異能者特務機関:TMI 第 34 話「アイスクラーピウス」
ポルックスは言う。
「この船には世界中の要人や病人医師や研究者が乗っている。それは知ってるよね?だから全力でなんて戦えないしこの船は破壊できない。君の力をもってすればそんな事は簡単なんだろうけど絶対やらない」
「何が言いたいのですか」
「杉田幻赫と戦いになってもここでは全力は出せないしむしろ不利って事。約 1000 人の人質、世界のトップたちを敵に回すことになる」
飛び込みから連続攻撃を仕掛けるポルックス、見えない分身との連携でアリナを攻める。五感を研ぎ澄ませ風切り音と空気の動き、ポルックスの動きの機を見極め全て回避するアリナ。
「そんな事になる前に僕のものになればいい。そうすれば最悪の事態は避けられるよ?悲願である敵討ちはお預けになるけどね」
「言ったはずですよ、わたしを止める事などできないと」
「後悔する事になるよ?敵討ちは出来なくなるなんて言ってない、お預けになるって言ったんだけどね。世界のトップ 64 人が全員下に着いた訳じゃあない、そこは間違えないで欲しいね」
「わたしは貴方に敵意はありません。通してくれるだけで結構です」
ポルックスの見えない分身と本体の爆発拳を回避しながらアリナは言った。
「杉田幻赫を斃せたとしてその後はどうするんだい?あの人の思想を継ぐ者はいるし世界中に信者はいる。敵討ちをしてそれで終わるわけがない泥沼の闘争の始まりだよ。このアイスクラーピウスは世界中の医療機関が求めているんだ。あの人を殺したりすれば君は世界中から追われるよ」
「あの男は信じてはいけない、斃さなければいけない存在です」
「どうして?彼のこれまでの功績は人類にとって素晴らしいものだよ?」
「幼少の時に見たあの男の姿が忘れられません。あんなに暗く冷たく邪悪な力を感じる者など他に居ません。あの男は功績など目的のための手段でしかないのです」
「それは思い込みじゃない?杉田幻赫と話したことも無いでしょう?」
「話し合う事などありません」
「彼の事をよく知りもせずに討伐しようというのかい?そりゃあおかしい」
「貴方に理解されようなどと考えていません。わたしはわたしの目的の為に進むだけです」
「君のそれは正義でもなんでもない狂気だ!何も生まない馬鹿げてるよ」
「だからどうしたというのです、わたしはそれが目的です。念爆者を斃すことがどういう意味を持つかなどどうでもいいことです。邪悪な存在がわたしの大切な者を奪った、だから斃す。それだけです」
「君が世界にどう思われようと関係ないというのかい?」
「ええ、それがどうしたというのです?わたしは念爆者を斃す為だけにこれまで生きてきました。それだけの存在と思われてもいい」
「君の大切な人も何もかも失う事になるんだよ?ただ一人をやっつける為に他の何もかもを犠牲にするっていうのか?それは君のいう邪悪だ!多少の犠牲を伴ってもより多くの人を救おうとしてるのが杉田幻赫さ。人類の 49% を犠牲にしても 51% は救われる!」
「どうやら念爆者にすっかり染まっているようですね。それがあの男のやり方でしょう。世界を味方につけて野望を達成する」
「他人の言葉に全く耳を貸さない君は異常だ!」
「それは違いますね、選んでいるだけです」
「杉田幻赫を討伐した後どうなっても知らないぞ!」
「わたしは仲間を信じているので念爆者を討伐した後の心配などしていませんよ」
「……僕は君の仲間になれないと?」
「その通りです。わたしは嘘が分かりますしどのような感情を向けているかも分かります。純粋に騙されて悪意が無い場合は別ですが貴方はそうではありません」
ポルックスのラッシュを見切り徐々にカウンターを当てていくアリナ。
「分身は不死身と聞きましたが不滅では無いようですね」
踵落としをいれたアリナの足に分身を粉砕した手ごたえがあった。
「クソッ……最強の肉体をイメージして作り上げた分身が!でも作り直せばいいだけさ」
「会話をしながらの戦闘中にそれをできるほど貴方に余裕はありませんよ」
下段蹴りでポルックスの膝を粉砕するアリナ。
「あぎゃああああああああああ……クソオオオオオオ!!」
痛みに耐えながら片足で跳んで爆発拳を放つポルックス、アリナはそれを掌で受け止め爆発ごと拳を握りつぶす。
「いぎゃあああああああああああ……」
「まだやる気ですか?」
「うああああああああっ!」
腰から拳銃を取り出し連射するポルックス。弾丸はアリナの皮膚に傷をつける事は無く地面を転がっていった。アリナは拳銃を掴みそのまま捻りあげポルックスの手首を粉砕する。
