異能者特務機関:TMI 第 42 話「日常」
アリナは通う学校の周辺と異次元で見た幻赫の消滅の場所を散策した結果、正体不明の魚顔の存在と遭遇。 TMI 長官のジェームズはそれを回収し詳細はまた後日という事になった。
「退院後 2 度目となる今度の任務は異能者の中学生、穴井千種の観察だ」
ジェームズから言い渡された任務は、あの日幻赫とアリナが激突した日以来、様子が変わった生徒と接触してしばらく様子を見ろというものであった。
「寮の管理人には話は通してある。もしもの場合は拘束して TMI の施設に送ることになるだろう」
「長官わたしは……アメリカに行かなくても良いのですか?」
アリナはモニターの前のジェームズに言う。
「ああ、君が行く必要はない。しばらくは日本での任務に就いてもらう。補充要員を確保できたらアリナくんら U チームは本部の配属になるだろう」
TMI 本部配属のエージェントになれば、ジェームズの判断で本部と支部へのテレポートはいつでも可能となり世界中の高難度任務に就く事になる。
「本部所属となっても学校は引き続き日本で通ってもらって結構だよ。希望があれば他の国でもよいがね」
「ありがとうございます長官……しかし」
「こんなご時世だからこそ、君たちのような若者に多くのチャンスを与えたいのだよ。 TMI は戦う為だけの組織じゃあない、異能者を導く存在でありたいんだ。もう二度と異能者大戦なんてものは起きてはならない……異能者は特別な存在ではなく個性として受けいられていくべきなんだよ」
「 TMI 所属の研究者から 100 年後には世界の人間全てが異能者になるという論文も発表されていますね」
哿が言った。
「ああ、カテゴリー1の人口は増え続けている。本人も気付かない程度の異能の強度の者もいる。人類が次のステージに進化していると唱える者もいるくらいだ」
「問題は人類総異能者化する前の段階ですね長官?」
フローレンスは論文に目を通しながら言った。
「そうだ、そこで第二次異能者大戦が起きる可能性は低くない。本部の管理者もそう言っている。だからこそ次の世代である君たちにはあらゆる支援を惜しまない。私やアーニャ……幻赫の時代の者はもう過去の存在だ。これからの時代は君たちが作るのだ」
「長官……」
「世界の問題は山積みだ。人類は栄枯盛衰を繰り返してきた、今は衰退の時代とも言えるかもしれん。文明は発達したが原因不明の悪性腫瘍や新型ウイルスによる病は年々加速している」
「異能者は悪性腫瘍もウイルスも感染しない……その事が徐々に世界に広まればどうなるのでしょう……」
「考えるだけで恐ろしい……世界的暴動が起きると予測される。世界保健機関はもちろんそのことは把握している。メンバーの半数は異能者や亜人種だ。情報管理は徹底されている、今のところはね」
ジェームズの言った亜人種という言葉に反応する三人。
「長官、亜人種とは?」
「亜人種とまとめて言ったが人類とは違う知的種族たちの事だ。既に君たちは存在を知っている魔法は人類とは違うものから授けられたもの。……回りくどい言い方をしたね、映画に出てくるような耳の長い長身の種族、肉食獣をそのまま人型にした容姿の種族、お伽噺にでてくるモンスターの種族などだよ」
「あ……」
アリナは魚顔の人型の事を思い出した。
「鵜蔵池で遭遇した存在もそうだ。 TMI はそちらの領分には踏み込んでいなかったが今後はそうもいっていられないだろう。これまでは本部の一部エージェントにまでしか公開していなかったがね今後は違う分野の組織【 G.D. 】とも連携を取っていくだろう……」
「 G.D. ……【 G.D.III の WW 副統括ミカエル・パウマン氏】の組織ですね!」
「そうだ哿くん」
ジェームズは葉巻に火をつけながら答えた。
「 TMI と対になる組織と言えるだろう、あちらは少々荒っぽいがね」
「確か長官のお姉さまの……」
「ああ、魔女である姉が総括の組織だよ」
「魔女……」
アリナがつぶやいた。
「そのおかげと言うか魔女との交流はあってね。一緒に任務に就いたこともあったよ、ちょうど今日本に滞在していると聞いている」
「その人、どんな魔女なんですか?」
「おせっかい焼きで曲がったことが大嫌い、やると決めたら一直線でさっぱりとした性格の魔女だ……魔女らしくない魔女として界隈では有名だよ、私の姉と違ってね。私の姉は意地悪で卑怯で飽き性でねちっこい性格なんだ」
