VAMPIREEYE79 「二郎と勝田」
自宅に戻った木城二郎。一人で冷凍食品の食事を済ませて携帯電話を弄って時間を潰す。
「(何で俺はあの番号にかけたんだ?勝田博士って?会ったことないはずなのになぜか知ってるぞ……この義手の影響なのか?)」
しばらくすると電話がかかってきた。
『勝田だよ』
「もしもし木城二郎です」
『大変だったよ沖田先生を説得するのは。まぁ僕としては大規模な作戦にはちょっと早過ぎると思ってたから中止になって良かったんだけどね』
「白峰華月の復活の前だからですか?」
『……君ね、なんなの?本当は誰なんだい?』
「俺の義手を調べてください。そうすれば話すよりもよく理解できますから」
『といっても施設の揃っている場所に君を入れたくないんだけどなぁ。どこかに外して置いてくれないかい?』
「それが自分では外せなくて」
『厄介だねもう……ところで土蜘蛛には知られてないんだよね?昼間あの子に携帯奪われたでしょ?』
「見てたのですか?」
『いんや?僕の配置したサイバネロイドが映像を取っててね。そんな事よりどうしようかなぁ……碁盤の目町に君は入ってこれないし僕のアジトに呼ぶわけにはいかないし』
「そうだ、明命館の校舎裏の祠で待ち合わせはどうですか?簡単な装置くらいは持ち出せるのでは?」
『簡単に言ってくれるねぇ。でも沖田先生のテリトリーだし邪魔は入らないかな?あの人人間時代は【陰陽師】だったし結界張ってくれるでしょ』
「沖田先生が元陰陽師!?……ううぅ……」
『どうかしたのかね?』
「何か思い出しかけまして……何でもないです。じゃあ勝田博士いつにしますか?」
『明日も忙しいし今日の夜 0 時で OK ?無理でもなんとか来てよ』
「解りました」
電話を切る二郎。その様子を見つめている思念体達。
『沖田 実満 が陰陽師だった事を今の今まで忘れていた……確か前の道で吹雪が斬る前にそう聞いたと言っていた 』
『沖田 実満 が生きている道は今回初めてだな 』
『陰陽師か、対処しなければならんグレイビーストは道摩法師……陰陽師がいれば対抗できるのでは?』
『どうやってその状況に持っていく?』
『勝田博士が気付けば……』
『少年二郎をどう導く?』
『分からん……重要な 3 つのフラグを外れなければ下手な事はしない方がいい』
『時折姿を見せ、思わせぶりな言葉を聞かせる程度でいい』
二郎は 23 時半に自転車で明命館へと向かう。
校舎裏の近くに自転車を止める。裏門に近づくと影から沖田実満が姿を現した。
「木城二郎君、こんな夜遅くに学校に何の用だね?不良生徒を見つけて私は悲しい……」
「沖田先生こんばんは、とても大事な用事があって人と待ち合わせしてるんです」
「冗談だよ木城君、勝田君から事情は聴いてるよ。さぁ来なさい」
沖田の口には鋭い犬歯が見えた。 ID カードで裏門を開ける沖田。監視カメラの映像は結界でごまかしている。
「やぁ木城二郎君へっへっへー僕が勝田波留夫だよ。君が来る前に校舎裏の祠周辺を調べてみたんだけど面白いよ。 V エナジーが極微量だけど観測できてねぇ、君のことを信じる気持ちになってきたんだ」
勝田は背負ったランドセル型の機械からアームを何本も展開させている。
「あ、はいじゃあ早速この義手を調べてもらえますか?」
「ほいほい……」
センサーを近づける勝田。
「ムムムムム!?こいつはビックリだ!!まだ設計段階のはずの物がここにあるとはね!詳しく調べてみたいと解んないけど……はうあっ!」
直接義手に触れた勝田の猫背がピンと伸びた。
「これはああああああああああああああああああああっ!!」
満面の笑みを浮かべる勝田。 20 年先までの記憶が一気に流れたのだ。
「流石僕だ!やればできたんだ!!あの水元なんかよりずっと僕は偉かったんだそりゃそうさ!僕はジーニアスレイジだぞ!!へっへっへー!」
「どうしましたか勝田君?」
「いやあ今まで生きてて一番嬉しい事に出会ったのですよ沖田先生!」
「そうですか……ではあのお方の復活ですぐに一番うれしい事は更新されますね」
「そうだねぇ~沖田先生その事もすぐに実現できそうです」
「あのそれで……」
二郎が待っていると勝田は頷く。
