VAMPIREEYE94 「長所と短所」
HKF をプレイした後、二ノ丸明珠香はレグスと共にセンジョーを出る。その後ろには二郎、吹雪、恭一がいる。
『明珠香、後ろの学生ども話したそうだぞ?』
「ん?」
「あの……これ、忘れてるよ」
二郎は HKF のカードを明珠香に見せる。
「あ、忘れてた!ありがとう、でももうプレイする事はないかも……」
「そうなの?あんなに上手だったのに」
「海外に行くから……まぁあっちにもあるらしいけど当分忙しいだろうし。気が向いたらするかもね」
「もうセンジョーには来ないの?」
「ちょっとトラブっててねー……そっちを解決しなきゃ海外もいけないんだ。なんせ携帯盗られてるし……」
「そっか……店内対戦で相手してもらえたらいいなって思っただけなんだ。俺たち三人はすぐに上手くなりたいんだ。自己紹介まだだったね、木城二郎」
「白峰吹雪です」「速水恭一だ」
「アタシは二ノ丸明珠香」『レグスだぜ!』
レグスの声は聞こえないはずだが、二郎たち三人は反応した。
「今の声は?」
「えっと……義足の補助 AI の声……さ!骨伝導でアタシにしか聞こえないはずなんだけど君たち耳が良いんだね」
『のんびりしてる暇ないんじゃないのか明珠香?例のサイバネ野郎たち来やがったぞ』
「はっ」
振り向くと大通りの向かいに狂気を宿らせた眼のサイバネ達が 4 人向かってきていた。
「あれがトラブルの原因さ! SSS の連中に追われてるって訳、君たちは関係ないから逃げなよ!」
明珠香はジャンプで歩道の屋根に飛び乗り続いてセンジョーの隣のビルの看板に足を掛けて更に飛び、あっという間に屋上へと移動した。
「ドケドケドケドケ!」「ブチコロスゾ!」「ジャマダジャマダ!」「オラオラ!」
違法改造義手や義足を振り回し通行人に暴力を振るいながら突進してくるサイバネ者達。センジョーの前には暴徒鎮圧用のパワードスーツ警備員が立っている。サイバネ者たちに対し鎮圧用ライフルを構える。
「何か様子がおかしくね?」
恭一はサイバネ者たちの顔色に気が付いた。
「いくら無法者のアイツらだってセンジョーの警備員に突進とかしない……」
二郎が言った。
「もしかして……あれは」
「例の敵に乗っ取られちまってる!?」
「ミナゴロシダ!」「ヤッテヤルヨー!」「ジゴクのハジマリダ!」「ヒャッハー!」
サイバネ者らの手足から火炎放射、ニードル弾、電撃ワイヤー、超振動カッターが飛び出す。それを見た一般人、センジョーの客は一斉に散っていく。
「ヤバイぞ二郎、吹雪ちゃん!!」
「どうすれば……」
「あの程度のサイバネ者センジョーの警備員なら大丈夫のはず、あの明珠香って子を追いかけましょう、何か知っている様子だった」
吹雪は軽い身のこなしで人混みをすり抜けセンジョーの隣のビルの看板に飛び登って明珠香を追いかける。
「吹雪ちゃんやるねぇ……しかし着替えてきて正解だったな、制服でこんな騒ぎに巻き込まれてたら面倒な事になってたぜ」
恭一も素早い動きで吹雪の後を追う。
「二郎、お前にはキツイだろうから吹雪ちゃんの家の使用人さんと車で携帯の GPS を追ってこい」
「分かった!」
センジョーの駐車場に走る二郎、車で待機していた須原に事情を話し発車する。
窓の外を見るとサイバネ者たちは暴徒鎮圧用ライフル弾で撃たれた後、電磁刺又で取り押さえられていた。遠くからパトカーのサイレンも聞こえる。
「連中の目的か分かりまセン」
「そうなんですよ須原さん。別に俺たちや吹雪さんを狙ってた様子じゃなかったし」
「センジョーと揉め事を起こせばどうなるかサイバネ者達も良く知っているハズですガ」
「あのサイバネ達例の灰色肌の連中に様子が似てたんで裏にいる奴がさせてるのではと」
「サイバネ集団が手がかりになるのデスネ」
吹雪と恭一の GPS を追跡する車。鴨川近くの薄暗い地域に到着、吹雪と恭一が待っていた。明珠香の姿は見えない。
「吹雪さん、恭一、明珠香って子は?」
「あのとんでもなく増改築された訳の分からない建物の中に入って行ったぜ……」
「監視カメラにこちらを伺う視線を沢山感じるわ」
三人の目の前の道幅は狭く車一台分も無い。目指す建物は違法増改築を繰り返し道路までも塞ぎ更に電気までも周囲の建物から引いている。
「いかにもって感じだよなぁ。あの中じゃあ何があっても不思議じゃない」
「市も警察もこの地区は見て見ぬふりの放置しているから……」
