異能者特務機関:TMI 第 37 話「衝突」
「やっと出番か」
不動了痲は防弾コートを羽織る。リボルバー 2 丁、サイレンサー付きハンドガンを装備している。
「行くぞ不動了痲」
ライオンの頭部を模したフードを被り、合金製の弓に大剣、腰にこん棒状の金属武器をぶら下げた筋肉質の男が言った。
「ああ、行くか。神名鉄火……いやヘーラクレース」
二人が甲板に出る昇降機のある格納庫エリアにたどり着くと銀色の男が立っていた。
「大人しくしてると思ってたら……出てやがったのか G 」
「監視カメラの細工など容易い。不動了痲、神名鉄火貴様らを抹殺する」
「できるかねぇ?お前は周りを気にしなくてはならない場所で戦えるのか?雷帝に勝利した時とは違うぜ?俺に捕まった時のように何もできずに敗北するとは考えないのか?」
「質問が多いな不動了痲、これ以上の会話は無意味だ」
「ハ!そうかよ、だがお前の相手はこのヘーラクレースだ。俺は甲板に居る連中を皆殺しにしに行く」
歩き出す不動了痲、ヘーラクレースが G に向かって弓を構える。 G は矢を避ける事など造作も無いと考え不動了痲に攻撃を加えるべく右手を構える。
「時よ止まれ!」
不動了痲の目が光る。その目に映った G は動きを止めた。
「馬鹿が!こうなる事を予測できなかったのか!!」
ヘーラクレースから高速の矢が放たれ G を貫く。
「予測していた、だからこうするのだ」
赤い閃光が不動了痲、ヘーラークレースの背中に命中する。
「ぐはっ……」「ヌウ……」
転げる二人。コンテナの影から現れる G
「なるほど、ダミーを用意していたのか。戦闘スーツとコートが無ければ危なかったな」
「問題ない」ヘーラクレースの焼け焦げた背中は見る見るうちに再生していく。
「ダミーは良くできていた、だがもうそれは通じん」
「必要ない、貴様の異能の射程範囲は解ったその正体も」
「解った所でどうにもならんと思うが?」
「その驕りが貴様を死に至らしめるだろう」
「ムカつく奴だな……俺が異能頼りのクソ野郎とでも思ってるのか?ブラックヴァリー最強の名はそれだけじゃ得られねぇんだよ。作戦変更だ、ヘーラクレースお前は甲板に向かえ、俺がこの全身銀色野郎をぶっ殺してやる」
「承知」
ヘーラクレースを阻止すべく閃光弾を構える G の右手に弾丸が命中する。
「お前の相手は俺だと言ったろ?」
「……いいだろう貴様を始末しすぐに追うまでだ」
***
昇降機に乗り身をかがめるヘーラクレース。爆発的な跳躍でハッチまでたどり着きゆっくりと開いて外に出る。目の前にはアナスタシア、セレスティア。瞬時に戦闘スーツを装着する。
「俺は最強の戦士ヘーラクレース。フン、テントの中に一人、暴風壁の近くに一人か」
ゆっくりと弓を構えるヘーラクレース。テントに狙いをつける。アナスタシアは氷壁を出現させる。
「普通じゃないわねあの異能兵士」
「気を付けてアナスタシア」
セレスティアはスーツのリアクターを全開させる。
「ヌン!」
剛弓放たれた矢は厚さ3mの氷壁を打ち砕く。第 2 射を構える。
「この剛弓に氷など通じぬ」
それと同時に突進、棍棒状の武器で残った氷壁を弾き飛ばした。
「アナスタシア!」「ええ!」
無数の氷柱スパイクを瞬時に形成しヘーラクレースを攻撃。弾き飛ばされたヘーラクレースは後方回転で着地。
「無傷……!?」
「いいえ、あれは超速再生……」
セレスティアは戦闘スーツで捉えた映像をアナスタシアのスーツに転送する。そこには氷柱スパイクで貫かれ瞬間凍結によって肉がえぐり取られるも着地した時には傷は消えていた様子が映し出されていた。
「こんな速度で再生なんて!」
「アナスタシア、問題はどのくらい超速再生が可能なのか、よ。貴女の異能は通じている」
突進してくるヘーラクレースを氷弾の連射で足止めする。
「全身を瞬間凍結させれば……」「そこを私が砕きます」「それをするには……」「直接触れるか数秒間足止めをする必要がある、ですね?」「そうよ」
こん棒で氷弾を弾きながら距離を詰めるヘーラクレース。左右に飛ぶセレスティアとアナスタシア。ヘーラクレースはセレスティアに狙いを定めこん棒を振り回した遠心力で方向転換、回転しながら弓を番える。
