VAMPIREEYE134 「超極寒領域」
八槍流の葛野忍を前に武器を構える華月、黒谷、冬華。
血を吸い取り対等だと言った華月であったが黒谷は不安がぬぐえなかった。
「(華月様のあの対等発言は………真実じゃない)」
華月に合わせたドレスは黒谷が用意した物でサイズは驚くほどピッタリの物。それが今は大きめのサイズとなっている。
「(華月様が縮んでいる……やはり魔力消費が大きすぎて生命力に影響している)」
魔力消費の大きすぎる華月は子供の頃悩んだ。制御して出力を押さえてみたものの自分の長所を生かせず不満が溜まっていた。
ある日限界まで魔力を使って訓練をしていたところ目の前が真っ白になり更に力が湧いてくるのを感じた。そして稽古を続け家に戻ると母親にこっぴどく叱られた。
『そのような禁術、どこで身に着けたのですか!』
母親がしかりつけたのも無理はなかった。華月の体は 3cm ほど縮んで幼くなっていた。
ふとしたきっかけで身に着けたと言いそれ以降はなるべく使わないようにした。
「(当主になった後はその心配も無く思う存分力を振るわれこの国を回られた……生命力を魔力消費に使う禁術は元々白峰家の体内に見についているものを強引に引き出す術。当主の力を譲った白峰の者は徐々に衰え生命力を使い魔力を維持する。それは二十歳で成長の止まる白峰家の者にとって生命力をつかうというのは幼化するということ。極限まで魔力を維持するのを選んだ場合赤子にまでなってしまう。だがそうなれば今度は自我を保てず魔力制御は不可能となり寿命を向かえてしまう)」
華月の前に出る黒谷。
「華月様お下がりください、ここは冬華と私にお任せを」
「……」
「私が気が付かないとでも?」
「わかった、下がろう」
既に華月の魔力は長門顕彰戦と同じくらいに消費していた。
「(華月様がフルパワーで安全に戦えるのは恐らく 3 分程度……既に経っている。先ほどの打撃のラッシュは長門顕彰を斃した時よりも強く打たれてた。葛野忍の吸・引呪対策で魔力で爆発力を付与できない分の破壊力を身体強化に使われた……)」
ゆっくりと葛野忍が近づいてくる。
「来ないのですか?こちらとしても待ってる時間はないのでさっさと始末してあげます」
八槍を持った尾が伸びて黒谷と冬華に襲い掛かる。バックステップで回避する二人、槍の穂先はアスファルトの地面を軽々と粉砕した。
「そう簡単には当たりませんか。それなら……」
白金の腕から銃を出現させる。
「爆裂陰陽弾を更にこの銃で追加します」
突進する葛野忍、八槍で仕掛けながら銃で黒谷を狙う。
「陰陽弾……現代陰陽師が持つ標準装備……それならば」
黒谷は冬華と華月の前に粘土質の高い壁を出現させる。
「華月様、冬華、これを」
粘土の壁に隠れながら黒い渦から銃器をとりだす。
「無反動砲にプラズマミニガン、大口径拳銃にプラズマアサルトライフル……」
華月、冬華は驚きながら手に取る。
「黒谷こんなもの何処で手に入れた」
「まぁ色々と……華月様の復活の前に準備していましたので」
「まぁいい、これでしばらく凌ぐか」
葛野忍の八槍が粘土壁を破壊する。
「何をコソコソと!!串刺しでs……」
冬華の放った無反動砲が葛野忍の顔面に命中。続けて黒谷のプラズマミニガン、華月のプラズマアサルトライフルが炸裂する。
「旧時代の戦車なら 30 秒でスクラップにするプラズマミニガンはどうですかね!?」
「ヌググググ……」
煙を上げながら仰け反る葛野忍。
「避けろ黒谷、冬華!!」
華月が叫ぶのとほぼ同時に弾丸めいて発射された葛野忍の八槍。
「ぐっ」「ああっ」「……」
爆砕呪を込めた槍は黒谷の右腕を吹き飛ばし、冬華の左足を破壊し、華月の左耳を削った。
「痛いじゃないですか……本体の痛覚は遮断してませんでしたしね。しかししぶとい……今ので全員心臓を串刺しにしたはずでしたが」
華月が咄嗟に放ったプラズマライフルが葛野忍の尾の軌道を僅かに逸らせてた。
「黒谷、冬華、動けるなら空中に退避しろ遠距離からの支援を頼む」
「問題ありません……」「私もまだ動けます!」
「よし」
飛び上がる三人。ゆっくりと浮遊し追いかける葛野忍。
「ダメージは与えられている、だが斃しきるには相当な時間がかかるだろう」
「まだ武器のストックはあるので大丈夫ですが……」
「お母様、私が V システムで一気に決着を……」
「黒谷、最新鋭のプラズマブレードがあるなら我に貸せ。冬華、切り札はもう少し待て」
「勿論ありますよ、華月様何かお考えが?」「分かりましたお母様」
華月は二人を近くに呼び耳よせで囁く。
「奴の尾を見たか?我が破壊してやった一本はいまだに再生できていない、最初に奴に接触した時と今では僅かに力が落ちている」
「おお……確かに」「……じゃあ尻尾を狙うのですか?」
「ああ、尾を狙う。お前たちは回避が間に合う距離で支援を頼む」
***
―碁盤の目町に続く地下道
坂道の地下道を降りていく二郎、吹雪、刀耶、リティーシャ。
