VAMPIREEYE128 「対決グレイビースト 4 」
「二郎!!」
倒れた二郎とグレイビーストの間に割って入ったのは刀耶。スモールシールドと飛行ユニットを合わせ大型シールドを形成。どっしりと構える。
「そんな盾など!!」
「ストライクスマッシュ!!」
刀耶は錫杖メイスの攻撃に合わせて大型シールドのエネルギーを放出。バネで弾かれかのように大きく跳ね返し退け逸らせる。
「!?」
「うおおおおおおっ!!」
刀耶のロングソードは西洋騎士のランスに変形。グレイビーストの喉元を狙って突く。
「ガウウウッ」
噛みつきで止めるグレイビースト。反撃の爪攻撃を刀耶はシールドバッシュで払う。
「ヤベッ(体勢が崩れた、次の攻撃を回避できねぇ)」
シールドバッシュの後に刀耶が見たのは蹴り上げてくる足爪。横に泳いだ上半身を立て直しての回避は間に合わないと考えた。
「させるか!!」
様子を伺っていたイグネイシャスのマシンガンめいた連続火炎弾がグレイビーストの右から撃ち込まれた。刀耶を狙った足爪の軌道は炎の勢いでは僅かに逸れ鎧を掠めて火花を散らす。
「グルルルルル……」
牽制し離れるイグネイシャスと刀耶。グレイビーストは火炎弾を受け止めて離れる。
「あぶねーイグネイシャスくん助かったぜ」
「どういたしまして、二郎君もなんとか無事みたいだし」
視線の先の二郎は腹部を抑えながら膝を立てて立ち上がろうとしている。
「痛てて……なんとか平気……だよ」
「しかしこのままじゃ斃せるイメージが湧かないんだけど……どうするかな」
そう言いながらイグネイシャスは牽制火炎弾を放ちながら刀耶と共にゆっくりと離れて二郎のいる所に。グレイビーストは錫杖メイスで受け止めながら様子を伺っている。
「わかんねー……リティーシャ、何か思いつかねーか?」
『あのトーヤ、こちらは隔壁攻略の作業もしているんですから……まぁいいですこの調子ですと時間内に斃せそうにないですからね考えます』
「頼む、今の所なんとか三人で相手できてるってところだしな」
『ナイトケースが本来の性能を出せればストライクスマッシュで十分なダメージを与えられるはずなんです。現状本来の性能の 60 %しか出せてませんしね。トーヤが悪いのではなくトーヤがもたないのでリミッターをつけているのです』
「そもそもナイトケースってお前(ヴァンパイア)が使う為に作ったんだろうから仕方ねーよ」
『そこで考えた拡張パーツがあるのですが……』
「なんだ?歯切れ悪いな??」
『この拡張パーツ、プロトタイプを改良してテストは私でしか出来てないんですよ。つまり【ジョーカー】の流用なのです』
「ジョーカー……前に一度使って酷い目にあったアレな。一週間筋肉痛だった……」
『それで済んだのが幸いでしたよ。最悪衰弱死してましたし。その反省を生かしてジョーカーを直接装着するのではなく追加パーツとして改良。危険防止のため AI による制御機能もつけました』
「じゃあ問題なくね?すぐ送ってくれよ」
『実戦でテストになりますが……』
「ヤバくなったらすぐ解除するって、このままでもジリ貧だしな」
『分かりました……では送ります』
刀耶とリティーシャの会話の間、イグネイシャスはグレイビーストを牽制し続けていた。グレイビーストは火炎弾を受け止めていた錫杖メイスを地面に突き立てる。
「アハハハ……休憩する時間なんて与えるとでも?急急如律令!!」
暗黒の帳が出現、周囲 20m を正方形に包み込む。
「体が……重い」
「ナイトケースの出力が下がった……」
「息が苦しい……」
「アハハハハ!この暗黒結界の中の環境こそがこれからのこの星の環境となるのです!!すなわち【彼ら】の快適な環境はこの星の人類・妖には辛いものとなるでしょう……ですが流石お前たち三人、動けるとは」
「地球をこんな環境にするってのか……?」
「人類も自分たちが快適に暮らす為にこの星を環境を好き勝手してきたでしょう?」
イグネイシャスの問いに当然だと言わんばかりに即答するグレイビースト。
「さて、まずは一番脆そうな異能者のお前から狩ってあげますよ!」
錫杖メイスを投げつける。イグネイシャスは重い体をジェット噴射で動かして回避。錫杖メイスを追いかけるように接近してきたグレイビーストの爪が肩を掠める。
「くっ……!」
「ほう」
イグネイシャスを掠めた爪が炎上している。爪から指、手首へと燃え広がっていく。
「カテゴリー5のパイロキネシスとは厄介なものですね」
「これでも……TMIの中じゃ最強のパイロキネシスなんでね!」
追加の火炎放射を浴びせる。グレイビーストは両腕をクロスしてガード。
「本当に……異能者と言うものは厄介ですよね……偶々生まれつき能力を授かっただけの者がここまで大きな力を持っているなんて」
