VAMPIREEYE86 「妖蛇襲撃」
―桂川近郊の倉庫街
ならず者のサイバネのチーム SSS (スーパー・ストロング・サイバネティッカー)が集会を行っていた。
積み上げられたコンテナの上にソファを置きそこに座るしなやかな筋肉を持つ男。
SSS 京都支部代表の猫田ガイム。正体は化け猫である。
「最近よそ者がデカイ顔してるって聞いてるんだけどどういう事かにゃ?」
「気持ち悪い奴らなんすよー猫田さん!灰色のフード被ったゾンビみてぇな連中で話は通じねぇ異常なほどタフ、骨の 1 本や 2 本へし折った所で顔色一つ変えやしねぇんですわ!」
金髪のサイバネ者は叫んだ。
「それだけかにゃ?」
「それだけじゃないんす!ダチが拉致られてかなりの数行方不明っす!そんで昨日偶然風俗街で見かけたんすけどぉ……ダチの秋桜(コスモス)の奴すっかり変わり果てて灰色ゾンビの一員に加わってたんすよ!!オイラ気味悪くて……」
「は~ん?新しいヤクでもやってんのかにゃ……?他には何か知ってる者は?」
「うぃっす!猫田さん!!オレも灰色ゾンビ集団見たっす!!嵐山公園でツレとナンパしてたら急に天気が悪くなってきて……気が付いたらツレの奴消えてて声がしてそこ行ったらツレが灰色ゾンビ集団に噛みつかれてました!ガチヤベーと思ってすぐ逃げました!!」
スキンヘッドサングラスの男が言った。肘から先は機械化されスパイクがついている。
「……(呪術師の仕業かにゃ?)そいつらはウチらを狙っていると思うかにゃ?」
「わかんねーっす!」「どうなんすかね?」「滋賀の連中か?」「サツは動いてない?」
「ああ、ああ~静かに!分からないんなら灰色ゾンビマンを一人連れてくるにゃ!拷問でも何でもして正体を吐かせてやるにゃ!」
「うっす!」
「猫田さん~それって早い者勝ちっすよね? 1 番のもんには何か賞品あるんすか?」
SSS の幹部・矢島ユウヤがガムを噛みながら言った。バイクの事故と新型悪性腫瘍で下半身の殆どが機械されているサイバネ者だ。
「もちろん。ただ働きは皆嫌いだろうにゃ?先週入手した旧時代の二輪車のパーツでどうかにゃ?」
『おお~っ……!』
歓声と口笛が聞こえる。
「んで、それはどんなパーツで?」
「伝説のバイク、 TACHI のハンドルだにゃ!」
それを聞いてますます盛り上がるサイバネ者たち。
「文句ねぇ!一番威勢のいい灰色ゾンビマン拉致って来るぜ!!」
「今から開始にゃ!」
猫田ガイムの合図で倉庫街からバイクの集団が出ていく。残ったのは数名だけだった。
「んん?お前たちは行かないのかにゃ?」
痩せた顔色の悪い長髪の女性、巨漢でバケツサイズのフライドチキンパックをむさぼる男、ニタニタと笑うゴーグルのチビ男、メッシュを入れた両脚機械の少女。
三人は闇の住人でメッシュの少女だけが人間であった。
「バイク……興味ない」「オラは上手いメシの他はどうでもいい」「イヒヒヒヒ……ゾンビはちょっと勃たないっすからねぇ」「……」
「明珠香、何で黙ってるにゃ?」
メッシュの少女に声をかける猫田。
「拉致とか……協力できないよアタシは……」
「ニャハハハハ!いいにゃいいにゃ!お前は金さえ用意してくれりゃあ SSS で自由にしてれば!死ぬまで抜ける事は出来ないけどにゃ!!」
「……」
唇をかみしめ、うつむくメッシュの少女明珠香。
***
車を走らせ 30 分ほどで二郎と平安新聞社社主の河上起央は 大北山松鴎山町に到着した。
「のどかな良い所だよねぇ~」
「ここは初めて来ました」
「お寺があるねぇあそこで大熊我們氏の事を訊いてみようか」
「はい」
小さな寺に入っていく二人。読経の声が聞こえる。
「誰だ?」
読経の声の主が訪ねた。二郎と河上は声のする方に歩いていく。石畳の通路を歩き墓地の横を通り堂の前に出ると僧侶の姿が見えた。
