VAMPIREEYE95 「対決猫田ガイム」
二郎は入り組んだ路地を駆ける。男と女の声がする方へ向かう。入り口で襲い掛かってきたサイバネのようなものはいない。周囲からうめき声が聞こえるだけであった。
「義手が反応してる……何に対してだ?」
黒い靄が義手から発生し消滅した。二郎は体がほんの少し軽くなった気がした。
「何だったんだ……?それより明珠香さんだ」
目の前にある壊れかけた鉄のドアを開くと鉄工所を思わせる金属の資材や廃材が並ぶ場所に出た。二階部分に鋭いネコ目の男と一階の鉄骨が並んでいる所に明珠香が立っていた。
「ニャンだ?部外者が迷い込んできたのか?」
「アンタは……何で追って来たのさ!」
「放っておけなかったんだ」
それを聞いて明珠香は目を丸くし、ネコ目の男は口角を上げて歯を剥いた。
「ヒーローの登場かニャ!見た所その辺のサイバネとは違う……上品な学生だろう?サイバネ集団 SSS がどういう存在か知らないわけじゃニャいだろ?他にも連れてきてるんだろ一人で来るアホはいないニャ!!」
「喧嘩とかしに来たんじゃない!」
「ほ~う?人の縄張りに勝手に入ってきてただで済む分けないだろう。慰謝料寄こすニャ、学生証出せ、お前の親から財産全てむしり取ってやる、嫌なら死体ニャ!!」
「猫田!この男の子は関係ない!!アタシの問題だよ!!」
「は~?明珠香、お前 SSS 抜けるつもりだろ?お見通しだニャ、だから代わりにこの小僧に財布になってもらうんニャー!」
「携帯返してよ猫田!手切れ金も払うからさ!!」
「アホかニャ!!デカい金を下ろせるならこんな事してないニャ!!お前らは一生 SSS の財布として生きていくんだよ!!」
軽い身のこなしで音もなく着地する猫田。小瓶を取り出す。
「ニャハハハハ!!どうしてもいう事が聞けないならこれを飲んでもらうニャ~」
中身は黒いミミズのようなものが蠢いている。
「ニャハハハハハ NAYAHAHAHA !!」
猫田は突然上を向いて笑い出す。皮膚がどす黒い灰色に変わっていく。
「……?」
「何だ急に!」
「気持ちいいニャ~どんなヤクをキメた時よりも!!さぁお前らもこれをヤルにゃ!!難しい事を考えずに済むしストレスなんかなくなるニャー!携帯なんか取り戻す為に戻って来るなんてアホ過ぎて笑えるニャー!!」
猫田は突如飛び上がり前方回転で明珠香に襲い掛かる。
「うわっ……っと」
「ニャハハハ!今のよく避けたな?だけどお前はどの道俺には逆らえないニャ、その義足、いつでも爆発させることが出来るんだニャ~」
邪悪な笑みを浮かべる猫田。
「どういう事!?」
「クソダサイ量産型の義足から SSS 特性の義足に変えた時に爆破装置を組み込んでおいたニャ! SSS はサイバネ技師もいるからニャ~金づるは逃がさないようにしてる訳だ」
「そんな!」
『その心配は無用だぜ明珠香!』
「レグス?」
『そんなもん俺がとりついた時に解除してる、安心しろ』
「分かった信じるよ」
独り言をつぶやく明珠香に猫田は首をかしげる。
「ん~?誰かと連絡してるのかニャ?まぁ無駄なんだが」
爪で襲い掛かる猫田。亜珠香は状態を反らして回避、それと同時に右足を跳ね上げサマーソルトキックで猫田の顎を蹴り上げた。
「ギニャアッ」
空中回転して着地する猫田。
「猫田の動きが見える……体が動く……!これがレグスの力?」
『そうだぜ!オーグルは宿主の能力を何倍も引き上げる。相性が良ければ特にな!!』
「ヌガアアアアアア……明珠香!お前はもう殺す!!決定ニャ!!」
前方高速回転で突進する猫田。
「はぁっ!」
横っ飛びで回避する明珠香。猫田の鋭い爪は廃材を切り裂いて火花を上げる。方向転換して今度は錐もみ回転で襲い掛かる。
「速い……それにあの爪!!」
猫田と明珠香の速さに圧倒され動けないでいる二郎はバックルを刀に変え構えて待機。
「ニャハハハ!ニャハハハハ!!」