「おっとそれに関しちゃ言いたいことが山ほどあるが……アンタとそんな話はしない」
グレイビーストの腕に着いていた火が突如広がり球状となって全身を包み込む。
「非人道的なんでこの技ほぼ使わないんだがアンタなら問題ないよな?」
球状の炎から飛び出るべく跳躍するグレイビーストしかし炎は動きに合わせ着いてくる。
「炎球の中は鉄も溶解する。骨も灰に変えるぜ」
動き回るグレイビースト。イグネイシャスは集中して炎球を維持し続ける。
「グルアアアアアアアアアアア……」
グレイビーストはアスファルトの割れた地面に駆け寄り高速スピンを始める。あっという間に土を掘り地中に姿を消す。
開いた穴から土が徐々に砂に変わっていった。急激に乾燥していくようにまるで砂原の砂のように乾燥していく。
「水刻火!」
穴から飛び出したのは炎を消しスライム状の水を纏ったグレイビースト。体毛は消え鱗に変わり、首元には鰓が形成されていた。
「やりますね流石カテゴリー5。私が道摩法師でなければ今の炎球で終わっていましたよ」
「まいったな……今ので決めるつもりだったんだが……そういう対処をするか。アンタは単純に水で炎を消したわけじゃない。俺の炎はそんなもんじゃ消えないからね」
「ええ、体に纏わりついていたお前の炎の属性を変えたまで。私の呪の範囲なら炎は水に変わる。地中に潜ったのは一度この地のエネルギーを吸い上げ水の属性を強化する為」
「五行ってやつか……厄介だな今ので仕留められないとなると……」
「アハハハ……次はそちらが苦しむ番ですよ!急急如律令!!」
穴から水柱が上がる。暗黒の帳で囲まれた四方に水が溜まっていく。
「水責めか!こっから出ないとな……」
「ナイトケースは水中も平気だけどイグネイシャス君と二郎はまずいよな」
「この暗黒の壁を潰せば!!」
三人は暗黒の帳ギリギリまで下がってグレイビーストと距離を取る。
「暢気な事ですね?水位が上がるのを、暗黒の帳が破られるのを私が指をくわえて見てるはずがないでしょう」
膝下まで増えた水面にグレイビーストの鱗が落ちる。鱗はあっという間に鋭い牙の生えた魚に変化した。次々と鱗を落とし牙魚に変える。
「礼を言いますよ、カテゴリー 5 。追い詰められて頭がすっきりしました。私はグレイビースト、獣であり道摩法師なのです。フルパワーで戦うのなら片方だけの力を出すのは不自然でした!」
「ギシャアアアアッ!!」
無数の牙魚が飛び出して二郎たちを襲う。
「でえい!」
「おっと!!」
バックル刀、火炎弾で迎撃する二郎とイグネイシャス。
「ああちくしょうー!リティーシャ!!ジョーカーはまだかよ!!」
ランスをトライデントに変え牙魚を迎撃する刀耶。
『送りましたよトーヤ!!その黒い壁が邪魔して入れないんですよ!!前も後ろも上も塞がってて!!』
「ナイトケースのカメラから見てるだろ?こっちは水責め&変な魚の相手でいっぱいいっぱいなんだ何とかしてくれ!!」
『ナイトケースは水中活動は平気ですが……ジロウとイグネイシャスが危ないですね……水攻めとは……』
「何でもいいから早くジョーカーをこっちに!」
『……』
「リティーシャ?おい!?」
『黒い壁を壊さなくてもジョーカーを送れそうです!!行きますよー!!』
蝙蝠型の追加外装ユニットジョーカーは羽を折り畳み円錐状となり地面に突き刺さる。そして高速回転して地面を掘り進んだ。
「アハハハ……さあ次は狂暴な鰐でも……ん?」
グレイビーストの開けた穴から飛び出す黒い金属の物体。空中で蝙蝠型に変形してグレイビーストにリング状のエネルギーを放つ。
「む……振動共鳴破壊音波を利用した攻撃……ですね」
「来たかジョーカー!!」
『グレイビーストがイグネイシャスの攻撃を受けて炎に包まれた時、黒い壁を解除しないで地中に潜ったのを思い出したんですよ。だから下には黒い壁が無いって判断したのです!』
「流石天才!さぁいくぜリティーシャ!!ジョーカーと合体だ!!」
『はい!』
分解するジョーカー。ナイトケースの頭、胴、肩、腕、腰、大腿、足の順に取り付いていく。その姿は額に角、頭部には二本の触角。肩から肘にかけて無数の棘、肘には刃、拳を包み込む突起物。胴体には瞼を閉じた三つの目。腰から大腿にかけては重ね合わせた装甲、膝から爪先にかけて無数の棘、背には畳まれた翼、その形は悪魔を思わせた。
「グウウウウウウオオオオオオオオオオッ!!」
猛然と飛び掛かる刀耶。武器を無骨な鉈に変形させてグレイビーストに叩き込む。錫杖メイスの刃が衝撃で欠けた。
「水、雷、爆!」
呪を放つグレイビースト。周囲の水が集まり水柱に、電気を帯びて爆発。二郎とイグネイシャスは吹き飛ばされる。ジョーカーを纏った刀耶は水雷爆を耐えきり再び連続で鉈を叩きつける。
「ガウウッ!」
「オオオッ!」