天井を見つめて煙を吐き出すジェームズ。
「大分話がそれたね……任務の話をしようか」
***
【穴井千種 14 歳 サイコキネシス……超大型台風以降、無機物に限り 5 トンの質量まで操作できるようになる(推定カテゴリー4)】
【窓の外から何かが見てる、気配を感じるとしきりに訴えるようになる】
【駐車場の車を持ち上げて屋上に投げ込む、ガラスを全て吹き飛ばすなどの奇行を取る】
「普段は愛想も良く大人しいのですが夕方ごろから様子がおかしくなるのです。彼女は電子雑誌の専属モデルでもあるので夕方には寮に帰るように言い聞かせております」
寮の管理人はアリナ達にそう答えた。
「そうですか……穴井千種さんは今どちらに?」
「部屋に居ます、これから電子雑誌社の事務所に向かう所ですので皆さんに同行をお願いしまいのですが」
「わかりました」
三人は穴井千種の部屋に向かう。インターホンを鳴らすといきなり金属製のドアがひしゃげた。
「誰だ!!知らない声!!」
「管理人さんの紹介で来ました TMI の者です」
「……入って」
電子ロックが解除され玄関に入る三人。そこには髪をピンクと黒に部分的に染め上げた細身の少女が立っていた。
「…… TMI ……そこの二人は分かるけど金髪のアンタは何?【奴ら】の関係者?」
穴井千種は自分の周囲に包丁を 4 本浮き上がらせて構える。
「わたしは終夜アリナ、 TMI のカテゴリー 5 エージェントです」
「……吐き気がするわ!異常なまでの波動……頭痛と悪夢を運んできたあの台風と同じよアンタは!!夢に出てくる奴ら化物も!!」
包丁を射出する穴井千種、対するアリナは包丁を全て指で挟んで受け止める。
「!?え……嘘……指で!?」
「落ち着いてください穴井千種。わたし達はあなたを守るために来たのです」
「ふん!ああそう!!これから仕事なのよ、邪魔はしないでしょうね?」
「近くで見守らせてもらうだけです。できればあとで奴らとやらの話を聞きたいのですが」
アリナは包丁を置いて穴井千種の前に立って言った。
「時間が惜しいわ、話は移動中の車でよ!」
アリナの圧に押されながらも穴井千種は強気で言い放った。
車中で穴井千種に話を聞く三人。
「毎日同じ夢を見るのですか」
「見たくも無いのにね!暗い暗い水の底……深海から浮き上がってくるのよ何かが。ソレは私の近くで見てるのよ。気持ち悪い魚人間と一緒にね!!」
「魚人間……」
哿は端末を操作して池の調査で遭遇した魚顔人型が映し出した。
「……!?これよ!!コイツが夢に出てくるのよ!!あんたたちこれをどこで??」
「この近くの山で偶然見つけたのです」
「やっぱりただの夢じゃなかったのね……終わりだわ……」
頭を抱える穴井千種。車内の小物が浮遊し始める。
「落ち着いて下さい穴井千種」
横に座っていたアリナが肩に手を置いた。
「はっ……私とした事が……見苦しい所を。私の悪夢の原因はその魚顔が関係してそうね」
「現在調査中です」
「そっか……うん、少し落ち着いてきた。さっきは包丁飛ばしたりして悪かったわ。てっきり悪い異能者か悪夢の中から出てきた悪者かと思ったのよ」
憑き物が落ちたように表情が明るくなった穴井千種。アリナは肩から手を放した。
「急に吐き気と頭痛が嘘みたいに消えていったわ」
「そうですか」
アリナは自分の手を見つめる。穴井千種の肩に触れた瞬間どす黒いもやのようなものが車内から出て行ったの目撃した。
「それにしてもアンタ……本当にただのエージェント?モデルとかしてないの?」
「ただのエージェントです」
「ふうん……ねぇ、美容に気を付けてる事って何かある?」
「美容は詳しくありませんが身体を最適に保つために食事とトレーニングには気を付けてますね、簡単に言えばよく食べてよく鍛えてます」
「なにそれアスリートじゃん!まぁでもアスリートできれいな人多いもんねスタイルもめちゃくちゃいいし……そっかやっぱり食事と運動かぁ」
駅近くのロータリーに停車する。
「1時間もすれば終わるから適当に時間潰してて、 17 時に事務所の前で待ち合わせね」
穴井千種はそこから見えるビルの一室、雑誌社に向かった。
「流石に部外者の僕たちが雑誌社にまではいけませんしね。ここから様子を伺いましょう。何かあればテレポートで駆け付けられる距離ですし」
TMI のワゴン車に取り付けられた全方位カメラの映像を車内モニターに映し出す。
アリナは屋台のラーメン屋、たこ焼き屋などを見つめている
