VAMPIREEYE87 「灰色の軍勢【グレイズ】」
六角棒を捻る妖蛇の巳島。両端から鋭い刃物が飛び出す。
「フシュウウウウウウウウ!」
プロペラめいて回す巳島。刃が触れた石畳は切り裂かれて飛び散った。
「鬼退治用に貰ったナノコーティングされた超合金ブレードだ」
「何者だお前たちは!!」
我們が叫ぶ。
「海外の妖でも退魔組織でもなさそうだねぇ」
河上は名刺を構えて言う。
「シャッシャッシャッ!!灰色の軍勢【グレイズ】とでも呼びな!!一ヶ月でこの京都は灰色の軍勢が支配する!!アホな人間は屍兵士に、従わない妖には死を!!」
倒れていた屍人が次々と立ち上がる。爆破され欠損した屍人は合体してお互いのパーツを補う。
「死を恐れず最後まで戦い続けるぞこいつらは!烏合の衆と侮るなよ?集団意思で動いているこいつらは斃されるたびに経験を積み強くなる!!」
「灰色の軍勢【グレイズ】(嵐山公園の鳥人間もそうなのか!?)」
二郎はバックル剣を握りしめる。
「シャアアアアアッ」
黒い影の蛇に変身して屍人の間を縫って水のように進む巳島。河上の名刺を避け我們の衝撃のタイミングを外し二郎に迫る。
「くっ!!」
辛うじて超合金ブレード棍をバックル剣で受け止める。生身の左手が痺れた。
「一番弱そうなお前から仕留めるぜ!」
連続突き続いて回転斬りを放つ巳島。二郎は義手の力を発動させて高速の刃を見切る。
「バハァ!」
大きく口を開く巳島、大きな液体の塊を吐き出す。
咄嗟にしゃがみ躱す二郎、石畳に落ちた液体は煙を上げる。
「!?」
「妖蛇の毒は妖にも効くんだぜ~?」
「ゲホゲホッ!」
毒液の煙を吸ってせき込む二郎。その隙を見て巳島が首を狙う。
「ヌッ!?」
剣での防御が間に合わず義手で受け止める二郎。巳島はあまりに固い手ごたえに動揺して一歩離れた。
「なんだこの手ごたえは」
「ゲホゴホ……」
「喝!!」
我們の衝撃波が巳島を吹き飛ばす。
「大丈夫か二郎?」
「ゲホゲホ……なん……とか」
受け身をとった巳島は両腕を伸ばして蛇化、 10 匹の蛇が二郎と我們を襲う。
「把ッ!」
錫杖で地面を叩く我們、放射状に衝撃波が広がり蛇を受け止めた。
「なんという頑丈な奴よ。拙僧の先ほどの衝撃波は一軒家を倒壊させる力を込めたのだぞ」
「シャッシャッシャッ!灰色の軍勢でパワーアップを果たしたのさ!!そうじゃなきゃ鬼退治になんて来るかよ!!」
伸ばした腕を大きく振り回す巳島、衝撃波の壁ごと二郎と我們の二人を跳ね飛ばす。
「ぐっ……」「ぬう……」
「どうだこの圧倒的パワー!鬼の力を上回るぞ!!」
腕を振り上げる巳島、そこに河上の名刺が命中爆発。
「屍人君たちは吹っ飛ばしておいたよ。次はアンタが吹っ飛ぶ番だ」
「けっ!」
ブレード棍を持った腕を伸ばす巳島。河上は大きく後ろに飛んで回避。
「お前のボンバー攻撃は大した威力じゃない。このまま間合いを詰めれば終わりだ」
「そうかい?じゃあもう少しデカいのを喰らって見なよ」
巳島の革ジャンが燃え上がる。
「言っとくけど爆発させるだけじゃあないんだな」
「ぐああああ……熱い……テメェよくも俺の革ジャンを……!!」
河上の力はエネルギーを無機物に伝え発動させるもの。瞬時に炸裂させれば爆発、断続的に発動させれば燃やすことが出来る。投げて触れさせた対象に移すことも可能である。
「こういう事もできるんだ」
ポケットから取り出したカッターナイフを構える河上。エネルギーが伸び、光の刃を形成した。
