VAMPIREEYE81 「天狗と陰陽師」
―洛庵高校
白峰霄、木城蓮也、山根妃羅莉(鉄鼠)の通っている学校である。
屋上で白峰霄はうずくまっていた。頭の中は無力感、怒り、悲しみ、悔しさ、後悔が渦巻いていた。考えまいとすればするほど余計に考えてしまい自然と涙があふれてきていた。
「どうしたんだ?」
声がした。あわてて振りむくとそこにはジャージを着た木城蓮也が立っていた。
「え……」
「どうした?鳩が豆鉄砲喰らったような顔して。涙で顔がぐしゃぐしゃだぞ白峰霄」
「急に現れて……誰にも連絡しないでどこに行ってたんです!」
「すまなかったな、色々あったんだよ」
霄の横に腰かける蓮也。
「学校には休学届を出した。知り合いにそういう手続きに融通が利くのがいてな」
「蓮也さん、今すぐ白峰家に行こう!人間に戻るんです!!未熟な私なら無理だけどお母さんなら……!白峰家当主・白峰雪名ならきっと!!」
「そいつはできないな、やることがある」
掴みかかった霄の手を上から握ってゆっくりと離す。
「やることって何!?危ない事はしないで!!」
「源藤高雅って野郎を探し出して借りを返すんだ。奴の背後にもおかしなのがいるって聞いた。だから白峰、もっと俺に血をくれ。力をくれ」
「そんな事……出来るわけないじゃないか!」
「あいつを野放しにはできない、かと言って教会も警察もあてにできない。俺には味方ができた、素人が闇雲に探し回る訳じゃない」
「……」
「白峰、跡継ぎになるのならもっと血の力の扱いが上手くならなくてはならないんじゃないか?そうじゃなければ源藤高雅のような男がまた現れた時困るぞ?だから俺に血の力を使って訓練するんだ」
「何で蓮也さんにそんな事を言われなければならないんだ……」
「放課後この住所の場所に来てくれ」
蓮也は霄の携帯に自分の隠れ家の地図を送る。立ち上がるとフェンスを飛び越えた。霄が慌てて見に行くと下にもどこにも姿は無かった。
「蓮也さん……」
蓮也は洛庵高校から出ると近くに止めてあった華月配下の吸血鬼・佐久間 瓢介 のタクシーに乗り込む。佐久間はタクシー会社を経営者であり元軍人でもある。
「佐久間さん、どうですか?」
「源藤高雅らしき者は突如姿を消したらしい。二条城前で不意に瞬間移動するようにだ」
佐久間は鳥獣などの声を聞くことが出来る。佐久間自身、様々な生物の姿に変わることが可能である。
「瞬間移動……話を聞く限り黒谷さんのようにゲートを開く訳でもなさそうですね」
「厄介だな……匂いで動物たちに追わせてるがまだ痕跡を見つけられていない。関係あるか分からないが、ここ最近急にサイバードッグやサイバークロウの数が増えているのが気になる」
「環境庁が清掃や大気のデータを取るために放っているロボットですね」
「動物たちに何をするわけでもないが気味が悪いと聞かされている。今までサイバードッグやクロウに対して今までそんな事訴えてこなかったのにな」
「佐久間さんは吸血鬼になる前からその能力を?」
「軍人時代にいつの間にか身に着いた。今ほどはっきり言葉で聞こえる程じゃなかったが。そういやお前さん随分と落ち着いているな?もっと野蛮な感じがしたんだが」
「それは……白峰霄と華月さんの力が体の中で渦巻いて破壊衝動を抑えるのにいっぱいいっぱいだったからですよ。今はもう華月さんも復活されて落ち着いたんです」
「そうか」
「佐久間さんはどうして吸血鬼のメンバーに?」
「俺たちメンバーは黒谷の魔法の儀式とやらで吸血鬼化した。よく覚えてないが黒谷は考えてぬいてメンバーを選んだそうだ。職業も年齢も育ちもバラバラなのになぜか気が合う。華月様を信仰する気持ちも同じだ。黒谷曰く同じ失敗はしたくないかららしい」
「……過去に華月さんが滅ぼされた件ですか」
「だろうな……おっと蓮也、動物たちから連絡が来た。醍醐寺の方で何か妙な生き物が集まっているらしい。他のメンバーに連絡してすぐに向かおう」
携帯を操作して吸血鬼メンバーに送信する佐久間、今時珍しいマニュアルのタクシーを発進させ醍醐寺に向かった。
***
―明命館学園
休み時間、二郎と白峰吹雪は屋上に続き階段の踊り場で小声で会話をしている。吹雪はかすかに感じる吸血鬼の気配に警戒していた。
「木城君、近くに吸血鬼がいるわ……未熟なわたしでは場所までは分からないけれど」
「そ、そうなの?(沖田先生と華月さんかな)」
