」
「どうかな?私は提案しているだけさ。ああ、君は引くに引けない状況で死に物狂いでこの風を止めようとしているのだったね。じゃあこうしよう、ここで引いてくれればアメリカ合衆国の抱えている問題、モンスターパニックの解決に協力しようじゃあないか」
「言う通りにするとでも!信用しろとでも?」
「それはごもっとも。じゃあ実力を持って分からせるしかないかな。ああ、安心していいよ殺すつもりなんかないから」
グレイストームが片手をかざす。ハリケーン台風の風向きが変わりルキナの姿勢を崩しにかかる。ルキナは荒波を乗りこなすサーファーを思わせる動きで風を捕らえすぐさま姿勢を修正。
「フンハァ!」
吹き荒れる暴風の中にミキサーめいた小竜巻が発生、上下左右からルキナに襲い掛かる。最小限の動きで回避し加速するルキナ、戦闘機パイロットであってもブラックアウトを起こすような動きで毅然と飛び回る。
「音速を超える速度で飛行できるあたしにそんなもの当たらないわ」
「なるほど……まだ君を侮っていたようだ、ならばこうだな」
杖をかざすグレイストーム、先から光の魔法陣が現れそこから青白い影が次々と飛び出す。ハリケーン台風の風に乗り唸りながらその青白い影は群れとなりルキナに襲い掛かる。
「行けいレモラ!その少女をほどほどにかじってやれ!!」
ルキナは風を操作してレモラと呼ばれた青白い怪魚を迎え撃つ。怪魚レモラは突風をものともせずに泳ぐようにルキナの横を通り過ぎて行った。
「ハアアアイ!」
ルキナの目の前に迫るグレイストーム、杖を振り殴りかかる。咄嗟に腕でガードするルキナ、戦闘スーツの装甲が杖を受け止めた。
「!?」
不意に平衡感覚を失うルキナ、体が傾きハリケーン台風の暴風で錐もみを描く。そこに怪魚レモラが迫る。
「気付いているかな?レディ・ルキナ。このハリケーン台風はもはやハリケーンであり台風であり渦潮でもあるのだよ。この私は風と水の魔法が得意でね、天候も自由自在に操れるのさ。その機械装甲が無ければとっくに溺れているんじゃあないか?君の風の防御壁なんてレモラが穴を空けたからね」
「くぅ……(いつの間に海水を!?)」
「君に斃された先ほどのボレアースは一応私の教え子でね。少しは魔法を使えてた、奴の異能に違和感を感じたんじゃあないか?」
全身を包み込む防御壁を張りなおすルキナ、水分を大量に含む風の影響で徐々に速度を落としていく。
「ここは空中であって水中でもある。暴風の中であり渦潮の中でもある。そしてこの領域は私の領域だ。ウィザードの領域に踏み込むという事は網にかかった魚と同じなのさ」
「(このまま中に居るのはヤバイ!いったん離脱しなきゃ)」
「お、逃げるかい?懸命だねぇ、そうしてくれるとこちらとしてもありがたいよ君を追う事はしない。アイスクラーピウスはこのまま進路を変えずに進む。あそこにある護衛艦などなすすべも無いだろう君らは指をくわえて見てるしかない」
「(魔法なんて……聞いて無いわ!こんな奴が敵に居るだなんて!!)」
ハリケーン台風から離れるルキナ、状況を TMI のメンバーに伝える。
「長官!魔法使いってどうすればいいんですか!!」
『大丈夫だよルキナくん、君たちのジェットヘリを着陸させた護衛艦には陰陽師の【土御門道鳴】氏を乗せている』
「この前の病院の任務に同行した陰陽師ですね、報告書で見ました!」
『一度護衛艦に戻るのだルキナくん』
一気に加速して離脱するルキナ、護衛艦に戻る。
ルキナが離れるのを待っていたかのように空母アイスクラーピウスから大量の戦闘ドローンが飛び出してくる。護衛艦の対空砲、ミニガンを借りて撃つアリナ、アナスタシアの氷弾が次々と迎撃する。
『それともう一人、強力な助っ人を乗せてある』
護衛艦の船内に戻ってきたルキナを待って居たのは TMI の哿とフローレンスにマイケル、セレスティア、陰陽師の土御門道鳴、そして全身を白を基調とする男性型のアンドロイドを思わせる人物であった。