「知らぬ顔だな」
堂に座っている僧侶が立ち上がって振り向く。
「僕は河上起央、平安新聞社の社主でして……この男の子は」
「木城二郎です」
太い眉を顰める僧侶。
「新聞社の社主と少年がここに何をしに?」
「人を探してましてね?」「そうなんです」
「身元調査の類はこの寺はお断りしている」
「探しているのお坊さんでして」「大熊我們さんを探してます、母の知り合いなのです」
「ほう?何の用事ですかな?」
堂から降りてくる僧侶。二郎は義手が反応しているのを感じている。
「貴方が大熊我們氏では?」
「如何にも。拙僧が大熊我們だ」
警戒の色を強める大熊我們。
「俺は……諸田凪子の息子です、話を聞きたくて来ました」
「諸田凪子……あの者の息子とな。それを証明できるかね?」
「電話をかけるので母と話してもらえれば」
二郎は母・凪子に電話をかける。
『どうしたの二郎?今忙しいのだけど?』
「母さん、ちょっとだけ代わるね」
『何々?誰と?』
「申し申し?」
『もしもーし、木城凪子ですけど?』
「凪子なのか?拙僧は大熊我們である」
『あー!我們さん!!お久しぶりですー!!ウチの息子二郎が何か?』
「いや、結構。目の前の少年がおぬしの名前を出すのでな、確認をしたかっただけの事」
『そうだったのですか~いやぁ懐かしいです!いっぱい話したいんですけど今ちょっと取り込んでましてねーまた今度ゆっくり会って話しましょ』
「ああ、そうだな」
電話を切る凪子、我們は二郎に携帯を返す。
「それで、凪子の息子が吸血鬼の気をまとって、そこの吸血鬼と行動してるのはどういう事なのか?」
二郎は華月の事を伏せて簡単に事情を説明した。
「源藤高雅という男、更に正体不明の灰色の連中か……してそちらの新聞社の河上さん、用とはなにかな?」
「僕は木城二郎君の付き添いでね。新聞屋として情報収集のついでに手伝いに来たのです。大熊我們さん、あなたも人間じゃあないでしょう?」
「ああ、お互い化かしあいはやめるとしようか。おぬしはどこの者だね?」
「反教会派の者とでも言っておきましょう。僕の属してる組織には名前がありませんのでね、大熊我們さん貴方は?」
「酒呑童子・鬼の四天王が一人。熊童子である」
大熊我們の額から角が生え顔と腕に青い紋様が現れた。
「意外とあっさり答えてくれるのですね」
「おぬしこそ酒呑童子の名前を聞いてその反応とはな」
「どれほど恐ろしい鬼かは存じておりますよ。約30年前に転生され人間に化けて過ごしておられる。今は企業経営者でしたかな?あなたたちと敵対する理由はこちらは無いのですだから平然としていられる、そんなところです」
「なるほど……それで凪子の息子は拙僧に何の話を聞きにきたのかな?」
「連合の事についてです……」
「ほう……立ち話もなんだ、茶でも出そう、ついてこい」
堂の裏にあるプレハブ小屋に移動する三人。
「ここの住職が病気でしばらく留守にしているので代わりに拙僧が寺の管理をすることになったのだ。この小屋は車で移動できる拙僧の家だ」
「お邪魔します」
「さぁ茶だ……」
宇治茶を淹れて机に置く大熊我們。
「連合の何が聞きたい?拙僧に答えられることなら何でも話そう」
二郎は白峰家と教会の二大勢力、大天狗長門組と葛野忍率いる陰陽師団の事を話し、連合はどう動くのか、二大勢力が倒れた後どうするつもりなのか聞いた。
「酒呑殿は京都の経済界を手にした後は政界に進出するおつもりです。教会については拙僧も何も聞かされてはおりませんな。ただあの方の邪魔になるものは排除するだけです」
「つまり逆を言えば酒呑童子の邪魔をしなければ敵対象にならない。協力すればいい関係を築けるという事ですかね?」
河上起央は宇治茶を一口飲んでそう言った。