「解ってるよ、すぐに装置と義手の開発をすすめる。そうだねぇ材料がそろえば 1 カ月もあれば完成できるかな。ま、その辺は谷川先生と木戸社長に頼むかなぁ」
それを聞いて驚く思念体。
『 1 カ月……グレイビースト襲撃までギリギリか。それにしても谷川か』
『吸血鬼谷川克政……他の道で対決した奴の生存も今回は確保しなければならんのか』
『沖田に谷川の生存……このまま戦闘が無ければ少年二郎の覚醒はどうなる?』
『パワーバランスが吸血鬼側に傾き過ぎて大丈夫か?』
『何か見落としてないか?』
『俺たち思念体の道では全て吸血鬼勢と白峰家が滅んでいた……その原因はさまざまだが考えれば教会の一人勝ちだった』
『そもそも白峰家が力を失い教会に吸収されたことが問題では?』
『今更それはどうにもならない。観測できる過去は二郎が片手を失い V エナジー義手を拾う時までだ。兄蓮也が暴走して二郎が片腕を失わなければ少年二郎は V エナジーとかかわりのない人生を送るはず』
『その道は観測しようがない』
『……この時代の白峰華月の配下になるのはどうか?』
『それだと吹雪と離れることにならないか?もう一つ、親友になるはずの速水恭一との交流はどうなる?』
『教会と敵対することなく白峰家が力を失う事になった原因を徹底的に追及してみればどうか?』
『できるか? 10 代少年に過ぎないこの時代の二郎に』
『日本の教会トップ、大天狗の長門顕彰、陰陽師の葛野忍。これらは元々白峰家と協力してはずではないか?』
『何かがあったんだ。その強力な二人が教会に属して京都のパワーバランスがおかしくなっていったと考えられる』
『この道の流れが全く読めない……失敗して新たな思念体を生み出す可能性もある』
『枝分かれをむやみに増やすのは賛成できない。収束可能な範囲でやらなければ空間パラドクスの発生が起きてしまう、それだけば避けなければならん』
『慎重に……慎重に二郎を導かなくては』
***
少年二郎、勝田、沖田が裏門から出るとフードを被りマスクをした集団に囲まれた。
「誰だ!?」
「話を聞きそうにないタイプだね?」
「何だね君たちは?」
フードの集団は突如消音器の付いた拳銃を取り出す。
「危ない!」
勝田のメカニカルアームが広がり傘状になって弾丸を防ぐ。飛び上がっていた沖田は手をかざす。赤い光の帯が伸びフード集団に命中。
「ヌン!」
昏倒していくフードの集団。生命力を吸い取るドレインで気絶させた。
「いきなり撃って来るとは……私は悲しい」
「誰なんだ……」
倒れたフードのマスクを外す二郎。全員が土気色で体が冷たかった。
「沖田先生まさか!」
「やってないよ私は。手加減して 1 体 1 体の死なない程度残した。となれば、その者ら状態はここに来た時すでにそうだったという事だよ」
「傀儡か……僕は専門じゃないけど谷川先生なら詳しいのでは?」
「そうですね、この者たちの素性は谷川先生にお任せしましょう。後の処理は近藤警視と斎藤警部にお任せしますか」
「え?え?沖田先生、勝田さん、警察の知り合いが?」
二郎は落ち着かない表情で言った。
「そうだとも」「他にも色々な企業の社長と繋がってる」
「あなたたちは一体……」
「どうしようかな沖田先生。木城二郎君は蓮也君の弟だし我々の協力者に……義手とか色々知りたいこともあるしねぇ」
「戦が始まれば巻き込まれる。ここまで知ってしまったのならただ放置して死なせるよりも協力してもらう方がよいですかな……右手の義手の力計り知れないものを感じる」
「じゃあ後の処理は近藤さんらに任せて木城二郎君はどうしますか?」
「お、俺は……」
「兄の蓮也君の住処に連れて行ってはどうですかな?あそこならフード集団にも嗅ぎ付けられないでしょう」
「そうしましょうか」
「兄貴に会えるんですか!?行きます!!」
タクシーを呼ぶ勝田、警察を呼ぶ沖田。二郎は到着したタクシーに勝田と乗り込む。
「安心したまえこのタクシーも僕や沖田先生の味方だよ」
「そうですか」
「義手に触れていろ~~~~んなことが知れたよ。だからまぁ僕は君の味方だ。複雑な事情で話せない事もあるけど。ぶっちゃげると僕は表向きは教会の研究員なんだけど本当は違うんだよねぇ」
「え?え?」
「一蓮托生運命共同体ってことで君に話すよ、僕はスパイなのさ。旧白峰家に憧れていたし今も再興して欲しいと願っている。だからスパイとなって活動している」