様々な回転を加え爪で襲い掛かる猫田。明珠香は完全に見切って回避を続ける。
「これじゃキリが無いよ」
『かなり速いが付いてこれないほどじゃあない、次の奴のタイミングで仕掛けるぞ!』
前方縦回転で回転鋸を思わせる猫田の攻撃。明珠香は横に回避しながら体を捻り最小限の動きで猫田の横っ面にソバットを叩き込んだ。
「イギャアアアッ!」
「やった!レグスのやりたいことが頭の中に流れてくるから出来た!!」
『明珠香、もう少しだけ俺の力を使いこなしてくれ、サイバネ部分に頼りすぎるとお前の体がもたないからな。行くぞ!』
レグスの要求に頷いて答える明珠香。すると全身を緑黒のスーツを思わせるものに包まれ頭部はフード状のものが覆った。額には親指ほどの角が生える。
「レグスが全身を包んでる!?すっごいパワーが溢れてくるけど大丈夫なのこれ?」
『消費エネルギーが激しいから後でたらふくメシを食べるんだぜ』
「ニャーハハハハ!楽しくなってきたニャ!全力でやるにゃ!!」
猫田は立ち上がり両手両足の爪を更に伸ばしてナイフを思わせる形状に変化させる。
「こうやって目の前で変化させて見られたりしても今の世の中なんでもサイバネで通せるから楽だよニャ~」
「??まるで猫田はサイバネじゃあないみたいな言い方だよね?」
明珠香は自分の両脚の脛と踵、爪先がキラキラと光る鋭い刃に変化しているのを見た。
『まぁあれだ、あの猫田って男も俺と同じ人外の存在って奴だ』
「そうなんだ……」
『それは置いといて……デカい一撃を入れるチャンスがあったら両掌に力を集めるイメージを持て。それで破壊エネルギーを放出できる』
「オッケー!」
「ニャガガガガガ!!」
回転鋸と化した猫田が襲い掛かって来る。寸前で回避した明珠香。猫田はそれを見て足の爪を地面に突き刺して急ブレーキ、バック転で斬りかかる。
「あっ……」
爪が明珠香の腕を掠めた。鋼鉄を切り裂く一撃であったがレグスのスーツでダメージを押さえ浅い切り傷程度で済んだ。
「にゃに~!?今ので切断いったかと思ったのになぁ!!」
「痛った……」
「なら串刺しだニャ!」
明珠香はその攻撃を開脚伏せで回避。そして体を捻ってブレイクダンスめいた動きで猫田の足を払って宙に浮かせる。
「ここだ!」
起き上がりながら明珠香は掌を猫田に向ける。爆発音と共に赤い閃光が放たれ猫田は吹き飛び廃材の山に突っ込んだ。
『いいぞ!』
「凄い……」
それを眺める二郎。明珠香の強さに唯々驚いている。
『元々運動神経良いんだな』
「まぁ足無くすまでバレエやってたしね……それより今がチャンスだよ、おねんねしてる間に携帯取り戻さなきゃ」
明珠香は二階部分に上がって猫田のスペースにある机の上から携帯を手に取った。
『思ったんだが紛失届とやらを出せばよかったんじゃないのか?』
「駄目なんだって!大事なメモとか写真が入ってるんだから。携帯会社の光ネットデータバックアップサービスにコピーしてないのがいっぱいあるんだよ」
『そのサービスやっとけばこんな面倒無かったんじゃないのか?』
「だね……反省。未成年だから保護者にデータ見られるの嫌だったんだよ」
『なるほどな』
立ち去ろうとする明珠香、背後で猫田が立ち上がった。
「完全にキレた……獲物を弄んで嬲り殺しにするのが癖なんだがもう終わりニャ」
「え!あの攻撃でピンピンしてる!」
これまでとはうって変わりじりじりと距離を詰める猫田。軽く前傾姿勢で膝をばねの様に柔らかく上下に揺れている。
「やりにくい……」『アイツ戦い慣れてやがるな』
両者の間は 10 メートル程。
「明珠香さん逃げて!」
そこに二郎が割って入ってきた。
「は!?何やってんの!?」「早く今のうちに!!」
「邪魔だお前!死ね!」
緩やかな動きから突如飛び出す猫田。喉に目掛けて繰り出された爪攻撃を寸前でバックル剣で受け止めた。
「ニャアア!」
その場で回転爪攻撃を繰り出す猫田、二郎は右手の義手で受け止める。