「すぐに治療にかかりますねルキナさん!」フローレンス、「戦闘スーツのチェックをします」端末を持ったセレスティアが駆け寄る。
「あのロボットみたいな人は?」
「長官の身内の方だとか」と哿が答える。
「紹介に与りました G.D.III の WW 副統括ミカエル・パウマンと申します。 TMI 長官ジェームズ・スチュワートの甥にあたります」
ヘルメットを外すと黄金の髪に黄金の瞳、透き通るような白い肌の青年の顔が現れた。鼻筋の通った整った顔立ちは彫刻を思わせた。
「え?長官の!?」
「はい、長官のお姉さまの息子になります。対魔法使いとしてここに召喚されました」
「そう……」
ルキナは AI を思わせる話し方が少し気になった。
「その失礼だけどあなたは……生身の人間なの?」
「自然のものという意味ならば NO 、この体が自分自身のものという意味では YES といえます。自分は合成生物、いわゆる人造人間です」
「人造人間……」
「母の細胞をベースにナノマテリアルで構築された体です」
「(ナノマテリアル……)」
後ろで戦闘スーツをチェックしているセレスティアが反応した。
「おしゃべりはまた後で。土御門さんも準備を」ミカエル・パウマンが声をかけると土御門は懐から札を取り出しルキナに手渡した。
「この紙はなに?」
「小生の呪(しゅ)込めた札だ。それを懐にでも忍ばせておいてくれ、あの異常な竜巻に入ったら分かるさ。本来なら最初に渡して置くんだが何せあの空母に近づくこともできなかったからな、仕込みはついさっき終わったところなのさ」
「ふ~ん」
「あのウィザードは自分が何とかします。その間にルキナさん、アリナさん、マイケルさんは空母に飛んで下さい」
いつの間にか外套型の金属製ユニットを装着しているミカエル。
「わかったわ」
治療と戦闘スーツのメンテナンスを終えたルキナはマイケルとミカエル 3 人でデッキに上がる。外はイナゴの大軍宜しく飛びまわるドローン、それと戦っているアリナとアナスタシアの姿が見えた。
「ヘイ!アリナ!!」
マイケルはアポートで台車一杯の弾丸とライトマシンガンを呼び出しアリナに渡す。
「マイケル!行くのですか!?」
「ああ、こっちのミカエルって助っ人が何とかしてくれるってんでな。ルキナと一緒にあの空母に行くぞ」
「ここは私に任せなさい!こんなドローンなんかに遅れはとりませんわ!!」
アナスタシアは冷凍線を放って横薙ぎに一閃、凍結したドローンが次々と海に落下していく。
「行くわよアリナ、マイケル!あたしの手を掴んで!アンタたちは飛べないから戦闘スーツの飛行燃料はもしもの時の為に出来るだけ残しておくのよ。空母まではあたしが連れてってあげる!」
護衛艦から飛び立つルキナ、アリナ、マイケル。その後ろから外套型飛行ユニットを装着したミカエル・パウマンが飛ぶ。
「ウィザードは無視して暴風域を突破するわ。あのミカエルってのを信じるしかない」
「わたしが自力で飛べれば……」
「何言ってんのよ!それだけの力を持ってるんだから飛べなくて当然よ!アリナあんたははサイコキネシスを強化したウチの支部長のタイプじゃないし飛べないの!純粋な身体強化なんだから」
「……ルキナ、空気の壁をわたしの後ろに作って下さい」
「まさかあんた空気壁を蹴って弾丸みたいに空母に突撃するつもりじゃあ……駄目よ、外壁に何がしかけてあるか分からない、予定通り解析してから突入するのよ」
「ええ、わかってます。飛び込む準備だけしておきたいのです」
「解析完了したら設置してあげる」
暴風の圏内の突入する三人。グレイストームが接近してくる。それを見たミカエル・パウマンが加速しグレイストームの前に立ちはだかる。
「ロボットの仲間を連れてきたと?そんなものウィザードの前には無意味」
「自分はロボットでは無い。このボディは戦闘型アンドロイドインターフェースだ」
「ハァン?オートマタかゴレムの類か……いずれにしても無意味」
「果たしてそうかな」