「そこまでの話を進める権限は拙僧にはありません。別の機会に代表の者同士で話し合いをするというのはどうですかな河上さん?」
「そうですね、ではこちらの代表の者に伝えておきます。連絡手段はどうしますか?こちらは僕の携帯でいいですが」
「では河上さんの携帯電話に連絡するように伝えておきます」
二郎は思いがけず話が進んでいくことに驚いた。偶然河上と一緒に行動したことにより連合との繋がりを得た。自分一人ではどうなっていたのかと想像して頭を振った。
「あの……我們さん俺は……」
「河上さんと同じ組織の者なのだろう?君は吸血鬼にも関わず特有の殺気を感じなかったから拙僧は話に応じたのだ。河上さん一人で来たのなら話はしなかっただろう。凪子と君は話す雰囲気が似ておる」
「は、はぁ……」
二郎が少し困った表情を浮かべている横で河上はプレハブ小屋の窓の外を見ている。
「おや?大熊我們さん、お寺の外に妙な気配を感じませんか?」
「うむ……招かれざる客が来たようだ」
「えっ?」
錫杖を手に小屋を出る大熊我們、それに続く二郎と河上。
「OHOOOOOOOOOOoooooooh……」
うめき声をあげ現れたのは灰色のフードを被った集団。
「あれが例の灰色の奴らか!」
「はい」
「そうですね」
錫杖を構える我們、二郎はバックル剣、河上は指先を上着のポケットに入れて構える。
灰色の集団は消音銃、ボウガン、サバイバルナイフに斧を手にゆっくりと近づいてくる。
「喝っ!」
錫杖を突き出す我們、離れた灰色の集団の数人を吹き飛ばした。それを受けて一斉射撃を行う灰色集団。二郎はしゃがんでバックルを盾に変形。河上は高く飛び上がった。
「把!」
「ん?」「おや?」
弾丸、矢は我們の手前で止まり次の「喝」の掛け声で四散した。
「すごい……」「法術とやらですかな?」
「なに、大した術では無い。大気に拙僧の鬼力を乗せて留めて放っただけの事」
続けて連射してくる灰色集団に対し我們は更に大きな衝撃波を放って迎え撃つ。弾丸・矢を跳ね返し集団を吹き飛ばしていく。
「去るが良い!追いはせん、だがこれ以上来るというのなら容赦はせんぞ?」
「GAOOOOOOOOOOO……」
弾丸・矢を撃ち尽くした集団はサバイバルナイフと斧を振り上げて一斉に突進。
「喝!喝!喝ーーーーーーっ!!!!」
衝撃波で吹き飛ばされ宙を舞う集団。石畳に叩きつけられるがすぐに立ち上がる。腕はあらぬ方向に曲がり肩は外れ足首は捻じれているが気にしている様子はない。
「む、屍人か……」
「今度は僕にやらせてくださいよ」
名刺を数枚取り出す河上。徐々に発光していく。
「ハッ!」
名刺を投げつける。灰色集団に命中し爆発した。
「河上さん、こいつらを指揮してる奴がいるはずだ」
「そうなんですか大熊さん?」
「ああ、この類の集団には必ずいる」
爆発した屍人の耳からムカデのような蟲が這い出てくるのが見えた。すぐに二郎は気になって近づくが煙のように消えていった。
「あ……今ムカデみたいなのが……」
「何?」
「気をつけろよ凪子の息子、うかつに触ろうとするな」
「はい」
近づいてくる集団の最後尾に金髪革ジャンの細身の男の姿が見える。
「あれがこいつらの指揮者か」
「フッシャアアアアアア……灰になれ。灰になれ。白は駄目だ黒でも駄目、灰色こそ真理」
「なんだいアンタ?僕はこういうもんでね」
エネルギーを込めた名刺を投げつける河上。
「フン!おれは妖蛇の巳島比呂人……」
革ジャンの背中から六角棒を取り出して名刺を叩き落す巳島。
「吸血鬼に酒呑童子四天王鬼に半端者吸血鬼か……さ~て鬼退治鬼退治……」
巳島は先の割れた長い舌をチラつかせてつぶやいた。
続く
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