「うぎいぎぎぎぐぐがあああ……つ、痛覚遮断!!へへっ……ナノマシンによってこの体は強化されてるんだ。すぐに再生して……」
アリナはポルックスを踏みつけて残っている足も粉砕する。
「これで再生に更に時間がかかりますね。それではわたしは先を急ぐので」
「ま、待て!僕を残していったらあっちにいる仲間を殺すぞ!!」
ポルックスは特殊カーボンテントに視線を向けて言った。
「がっ……」
ベヤリング弾で顎先を打たれ脳震盪で気を失うポルックス。
「もう大丈夫ですよマイケル」
「 OK !!こっちも準備できたぜ!!それじゃアポートで護衛艦に居る仲間を呼ぶぞ」
テントから出てきたマイケルが両手をかざすと、ルキナ、哿、フローレンス、アナスタシア、セレスティアが次々と姿を現す。
「マイケル、セレスティア博士もですか?」
「なんかあのミカエルって助っ人がジェットヘリも見ててくれるってんで……ねぇ博士?」
視線を向けるマイケル。セレスティアは戦闘スーツの頭部を開けた。
「その通りです。皆さんと距離が近い方がサポートもしやすいので。あちらはミカエル氏に任せることにしました。土御門氏もおられるので平気でしょう」
「早速だけど……敵さんのお出迎えのようだぜ」
暴徒鎮圧用のシールドを呼びだして構えるマイケル。甲板には黒ずくめの兵士たちが 4 人現れる。一斉にアサルトライフルを構えた。
「邪魔ですね」
セレスティアが左手を突き出す。 4 本の指から緑光線が放たれ 4 人の兵士の頭を貫いた。
「は、博士!?」哿が思わず声を上げた。
「ご安心を、あれは戦闘用ロボットですよ」
貫かれた兵士の頭からは火花と青色の液体が流れ出ている。
「あのロボットのパーツと武器を頂きましょう皆さんは先にどうぞ、援軍が来るまでここは私とルキナさん、マイケルさん、アナスタシアで確保しておきますので」
援軍の TMI はマイケルの異能範囲に入り次第空母アイスクラーピウスにアポートする予定になっている。
「長官に呼びかけているけど返事がないな……襲撃者の撃退に忙しいとテレパスの來美ちゃんからは聞いてるが……」
『すまないね諸君、空母への到達ご苦労だった。こちらも準備が出来次第向かうよ』
「長官!」
『一般市民まで操る異能者がいて少し手を焼かされたけどもう大丈夫だ。君たちは気にせず任務に集中してくれたまえ。警察や政治家、ネットを使った圧力攻撃など先の大戦で対処方法は身についているからね』
「そ、そうですか!待ってますよ!!」
アリナ、哿、フローレンスは分析して判明したハッチの前に立っていた。ゆっくりと手で触れ確認する哿。初めて移動する肉眼で見えないテレポート先を慎重に演算している。
「多分大丈夫です。アリナさん、フローレンスさん」
「行きましょうお願いします哿さん」「お願いします」
二人の言葉に頷く哿。その直後テレポートする。三人は天井、壁、床全て白で塗られた昇降機に降り立った。
戦闘スーツを着たままの哿とフローレンスは周囲の状況をスーツの AI に調べさせる。
「監視カメラの他には特に見当たりませんね」
「タレットの一つや二つ覚悟してきたのですが」
「昇降機の下に 5 人いるようです。今度は生身の人間ですかね……」
哿は心配そうにつぶやく。
「大丈夫ですよ哿さん、私が撃ちます。アリナも気にしなくていいから」
「いえ、僕がやります。平気です」
昇降機の下にアリナ達はテレポートする。不意をつかれた 5 人はあっという間に哿のテレポートで飛ばした特殊ワイヤーで両足を縛られ転倒、その後まとめて空中に飛ばされ柱に張り付けになる。
「お見事です」
「流石哿さん」
「ふぅ……なるべく無傷で無力化したいですからね。すぐに念爆者の居場所を調べなくてはいけませんね人が集まって来る前に」
「後から来る A チームならすぐに調べられるのですが……」
「いえ大丈夫です、念爆者の居場所は大体分かります。感じるのです」
アリナ目がわずかに輝く。
「向こうから感じます」
アリナ達は空母の通路に向かって歩きはじめる。しばらく進むと人の気配を感じ足を止めた。アリナは五感を研ぎ澄ませフローレンスと哿は戦闘スーツで索敵を続ける。
正面右の自動扉が開くとそこから髪をいくつも束ねた年齢不詳の白いコートの女性が現れた。甘い花の香りがした。
「ようこそアイスクラーピウスへ、終夜アリナさん、哿希世美さん、フローレンス・フランシスさん」
「妙な動きを見せないほうがいいですよベヤリング弾で足を撃ち抜きます。ゆっくりと扉の中に戻って下さい」
アリナの手の中にはベヤリング弾が握られている。
