VAMPIREEYE113 「 梅小路会合4 」
「話す気になったか?それとも続けるか?長門顕彰」
華月(黒谷月)の会心の拳を受けた長門顕彰のダメージは大きい。顔面左半分は崩壊寸前、足に力は入らず膝をついたままの体勢で木にもたれかかっている。
「この私の顔を……よくも……」
「質問に答えろ」
ゆっくりと近づく華月。
「縮!」「はっ!」
縮地で移動する長門顕彰についていく華月。
「突!」「ふん!」
炎を纏わせた羽団扇剣で刺突を繰り出す長門顕彰、カウンターの赤黒い魔力拳アッパーを顎に打ち込む華月。回転しながら後方に飛んで行く。意識が飛びそうになりながら羽を広げ空中で体勢を整え着地するも足がもつれ尻もちを付く。
「長い間全力で戦っていなかったようだな長門顕彰。最初から全力を出していればもう少し均衡しただろうに」
「ハァハァ……貴様何者だ……白峰家にお前のような者など分家にもいるはずが無い」
「ふふふ……わからんのならそれでいい我は黒谷月を名乗るまで。何を言ってあの雪名を言いくるめて閉じ込めたか知らんがお前たちは白峰家を舐めすぎた」
「おやっさん!!」「よそ見などしてる余裕はないぞ!!」
飯田が叫ぶ。猛烈な斎藤勇雷の北辰雷刀流のラッシュに手も足も出ない。
「お前の風迅剣とやら、発動させる隙など与えん。発動できてもその隙に一閃叩き込んでやるぞ」
「クソが……(コイツ……強い!)」
上空では黒谷ジークベルトが 24 人目の烏天狗を撃墜していた。
「さて……あと 16 人。まだ来ますか?」
「あり得ん……我ら精鋭が……」
「ふ……(いくら個々の能力が高くても連携が出来ていませんね。ここまで大人数の戦闘に慣れていない……)」
黒谷ジークベルトの周りに浮遊する黒い無数の光弾。烏天狗の動きに反応し閃光を放つ。
「グァ……」
「動くと反応しますよ?大人しく長門顕彰 VS 黒谷月の対決を見守りませんか?」
「長門様が……」「馬鹿な……!」「大天狗だぞ?神にも等しい存在だぞ?それを……」
烏天狗たちは気が付いていない。撃墜された烏天狗全員が干からびていることを。黒谷ジークベルトの魔術により全て華月の燃料となっていることを。
「……白峰家をなめるな、か。この私をここまで追い詰めた事は見事だと誉めてやろう。だが、次があると思うなよ?」
ゆっくりと立ち上がる長門顕彰。
「次だと?次があるなど考えているのか?まだお前はこの状況でどうにかなると考えているのか?我は微塵も油断などせぬぞ」
爆発的な魔力ジェット噴射で肉迫する華月。長門顕彰の首を掴み上昇していく。
「ぬぐううううおおおおおお……」
「まだまだ速度を上げるぞ」
音速を突破する。華月の黒谷月の変装が剝がれていく。
「お前は……!?馬鹿な……!!消滅したはずだ……!!!」
「ふふふふ……気が付いたか!」
「白峰……華月……!!」
「さっきは我を誉めてくれたな?今度は我がお前を誉めてやろう……状況にもよるが単騎の強さとしては山ン本五郎左衛門や神野悪五郎よりも上だったぞ」
「ぬかせ!たかが妖と比べるな!!」
「お前を斃した後、久しぶりにあやつ等の顔を拝みに行ってやるのもいいかもな」
さらに加速する華月、成層圏に到達する。
「ここから急降下だ!」
「うおおおおおおおおっ!!」
超高速 U ターンを決める華月。赤黒い流星と化す。
「最後の機会だぞ?話す気になったか?」
「ふざ……ける……な……」
華月の力と G により抵抗もままならない長門顕彰。
「ならば死ねい!!」
地面に激突する寸前に手を放し水平飛行する華月。長門顕彰は赤黒い魔力に包まれ音速の 3 倍の速度で地面に激突した。
赤黒い爆炎のキノコ雲が上がる。その場にいた全員の動きが止まった。
空中旋回して静かに着地する輝く銀髪に真紅の目、透き通るような白い肌の華月。超高速爆炎流星落下撃を仕掛けながら長門顕彰の生気を思う存分に吸収し更に力を増していた。
「ふふふふふ……感謝するぞ長門顕彰。完全復活だ!いや、それ以上!全盛期を上回る!」
爆炎のキノコ雲を見つめていた全員が今度は圧倒的存在感の華月に目が釘付けになった。
「おお!おおおおお!!素晴らしい!!」「なんと……美しい!」
黒谷と斎藤は思わず声を漏らす。
