異能者特務機関:TMI 第 33 話「ラグナロク 5 」
「あれが魔法……」
ミカエルが瞬時に縮小、巨大化した様子を見てアリナはつぶやいた。
体の性質を変化させてゴム状や硬質化する異能者は知っている。エネルギーを纏い体を包み込んでの巨大化なら知っている。自分自身の大きさを変えれる異能者は見たことが無かった。
『どうかな?強力な助っ人だろう?』
長官ジェームズの声が TMI 最強テレパスの苗木來美を通じて聞こえる。
「魔法とは万能の力ですか?」
『そうとも言えるしそうじゃないとも言える……科学の方が手っ取り早くて扱いやすい。異能の方が安定してるしデメリットもほぼ無いんだよ。不可能を可能にするという点では魔法が一番優れてるとは言えるがね』
「長官は魔法を使えるのですか?」
『子供だまし程度のものならね。魔術師(マジシャン)の家に生まれたのに才能なんて全然無かったんだよ。あぁ……姉は才能の塊のような人だったが』
「……気になる事があるのです」
『なんだねアリナくん?』
「念爆者は魔法を使えるのでしょうか?」
『……先の大戦時では使っていなかった。だけど今は分からない、魔法使いのグレイストームを仲間にしてたのだからね――』
「長官?」
突然の沈黙に警戒するアリナ。
『どうやら大阪に移した仮の日本支部の場所が敵にバレたようだ。すまないがすぐには応援に行けそうにない』
ジェームズは仮日本支部を囲む武装集団を見据えながら言った。ブラックヴァリーに異能兵士、戦闘ドローン。
「想定内です、任務を続行します。ルキナ、マイケル、聞いていましたね」
「やるわよ、やってやるわよあたし達だけでも!」
「ま、武器はしこたま用意してくれてるからな。アポートでジェットヘリと護衛艦からじゃんじゃん取り出してやんよ任せとけって!」
グレイストームの撃破によって弱まった風。ルキナは意識を集中して風を把握していく。アリナとマイケルは戦闘スーツの飛行能力を使いルキナの後を追う。
「風はもう少しよ……博士、空母の解析は進んでる?」
戦闘スーツ越しに空母の解析をしているセレスティアに声をかけるルキナ。
『進んでいますよ。詳しい事は置いておいて必要な事だけ申し上げますね』
「お願い」
『下部のハッチもしくは上部の甲板から侵入可能です、座標を送ります。アリナさんの力なら開けることは可能です』
「本当に必要な事だけね……トラップとか迎撃装置とかは大丈夫なの?」
『ありますが風の解除と同時に取りついてしまえば撃たれることも無いはずです。絶対防御の風は内側からの攻撃も無効するのであちらも撃ってこれない、出来るのならとっくに仕掛けてきていますよ』
「なるほど、だから海獣やら異能兵士やらドローンやら魔法使いやらを出してきたのね」
『問題があるとすれば風を解除した後こちらの護衛艦を狙ってくることでしょう』
「そんな!どうすれば……」
『私に任せてください』
「え?」
『早乙女ルキナさんの援護を戦闘スーツで行います。貴女の異能の演算をスーツの AI で処理させます。暴風の一部に穴を空けそれを固定化するのです』
「風の硬質化固定化対流操作持続をいっぺんにするってことよね……プラズマを発生させるための演算だけでも大変なのに……穴の中を真空にするわけにもいかないし」
『皆さんに配布した戦闘スーツの AI は私のスーツの AI と繋がっています。早乙女ルキナさん貴女のイメージを読み取り高速で処理して演算を加速させます』
「セレスティア博士それって疑似的な異能者共有じゃあ……」
ルキナは異能者共有の実験で生死の境をさまよった同僚の姿を思い浮かべた。
『大丈夫です最悪私の AI がショートするだけですよ。私自ら実験済みですのでご心配なく。 AI の思考が逆流して貴女を苦しめることもありません』
セレスティアはそう言ったが半分は真実では無い。 AI がショートするだけで済むはずはなく、セレスティアの脳にダメージは受ける。
『メイン AI の Adele と私は常に異能者共有の状態に近いで日常を過ごしています、貴方への暴走は起きませんよ』
「まさか……そんな事してて自分がわからなくなって精神崩壊したりしないの?」
『平気です、 Adele は私の大切な人間をベースにした AI でお互い理解し信頼しあっていた仲でしたから』
