VAMPIREEYE96 「皀八太襲撃」
―華月の配下の佐久間が運転する車は霄、蓮也、吉良合わせて四名を乗せ、京都府宇治市小倉町に向かって走っている。
「源藤高雅って吸血鬼ハンターなんだってな。俺たちにとってはやりにくい相手だ」
佐久間は煙の出ない電子タバコを咥えて言った。
「当然罠を仕掛けてるだろう。だからこっちも徹底的にやる」
窓の外を飛ぶ烏の数が増えていく。
「何て数のカラス……佐久間さんが?」蓮也が言った。
「ああ、戦いに数の有利は大きい。カラスだけじゃないこの周辺全ての鳥獣たちが俺たちの味方さ源藤高雅とやらは絶対に探し出す、そして逃がさない」
車を駅近くのパーキングに停め四人は反応のあった方向に歩き出す。
「気を付けてください、奴(源藤高雅)の匂いが残っています」
吉良は匂いそのものに加え魔力を匂いとしても認識できる。
「流石は人狼、お前さんの鼻と俺の仲間たちの目と耳があればすぐだな」
「その電信柱より先、人の気配が全くしない。人払いの術を使ったかあるいは……」
佐久間の言葉に全員が警戒態勢を取る。
「結界ですね……匂いは先に続いています。どうしますか?」
「恐らく魔力封じの結界。以前私が仕掛けられたものと同じだろう」
霄は指先に出現させた火の玉を投げ込む。電信柱を過ぎた所で消滅した。
「この結界の柱を破壊して術を解除するか?」と、佐久間。
「それも敵は想定済みのはず、何か仕掛けて来るでしょう。それならば二手に別れて行動したほうがいいのでは」吉良はメガネを上げて言った。
「索敵範囲が広い俺と吉良さんは別れた方が効率がいい、蓮也は俺と来い」「分かりました」
「ではこちらは自分と霄さまで」「ああ」
「何かトラブルがあった場合すぐに合流する事にする。出来ない時は合図をする事」
佐久間はカバンから信号拳銃を取り出し一つを吉良に渡し一つは腰のベルトに挟んだ。
「お前さんなら使い方解るだろう?」「問題ありません」
佐久間と蓮也は西に、吉良と霄は東に別れて結界を辿り基礎となる柱の探索を始めた。
住宅街を西に進む佐久間と蓮也。外から見る結界の中には動くものが見えない。ゴーストタウンを思わせるほど静かであった。
「まるで撮影用に作られたセットみたいだな」佐久間は鳥獣からの声を聞きながら言った。鳥獣からの反応もこれと言って有用なものは無い。
「外からでは分からないようになってるのではないですか?」
「その可能性は大いにある。だが敢えて罠に嵌ってやる必要はない。地雷原だと解っているのに足を踏み入れたくない」
「この結界の大きさはどのくらいですか?」
「カラスらの報告から推測すると……直径 500 m程」
「おーいアンタら」
郵便ポストの横から犬を連れた老人が話しかけてきた。
「何か用かな?」「どうしました?」
「そこで何をしてるんだね?この先に何かあるのかね?それとも何か探しているのか?」
結界内を指さす老人。
「儂はこの辺の者だから詳しいんよ。何でも聞いてくれ……ああ、今時こんなジジイ珍しいか?でも大丈夫この番犬ポチがおるからね。こう見えて防犯ドロイド犬でね、若いサイバネのあんちゃんが何かしてきても腕くらいなら噛みちぎってしまうよ」
「人の趣味にとやかく言うつもりはないがお前さんどうして老人の振りをしてるんだい?好々爺を演じて近づく者をそのロボット犬で襲うのが手口か?」
「フフフッ……」
老人が笑みを浮かべると突如ロボット犬がミサイルめいて飛び掛かってきた。佐久間は咄嗟に持っていたカバンを突き出して噛みつかせる。