「(速いけど恭一ほどじゃない。動きも雑だ)」
「アニャニャニャニャニャニャニャニャニャーッ!!」
さらに速度を上げ回転爪ラッシュを仕掛ける猫田。二郎は後ろに下がりながらバックル剣と義手で弾く。
「お前なんかに!お前なんかに邪魔されてたまるかニャアアアアアアアア!!」
速度を上げる爪ラッシュ、猫田の全身から滝のような汗が噴き出してくる。
「おかしいニャ……体が重くなってきた……蟲効果が切れてきたのかニャ?」
それに対し二郎の動きはキレを増し、ラッシュの合間に反撃を仕掛ける。
「(上手くいってる。華月さんの為の生命エネルギーを扱かってるうちに何となくコツを掴んだエナジードレイン。直接触れなきゃできないけど)」
精彩さを欠いた爪攻撃を見切るのは容易く、二郎は猫田の左手を義手で掴んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「アンギャニアアアアアアアアアアッ!!」
エナジードレインを喰らった猫田は白目を剥き痙攣してその場に崩れ落ちた。
「やった……ん?」
二郎は自分の体の中で何かが脈打った気がした。全身の血管に熱い何かが流れる感覚、義手に繋がっている腕が黒ずんでいる。
「え?なんだこれ??」
上着を脱ぐ二郎。 T シャツを肩までまくりあげると首筋近くまで黒ずみは広がりやがてゆっくりと薄くなり消えていった。
「なんだったんだ……」
「え?なにどうしたの??」
全身スーツ姿から元に戻った明珠香が駆け寄る。
「大丈夫何でもないさ。それより明珠香さん爪で引っかかれたんじゃ?」
「スーツのおかげで全然平気だったよ。もう血も止まってるし絆創膏でも張っとけば大丈夫。それよりこれだけの騒ぎだし警察が来て根掘り葉掘り聞かれるの面倒だし速く行こ!」
上着を羽織った二郎の左手を引いて歩き出す明珠香。
「その義手すごいね?どうやって掴むだけで猫田やっつけたの?電気か何か?」
「どう説明したらいいかな……体力を吸い取れるというかそんな感じなんだ」
「最新のサイバネはそういうのもあるんだ?」
「えっと……多分そう、自分でもよく分かってないんだ」
「ふ~ん……アタシの足と同じようなもんかな?」
細い路地を抜け来た道を戻る二人。広場に吹雪と恭一の姿は無かった。
「誰も居ない……外まで行ってみよう」
外には車の傍に立って電話をかけているいる須原の姿だった。吹雪と恭一は後部座席でぐったりとしている。
「須原さん!」
「木城二郎君、無事でしたかヨカッタ……今、水元来海に連絡していたのデスすぐに白峰家来るようにと」
「吹雪さんと恭一に何が?」
「呪(しゅ)をかけられたようです。今は蔵人様の札の力で何とか押さえてマス」
「……あの灰色の男の仕業か……」
「二人をこのまま白峰家に連れて行きマス。君たちはどうしますか?」
須原は二郎と明珠香を見て言った。
「この人、明珠香さんを安全な場所まで送ってそれから白峰家に行きます。サイバネ連中がまだいるかもしれないし」
「では後ほど」
須原の運転する車が走り去る。見届けた後、二郎は義手をじっと眺めている。
「えっと……木城二郎くん?大丈夫?友達ヤバイいんじゃ?」
「うん、でも……もしかしたらこの義手で呪(しゅ)とやらを吸いだせるかもしれない」
「そうなの?じゃあすぐに行ってあげた方がいいんじゃない?アタシは平気だよ」
明珠香は軽く飛んで言った。
「明珠香さん、またセンジョーに来るよね?」
「う~ん……どうかな。出来るだけ早くアメリカに行きたいからなー。じゃあさ、携帯のメッセージ交換しとこうよ」
「わかったじゃあまた連絡するよ明珠香さん」
「いいよ明珠香で。あたしも君の事二郎って呼ぶし。なんでだろ会ったばっかりなのに全然そんな感じがしない不思議」
「俺もだよ」
続く
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