「!!」
回避、バリアーのいずれも間に合わずアーマーを砕きセレスティアの肩に矢が突き刺さった。空中でよろめいたのを確認しながらヘーラクレースは第2射を構える。
「させない!」「フン!」
アナスタシアの声に反応し振り返るヘーラクレース、同時に矢放つ。氷弾と矢が空中で激突、お互いのこめかみを掠めた。
アナスタシアは床に冷気を走らせる。即座に反応したヘーラクレースは大きく跳躍して矢を番える。超高速の矢が放たれアナスタシアの右腕をアーマーごと貫いた。
「その矢には強力な痺れ毒が塗ってある、すぐに動けなくなるだろう。残るはテントの中の男と風使いの女か。異能兵士の少年と魔女は返してもらうぞ」
「まだ動けるわ、私もセレスティアも!」
「殺すつもりはない、回収しに来たのだ。その後どうなるかは幻赫殿次第だが」
緑の閃光がヘーラクレースの右肩に命中する。振り返ると矢を溶断し空中で液体金属に変えているセレスティが右腕を突き出していた。
「体内でプラズマを発生させ毒を分解したか」焼け焦げた右肩を再生しながら言った。
「それと同時にナノマシンにより体外に排出しました」
「セレスティア……!」痺れ毒が回り始め膝をつくアナスタシア。
「カテゴリー3のお前が出来る芸当ではないな、ナノマシンとアーマーの力か」
「さぁどうかしら神名鉄火」
「まぁいい、お前がカテゴリー5に上がっていようとどうでも良い事だ。超人的身体能力、超速再生に超硬金属骨格の俺には手も足も出ない」
「超硬金属骨格?」
「ああ、お前が開発していた金属アダマントの事だ。幻赫殿は優秀な研究者を使いお前より先に完成させたって訳だ」
「フフ……そう、『アンオブタニウム』などとあなた達神名一族は鼻で笑っていたのにね」
「何がおかしい?負け惜しみか」
「負け惜しみ?何に対してのです?あなたの骨格に使われているアダマントなどとうに完成させてますよ。私は次のステージに進んでるのでもはやアダマントに興味はありませんね」
「なんだと?ではなぜそのアーマーをアダマントで覆わない?使わない!?」
「使っていますよ?装甲部では無くフレームや武器のパーツに。コスト、重量の他に色々と扱いが難しいのでそれほど多くは使用はしていませんね。私の興味は【ユピテニウム】に移っていますので」
「ユピテニウム……だと?」
「まだそれほど量はできていないのですが私のアーマーの両手に使用しています」
「どのような特性であるか興味があるが、お前を連れて行ってからゆっくり聞くとしよう」
「ああ、それなら今すぐに見せてあげますよ」
セレスティアは右掌にプラズマボールを発生させると握りこむように両手で圧縮していく。緑光は輝きを増し周囲を明るく照らしていく。
「私の異能とユピテニウムで粒子を亜光速まで加速させます」
「亜高速まで加速?馬鹿な!」弓を構えるヘーラクレース。
「遅いですよ」
セレスティアが両手を突き出すと閃光が走りヘーラクレースの弓は消失、右腕は骨だけの状態になった。
「グウッ……」
「どうです?この通り陽電子砲として撃つことができます。ユピテニウムは硬度こそアダマントには及びませんが振動とエネルギーを吸収反射する性質を持ちます。これを有用すればどうなるか神名一族のあなたなら理解できますよね?」
「面白い……お前を半殺しにして詳しくその話聞かせてもらうぞ」
ヘーラクレースの骨だけの右腕はみるみるうちに再生していく。
「( Adele 、 脳波コントロール飛翔兵器ナポレオン を起動して目標は神名鉄火 )」
『了解。ターゲット設定、神名鉄火』
「( 超高速ステルス潜水艦ポセイドン を移動、アイスクラーピウスを追跡。 攻撃衛星ソール・ハンマー の発射準備を )」
『了解。ポセイドン移動、ソール・ハンマー発射準備』
「神名鉄火、私とあなたは在り方が違う。神名一族の探究心の強さは同じであるとは思いますが」
「何がいいたい?セレスティア」
「私は闘争に興味は無く目的達成のための手段。あなたは闘争が目的です」
「否定はしない、神話逸話の闘争の再現追及こそが目的だ、それがどうした?」
「あなたは私の障害に過ぎずこの闘争は私にとってリスクでしかないという事」
セレスティアは会話を続け時間を稼ぐ。