「悪いがお前さんに構ってる暇はないんでね」そう言いながら佐久間はロボット犬の喉を掴んで締め上げる。そして老人に投げ返した。
投げ返されたロボット犬を片手で受け止める老人、「そういうなよ」とつぶやきカツラと髭と取り去った。
「来いよ……この結界の中にな。来れないか?いいぜそれでも、住民を全て喰らうだけの話だ」大きく口を開ける男。鋭い犬歯が見えた。
「俺たちは正義の味方じゃない」「佐久間さん!?」
「ほう?」
「ここへは任務で来た。お前が目的に通じる者なら口を割らせる必要があるな、そのためには……痛めつける必要があるって事だ」
「お前にできるか?この儂を??」
「正直言ってなめている。結界の中でしかイキれないクソ野郎だってな」
「……たかが吸血鬼がデカい口叩くじゃないか。その言葉すぐに後悔する事になるぞ」
『ダブグレイパワー』
男の全身から青紫灰色の煙が発生。佐久間と蓮也は顔を覆い後ろに下がる。
煙は男を中心に吸い込まれていく。
「さぁ始めようか」
現れたのは全身青紫灰色の闘犬を思わせる頭部のフォルム。筋骨隆々の肉体、鋭い手足の爪の人型化け犬。
「グルアアアアアアアッ!!」
咆哮を上げる化け犬。佐久間と蓮也は一瞬体が硬直した。
「俺はダブグレイパワーの皀(くり)八太。覚えて死ね」
佐久間と蓮也はカランビットナイフと刀を抜く。肩甲骨から体をゆする独特の動きで様子見する佐久間。蓮也は刀身に炎を宿らせ右上段の構え。
先に仕掛けたのは皀、大きく口を開け蓮也に襲い掛かる。対する蓮也は炎の刀身を開いた口目掛けて斬りかかる。
「グルルルルル!」
皀は刀身に噛みついて受け止め炎をかき消した。そのまま首を振って蓮也から刀を奪いにかかる。蓮也は片手を離し掌から火炎放射、皀の頭部が炎に包まれた。
「うめぇうめぇ!」
大きく口を開け炎を飲み込む皀。その隙に蓮也は刀を引いて皀から間合いを取る。
「もっとやれよ、やってみせろよ」牙を剥いて言い放つ。対して蓮也は平正眼の構え。
「……」
横から踏み込む佐久間、ミスデレクションの応用で死角から音もなく接近。カランビットナイフでのジャブを放つ。皀の脇腹に 2 発、鋭い刃が突き刺さった。
「チッ!」
皀は苦痛の表情は見せずに右手の爪で佐久間の首を狙う。佐久間はスウェイで避けながら左手のカランビットナイフでひっかけて腕を取り脇と首筋を右手のカランビットナイフで撫で切り。そして足を掛けた投げで地面に叩きつけた。
「チッ、やるな!」後転ヘッドスプリングで飛び起きる皀。
「お前もな(今の CQC でまるでダメージが入ってないだと)」
「これほど喰いごたえのありそうな奴は久しぶりだ……」
口の中から灰色の山刀を取り出す皀。斧のような重みと包丁のような鋭さを感じさせる。
「この山刀は今まで喰ってきた連中を材料に俺が体内で作り上げた物。バケモノの恨みつらみ怨念がこもった呪いの山刀。早くテメェらも仲間に加えろと呻いてる」
「デヤァーッ!」
小さな動作で袈裟斬りからバレーボール大の炎の塊を飛ばす蓮也。踏み込んで突きを連続で放つ。皀は左手で打ち払い、続いて繰り出される突きを山刀で捌き、下から蓮也の腕を狙った斬撃。蓮也は右手を刀から離して避けた。
「ぐっ!?」
避けたはずの斬撃。蓮也の腕と胸から鮮血が迸った。
「ホラホラホラッ!!」
山刀を振り回す皀。手首を柔らかくしなやかな動きで速度を乗せた動作は確かな技術を持っている事を佐久間と蓮也に思わせた。
