VAMPIREEYE129 「対決グレイビースト 5 」
「よっと……んん?なんか体か軽くなってきたような?」
刀耶は圧し掛かるような重みが薄れていくのを感じた。
「おや?楽になった………」
イグネイシャスが肩を回す。
「……何っ!?」
暗黒の帳が薄れ、同時に瘴気も消えていくの感じるグレイビースト。
「どうやら……上手くいったみたいだ」
二郎は吹き飛ばされた後暗黒の帳にもたれかかって、その際右腕で触れ続けていた。
「解除?消した?……いや、吸収した?」
「わからない、けどこの腕はこれまで色んなものを消したり吸収したりしてくれたんだ」
「その腕はただの少年が扱っていいものではありませんよ」
「この腕で何が出来るか知らないしよく分からないものなんだけど……でもこの腕も対し何も不安に思わないんだ不思議な事に」
その様子を別次元から黒い男たちが見つめている。
『別の並行世界で獲得した経験は全ての義手に繋がっている。今回初めて良い先に進んだ二郎の経験を他の並行世界に接続しよう。それによって新たに獲得した経験を今のこの世界の二郎に』
『義手は成長する。二郎も成長する』
『全ての並行世界に未来を』
『そうすれば我々も救われるというもの』
『【最初の二郎】もそれで救われる』
『彼こそが最後の二郎にふさわしい』
黒い人影たちの会話の後、二郎の漆黒の義手は変化を始めた。
「何だ何だ?義手が……!」
黒い人影たちはそれぞれ自分たちの世界の義手に戻っていく。その世界には既に二郎は存在せず、瓦礫に埋もれている義手、回収され保管されている義手、実験物になっている義手……
過去から義手を取り付けた二郎と繋がり導くのではなく、現在の並行世界と繋がりこれまでの義手全てを並行接続。
これまでの自分たちの生きざまは無駄ではなかったと、義手は真の完成をするのだと確信して黒い人影たちは戻った。
この世界の二郎の未来を全員が信じ意思を繋げる。
この世界の二郎の古風な黒鎧武者は近代的なパワースーツに一部代わっていく。全身に白く輝く紋様が現れる。それを見たグレイビーストは睨みつける。
「その姿白い紋様……アンチアタッカーはお前でしたか。魔法鎧の男が現れた時、気配から一瞬そっちかと思いましたが」
二郎は前に突き出した右腕をじっと眺めた後バックル刀を拾って構えた。
「……右腕はまるで連中の持つ専用アイテム」
「……」
二郎に並行世界の出来事が頭に流れてくる。全て今より過去で途切れている、あり得たかもしれない世界の記憶の数々。
ここに立っているのは全てこれまでの経験のおかげだと知る。ただ一人、未来の二郎の記憶を除いて。
「(あの黒い影は……義手が記録した俺の、俺たちの記憶だった……)」
「二郎?どうした??」「二郎くん??」
「大丈夫、物凄い力の上昇を感じて戸惑ってるだけさ」
「グルルルルルル……何でも無いただの少年……魔法使いでも魔女でも超人でも異能者でもないその辺に居る少年が白魔団に選ばれたのが謎ですがね。これはここで潰しておかなければなりませんね何としても!」
グレイビーストは両手で印を結んで大規模な呪の発動を開始する。
「暗黒帳大解放!急急如律令!!」
グレイビーストを中心に五芒星の陣が広がる。
「周囲 1 ㎞に暗黒帳を張りました……ここをグレイビースト最初の縄張りとします。過去に安倍晴明が張ったの大結界と位置が被るのが気に入りませんが!!その右手で解除できるものならやってみなさい!!」
「うげっ……気持ち悪い……さっきのより更にキツイぞ」
「クソ……ジョーカーの出力が落ちた……早く決めねえと!」
着地するイグネイシャス、ゆっくりとグレイビーストに向かって歩く刀耶。
「更に濃い暗黒帳空間……でも……俺には利かない!」
二郎だけが平然と歩いてグレイビーストに向かって歩く。
「二郎お前……すげえな……平気なんだ」
「刀耶君、イグネイシャスさん、少しでいいから時間が欲しい。グレイビーストに渾身の大技を決めたいんだ」
二郎はバックル刀を右上段に構え腰を落とす。
「超必殺技って奴か……いいぜ、キメてやれ」
「これ以上の削りあいはもう終わりにしたかった所なんだ、デカイの一発頼むよ」
「絶対に決める、いける気がするんだこの力なら!!」
―自分ではない義手の記憶
―成す術もなく敗れ、吹雪を殺された。目の前のグレイビーストに。
自分や吹雪が死ぬ記憶は無数にあった。目の前に居るのはその原因の一人。
「敵(かたき)は討つ!!」
この世界のグレイビーストは厳密言えば仇討ちにはならない。それでも、敵には変わりなく、この場から逃がすわけにはいかないと考える。