「その割にはユピテニウムの事を嬉々として話していたではないか」
「研究者の性というものですよ、分かるでしょう?」
「ああ、分かるとも」
***
直径 1 ㎞ほどの岩盤の無人島。そこに 10m ほどの距離を置いて終夜アリナと杉田幻赫は転送された。
アリナは半目のままガントレットからベヤリング弾を取り出し、幻赫は黒の袴胴衣の懐から扇子を取り出して広げる。
「 80% 」
アリナの髪を浮き上がり目は輝きを放つ。周囲の空気が歪み始める。アリナはゆっくりとベヤリング弾を構え一気に弾き出した。弾丸はガントレットの指装甲との衝突摩擦のエネルギーで光を放って飛ぶ。空気は引き裂かれソニックブームが発生した。通常の人体であれば砕け散るであろう威力のベヤリング弾をアリナは躊躇なく打ち出した。これまで 80% の強化で人間を狙って攻撃したことは一度も無い。この攻撃は幻赫に初めて行われた。
「――」
ベヤリング弾は幻赫の手前 2m で爆発。遥か彼方へと消えていった。続けて連続発射するアリナ、ベヤリング弾は全て 2m 手前で爆発し散っていった。
「ふむ、対物ライフル並の弾を飛ばしおるか。だが儂のオートエクスプロシブアーマーには通じんなぁ。そんな小さな質量の物体で届かせるにはもっと速度が必要じゃないかな?」
「……」
アリナは答えない。目の前にいる者と言葉を交わす必要はないと考えている。ベヤリング弾はただの様子見で牽制、この攻撃が通じないことは想定内。アリナはゆっくりと歩を進め幻赫に近づいていく。
「ほほう」
幻赫は歩いてくるアリナの姿を見て感嘆の息を漏らした。
「正中線に一切のブレは無く、皮膚を刺すような殺気を放ちながらも強張りの無い脱力状態……儂の一挙一動の見逃さず後の先を取るという訳か。武の極みよな」
「……」
アリナは思い出す。亡き祖父は自分よりも完成度の高い武術を身に着けていたことを。自分は武の極みなどには到底至っていない、祖父こそがそれであったと。
「念爆を行うにも僅かな溜め時間が生じる。その溜め時間に仕掛ける気ならば……あえてこちらから行かせてもらおうか」
幻赫の周囲の空気が歪み黒い胴衣袴がはためく。アリナは瞬時反応ベヤリング弾を撃つ。
「無駄な事それは返すぞ」
高速のベヤリング弾は幻赫のオートエクスプロシブアーマーによって弾かれ旋回、爆発の加速を乗せてアリナに跳ね返す。扇子を閉じ懐にしまう。
「何ッ!?」
幻赫が気付いた時にはアリナは既に目の前に立っていた。扇子をしまう動作の際ほんの一瞬だけ気を反らせた。アリナはそれを見逃さなかった。
「……」
そして一切の無駄を省いた自分自身の持ちうる技術を込めた正拳突きを放つ。アリナの拳はオートエクスプロシブアーマーを突き破る。
膨大な衝突のエネルギーは周囲を照らすほどの閃光を放出、 20 枚構造の特殊合金のガントレットの装甲は全て砕け散り、幻赫の鳩尾に拳が到達した。アリナの放った正拳突きの威力はオートエクスプロシブアーマーを打ち破るのに 9 割落とされたが、それでも到達した拳は、 1 割の残った威力は、幻赫を亜音速で無人島の岩盤に衝突させ、粉砕し海面を水切りしながら転がらせた。
「ふぅぅぅ……」
アリナは浅くゆっくりと息を吐いてガントレットの無くなった右腕を引いて残心。幻赫の気配を探る。
「げほごはがほげぼ……っ」
エネルギー球体につつまれて海中から上がって来る幻赫。
「想定外だったな……その力。オートエクスプロシブアーマーは戦艦の砲撃をも跳ね返し核爆弾の爆風にも耐えうる自信があったのだが。全身の骨格をアダマントに変えナノマシンによる瞬間再生、それと儂の持つ 5 つの異能がなければ即死だったわ」
「 90 %」
「フン、どうせなら 100 %で来んか。全力を出さずに敗北するのか?儂は全力で行くぞ」
アリナは幻赫の挑発には乗らない。 100 %は使うべきタイミングで使う。自由自在に制御できる 90% で幻赫を追い詰める気でいる。
アリナの周囲の歪んだ空気がわずかに虹色を帯び始める。アリナ自身の全身からも光が出始めた。
続く
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