違法増築の建物の周囲にある家からゾロゾロとサイバネ者達が出てきた。
「なんだてめえら!ブチコロスゾ!」「見物料 10 万円払いな!出来なきゃ解体だ!!」「おっと通報なんかできないぜ?この辺の地区は専用電波でのみ携帯は使えねぇからなぁ!」
「待ってくれ、人を探してるだけなんだ!」
「待たねぇ!今すぐ手足をぶった切ってやる!!なあに安心しろ 50 年ローンでサイバネ付けてやるからよー!!」「ヒャハハ!そこの女は俺にヤラせろ!!」「見物料払うかここでバラされるか今すぐ決めろ!!」
更に人数を増やすサイバネ達。
「二郎!こいつらと話なんてしてる暇はねぇ!!ぶっ飛ばして押し通るぞ!!」
「でも……」
「フン!」
サイバネの一人が吹き飛んでシャッターにめり込んだ。車から出てきた須原が片手で投げつけていた。
「皆さん、ここは任せてくだサイ」
「ありがとう須原、行きましょう二郎くん恭一くん」
吹雪は助走をつけて塀を飛び越える、それに続く二郎と恭一。
「テメェおっさん!死ぬしかねえぞコラ!」「ヤッチマエ!!」
電撃棒、火炎放射腕を振り上げて須原を囲むサイバネ達。殴りかかった瞬間カウンターの拳を喰らって転げる。後ろから迫るサイバネの腕をつかんで砕き、足を持って大きく回す。周囲のサイバネ達は振り回された火炎放射サイバネの炎を喰らって転倒。
「ウギャアッ」「グエアアっ」「アガガガー……」
「だらしねえなこの俺が!!」
岩盤を砕くアンカーをつけたサイバネが前に出てくる。須原は右ストレートを打ち込んでアンカーの義手ごと吹き飛ばした。
「バカナッ!」「グエエエッ」
「所詮一人だ!舐められてんじゃねえー!」
二郎たちは塀を越え狭い通路をぬけ広場に出た。灰色のフードを被った猿顔の男が広場の土管上から飛び降り三人の前に立ちふさがった。
「誰だ?」
「ああん?まだキメて奴が残ってたか。それとも迷い込んだ莫迦か?」
「明珠香って女の子を探してるんだ!メッシュの入った両脚サイバネの!」
「知るか!とりあえずお前ら三人は灰色の軍勢入りだ!」
背中の三枚刃ブーメランを投げつける男、二郎は咄嗟に右義手で受け止めた。
「くっ!!」
「ああん?何だその義手は……」
妙な手ごたえに男は思わずそうつぶやいた。
「いきなり何だ!!」
「俺はテメェらを狩る者だ!訳も分からずくたばりやがれ!!」
再びブーメランを振りかぶる男、そこに吹雪は魔力を込めた白木針が三本投げつける。二本を弾き飛ばされるも一本は男の肩を掠めそこから凍結を始めた。
「二郎くんは明珠香さんを追って。ここはわたしと恭一くんが引き受けるわ」
「オイオイオイ、えらく強気だが半端吸血鬼と獣人だけで俺の相手が務まるとでも?」
「……凄んでも無駄よ、どこで受けたのか知らないけど貴方はかなりのダメージを蓄積させている。わたしは二郎くん無しでも勝てると判断した」
背負ったギターケースから太刀を抜く吹雪。恭一も獣人化を済ませる。
「……成程、流石は白峰家の者という事か。じゃあこっちも遠慮なく行かせてもらうぜ」
『ヒースグレイパワー』
男の全身から赤みがかった灰色の煙が噴出。煙を吸収し狂暴な魔猿へと変貌した。
「何者だって顔だな?いいぜ教えてやる。俺は橡(つるばみ)全吉、灰色の軍勢三神獣の一人だ」
「この前会った羽の生えた者と貴方は仲間ね?」
「青鈍の事か、その通り今更隠す必要も無い。この街は壊滅するのだからな!!」
飛び掛かる橡、吹雪は太刀を横薙ぎに冷気を放って迎え撃つ。突風じみた冷気を受けた橡は押し返され、たたらを踏んで後退する。
「吹雪さん!」
「行って二郎君。わたしは大丈夫、恭一くんもいるから」
「おう、行け二郎!」
二郎は広場の左に続く路地を走っていく。それを見た橡は忌々し気に凍り付いた体の前面の氷を砕いて吹雪を睨みつけた。
「チッ……冷気がこれ程厄介だとはな」
橡は先日戦った速さと力と毒の妖達と比べる。
「(力押し、速さ、毒、刃物、飛び道具どれも俺は怖くねぇ。だがこういう術は……やりにくいぜ。皀の奴の方が向いている)」
橡は壁、電柱を蹴って飛びフェイントをかけ今度は恭一に襲い掛かる。
「(俺の病爪でくたばりな!!)」
バックステップで回避する恭一、追撃する橡の足元から鋭い氷柱が伸びる。両足に突き刺さり動きを止めた。
「たかが氷で!この俺が!!」