「なるほど……異能者共有でなにより大切なのは理解と信頼だものね。じゃあアタシも博士と Adele を信じてみる。あなたたちを傷つけない為に!」
暴風の中で手をかざすルキナ、暴風の中に安全な穴を空けるためのイメージを固めていく。戦闘スーツの AI はそれを読み取りセレスティアとリンクする。
「(加速する!思考が加速してる!!時間がゆっくり流れてるいるみたい!!これならできる!今ならどんな風の操作も思いのまま!!)」
「穴が空いたら俺とアリナが飛び込んで空母に取りつくって事で OK ?」
「そうですね」
マイケルとアリナは風を操るルキナの後ろで戦闘スーツの飛行能力で滞空しながら待つ。
「あのデカくなったり小さくなったりしてた助っ人兄ちゃんとアナスタシアがいれば護衛艦の守りは大丈夫だろう」
「そうですね。取りついたらそこからはわたし、フロー、哿さんで突入。貴方とルキナは待機ですね」
「ああ、援軍と、作戦終了後の脱出の為にな!まかせとけ」
「……マイケル、気になりませんか?」
「アリナどうした?」
「先ほどまであれほど激しく迎え撃ってきた敵がグレイストーム撃破の後何もしてきません……」
「そういやそうだな……確かに妙だ。アレか?来るなら来い、迎え撃ってやるって決めたとか?」
「罠を用意してると考えておきましょう」
アリナとマイケルが話している間にルキナは風の中に安全に通り抜けられる穴を作り上げた。
「できたわ!さぁ行って!!取りついてしまえばもうこっちのもの、マイケルのアポートで皆通り抜け放題なんだから!!」
戦闘スーツのブースターを噴射して穴に飛び込む二人。風越しに見ていた空母の船体が目に飛び込んでくる。
「行ったわね……ああ疲れたしばらく休むわ」
『無事成功ですね。護衛艦に戻ってゆっくりと休んでください』
セレスティアは戦闘スーツの中で片目に血をにじませながら言った。
風を通り抜けたアリナとマイケルは素早く船体の壁に取りついた。
「船体の色が変化して……光学迷彩ですね。迎撃用砲台は見当たらないですね」
「よし!このまま船体に張り付いて指示のあった上部ハッチに向かうぜ」
船体に取りつくアリナとマイケル。戦闘スーツの吸着を利用し壁を走る。
「暴風の内側は地上と変わりないですね」
「だな、飛んでる船とは思えないぜ」
船体上部に到着する二人。ハッチとその前に立っている人物を見つけた。
「ん?少年か?」
長い髪を後ろにまとめ、手にはナックルガード、服装は腰布にブーツといういで立ちの暗い目をした少年が立っていた。
「わたしたちを迎え撃つ為に船から出てきた者のようですね」
「麻酔銃をアポートする。それでサクッと倒して進もうぜ」
「あれは普通の人間じゃありませんよマイケル。下手に攻撃するよりも貴方は自分の安全を確保と準備をしてください。貴方が倒れてしまえば作戦の続行は困難ですから。あの者の相手はわたしがします」
「分かった」
マイケルは特殊カーボン製のテントを呼び出しそしてその中に。通信機器や武器を次々と呼び出し突入する仲間を呼ぶための準備を始める。
アリナは戦闘スーツから出るとその場に残しゆっくりと少年に向かって歩きはじめる。
「念爆者・杉田幻赫を斃しに来ました」
「知ってるよお姉さん、君の相手をさせる為に僕はその人にここで待てと言われたのさ」
「異能兵士ですね」
「見ての通りさ。僕は肺の病気で運動なんて一切できなかったんだけどあの人に救ってもらってね。今ではこの通りさ」
シャドウボクシングを行う少年。風切り音が響き渡る。
「僕はポルックス。お姉さんには勝てるか微妙だけどまぁ負ける気もしないね。アトラースなんてうすのろのマヌケとは違うから」
「邪魔ですよ」
「ヤァ!」
踏み込むポルックス、 2 連打のジャブで牽制してからのストレート。空気を裂くパンチをアリナは見切り僅かな動作で回避する。
「やるね!流石だよ、ガードしてもらえたら良かったんだけどそう簡単にいかないか」
アリナはベヤリング弾を飛ばす。拳銃並の速度で弾き出されたベヤリング弾に反応したポルックスはナックルガードで防御した。
「へぇ踏み込んでこないんだ?じゃあこっちから行くよ!」