ミカエルが言うや否やグレイストームは杖から水と風の波動を飛ばす。ミカエルの姿は一瞬にして消える。
「む?」
風と飛沫のの吹き荒れる暴風域はグレイストームの領域。この中で起きる事はすべて把握できる。領域を俯瞰して見ているような感覚を持っている。そのグレイストームがミカエルを見失った。
「グァッ!」
グレイストームの顎に衝撃が走る。全身を覆っている魔力の防護膜が割れたガラスのように散った。
「どこだ!?」
トンボ返りして自身の周囲に球状の防御壁を張る。次の瞬間、顎、腹、背中、首に次々と弾丸を思わせる衝撃が襲い掛かった。
「グアアアアア……防御壁の内側に居るだと!?」
防御壁を解除し全身から魔力を迸らせる。その時小さな蚊ほどの大きさのものがグレイストームの体から離れた。
「ム……」
「中々の防御力だな、並の魔術師なら最初の一撃で頭部が無くなっているのだが」
瞬時に現れるミカエル。両手には輪郭すらはっきりと見えないほどの黒さのナックル、ブーツが装着されていた。
「マジシャン(魔術師)程度と比べてくれるな。私は偉大なウィザードである、貴様の攻撃方法もすでに見切りつつある」
「そうか」
「自らの体を縮小したのであろう?あるいは元の大きさに戻った。今目の前に居る姿はまやかしかな」
「正解ではないな」
装甲外套が淡い光を放ちミカエルは弾丸めいた速度でグレイストームに肉薄、左ストレートを打ち込む。杖での防御が間に合ったグレイストームは拳の衝撃を利用しそのまま下がって距離を取る。
「(どんな物質かわからないがあの拳闘具、こちらの魔力干渉をまるで受け付けない。杖のカウンター魔法が発動しない)」
さらに距離を取り怪魚レモラの大軍を杖の先の魔法陣から出現させミカエルに向けて放つ。
「――!?」
突如グレイストームの目の前に漆黒の壁が現れた。怪魚レモラと暴風水はまとめて弾きかえされ、そしてそのまま壁は凄まじい勢いで迫り、グレイストームを撥ね飛ばした。
「グウウウウ!!防護膜が……」
壁の衝撃は凄まじくグレイストームの重ねた防護膜を破壊、後方に飛ばされたながらグレイストームが見たのは壁では無く巨大な漆黒の拳。更に離れると巨人と化したミカエルの姿が現れた。
「な……何だと……こんな巨大な……」
グレイストームは驚愕する。目の前のミカエルに比べ自身は小指の爪ほどしかない事に。
「くらえ、スーパージャイアントクラッシュ!」
ミカエルは巨大な漆黒の両拳を叩きつけるように合わせグレイストームを潰しにかかる。回避は間に合わない。
「ヌガアアアアアアッ!!」
風と水を駆使してダメージを最小限に抑えるグレイストーム。そこに間髪入れず巨人ミカエルが右拳を振り上げる。
「スーパージャイアントエルボーロケット!」
ミカエルの右肘から爆発的なロケット噴射。音速を超える巨大な拳がグレイストームを捉えそのまま海面に激突、大きな水柱を上げた。
「グガアアアアアアアアアアアアアア……なんだ……貴様はなんだ……」
全身から血を流し海面から飛び上がるグレイストーム。
「ほう、今のを受けてまだ原型を留めているとは。ならば教えてやろう自分は G.D.III の WW 副統括ミカエル・パウマン」
「 G.D.III …… WW ……?」
「これ以上教えてやる必要はない。止めだスーパージャイアントキック!」
海面から上がる漆黒の右足、踵から爆発的なロケット噴射。音速の 2 倍を超える巨大な回し蹴りがグレイストームに襲い掛かる。
「ヌグウウウウアアアアアッこの私がこんなぁああああああああ!!!!!」
砕け散るグレイストーム。ミカエルの放った回し蹴り影響で発生したソニックブームが暴風域の風の一部と衝突、わずかに空母アイスクラーピウスが揺れる。
「おっと……あの空母には罪なき人々も乗せられている、気を付けなければ……」
瞬時に元の大きさに戻るミカエル。
「後は TMI の諸君に任せるとするか」
続く
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