グレイビーストの刃尾が刀耶の顔面を狙う。それ対しジョーカーの触角を伸ばし迎撃。
「ガアアアアアアッ!」
グレイビーストの口から破壊弾が見える。
「ストライクスマッシュ!!」
ジョーカーの胸の悪魔めいた装飾の三つ目から破壊エネルギーが放たれる。相打ちで衝突したお互いの攻撃を受け、両者は背後の暗黒の帳に叩きつけられる。
「クッ……」
「ハァ~……この後にまだあの黒谷月が控えてるなんて嫌になりますね。まぁお前たち三人を斃して獣化すればいいだけなんですが」
攻撃を受けたお互い表面の装甲、皮膚からは煙が上がっている。
「クソ……ジョーカーの攻撃でこの程度のダメージかよ……化け物が」
「……そんな性能を持つ魔法鎧を作れる者が居るなんて……他の神名が知ればどうなる事やら、アハハハハハ」
『何がカミナですか!言ってやってくださいトーヤ!ナイトケースは私にしか作成できないと!!パクリなんて不可能だと!!』
「いや、そんな事言ってる場合かよ……リティーシャ、今のうちに聞いておくぞ……ジョーカーで無理なら……ホフの時のようにホントにホントの最後の手使うのか?」
『それは……』
「どうなんだ?嫌ならそれでいい、俺はお前に後悔して欲しくないんだよ!!」
『……トーヤ』
リティーシャはホフとの最終決戦でヴァンパイアの力を使った。あの時以来、接種するミルクの量が増えている。次はもうミルクでは我慢できない所まで来るかもしれないという恐怖があった。
『(血の欲求は一度決壊すれば二度と元には戻れないと聞きます……だから……)』
「リティーシャ?」
『あの手段はもう使いたくないです!嫌です!!』
「了解!!それならリティーシャを追い詰める事にならないよう限界が来たらすぐに撤退。取り返しのつかない所までいくのは莫迦のすることだ!」
刀耶は叫んだ。
「その為の三段構えの作戦だものな!もう無理と思ったらすたこらさっさと撤退するぜ!!チームの皆には悪いが特攻精神はないんでね」
『そ、そうですトーヤ!生存本能にしたがってください!!』
自分で言っていて矛盾しているとリティーシャは思った。自らの生存本能に従うのなら人間の血を啜って生きるのがヴァンパイアにとって自然。
『(トーヤは私をヴァンパイアではなく個人として見てくれる。やはり私のナイトケースを一番うまく使えるのはトーヤ。私は自分の為にもトーヤの為にも血は吸わない!)』
「二郎、イグネイシャス君、悪いがこのジョーカーでダメだったら俺は撤退するぜ」
「うん、分かった」
「そろそろ俺も限界が近いしそれもアリだね」
イグネイシャスも刀耶もごく自然な感情を持った少年であった。
二郎だけが――普通では無かった。
それは義手による影響なのか。つい数か月前までごく普通の高校生だった二郎が歴戦の兵士のように戦場に慣れ、危険な命のやり取りに自ら踏み込んでいる。
イグネイシャスは任務でいくつもの修羅場を経験し、刀耶はリティーシャと出会ってからは不可思議な事件を探偵としてコンビで解決してきた。
イグネイシャスも刀耶も目の前のグレイビーストと対峙するだけで緊張して勝てないと判断したのなら逃走する選択肢を入れている。
二郎だけはどういう訳か、グレイビーストを斃す。なにがなんでも斃さなければいけないという感情が沸き上がり、逃げるという選択肢は無かった。
他の世界の二郎はグレイビーストに成す術もなく殺された、だがその事はこの世界の二郎には関係していない。未来の観測者である二郎は見ていただけでこの世界の二郎には知る由もない。
それでも未来からの世界観測の度に増える黒い残滓は義手に影響を与えている。記憶は渡せなくても記録は義手にされていく。
グレイビーストの記録は義手にある。無意識に二郎はその記録に触れ感じ取っていた。
「(刀耶君もイグネイシャス君も必死で戦ってる……俺だけいつまでも倒れては居られない!!)」
二郎の右目が燃えるように輝く。赤眼の黒鎧武者はゆっくりと立ち上がる。
「あの黒い男達は……きっと義手の記録なんだ……何者か知らないけど思いを託しているんだ」
それを見たグレイビーストに動揺の色が走る。
「(あの目……何なんです……燃えるような……魔眼?……このグレイビーストを前にしてただの少年があんな目ができる)」
始めこそ、二郎の赤い目は魔眼のように見えたしかし今は違った。
「(魔眼の類……?いやあれは……)」
グレイビーストは手をかざし二郎の力の脈を見る。右腕を中心に、心臓のようにそこから流れ循環している。右目は右手と太い脈で繋がっていた。
「(あの腕の力で爆砕呪を解除し私の攻撃も見切れていた訳ですね……あの腕は……)」
続く
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