「蓮也!」佐久間が横からカバーに入る。声を上げ自分に皀の意識を向けた。
皀の山刀は唸り声をあげるような音を出して空気を切り裂く。佐久間は牽制しながら避けているも肩と腕、膝から出血。警戒する二人は皀から距離を取る。
「(強い……スピードとタフネス、それにあの妙なマチェットのような武器……)」
「(炎を食べるだと……それに避けたはずの攻撃が何故当たる……)」
皀は山刀を振りながら牙を剥いてジリジリと距離を詰めている。
「ククククク……いいぜいい表情だ。俺がこれまで喰ってきた奴もそういう顔をしていた。殆どの奴が強かった、だが強い奴ほどいい表情をする。『何で効かない!何で当たる!?』ってな!だが答えが解ったとしても無駄だ!!何故なら俺の方が強いからだ!!」
「お前……源藤高雅と何か繋がりがあるのか?」蓮也が聞く。
「源藤高雅……ああ、あの吸血鬼ハンターな!ただのバイトだアレは。腕がいいから大将が雇っただけの事。そこの結界も奴が張ったのさ」
言い終えると同時に山刀で襲い掛かる皀。蓮也は正面から受け止めず刀の鎬を使って受け流した。上着の肩口が少し裂ける。
「デェイッ!」
蓮也はすかさず高速の二連撃『疾風連撃』を繰り出す。皀の両腕に斬撃が入り、その箇所から炎が噴き出す。
「シッ!!」
続いて腕をゴリラの様に変形させた佐久間が殴りつける。皀はクロスガードで受ける。さらに追撃でゴリラアームストレートを放って皀をブロック塀まで吹き飛ばした。
「腕だけじゃあないぞ、色々変えれるんだ」
首は分厚い鎧のような皮膚と筋肉に覆われ頭部はサイを思わせる角が額と頭部に生える。上半身は屈強なゴリラ、下半身は頑強なゾウに変わっていく。
「ククッ!いいぞ!!」
皀は山刀の峰で燃える傷を撫でてゆっくりと構える。傷の炎は消え山刀の刀身に炎が移る。皀はその炎を大きく開けた口で飲み込んだ。
「ぬうううう!」
皀に反撃の隙を与えない為に佐久間はラッシュを仕掛ける。ゴリラアームで打撃を放ちゾウレッグでしっかりと地面を踏みしめる。皀の山刀はサイヘッドの角で突き上げる。砲丸めいた重い拳の連打が皀の顔面胴体に叩き込まれる。
「ぬううん!」
山刀を持った右手を掴んで引き寄せゾウレッグで渾身のトラースキックを放つ佐久間。仰け反った皀の足を狩り一緒に倒れこみながら首に肘を押し付け地面に叩きつけた。そしてマウントポジションからカランビットナイフを持った両腕でハンマーパンチを振り下ろす。皀の両眼を刃が貫いた。
「ンガアアアアッ!!」
咆哮と同時に炎を噴き出す皀。佐久間は十字受けでガードして飛び退いた。
「強い……!」
佐久間の能力と戦闘技術に驚嘆する蓮也。
「今ので仕留めたと思ったが……しぶといな」
佐久間の両腕両足から鮮血が噴き出す。
「佐久間さん!」
「ちっ……どういう仕掛けか知らんが厄介だな。長引けば奴の方が有利」
膝を突く佐久間、蓮也が駆け寄ろうとすると「奴から目を離すな」と制した。
「クソが!俺の目を潰しやがって……!!だがこの鼻と耳、肌で感じる空気の流れを読めばどうという事はない。全力だ!!」
口内からもう一振りの山刀を取り出す。そして手首を柔らかく山刀を振り回し獣の唸り声のような風切り音を響かせる。
「あれだ……あの動きに何か仕掛けの秘密がある。さっきの攻防で気が付いたが奴の正体不明の斬撃は飛んでは来ない。俺が CQC を仕掛ける為に接近したから発動したのだ」
「射程範囲はそれほど長くない……」
「そのかわり奴は口から飛び道具を吐き出す。これまでに飲み込んだ物なんだろう」