「たかが氷?これは空気中の水分を凍結させたものじゃない、わたしの魔力を冷気に変換させて作り出したもの」
吹雪は白木の針を 3 本投げつける。
「そして相手の魔力に干渉し凍結させる事もできる」
白木の針が突き刺さった橡の腕が凍結を始める。
「チィッ!」
橡は凍結を始める腕の体毛を爪で削ぎ落とす。
「恭一くん、あの敵の爪嫌な予感がする。絶対に触れないで。これを使って」
「オッケー……!」
吹雪は脇差を恭一に渡す。
「接近させねぇってか?それならこれで……どうだ!!」
大きく息を吸い込み胸を膨らませ仰け反る橡。そこから一気に灰色のブレスを放つ。それに対し吹雪は、前方に 3 本の白木の針が氷の盾を形成し回転。灰色のブレスを押し返す。
「ク……(莫迦な!半端者の小娘がこんな力を!?)」
「(少し前までのわたしならこの敵相手に成す術もなく敗北していたと思う)」
教会のメンバーとして活躍を始めた頃と今の吹雪は全く戦闘スタイルが異なっていた。二郎や恭一とチームを組むようになって以来、毎晩のように勝てない強敵と戦う夢を見るようになった。最後は決まって吹雪自身、二郎、恭一が殺されて終わる。
「(体力では二郎くんに及ばない、速さでは恭一くんに敵わない。わたしが二人よりも得意で出来る事は魔力の操作と動作の精密性)」
吹雪は夢の中で何度も戦う内に気が付いた。父のように剣と体術を使い術でサポートするやり方や、母のように圧倒的身体能力と魔力で殲滅するやり方、どちらでもないと。魔力操作するのが得意だと。父から教わった剣術体術、母から教わった魔力操作を効果的に生かす方法は別にあるはずだと起きてからも自分のスタイルについて考えた。
「(わたしの魔力の量は多くない無駄には使えない。出来るだけ少ない魔力で大きな効果を出さないと駄目)」
父・蔵人の使っていた術と母・雪名の魔力操作を参考に吹雪は訓練を重ねた。
父の剣、体術ではなく術。母の高火力ではなく操作を。
そして青鈍との戦いでいい感触を得た。ピッタリとハマった感触があった。
「(お父さんのように術は上手くないしお母さんのような高火力は出せない、だけど二人の特徴を合わせて使えるのはわたしだけ。姉さんも霞もこれはできない)」
吹雪は更に三本の白木の氷刃を追加。体の周囲を漂わせて橡の出方を伺う。
「ホギャアアアアアアアアアアッ!!」
橡は咆哮を上げジグザグに突進する。吹雪は斜め後方に飛び、空中で氷の刃を足場に跳躍。背後から太刀を振り下ろす。
「ンギャアアアッ!!」
橡の背中から鮮血が迸る。その隙をついて恭一が足に高速の斬撃を三回入れた。橡は体勢を崩しながらブーメランを拾い振り向きざまに投げつける。
「(カカッ!病爪のグレイパワーをたっぷり纏わせたブーメランだ!!)」
ブーメランは吹雪が待機させていた氷刃で弾かれ動きを停止させた。
「チッ……」
「すげぇな吹雪ちゃん……って顔色……!」
吹雪は息を荒らげながら大粒の汗をかいていた。
「まだ大丈夫、こんなに連続で魔力を使ったことなかったから……」
「ん?……俺もなんだか息が苦しく……」
「カカカカカ……効いてきたか、この俺の病爪がよ!(クソが、斬られた傷が塞がらねぇ)」
距離を取る吹雪と恭一。吹雪は回復力を高める札を取り出し自分の胸と恭一の胸に張り付ける。吹雪の父、蔵人が家に置いていたものを持ってきていた。
「この俺が爪で触れた物は汚染される。魔力であってもな!!地獄の苦しみから解放されるには俺を殺すか屍人化を受け入れるかだ!!」
黒い物質が入った瓶を見せつけた後、橡は血を流しながらツギハギの建物に飛び乗る。
「精々苦しみな!生きてたら屍人にしに来てやる!!」
橡が去っていく。
吹雪と恭一は全身痛みと倦怠感襲われながらも札の効果で何とか意識を保っている。
「……お父さんの札が無ければ危なかった」
「マジで助かったぜ吹雪ちゃん……アイツが去る前に倒れてたらその場で殺られてた」
「これが何かわからないけど……恐らくは呪いの類……」
「感染することはない?」
「なさそうだけど……もし感染するのなら広がっているはず」
「とりあえず吹雪ちゃんは須原さんの車に戻りな、俺の方がまだ症状軽そうだし二郎を追いかけてくる」
「そんな……」
「 10 分経って戻らなかったら須原さんと一緒に来るか誰かに助けを頼むぜ」
続く
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