「それはお互い様です」
女性の居る方向からしてる甘い花の香りが変化した。
「リラックスリラックス……フフフ」
戦闘スーツは香りに反応しすぐさま防毒モードへと移行する。アリナはポーチから携帯用のガスマスクを装着する。
「身体強化を極めてもこの香りは効きましたか?フフフフ」
「離れましょう!」
哿は二人の肩に手を置いてテレポートで離れる。
「今更離れても遅いです……既にあなた達は術中にいますよフフフフ、フフフ」
戦闘スーツでバイタルサインをチェックするも異常は見られない。
「毒ガスなんかじゃないわよ?そんなものアイスクラーピウスで使う訳にはいかないじゃない」
突如後ろに現れる女性。
「香りはきっかけ、発動する為のね……」
アリナは振り向きざまにつかみかかるもその姿は煙のように掻き消えた。
「通路に誰も居ない事に違和感は無かったかしら?それは巻き込みたくないからなのよ……だんだん息苦しくなってきたんじゃないかしら?それはそうでしょう、マスクとか戦闘スーツの中に水が溜まってきてるから」
「!?」「み、水が!」「強制排出!!」
「ほらほら外さないと溺れちゃうわよ?フフフフフ」
「強制排出が……出来ない……ごぼっ」
哿は二人の手を取りテレポートで昇降機の方向に連続移動する。そしてテレポートで戦闘スーツの外に出て大きく息を吸った。
「だ、大丈夫ですか二人とも」
「大丈夫です」「問題ありません」
スーツとマスクを開ける二人。しかし水は出てこない。
「どういう事かしら……」
フローレンスはアリナの顔を眺めて言った。
「……香りを使った異能では?複合能力の異能兵士の可能性がありますね。迂闊でした」
「ルキナさんも一緒なら防げたかもしれない」
「フロー、ルキナが来ていれば別の異能兵士が迎えてきたかもしれません。わたしたちは監視カメラで見られていますので」
「私達に対抗する為の異能兵士に出迎えさせた……と」
「う……か、体が痺れる」
哿はその場に崩れ落ちた。
「フロー、哿さんを戦闘スーツに戻して。わたしはあの女を斃してきます」
「アリナ……!」
「息を止めても 30 分以上は動けます」
「待ってアリナ、それなら一度治療する」
フローレンスは戦闘スーツに哿を入れ静かに寝かせた後、アリナの頬に手を当てる。
「……どういう事……異常は何も無いわ。わからない」
「体に異常が見つからないという事は、これはテレパス系の異能では?」
アリナは周囲を警戒しながら言った。
「じゃあ溺れかけたのは錯覚!?」
「実際、水は存在しませんでした」
二人が通路を眺めてると笑みを女が煙のように現れた。
「私は……アプロディーテーとでも名乗っておきましょうか」
女が名乗り終わるとほぼ同時にアリナはベヤリング弾を撃ち込む。しかしベヤリング弾は女の足の横を通り過ぎ壁に激突し火花を散らしただけであった。
「……」
「そんな!アリナが外すなんて……」
「フフ……フフフフフ……当たりませんでしょう?どんなに強くても当てられなければ意味がないんです。こんな程度で幻赫さまに勝てる気でいるだなんて笑わせますわ」
「……フロー、哿さんを連れて下がっててください」
「わかった」
わずかな動きでも見逃さすまいとする視線でゆっくりとアプロディーテーに接近するアリナ。対するアプロディーテーは胸元から小さな拳銃を取り出す。
「フフ、知ってるわよ?貴女は大型拳銃ですら傷つけることはできず、対物ライフルであっても皮膚を貫くことすら難しい程の身体強化の力だということを」
「それを知っていて拳銃を取り出す意味は?」
「あるわよ?この拳銃はごく普通の小型の物だけど弾丸は特別。『きっとこの弾丸は貴女に突き刺さる』貴女は嘘かどうか分るのでしょう?どうする?フフフフフ」
「……」
アリナは鏡を映したかのようにアプロディーテーと同じ構えを取る。拳銃の代わりにベヤリング弾を握って。
「あら?何のつもりかしら?」
「撃てばいいですよ。それが何でわたしを貫くものであったとしても」
「ああ、撃たれるまえに拳銃をベヤリング弾で落とすつもりなのね?それもできないわ『貴女の攻撃は全て外れる』わよ」
二人の距離は徐々に縮まっていく。
アプロディーテーの指の動きを見たアリナは弾丸の軌道を読みそこにベヤリング弾を撃ち込む。破裂音が響きアリナの髪を弾丸がかすめた。
「やりますわね。攻撃では無く防御にベヤリング弾を使用したのですか。ならそれも次は無理になりますよフフフフフ」
続く
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