「吸血鬼勢」
三人は華月の声に従い伏見桃山城近くのマンションに移動する。蓮也はバイク、二郎と勝田はタクシーで。
マンションの地下駐車場に入った時結界に入った感覚があった。
「ようこそ!私は東邪馬高等学校の校長、谷川克政です」
大柄な男が笑顔で出迎えた赤く光る眼、鋭い犬歯が吸血鬼だという事が分かる。
「木城蓮也だ」「木城二郎です」
「さぁさどうぞ中へ!」
地下駐車場から専用の隠しエレベーターで最上階へ向かう。最上階へは鍵のかかった非常階段か専用エレベーターでしか上がれない二つのみのフロアー。
「このマンションには人払いの結界が張られていますから一般人は入ることはありません。教会の人間には見破られますがそれもご心配なく、対処しているので」
谷川はうやうやしく目の前のドアの鍵を開けた。
中は絨毯張りの高級ホテルのような内装だった。大正時代を思わせる家具が並べられ和洋折衷の空間を作り出していた。
『黒谷』
華月の声に驚くように姿を現したのは 金髪で右目を隠したヘアスタイル、漆黒のスーツを身につけた二十代に見える男であった。
「華月様まさかもうこんなに声を出せるように」
『そこの二郎のおかげよ。蓮也の弟だ』
「詳しい話は僕からしますよ黒谷さん」
勝田は黒谷にこれまでのいきさつを話した。
黒谷ジークベルトはヨーロッパ出身の吸血鬼。華月時代の白峰家と交流があり華月に命を助けられた。日本から離れている時に華月の悲報を聞いた。
華月を失ったことをどうしても受け入れられない黒谷はありとあらゆる術、魔法を調べ仲間を集め華月復活を模索した。そしてある日白峰家の特性を知るまでになり華月復活計画を企てた。
「そうですか……その不思議な義手が鍵を握っていたと。良かったです私は仲間に恵まれているようだ。集めた仲間の縁が無ければ二郎君の義手と華月様が触れることは無かった」
「良かったで済む話か黒谷」
睨みつける蓮也。白峰家長女の白峰霄(そら)を傷つけ蓮也が吸血鬼になる原因となった黒谷に殺意を向ける。
「霄様は純粋でお優しい方。ああいったトラブルが無ければ血を使う事など無い。吸血鬼は血を使ってこその存在です」
「黒谷、あのクソ野郎のヴァンパイアハンター源藤高雅もお前の仕業か?」
「あれは想定外です。どこから湧いて出来て来たのやら。予定ではその辺の妖を谷川さんに操らせて霄様とあなたを襲撃して血を使わせるするつもりでしたが、あの源藤高雅に潰されたのです」
「白峰霄は精神的にも傷ついた……よくもトラウマを負わせるようなことを……」
「源藤高雅の行方は追っています。霄様のケアも考えていますよ」
『まぁおちつけ、我の復活が成れば蓮也は人間に戻してやる。霄も現状を理解しこちらに就くはずだ』
華月の声が聞こえる。
「その通りです華月様。そして京を白峰家の統治に」
『義手の生気で目標の半分は達成した。受肉は可能である。完全体には遠いが肉体を得ることを優先とする』
「沖田さんの力で一気に人間どもから吸い上げて完全体へとなられた方がいいのでは?」
『まぁ待て、出来るだけ目立たないように行動するのだ。教会の動きが読めない現状、勝田と二郎に探らせながら動く。沖田の力は緩やかに断続的に使用、明命館の生徒の命を奪わぬように怪しまれない量を収集、生気を二郎の義手で凝縮。それを我が貰う』
「それで間に合いますか?夏休みが近いようですが」
『なあに、受肉できればわずかだが食物からでも生気は接種できる』
「万が一何者かに沖田さんの力を気付かれた場合はどうしましょう?」
『その時の事も考えてある。楽しみにしてるが良い。黒谷、受肉の準備をせよ今すぐに』
その言葉に動揺する黒谷。
「今すぐですか……華月様に用意している衣装がまだ届いておりません」
『湯上り手拭いでもなんでも今日はそれで良い、服は明日に人間の店で購入して来い』
「は、では近藤さん、斎藤さん、沖田さん、木戸さん、佐久間さん、河上さんを呼びます」