「黒谷!斎藤!!この場にいる大天狗長門組は一人も逃がすな!全員餌にするぞ!!」
「はい!」「承知!」
華月の声を聞き目を合わせてしまった烏天狗達はその場に硬直する。
「ああああああ……なななななななんだあれは……おやっさんはどうなって……」
飯田迦楼羅だけは辛うじて体を震わせながら動けている。
「長門顕彰はあそこに転がっておるわ」
指をさす華月。爆炎の晴れた場所にはクレーターができ、その中心には手足の欠損した黒焦げの長門顕彰が倒れている。
「うあああああああっ!!おやっさあああああん!!」
「ほう……即死と思ったが虫の息でまだ生きておるわ、良かったな?」
「ななななんだ!!なんなんだお前はっ!!!」
「白峰家の者だと言わなかったか?理解したか、お前たちが敵に回したものの力を」
「白峰家……そんな今更……没落しかけの家が……」
「たかが十数年程度で白峰家も軽く見られたものだ。あの死にぞこないの長門顕彰は貰っていく」
一瞬で接近した華月は飯田の剣を掴み指でへし折った。
「ひぃっ!」
飯田の両腕を掴み関節を逆に折り曲げ生気を限界ギリギリまで吸う華月。
「あががががが……」
白目を向いて膝をつく飯田。
「お前だけ生き残らせよう……残りは……」
戦意を喪失している烏天狗に指先から発した赤黒い閃光で頭を貫いていく華月。
「黒谷、斎藤、こやつらが完全に絶命する前に生気を吸い取っておけ」
「はい」「承知」
二人は手をかざす。烏天狗たちの血液が手の前に集まりそれを飲み干す。
「ふぅ、疲れが飛びますねぇ」「疲労回復しました力が漲ります」
「長門顕彰は隠れ家の方に持っていく」
***
―華月たちが梅小路公園での戦いに参加する少し前。
二郎が奥寺舞子達の見舞いを終え病院外に出る頃にはすっかり日は落ちていた。携帯電話が鳴った、勝田からであった。
「もしもし」
『やぁ二郎君、そろそろ戻ってきてくれる?義手のデータ解析もいくらか進んでね』
「わかりました、すぐそちらに行きます」
『待ってるよー』
その様子を黒い思念体たちは見つめていた。
『勝田博士の解析が進んだことにより義手に変化が現れたのか』
『どうやら他の並行世界でも義手の変化が起きたようだ』
『世界の終わりまでに義手の解析が終われば……』
『この時代に新たな義手が誕生する。そうすれば破滅へと収束していた未来を変えられる』
『そこから 20 年……義手を送り込んだ時代に追いついた時どうなるかだな』
『この時代に義手が誕生するという世界が確定すれば、そこからまたいくらでもやり直せるはずだ』
思念体は全員頷いて消えていく。
二郎はバスに乗り都メタルを目指す。
乗り換えの為に京都駅で降りた二郎は妙な視線を送っているワンピース姿の長身女性に気が付いた。
「(誰だろう?それにしても大きいな 2m はあるかな)」
「もしそこの少年」
「俺ですか?」
「君です、ちょっとこちらへ。お話があります……」
妙だなと思いながらついていく二郎。京都駅隣の建設中のビルの敷地内に入って行く。
「鍵でゲート開けてたけど入っていいものなのかな……」
「階段を上がっていきます」
ついていく二郎。壁紙も無くコンクリートむき出しの建物。階段を上がるにつれて恐ろしいまでに静かになっていく。
「これは……結界?」
9 階の開けたフロアには資材が並べてあり中央には 6 畳の畳が敷かれまるでドラマのセットのようにそこだけ和室になっていた。
「お連れしました」
長身の女性は立ち止まり和室にいる人物に声をかけた。
「やぁ来たね木城二郎君」
「……??」
座布団から立ち上がり振り向いたのは灰色のスーツを来た細身の女性。整った顔立ちであったが目が濁っている。
「……貴女は?」
「神名 L 咲夜だよ」
「……」
初めて見るはずの神名 L 咲夜。二郎は自身の動悸が激しくなるのに動揺する。全身が目の前の存在に警戒しているかのような。
「用事と言うのは大した事じゃ無いんだ。その義手を譲ってくれないかな?お金なら 1 億ぐらい現金ですぐ用意できるけどどうかな?」
「いきなり言われても困ります」
「そりゃまぁそうですよね。突然現れた者にいきなりくれと言われてもね。じゃあ言い方を変えよう、なにがなんでもその義手が欲しいんです」
「どうしてですか?」