ステップからのワンツー、ダッキングからフェイントを入れて左右のフックを繰り出すポルックス。アリナは通常よりも大きく回避する。
「そこだ!」
何かに足を払われるアリナ、瞬時に体勢を立て直すもポルックスへの攻撃の反応がわずかに遅れ回避は間に合わずストレートをガード。
「しゃあっ!」
ガードしたアリナのガントレットから火を噴き爆発。体を捻って受け身を取って着地するアリナ。
「おどろいた?ねえおどろいたでしょ?僕は二つの異能を持つんだよ!」
「そうですか」
「あははっ!睨んでるけどさぁ今の攻撃あの人ならお姉さん木っ端微塵になってたと思うよ?つまりあの人と今ここで戦ってたら何もできずにお姉さんは死んでたんだよ。僕の火力は精々手榴弾程度だけどあの人は核爆弾並みまで起こせるからね!それにありとあらゆる格闘技、人体改造、魔法と隙が無い。たかが身体強化だけでかないっこないよ」
「……」
「爆風で自分自身が吹っ飛んでないのを不思議に思う?そうだよねぇ僕はこんなに近くに居たのに爆風の影響はまるでない。それはもうひとつの異能のおかげさ。つまりあの人も自ら爆風に巻き込まれるなんて馬鹿な真似はしないってことさ」
「……」
「なにもかも諦めてこっち側に着きなよ。そしたら僕のものとして悪いようにはしないと誓うよ。あの人に利用されるよりそっちのほうがいいでしょ?」
「貴方は何者ですか?」
「あの人、杉田幻赫の息子みたいなものかなぁ……病気の治療で他人じゃあなくなったからね肉体的な意味でもね。あ、本当のお父さんは別にいるよ?フランスの大統領をしてる」
「……!」
「さっきよりも驚いたね?じゃあ僕が君の事を知ってるのも理解できたでしょ?僕はここで君を足止めし説得し諦めさせることが目的さ。表立っては言わないけど世界を動かしていると言われるトップ 64 人が杉田幻赫を認めているんだ、つまり君たちに勝ち目はない。民主主義で言うのなら悪だろうけど世界のバランス的にはこちらが正義なのさ 」
「何を言ってもわたしを止めることはできませんよ」
「どうかな?徹底的に僕は君を説得する、戦いながらね!」
アリナの背後から風切り音、それに反応ししゃがむ。そこにポルックスはアッパーを合わせアリナを狙う。無理やり片足で横に飛んで回避するアリナ、その際逆立ち蹴りでポルックスを狙うも見えない何かに弾かれた。
「もっと力を見せてくれていいんだよ?まだ1%も力を発揮してないでしょ?」
パンチでラッシュを仕掛けるポルックス、対するアリナはすり足で円の動きで右側方に避ける。そこで風切り音が再び聞こえた為垂直に飛び上がりベヤリング弾を 10 発連射。空中で弾かれるのを確認した。
「アンカーボルトセット……」
着地と同時にブーツのアンカーボルトを伸ばして船体の甲板に突き立てる。そして合わせてパンチを放ってきたポルックスのストレートを受け止めそのまま爆炎に包まれた。
「む!?」
アリナは体を限界まで逸らし甲板スレスレで留まっている。そこからアンカーボルトで突き立てた足を支点にバネの様に全身をしならせ正拳突きを放つ。
硬いゴムを叩いたような感触があった。アリナの拳はポルックスには届かずその手前の何かに命中。直接命中はしてないものの衝撃で背後のバリケードに突っ込んだ。
「ぐはっ……!いやぁ流石だね……異能が無ければ今ので全身骨折かな」
「1%です」
「これで1%かぁ……なるほどね、アトラースが赤ん坊扱いなわけだよ」
「貴方の異能の正体大体分かりました。衝撃を与えたものを爆発させる、もう一つは見えない物質を自在に操るもの」
「ほぼ正解かな、見えない何かは僕の分身体さ。こっちには爆破能力はないけど不死身の体を持つ分身。射程範囲は短くて精密な動作はできない、とはいえとても便利なものさ」
「鵜呑みにするとでも?」
「ははっどっちでもいいよ、これは殺し合いなんかじゃない、説得なんだ。正直今の1%で音を上げそうなくらいなんだけどそっちが僕を殺す気なんてないからまぁ続けられるかな」
「無駄ですよ。大人しく通してください」
構えるアリナ。それに対してポルックスはゆっくりと立ち上がりステップを踏む。
続く
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