― 30 分後
黒谷の同志がアジトのマンションに集合する。
警視・近藤肇
警部・斎藤勇雷
明命館副校長・沖田実満
東邪馬高校校長・谷川克政
都メタル社長・ 木戸剛照
佐久間タクシー社長・佐久間 瓢介
平安京新聞社社主・ 河上起央
科学者・勝田波留夫
以上8名が黒谷の前に立つ。
紅い絨毯の先に設置された豪華な椅子にはバスローブがかけられている。その横に木城蓮也と二郎が立っている。
「蓮也君、刀を椅子に」
黒谷の指示で刀を置く蓮也。
刀から赤黒いオーラが立ち上り徐々に人型を形成していく。小柄な女性のシルエットを形成すると赤黒いオーラは薄れていく。白いつま先が現れる。下から透き通るような白い肌が現れていく。輝く銀髪、燃えるように赤い目。圧倒的存在感を持つ女性が椅子の前に現れた。十代前半くらいに見える。白峰華月がその姿を現した。
「華月様」
裸体の華月に素早くバスローブをかける黒谷。
「流石に幼い姿か。だがこれでお前たちにも支援してやれる」
全員の目が華月に釘付けになっている。
「美しい……」「神々しい……」「完全体になればどれほど綺麗になるのか……」「非の打ち所が無いですな……」「キラキラですねぇ」「ありがたや……」「歴史的瞬間だ!」「ぶひいいいいいいいいい!」
自然と膝をつく吸血鬼たち。
横にいる蓮也と二郎も見つめている。
「(白峰霄に似ている)」「(人形みたいにかわいい人だな……)」
「お前たちに今から血を1滴づつ分けてやる」
華月は椅子に腰かけると足を組んでほんの少し目を細め透き通る声で言った。
「華月様それは……眷属に加えるという事で……?」
黒谷が取り乱している。高位の吸血鬼の血を与える行為は色々な意味を持たせることが出来るからだ。
「心配そうな顔をしおって……今回はお前たちの働きに期待して一時的に力を強化してやるだけの事。効果は30日、その間に我は完全体へ成る。30日後働きが良かったものには更なる褒美を与えるぞ」
「は、ははー!」
「では一人づつ与える。どこに欲しいか申せ」
近藤、斎藤は右腕に。華月が撫でるように塗る。
沖田、谷川は背中に。華月は指を這わせて塗る。
木戸、佐久間、河上は額。華月はゆっくりと指でさするように塗る
「僕はお皿にお願いします!!」
ウィッグを取る勝田、頭頂部の皿を差し出す。華月は指先を血で濡らすと皿に触れ塗りたくるように指を動かした。
「あ、あひいいいいいいいいいいいいいっ!!」
「ふふ、最後は黒谷だな」
「私は目にお願いします」
「よし、お前は特に濃いのをやろう。一番の功労者であるからな」
指から垂らした血を目薬のように落とす華月。
「おお……おおおおっ!」
他の者もため息交じりの声を上げている。
「我の生気の収集、源藤高雅とその関係者の捜索、Vえなじぃ装置の開発、教会の調査をお前たちに命じる」
「「「「「「「ははーっ!」」」」」」」
華月は蓮也と二郎の視線に気が付いた。
「どうしたお前たち。血が欲しいのか?欲しければやるがいいのか?お前たちはそれぞれ霄と吹雪から頂戴したいのではないか?」
「俺は力が欲しいだけだお前と契約するつもりはない」
「お、俺は……」
「どうしても我慢できなくなった時申すが良い。一時的に血の渇望を止めてやる。蓮也は吸血鬼になりかけ、二郎は吸血鬼の特性を持つ義手をつけておるからな」
「チッ……」
「この義手、そういうものなんですか……」
「蓮也は霄を説得し源藤高雅とその関係者捜索に加われ。二郎は教会に属して吹雪の近くにいるがよい」
「言われなくてもあの野郎には借りがあるキッチリと落とし前つけさせてやる」
「教会……親父の属してる組織だし嫌ではないですね」
―思念体達
『バカな!華月の復活が早過ぎる!』
『しかし……流れは悪くないのではないか?』
『そうだ復活が早いのならその分余裕がある、やれる事が増えるはずだ』
『もしかしてこれが一番の最適道なのかもしれない』
『慎重に慎重にだ……』