「それに……なんだか体が少し重いの。何らかの術を行使している可能性があるわ」
「この学校が攻撃されてるって事?(沖田先生の力かな)」
「今朝見た小さな女の子……無関係とは思えない」
「あ、あの子がどうかした?」
「……何とも言えないけど白峰家であんな子はいないのよ。白峰家は分家の吸血鬼なんて存在しないの。分家の吸血鬼が誕生する条件は当主が失われた場合のみ無作為に覚醒する。お母さんが当主で無事なのだからありえないの。でもあの子から感じる血の気配は白峰家の物だった」
「そうなんだ……」
「あの子この学園のどこかにいるはず……探し出して話をしたい」
「どこにいるんだろうね」
二郎は携帯のメッセージに気づき確認する。差出人不明で【校長室】とだけ書かれていた。一瞬考えたがそれが沖田もしくは華月からだと気が付いた。
「なぁに~?そこの二人怪しいわね」
奥寺舞子が通りがかった。ジャンプで踊り場まで一気に飛んでくる。
「学校中を包み込んでる不愉快な魔力、私じゃないから」
「知ってるよ奥寺……さん」
「知ってるよ?って……へぇ、どういう事か知らないけど木城君も分かるようになったんだ。ふぅんそこの白峰吹雪と何かヤったの?」
「……っ!」
睨みつける吹雪。奥寺舞子は瞬時に目で捉えるのが困難なほど細い糸を周囲に張り巡らせて睨み返す。
「邪魔よ土蜘蛛。今はあなたに関わってる暇はないの」
「邪魔なのはあんたよ白峰吹雪。私は木城君に用があるんだから消えてくれない?」
「……木城君に何かあったらあなたを始末する」
「あっそ、自信満々なようだけど笑わせるわ」
二人のにらみ合いに耐えられなくなった二郎は間に立って両手を広げる。
「ふたりともやめてくれよ……奥寺さん、用があるなら聞くよ。白峰さんもいいだろ?」
「…… 5 分だけ待つわ」
「ふん!じゃあ木城君屋上に行きましょ」
奥寺舞子に手を引かれ屋上に上がる二郎。屋上に他の人影はなかった。普段は鍵がかかっており、部活動に利用している生徒しか鍵は貸し出されない。奥寺舞子は糸で鍵を作り開けたのだった。
「用ってなんだい?」
「言っておきたいことがあって。私が操っていた従徒の人間、あれはもうすでに死んでたのよ」
「そうなのか……ってそれでも死体を勝手に操るなんて駄目なことだ」
「最後まで聞きなさいよ。既に死んでいたってのは何者かに殺されて操られてたの。私に襲い掛かってきたからぶっ飛ばして逆に操ってやったって訳。悪い事だってのは知ってるわよでもメールの実験も面白そうだったしついでに最近身に着けたスキルを試したかったのよ……まぁそういう事。だから本気で木城君を殺そうとか従徒にしようとか思ってなかったのよちょっとからかっただけ。妖怪ってそういうもの」
「奥寺さんは誰も殺してないのか?」
「そうね、殺してはいない。で、言いたかったのはそれだけじゃないの。私に襲い掛かってきた屍人の他にもまだまだ沢山いるわ友達も見かけたって言ってるし……心当たりは無い?」
二郎は深夜フードの男らに襲われたことを思い出した。
「異常に顔色の悪い変な奴らを見かけたよ……そのシビトってのと関係あるか分からないけど……」
「そう……一般人の木城君が目撃するくらいなのに教会は動かないって訳ね」
「え?」
「木城君、教会の事は白峰吹雪に聞いたわね?だけど教会なんか信じちゃ駄目よ、妖怪の私が言う事を信じろってのもおかしな話だけど」
「そんな俺にはよくわからないよ……けど奥寺さんなんでそんな事教えてくれるんだ?」
「さぁ?ただの気まぐれかも?その義手から魔力を感じるからちょっと私の勘が働いてっていうか……何かあったらまた教えてあげてもいいわよ」
奥寺舞子は携帯からメッセージを送信して去っていった。
【情報提供の報酬はマスドのドーナツで】
「(……そういや奥寺、勝田博士と電話してた時何か気にしてたな。あの時に今の話伝えたかったのか)」
「木城君!」
慌てた様子で吹雪が屋上に上がってきた。
「無事ね……土蜘蛛だけ降りてきたから何かあったのかと思った」
「大丈夫だよ、ねぇ白峰さん。ここ最近変なゾンビと言うか歩く死体みたいな事件は起きてない?」
携帯をポケットにしまって二郎は質問する。
「急にどうしたの木城君?」
「実は昨日見かけたんだ」
「……そういう事件もあると教会から聞いているわ。調査を担当しているのは別の人達だし、わたしには詳しい事は教えてくれない」