「そういえばアリナさんたち食事は?まだ少し早いですけど時間ありますしどうぞ」
「……わたしとしたことがすみません哿さん。良い香りがしたのでつい」
「そんな、いいんですよアリナさん。僕は逆に嬉しいのです前までのアリナさんならそんな反応しなかったですから。今は少しやわらかくなって良かったなって」
「アリナ、哿さんもそう言ってくれてますしラーメン食べに行きましょう」
フローレンスは医療用マスクを装着してアリナの手を取りワゴン車のドアを開けた。
「でも……」
「僕がちゃんと見てますし大丈夫です。さぁ遠慮しないで行ってください」
ワゴン車から降りるアリナとフローレンス。目の前に並ぶ屋台、一番手前の立ち食い天ぷらにアリナは向かった。
「アリナ、ラーメンは?」
「その前に天ぷらを」
大きなエビの天ぷらを 4 つ注文するアリナ、あっという間にたいらげ屋台を離れる。フローレンスはその間向かいにあるレーザー射的で最高得点を叩き出し景品の高級サングラスを取得していた。
「はいアリナ、これをあげます」
「サングラスですね、ありがとうフロー」
「私よりアリナの方が似合うかなって」
「フローも似合います、だからこれは時々あなたもつけて欲しい」
「ええ、わかった」
サングラスを装着するアリナ。
「ラーメン屋台、人が並んでますね。人気なのでしょう」
「携帯端末から提供までの時間を見られますね。 20 分待ちなら問題ありません」
屋台の列に並んで待っているとタオルを頭に巻いた威勢の良い店員が注文を取りに来た。
「スープ超濃厚、麺、具、マシマシマシで、サイズはこのチョモランマ盛りを」
アリナは携帯端末のメニューを見ながら注文する。
「承知致しやした、そちらの方は?」
「汁なし味麺の並でお願いします」
「へい、承知致しやした!」
続けてフローレンスが注文すると店員は首から下げた端末に入力していく。
「チョモランマ盛りって……麺だけで 1 ㎏だって!!すご……」
後ろに並んでいる女学生の声が聞こえてきた。
「チョモランマて私達二人でも無理だよね晴凛」
「和美のお父さんでも流石に無理そう、あの人いけるのかなぁ残したら追加料金だよ」
「私たちは普通の並で」
アリナ達と女学生は隣のテーブルに着く。しばらく待つとラーメンが運ばれてきた。
「まずは汁なし味麺、こっちはチョモランマ、こっちは並2つお待ちぃ」
出されたラーメンはスープが透き通り味噌の良い香りが漂っている。アリナのチョモランマは丼の大きさは通常の 3 倍以上、もやしとキャベツ煮豚で麺は隠れその高さは 30cm 程になっていた。
「うっわぁ~隣のチョモランマすご……」
「あんまり人の見てないで食べよ?」
「そ、そだね。あ、具の真ん中に味噌がある!これを溶かしながら食べるんだね」
「おいしそう~いただきま~す!」
「おいしいねー!」
食べ始める女学生。
「いただきます」アリナはチョモランマ盛りを次々と口に運んでいく。
「え!?もう半分無くなってる……」
「超速くない?速いけど食べ方きれいだね」
5分ほどでアリナはスープまで完飲し立ち上がる。女学生たち二人はまだ半分ほどしか食べていない。
アリナは自分とフローレンスの分の支払いを済ませる。少し遅れて汁なし味麺を食べ終えたフローレンスがマスクを着けて近づいてきた。
「アリナ、行きますよ」
「待ってフロー、向こうにあるたこ焼きが気になるのですが」
「時間ですアリナ、 17 時までに現場に入らなくてはなりません」
「……仕方ないですね諦めましょう」
アリナとフローレンスは哿の待つワゴン車へ戻る。
「哿さん戻りました。穴井千種の様子はどうですか?」
「事務所でレッスンをしているみたいだけど……さっきから通信機器に妙なノイズが入ってきてまして」
収音装置で拾った音を再生させる哿。
『イ……イ……ダ……ル』
「女性の声……ですね」
『 Daaaaaaaaaaaaaaaaaaaggggggg!!! 』
「え?なに!?」「!?」「……!?」
獣のような叫び声を拾う収音装置。
「哿さん上です!ヘリコプターが落ちてきます!!」
直後、アリナが哿に向かって叫ぶ。哿は確認するまでも無く二人に触れてテレポート。ワゴン車から離れビルの屋上に移動する。三人が移動した時にはヘリコプターはワゴン車に激突していた。
続く
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