「どうだいカッコイイでしょ?映画のフォトンセイバーみたいで!斎藤さん見たいな本格的な剣道やってるわけじゃないけど健康の為にやってるHKF(ハイパーキングファイター)って体感型対戦ゲームをやっててね。僕はそれなりに強いんだよ」
「ゲームと現実の戦いを同じに考えてる阿呆か!」
「それはどうかな?」
巳島の高速ブレイド棍を全て打ち払う河上。隙を狙って刺突、巳島の腕を切り裂く。
「HKFではアンタと同じくらい速い奴もいるんだ。ゲームだからって馬鹿にしていると痛い目に合う事になる」
河上の言っていることは間違いではない。だが現実にゲームの動きを可能としてるのは吸血鬼となった身体能力にある。常人で生身の者にはHKFのアバターと同じ動きは不可能である。
「クソが!?」
「そういう大振り攻撃は弾いてカウンターでストライクスマッシュだ!」
ブレイド棍の振り下ろしを擦るように防御、反動を利用してカウンターの攻撃を放つ。エネジー剣が伸びて巳島の腹を切り裂いた。
「グゲエエエ……」
「止めはこれで!吹っ飛びな!!」
ボールペンを投げつける河上。エネルギーを発し螺旋状に回転しながら巳島の胸に突き刺さり爆発。鮮血をまき散らしながら後方に転がっていく。
「河上さん凄い……」
「いやぁ……やっててよかったHKF!だよ……」
「げぇむでそこまで強くなれるとは……」
吹き飛ばされた巳島はゆっくりと立ち上がる。
「クソが……今度はこうは行かねえぞ!!」
影のような蛇に変身し去っていった。後に残ったのはバラバラになった屍人だけだった。
「いやぁ~危なかったねぇ。からめ手を使うタイプだったら僕は勝てなかった。そもそも僕はこんな風に面と向かって戦うのは苦手なんだよHKFだけにしたいね」
「十分強いですよ河上さん」
「ふむ……」
「はは……斎藤さんや佐久間さんのような武闘派じゃないからこういうのは出来るだけ避けたいところだ」
「逃げた妖蛇の事も気になるがまずはここをどうにかせんとな」
騒ぎになる前に我們は結界術で屍人の破片を移動させ寺の敷地内一か所に集めて封印を施した。
「万が一動き出してもこれで安心だ。茨木に連絡してこいつらの正体を調べてもらうついでに銃火器の出どころもな」
「じゃああとは我們さんにまかせて僕たちは帰ろうか二郎君。我們さんに会いたければまたこれるし、僕の携帯番号も教えたしね」
「はい」
***
―愛知県
愛知県を流れる木曽川の近くに存在する犬山城。そこから灰色の巫女服を着た女性が出てくる。手には最新型の携帯電話端末。
「青鈍(あおにび)、橡(つるばみ)、皀(くり)、今から私もそちらへ向かう準備はできた」
『こちらの準備も整いつつありますぜ大将!』青鈍が言った。
『バケモノと鬼だらけですわ大将』橡が言った。
『バケモノと鬼を食い殺すのが楽しみです大将速く来てくれ』皀が言った。
「ええやりましょう、バケモノ退治です鬼の征伐です」
灰色巫女の女性は通話を切る。ただならぬ殺気が女性に向けられていた。
「ちょいと待てや小娘」
石垣の影から現れたのは左目に眼帯をした狐人間。修験者の格好をしている。
「ああ、生き残りの方ですか。小汚い狐」
「ただでは行かせん……一族の為にも」
銃剣を背中から取り出す狐修験者。
「やめておいた方が、身の為。ですよ?折角生き残ったというのに」
「貴様……吾輩だけをあえて残したのであろう……何の為だ!!」
「何の為……ですか。それはもちろん、楽しむ為ですね」
女性は邪悪な笑みを浮かべる。
「なんだと!?」
「そうやって、傷つき、怒り、悲しみ、勇気を振り絞って、私に向かってくる。物語の主人公になったかのように自分を奮い立たせる」