「誰が調査しているの?俺も一応教会と関りがあるし知っておきたいかなって」
「大天狗長門組の副長で 烏天狗 の【 飯田迦楼羅 】氏とその部下の人らよ。長門組は教会の二大勢力の一つなの 」
「もう一つの勢力は?」
「【葛野忍】氏が代表を務める陰陽師団よ」
「大天狗長門組と陰陽師団が教会の二大勢力って事か」
「そうよ。わたしのように妖の血を引く者たちは大天狗長門組の指示を受けるの。木城君のお父さんである木城紫蓮さんは陰陽師団の指示を受けているわ」
「そうだったのか……」
「そのあたりの事を今夜説明するつもりだったの。速水君も交えてね」
「そっか、じゃあ今夜また話しよう。学校でこんな事話すのあまり良くないんじゃない?」
「ええ、一般人を巻き込む事になるのは避けないと駄目」
―放課後
「失礼します」「どうぞ」
二郎は校長室に足を運んでいた。そこには落ち着かない様子の校長と、満面の笑みを浮かべる沖田、ソファに腰を掛け足を組みながらグラスを持っている華月が居た。
「そこのひたすら汗をかいている校長は無視して良いぞ二郎。未成年買春に性的嫌がらせに痴漢に盗撮と性的犯罪を犯している変態校長なのだからな。催眠術で全て吐かせたのだよ。我の事を黙っている代わりに放っておいてやるという条件だ」
「えぇ……」
「なんだ不満か二郎?我は警察でもなければ被害者でもない。変態校長の行動など関係ない放っておくだけよ」
グラスを傾け口にする華月。
「私は悲しい……校長がこのような人だったとは。だが告訴はしません、自首を促すだけです。ですがせっかくなので有り余る校長の性欲を抑制すべく生命力をかなり多くドレインしました。校長も華月様の役に立てるのです、ねえ?」
沖田が校長の肩に手を置くと一瞬強張らせた。
「さて木城君、さっそく私の集めたエネルギーを義手に入れよう。義手でエネルギーの質を上げたら華月様に差し上げて下さい」
「わかりました」
両手で二郎の手を握る沖田。赤黒いオーラが二郎の義手に吸い込まれていく。
「うっ……うぐぐぐぐぐ……」
沖田の吸収したエネルギーには吹雪や速水恭一、奥寺舞子も含まれていた為、義手に吸収される際軽い衝撃が走った。
「おや?木城君の右目が少し赤くなりましたね」
「え?ほんとですか!?」
「ふむ、勝田君の言う通りその義手は吸血鬼化してるもののようですね。もしそうなら君の特殊能力は何になるのやら」
その様子を見ていた華月は汗だくの校長に空になったグラスを見せる。校長は慌てて立ち上がり本棚に隠してある最高級のシャンパンを取り出した。
「学校に酒まで持ち込んでいるのだこの男は。京都でも1,2を争う進学校の明命館学園の校長がこのような者だとは生徒は誰も知るまい」
注がれたシャンパンを口にする華月。
「あのっこの酒はワタクシが持ちんだものでは無くその……」
「黙りなさい校長!華月様の許可なく発言はしないように!!」
「ひぃぃっ!」
睨みつける沖田に怯える校長。
「うぐぐぐぐぐぐ……!凝縮できました!!」
二郎の掌から赤く輝く光の弾が出現した。
「華月様さぁどうぞ」「うむ」
沖田が言うと華月はゆっくりと近づいて二郎の手から取り菓子でも食べるように味わいながら口から吸収した。
「美味である……明日もこの調子で頼むぞ二郎」
「はい……」
ゆっくりと右目は元に戻っていく。二郎は体中の血管が熱くなったように感じている。
「二郎君、学校で変わったことは無かったかね?」
「あ、えっと……気になる話を聞きました」
二郎は奥寺舞子と吹雪から聞いた話を華月と沖田に伝えた。
「長門組か……策を巡らすのが相変わらず好きなようだ」
華月はつまらなそうにつぶやいた。
「木城君、ご苦労だった。他に何もなければ帰ってもらって結構です」
「あ、はいでは失礼しました」
二郎が校長室を出ていく。
「この学園、色々と面白い話が聴けそうだな。校長、お前の持っている盗聴器を各教室と廊下に仕掛けろ。我がお前の楽しんでいる更衣室と便所だけ聴いても仕方ないからな」
華月は盗聴器の一つを校長の胸に指で押しつけながら言った。
「ああああ、はいいいいいっ!直ちに……」
前かがみになりながら必死の形相で答える校長。
「私は嬉しいですよ校長。貴方のようなものでも華月様の役に立てるのだから」
続く
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