「言えない、でも欲しい。拒否してくれても構わないですよ?力づくでも奪う気だから」
「……一体何者ですか?」
瞬時に戦闘態勢に入る二郎。
「今話題の【灰色の軍勢】の者。私のまたの名は【グレイビースト】」
「!!!??」
「アハハハハハ!驚いたでしょう?でもまぁ少し落ち着いて下さい木城二郎君。話をしましょうよ、いきなり殺して奪う気ならわざわざこんな所に呼んだりしない。という事で、灰色の軍勢に入ってくれませんかね?」
「意味が分からない……」
バックル剣を握りしめる二郎。
「灰色の軍勢とは、グレイマンとは何か?知りたくないかい?知ればこちらに付きたくなるかもしれませんよ?」
「え?」
二郎は神名 L 咲夜の話に興味を示す。
「ほら、武器を納めて。あそこの客室に座って下さい。そんなに時間はとらせないですよ」
先に座布団に正座する神名 L 咲夜。
「私はいつも突然でいきなりなんです。この京都に馬鹿な部下を送り込んだのも突然だったしね。まぁそんな話はどうでもいいですか。灰色の軍勢とは何かでしたね」
「ええ……」
「灰色の軍勢とはつまり、グレイマンの率いる軍団て事。ではグレイマンとは何か?簡単に言えば【世界を調和する者】です」
「世界を調和する者……」
「人間達が白とするのなら魔の者達は黒。本来ならば住む世界が違いバランスは保たれていたんですが……文明の発展により魔は人間に染まり始めた。それによりバランスは崩れ始めたんです。するとどうなると思います?息つく先は破滅。白に染まり切ればこの地球は持ちません。人間がどれだけこの地球環境を破壊しているか知っているでしょう?じゃあどうすればいいか?」
「バランスを保つために黒を増やす……とか?」
「それは無理です。一度バランスが崩れれば簡単に元には戻らない、戻るまでにとてもとても長い時間がかかる。逆もそうです、黒に染まっても同じ事。それを正すことが出来るのはグレイマンだけなのです」
「何故グレイマンだけなんですか?」
「白黒の外にいる存在だからですね。グレイマンになるには【グレイマンの意思】に選ばれる必要がある。私は 2 年前にグレイマンに選ばれました」
神名 L 咲夜は思い出す。山にこもり修行をしていた。ある夜、流れ星を見た。虹色に輝く変わった流星。それは咲夜の近くに落下した。落ちてきたのは卵型の隕石で虹色に輝いていた。吸い寄せられるように咲夜はそれに手を触れ流れ込む膨大な情報とエネルギー。グレイビーストへと成った。
「グレイマンの意思って宇宙からの……」
「そう。彼らにとってもこの地球は大事なものですから。やがてくる彼らの為にグレイマンは活動をする。白に染まった者を減らす、邪魔な者を排除する。彼らの到着後すぐに活動開始できるようにするなどです。一週間後、彼らはこの街に到着する。そして一週間で世界を灰色に染めるんです」
「灰色に染める?それは一体……どういう……」
「あれ?分からないです?灰色の軍勢になるってことです。群れの一部となる。君は面白いから私、グレイビーストの群れに入れようと思ってまして。他のグレイマンに取られたくないですからね」
「……」
「おや?険しい表情ですね。不満かな?グレイマンの群れになるって事は安心安全で平等に生きられるって事なのに。自由は減るけど普通に生きるよりずっとストレスは少ないはず。私グレイビーストの群れは飼われているペットのように快適になるはずですが?」
「……世界を灰色に染めるってどうするんです」
「文明を徹底的に破壊する。白に染まりすぎた原因はそれですから。それが終わったら君たちは寿命まで生きられます。繁殖はできないけど、仕方ないですね」
「それなら何故、今人々を襲って屍人化なんてしてるんです」
「屍人は後で群れに加えればいいだけです。意味も無く戦いで死ぬよりいいでしょう?」
「……」
二郎は歯を食いしばる。
「言っておきますが、彼らの到着はずっと前から決まっていましたよ。君が生まれる前からね。それが一週間後なのです。止められないですよ?」
「地球の人類は、妖は、そんな宇宙からの訳の分からないものに一方的に負けたりしない」
続く
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