「は、はい」
「君もスパイになってくれないかね?僕の事をマークしてる奴もいるかもしれないし。君は親が教会の執行人だろう?問題無く所属できるさ」
「急に何が何だか……」
「あの子を白峰吹雪を守りたいだろう?二郎君……」
「え、いやっその……」
「隠さなくてもいいよぉ、一目惚れってのはあるものさ。僕の場合は華月たんだったのだよ……あの尊い存在は人生最萌!」
「……(あれ?さっきまで華月って名前知ってたような?勝田さんに義手触らせてからなんだかその辺の記憶があいまいに……)」
タクシーは改装中のマンションの前で止まった。すぐ隣に小屋がある。
「ここに蓮也君はいるよ。帰ってきてるといいのだけどね」
鍵を開けてフェンスの中に入る二人。懐中電灯をつけて進む。徐々に血生臭い匂いが増していく。
階段から 2 階に上がると異常なまでに皮膚がボロボロになったサイバネのならず者が何人も倒れていた。
「戦闘があったようだね。このサイバネが何者か知らないけどやったのは蓮也君かな?刀傷から見て」
「……フード集団と何か関係が?」
「何とも言えないねぇ」
廊下を進む二人電子ロックの前に立つと声がした。
「勝田か……それに二郎?なんでお前がここにいる?」
「まぁまぁ蓮也君話は中に入ってしようよ」
「そうだな」
電子ロックが開かれる。部屋は照明がついていない。うっすらとした光を放つライトスタンドが点いているだけであった。そこの傍の椅子に蓮也が刀を横に置いて座っていた。
「兄貴……」
「二郎なんだその義手は……」
蓮也は刀の中から聞こえる華月の声を聞いて警戒する。
「まぁまぁまぁ蓮也君、二郎君落ち着いて。まずはその刀を二郎君に持たせてみてくれないかな?」
「なんだ勝田?お前この前までとなにか様子が違うぞ?」
警戒しながら蓮也は刀を二郎に差し出す。ゆっくりと左手で受け取り、唾をのんで義手で刀の柄に触れる。
「!?」
脳内に声が聞こえてきた。
『白峰華月だ。木城二郎、我の声が聞こえておるな?この義手は何だ、吸血鬼化させた物質だとでもいうのか?』
「(俺にはわかりません……)」
『何でも良い、我の復活に協力せよ。蓮也と共にな』
「(どうしてですか?)」
『何度も同じ説明をするのは面倒なのだか……良いだろう』
白峰華月は自分が滅ぼされて娘の雪名が当主となり教会に言いくるめられ碁盤の目町に封印。それまで目を光らせて人間社会の妖の押さえていたが、教会の都合のいいように処理されるようになったと。そして妖怪連合は表社会進出を考えるようになり人間側との対立は激しくなっていってる事を話した。
『人間と妖には暗黙の了解というものがあるのだ。それを教会は破って破壊した、京は平安時代にも似た混沌とした状況になりつつある』
「何が起きたのです?華月さんはどうして滅ぼされることに?それに平安時代って……」
『これ以上は知る必要はない。好奇心を満たしたいだけか?』
「全然状況とか何が何だか分かってないんですけど……吹雪さんを助けたいし皆に争って欲しくないんです!」
『その為に己の命を賭けられるか?できんだろう?ただの子供が口だけでは何とでも言えよう』
「この義手が何なのか今の俺には分かりませんし何が出来る分からないガキですけど……何もわからずできずに流されて後悔したくないんです!」
『言うではないか、ならば蓮也と共に行動して我の為に血を集めろ』
「人斬りをさせようっていうのですか?」
『そんなものは自分で考えよ。後悔しないようにやれ。完全復活を成し遂げた時に昔話をしてやる』
突如二郎の力が抜けていく。
「う、うううう……」
急激な疲労感と空腹感が二郎を襲う。
『義手の生気を少々貰うぞ?……これで何とか形にはなるか』
二郎の手から刀が離れて蓮也の前に浮く。
『生き血も良いが質の良い生気も良いものだな』
「き、聞こえる!!華月さまの声があああああ!!」
勝田は興奮で思わず叫んだ。
『そこの河童、勝田波留夫よ。黒谷に連絡しろ、木城二郎も仲間に加えるとな』
「よろこんでぇええええええええええ!!」
続く
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