二郎にとって、もはやグレイビーストとの戦いは生き残りをかけた決闘ではなく、報復であった。自分自身が敗れる事も死ぬことも頭にはなく、微塵の恐怖も感じていない。
「グワアオオオオオオッ!!」
吠えるグレイビースト、それは威嚇の咆哮。二郎の姿を見て自分の存在を脅かすものとして本能が認識した。
「全て!ここで!潰す!!」
グレイビーストは虹色のオーラを爆発させての突進。刀耶のジョーカーが二郎の前に出て正面から受け止める。手と手が組み合うロックアップの状態。
「砕けろっ!!」
トリケラトプスめいた角の生えた頭突きを仕掛けるグレイビースト。刀耶はジョーカーの触覚二つを合わせて硬化、カブトムシ角に変え迎え撃つ。
「お前が砕けろっ!!ストライクスマッシュ!!」
角にエネルギーを込めて一撃を放つ。グレイビーストを後方に飛ばす刀耶。そこにはイグネイシャスの置いた火炎網。足を捕らえる。
「ええい!鬱陶しい……!!」
錫杖メイスを引き寄せ地面を突く。衝突箇所から光の柱が出現。グレイビーストを包み込む。火炎網を打ち破った。
「これまで妖も人間もサイバネも圧倒してきた私をそう簡単に狩れると思うな!!」
グレイビーストの全身に呪符印が浮かび上がる。
「小細工などいらない。自分自身を最大極限強化!!他のグレイマンや白魔団に対抗する為の決戦モード……急急如律令!!」
虹色のオーラの出力が増し、周囲の景色を歪める。
「ガアアアアアアッ!!」
両腕にエネルギーを集めて掌を合わせる。虹色に光るそれは膨張し波動として放たれる。
「シールド!!」
ジョーカーの腕部装甲を咄嗟にシールドに変えて防御する刀耶。凄まじい衝撃が全身を伝わり激痛の波が走る。
「私のグレイパワーと!呪を!合わせた!破壊力に特化した攻撃を!喰らいなさい!!」
「いづづづづづづ………クソ痛えーーーー!!」
『トーヤ!!そのままじゃ神経がズタズタになってしまいます!!』
「といってもよー……後ろにゃ二郎がいるんだ……離れられねぇよ」
『だったらシールドをドーム状ではなく、すり鉢状にしてください!!』
「……なるほど、なっ!!」
シールドをすり鉢、パラボラアンテナの形状に変える。グレイビーストの虹色の破壊光線はそのままグレイビーストに返される形となった。
「ガアア……ええい!本当に鬱陶しい!!」
両腕に虹色の力を纏い距離を詰めるグレイビースト、刀耶は巨大鉈を構える。
「砕けろ!」
「砕かれねーよ!」
グレイビーストの虹色爪スラッシュ。空間を切り裂き、爪の軌跡が爆発する。刀耶は巨大鉈で全て弾き返しストライクスマッシュの袈裟斬りを放つ。
「どうだ!」
「くっ……」
グレイビーストの左肩に巨大鉈が食い込む。
「うおおおおおっ!!」
「なぜこの爪で壊せない!砕けない!!」
「知らねー!ナイトケースジョーカーは特別なんだよ!!」
『そう特別なんです!(でもトーヤ……あまりジョーカーを長時間使わないで下さい)』
リティーシャの鼓動が高鳴る。ナイトケースハートに外装着状態であってもジョーカーの暴走を抑えるには限度がある。
『トーヤ……そろそろジョーカー限界の時間です……』
「なに!?ジョーカーはそうは言ってないぞ??」
『私の制御が限界なんです……だからそれ以上は……』
「わかった、後 10 秒だけ使わせてくれ!!」
ナイトケースジョーカーは本来リティーシャが装着する物。力を解放しヴァンパイアとして覚醒した状態で 100 %力を発揮できるのである。
トーヤが装着できる状態に調整し本来の性能は発揮できない。そしてジョーカーはリティーシャとリンクしており使用するエネルギーの半分はリティーシャが負担している。ひとたび稼働すればジョーカーは貪り食うようにエネルギーを消費、リティーシャは刀耶が衰弱死しないように出来るだけ自分自身から吸い上げるように制御していた。
「いくぞジョーカー!渾身のストライクスマッシュ!!」
巨大鉈を下から跳ね上げグレイビーストの腕を弾く、そして上段から一気に頭上に振り下ろす。
ジョーカーの一撃を避けるグレイビースト。巨大鉈は角を切断、首筋に突き刺さる。
全身の神経を走る激痛に刀耶は意識を持っていかれそうになりながら、グレイビーストに食い込ませた巨大鉈を押し込む。
「グウウウアアアアッ……!」
「ぐぅ……も、もう限界だ……これ以上押し込めねぇ……」
刀耶の体が限界と判断したジョーカーは搭載された AI の判断で装着を解除した。ノーマルナイトケース刀耶の全身から力が抜ける。
「うぅ……クソ……」
「人間如きガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