「なにを言っている!!」
「貴方はあくまで物語のその他大勢。主役であり作者はこの私。結末は決まっています」
「このイカれ女が!くらえ!!」
銃剣が放たれる。当たれば病魔に侵される狐修験者の力が込められた弾丸。
「ふふ……」
弾丸は大きくそれて弧を描き狐修験者の腕に命中した。
「ぐあああ……!?」
「愚か愚か、あなた達一族がそうやって返り討ちにあったのを見ていたはずでしょう?」
ゆっくりと歩いて近寄る女性。
「うああああっ!来るな!!来るんじゃねぇ!!」
銃剣を振り回す狐修験者。剣は女性の細腕で止められた。
「何だ!何でだ!!」
「これが貴方と私の差です。呪(しゅ)!」
人差し指と中指を立てて狐修験者に向ける女性。銃剣が爆発、狐修験者の指は衝撃であらぬ方向に折れ曲がっている。
「ぎゃああああああっ!!」
「思った以上に頑丈ですね、指が吹き飛ばないとは。その頑丈さで、私の術を受けて下さい。何秒持ちますかね」
逃げようとする狐修験者の前に風のように回り込む。
「ひっ」
「 10 秒、以上、耐えて、見なさい、さぁ!」
空手やボクシングとは違う独特の打撃を放つ女性。打撃痕が青白く光を放っている。
「ふぐうううああああ……」
「さぁ……爆裂死するまでの数秒間、これまでの生を振り返りなさい。楽しかったこと辛かったこと、後悔、懺悔、今この瞬間が生においてクライマックスです。もはや助かることは不可能!!さぁさぁさぁ!!感情を爆発させなさい!!」
「いぎゃあああああああ……」
全身から血液を爆発的に噴出して狐修験者は息を引き取った。
「ふぅ……中々の悲鳴でしたよ。鬼はもっと良い声で鳴いてくれるでしょうねぇ」
女性の携帯端末が振動した。
「はい、私です。ええ、この地の準備は整いました……ブラックヴァリーを入れるといいでしょう。……はい、アイスクラーピウスの上陸に合わせて計画を進めますよ」
通話を終える女性。
「……思い上がっている、老人が。神名一族が、全て、貴様の思い通りに動くと、思うな」
「咲夜さま」
「梨花か」
小柄な人型ロボットが近づいてきた。グレーを基調とした流線形のボディ。介護用の人工知能搭載型ロボットに式神を憑りつかせていた。
「お車を用意してあります。どうぞ」
「ああ」
神名L咲夜は式神梨花の運転する車に乗り込み京都へ向かった。
***
自宅に戻る二郎。兄の蓮也が先に帰っていた。
「ただいま兄貴」
「おう……ん?二郎お前その右手……何ともないのか?」
蓮也の目には二郎の右手の義手から黒い靄が立ち込めているように見える。
「何とも無いよ?むしろ生身の時よりいい感じでビックリしているくらいなんだ」
「そうか……どこで見つけてきたか知らないがお前が良いならまぁ……二郎、すまなかったな。その右手……」
「大丈夫だよ兄貴。この義手があったから今日も助かったんだ」
二郎は蓮也に今日会ったことを話した。
「……灰色の軍勢【グレイズ】か。妙な連中と源藤高雅との繋がりもあるかもしれんな」
「兄貴が醍醐寺で見つけたと言ってた連中だよね?」
「そうだ……あの場所で何をしていたのかまだ分かってない」
「華月さん達が調べてるの?」
「ああ」
その後しばらく他愛もない会話をしながら二人は簡単な夕食を済ませた。
「兄貴、久しぶりに稽古付き合ってくれない?」
「そうだな、やろう」
二人は家の裏の道場に足を運ぶ。
日付が変わる頃まで竹刀の音が聞こえていた。
続く
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