「佐久間さんその傷は大丈夫なんですか?」
「浅くは無いがまぁ何とか吸血鬼の力で動ける。もう一度同じ攻撃を受けたら不味いが」
「俺が前に出て正体不明斬撃の射程を探ります!」
平正眼の構えで皀を見据える蓮也。佐久間はゆっくりと立ち上がり変身を解除、バッグの中から止血スプレーを取り出し傷に当てた。
「ガオン!」
飛び込んでくる皀は連続攻撃、蓮也は剣先を山刀の鎬に合わせ弾いて受け流す。
「器用な真似を!」
相手の剣筋を見切ってなおかつ自分の剣を正確に振るえなければ出来ない『巻き枝』に似た防御術『火乃神流・風巻』力加減見極めを誤れば自身の腕や指を斬られることになる。
「ガオオオン!」
上下左右から二振りの山刀で更に速度を上げて連続攻撃を仕掛ける皀。対する蓮也は風巻で防御していく。本来であれば『風巻』から連続で仕掛けるカウンター技『火突』を繋げていくが、皀の正体不明の仕掛けを見破る為に仕掛けずに粘っている。
「ガオオオン!」
口から炎の塊を吐き出す皀。蓮也は刀身から炎を吹き相殺する。
「(この距離を保てば斬撃は当たらない!だがこの距離から奴に有効打を叩き込む攻撃手段も無い……!)」
二振りの山刀を大きく振りかぶる皀、蓮也はその隙を見逃さない。
「デヤァー!」
刀身を地面すれすれ走らせ一気に跳ね上げる『天昇炎撃』を放つ。皀の左手に深々と刀身が食い込む。山刀を弾き飛ばし大きく体勢を崩れさせた。
「(ここで深追いはしない……)」平正眼の構えに戻る蓮也。
刀の鍔に傷が入ってる事に気が付いた。
「(奴の仕掛けの間合い……これで大体解った)」
「グルルルル……チッ踏み混んでこねえか。それにこの太刀筋……お前らを舐めすぎてたようだ、出直す……」
口から灰色の煙を吐く皀。大きく後ろに飛び結界の中に飛び込んだ。蓮也は炎で煙を吹き飛ばしたがそこに皀の姿は既になかった。
「逃げたか……」
「蓮也、無事か?」
「はい、あと一歩踏み込んでいたら危なかったですが」
「奴を仕留めるには中距離遠距離で攻撃する必要があるな。あの固い皮膚、並の武器では通じない。かと言って迂闊に術を放てば奴の口に飲み込まれる」
「それか奴の仕掛けが発動する前に一撃必殺で仕留めるかですね」
「そんなパワーがあるのは……同胞の斎藤勇雷さんの北辰雷刀流かな、頭部を粉砕できるかもしれない。または河上起央君の最大エネルギーを込めた弾丸なら心臓をぶち抜くことが出来るかもしれないがね」
「佐久間さんの戦闘技術はあの化け犬を圧倒してたのに……」
「はは……俺には仕留めるパワーが足りなかったな。だが蓮也お前ならいける。その刀と剣術と炎の力があればな。最後の一撃は奴の手を切断しかけていた」
「ですが俺は奴の攻撃を受け止めるだけで精一杯で傷を負わせる程度しか」
「俺が奴を足止めする、お前が奴の急所を狙え」
「それではまた佐久間さんが奴の仕掛けの中に飛び込むことに!」
「防御特化に変身すればもう一回くらいならギリ耐えれるはずだ。だからチャンスは一回だ、研ぎ澄ました全力の一撃を放て」
「そんな……」
「だが今は結界の解除が先だ、我々の目的は源藤高雅を捕らえる事だからな」
「そう……ですね」
蓮也は佐久間から止血スプレーを借り腕の傷を塞ぐ。敵に備えて二人は武器を手に持ったまま結界の柱の捜索を再開する。
―結界の東に向かった白峰霄と吉良伝左衛門は屍人に囲まれていた。
続く
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