体勢を立て直したグレイビースト、削岩機めいた凶爪は虹色の軌跡を描きながらで刀耶を襲う。避けれないと判断した刀耶は咄嗟に分解したジョーカーの肩アーマーを掴んで盾にした。
「ぐうううっ」
衝撃でナイトケースの装甲ごと左手の指が折れそうになった。刀耶に逸らされたグレイビーストの爪はアスファルトを豆腐のように削り取った。
「グルアアアアッ!!」
四つん這い状態から飛び掛かるグレイビースト。刀耶の肩を掴んで押し倒し首に噛みついた、牙はナイトケースの装甲に徐々に食い込んでいく。
「クソ……離せ……!!」
『トーヤ!!』
叫ぶリティーシャ、遠隔操作でジョーカーを人型に組み立て直し、グレイビーストに飛びかかる。
『トーヤから離れて!!』
ついに牙は装甲を貫き穴を開ける。
『トーヤ!!』
人型に組まれたジョーカーはグレイビーストの背後から掴み刀耶から引きはがしにかかるが止まらない。
『そんな!離れて!!』
「グルルルルルルル」
「そこまでだ!これでも喰らいな!!」
刀耶の首に牙が届く寸前、イグネイシャスの収束した螺旋熱線がグレイビーストの右目に命中した。
「ギャアアアアアアアッ!!」
食い込ませた牙を離し顔を押さえ体液を飛び散らせながら起き上がったグレイビーストは刀耶とジョーカーを尻尾で撥ね飛ばす。
「ガアアアアアアッ……グルアアアアアアアッ!!」
「ハァ、ハァ、ハァ……溜めに溜めて一点集中させた最強の一撃で頭吹っ飛ばないとか……頑丈過ぎるだろ」
指を向けたままイグネイシャスは肩で息をしている。
刀耶は背部装甲を飛行ユニットに変形させて距離を取る。
「助かったぜ!!」
「ああ、奴の動きが速すぎて狙いをつけるのに時間かかってすまない……」
「俺はもうそろそろ限界だ、二郎!そろそろいけるか!?」
「二郎君どうかな!?こっちもかなりキツイ」
「……ああ、いけるよ!十分に溜めは出来た!!」
右上段に構えた二郎のバックル刀は黒と白の力の渦が螺旋を描いている。
「グルルルルルル……よくも私の目を……」
傷ついた右目に札を張るグレイビースト。
「あのエネルギーの渦は……!」
グレイビーストは危険予測の本能に従い二郎に全力の攻撃を仕掛けることにした。
「ガオオオオアアアアアアアアアアアアッ!!」
飛び上がり空中に結界を張りピンボールを思わせる動きで跳躍しながら加速するグレイビースト。その手には錫杖メイス、重量にして 1 トンはあるそれを風切り音を鳴らして振り回し呪を込める。二郎にロックオン、咲夜の修得しているありとあらゆる呪を込め、物理的には大戦艦の主砲並、呪が炸裂すれば戦術核爆弾にも匹敵する正真正銘全力の一撃。当たれば衝撃で木っ端微塵。避けても呪の爆裂で周囲は汚染され、生物、大気、大地にダメージを与える。放てば勝利を確信できるものである。
「受けて!砕けなさい!私の最大の一撃!!急急如律令ー!!」
二郎はそれを、冷静に赤く輝く右目で見つめる。
「(グレイビーストのあれは防げない、回避できない、だから押し返すしかない!)」
グレイビーストは体をしならせ、全身をバネにしてバリスタめいて空中から渾身の投擲。
「グウウアアアアアアアッ!!」
「うおおおおおおおおおっ!!」
二郎は自身にも理解できない溢れる力が渦巻くバックル刀を一気に突き出す。
黒と白の波動が砲弾めいて飛んでくる錫杖メイスと激突。高圧縮されたエネルギーは閃光を発し周囲を朝日の如く照らした。
「うううううおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「何っ!?」
衝突の際に発生した閃光エネルギーは二郎の右腕に吸収されていく。
お互いの必殺の一撃がぶつかり合ったエネルギーをも吸収する義手。無意識で華月のエネルギー操作を行いバックル刀の黒白波動に上乗せする。
「ヌガアアアアアアアアアアアアアッ……」
錫杖メイスを弾き飛ばしそして出力を増した黒と白の渦はグレイビーストに炸裂。
「ギャアアアアアアアアアアアアッ……」
「……決まった!?」
「(莫迦な、私の渾身の一撃は……物理的にも防御不可能、カテゴリー5相当のサイコキネシスでようやく対抗できる……呪はグレイストーム級のウィザードかウィッチでなければ対処できない……それを……押し返しながら呪を吸収だなんて……あの腕……)」
破壊の渦がグレイビーストの全身を裂き、破片をまき散らしながら空高く上昇していく。雲を突き破り星空がのぞく。
「や、やった……」
突き出したバックル刀を降ろす二郎。その場に座り込んだ。
続く
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