二郎の思念体らは混乱していた。
―翌日の朝
木城二郎と速水恭一は白峰吹雪に連れられ田口堂に来ていた。
「教会かぁ…実際のところよく知らねえんだよなぁ」
速水恭一は頭の後ろで手を組んでため息混じりに言った。
「人間と化物が揉め事を起こさねえように管理してるって話だけど結局人間側の都合を押し付けてるんじゃねえの?それが嫌で従わないのもいるんだろ?奥寺みたいに」
「それを今から聞くんだろ?」
二郎は速水恭一に言った。
「二人共こっちに…」
白峰吹雪が田口堂のカウンターの奥から暖簾をあげて言う。二郎と速水は吹雪に着いていく。
「ここが教会の協力者のお店。木城君は別の用事でここに来てたね?」
「うん、まさかそういう店だとは知らなかったよ」
「は~ん……俺はこういうとこ用がねぇからな。スポーツショップがメインだしな」
「まだ大きな事件は起きてないけど教会は人手がいるの。わたしのサポートメンバーを探していて……同じ学校だし二人にお願いしようかと思って」
「どうすっかなー陸上に打ち込むのもいいけど刺激が足りないつーっか白峰ちゃんと一緒なら楽しくなりそうだし」
「俺はやるよ。経験しておけば親父のサポートもできるようになるだろうし」
「この店がしばらくの間活動拠点になるわ。わたしが居ない時はこの店の店主の田口渉さんに分からない事は聞いて」
―思念体達
『おかしいな』
『ああ、吹雪が碁盤の目町に案内しない』
『吸血鬼沖田討伐の大成果を上げなかったからか……これは予測できないぞ』
『やはり今回は違う』
二郎と速水恭一は一通り教会の説明を聞いて簡単な契約書にサインをした。
「木城君、お兄さんの事……」
二郎は少し動揺した反応を見せてしまった。
「え、兄貴がどうかした?」
「心配じゃないの?あんなことがあったのに……」
「心配だけど友達の親の知り合いの探偵さんに昨日依頼したんだ……親父にも母さんにも内緒でね」
咄嗟に下手な嘘をついてしまった二郎。吹雪はほんの少し驚いたがそれだけであった。
「そう……」
吹雪は自分の姉の霄が蓮也に血を与えて吸血鬼に近い存在にしてしまったことを気にして二郎に接している。
二郎は吸血鬼勢の事を吹雪に秘密にしなければならない後ろめたさがあった。
「……そろそろ学校に行かないと」
「そうね」
「あ~だりぃ試験がもうすぐ始まんだよなぁ」
三人そろって明命館に登校する。校門の前に人だかりができているのが見えた。
人だかりをかき分けて校門にたどり着く三人、そこで見たのは……
「ごきげんよう」
そう挨拶する漆黒の制服姿の少女、日傘を持った白峰華月であった。
「!?」
二郎は思わず声が出そうになった。横の吹雪の様子は目を大きく開いてじっとしている。
「かわいこちゃんだ。小学生?中一くらいか?」
速水恭一は華月と吹雪を見比べている。
「みなさん通してください。わ、私は今日からこの学園に転入することになった黒谷月と言います」
どよめく生徒たち。
「この時期に転入?」「すっげぇキラキラの銀髪」「超かわいい!」「お人形さん!?」
黒谷月と名乗った華月は二郎の前に立ち頭を下げるようにゼスチャーをする。そして耳元でささやいた。
「生気回収にはこの方が都合がよいのでな。手続きは沖田に言えばすぐだったぞ?なに、夏休みまでの戯れよ」
「ぇぇ……マズイですよ……」
ふふっと笑い綿毛のような軽い動作で二郎から離れる華月。薔薇のような香りが二郎の鼻をくすぐった。
「肩にゴミがついてましたわ。それでは私は校長室に用があるので失礼いたします」
綺麗なターンをきめて校舎に入っていく華月。それを見ていた吹雪は声が出なかった。白峰家の気配を感じる者が見たことも無い人物であった事がショックだった。
「(あの子どこかで見たような……姉さんにとても似ている……誰!?)」
続く
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