「結構長いね」
「……いつもはエレベーターで降りてたからもどかしいわ」
「こうやって飛んだ方が速いと思うけど……それにしても長いな」
「そろそろ着くはずですよ、トーヤ、ジロウ、フブキ警戒を。魔力反応があります」
隔壁が開き結界の消えた地下道を降りていく 4 人。底に何かが居るのが見える。犬ほどの大きさの折り紙馬であった。
「あれは……沖田さんの式神かな?」
二郎は沖田の魔力を感じる。
「着いてこいといってるのかな?」
「……多分」
「オキタの魔力反応で間違いないですね、行きましょう」
解放されたゲートを抜け碁盤の目町に侵入する。
「しかし凄い地下都市ですね……区画ごとにキューブ状になってて移動も組み換えも自由自在。耐久性もある……災害にも強い」
リティーシャはナイトケースハートの中で分析をしている。
「宇宙開発のモデルシティとして建設されたと聞いています。日本の各企業が集まって完成させたとか」
吹雪が言った。
「これほどの都市を公式に発表しないでいたとは……そして今はエクレシアの日本支部の基地となっているのですね……何の為に日本は隠してたのでしょう」
「さぁ……観光はいつかまたしましょう、今は沖田さんの折り紙馬を追わなければ」
「そうですね」
折り紙馬は中央塔へと向かっている。
「中央塔はお母さんのいる部屋しか入ったことがないわ」
「それにしても……警備も何も動かないのですね静かすぎます、作業ロボしかいません」
「外を歩くという事は基本ないですからね。移動は全て乗り物を使いますし場所を指定して真っすぐに向かいます」
「……寄り道も散歩もできないわけですか。まるでディストピアですね」
「警備が居ない理由は分かりませんが……通常ならすぐにガードボットやドローンが集まるはずです……先に侵入した沖田さんらが何かしたのかも?」
白と灰色と黒と電灯だけの碁盤の目町の景色に吹雪以外の三人は圧倒されながらも中央塔に向かって折り紙馬を追って飛んで行く。
中央塔にたどり着くと既にゲートは開いて中は驚くほど静かだった。
「お母さんの部屋は最上階……でも折り紙馬はエレベーターの裏に」
エレベーター裏の柱の壁がわずかに開いていた。扉になっており下に続く階段が。二郎たちは折り紙馬を追って降りていく。
「う……寒い……」
二郎は階段を下りた扉を開けて飛び込んできた冷気に驚いた。リティーシャの内部モニターに表示されたのは―
「外気温マイナス 50 度です!」
漆黒と白の鎧に包まれていなければ二郎はひとたまりもない温度。
「大丈夫ですかジロウ?私とトーヤのナイトケースは耐えられますが。フブキは魔力操作で慣れていますか」
「なんとか大丈夫……」
「流石ナイトケースと言いたいところだが……この気温異常だな」
「冷気からお母さんの魔力を感じるわ」
奥に進む 4 人。折り紙馬に案内され更に扉を潜り抜けたどり着いたのはコンピューターに囲まれた異常な寒さの部屋であった。その中央にドーム状の結界と隣にキューブ状の赤い結界。雪名と沖田の姿があった。
「沖田さん!」「お母さん!!」
「おお……来てくれたか二郎君たち……この街のセキュリティは雪名様が作動させないようにしてくださっていたのだ。それよりも……この状況だ、私は雪名様の負担を減らすべく魔力をお渡ししているのだ」
「……」
雪名は振り返らない。目を閉じて唇をきつく閉じ両手で黒い球体を押さえている。
「……」
「お母さん……」
「沖田さん……俺が変わりましょうか?顔色が良くないですよ?」
「流石にこの寒さですからねぇ……でも大丈夫、人間を辞めて正解だったよ耐えれます」
雪名と沖田の横でリティーシャは持ってきた機材を広げ目の前の状況を分析している。
「……(師匠ならこんなときどうするでしょうか……世界のカードを使ってあの黒い物質……異次元の扉発生前に戻す……とか)」
「リティーシャ?」
「トーヤ、フブキ。とりあえずオキタに魔力を分けてあげた方がいいです。今二人が出来るのはそれです。ジロウは待機、私の指示で動いて下さい」
「オッケー!」「分かったわ」
二人は沖田の肩に手を置いて魔力を送る。
「(セツナが抑えられているのはどうしてか、凍結……つまり停止させているから。直接触れている訳ではないから周囲の物質全てを凍結させて広がるのを防いでいる……膠着状態に入っていると……そしてセツナの囲んでいる結界の中は絶対零度の領域。セツナだけが活動できる)」
リティーシャは思いついた解決策を次々とシミュレートしていく。
「(出現……膨張……停止……)」
リティーシャの横でジョーカーが起動した。
「リティーシャ、何でジョーカーを今動かしたんだ?」
沖田の肩に手を置いている刀耶が言った。
「トーヤはそっちに集中しててください。ジロウ、ジョーカーを装備です」
「え?いい……けど??」
それを聞いた刀耶に動揺が走る。
「は?二郎にジョーカーとか無茶だろ!」
「いえ、いけるはずです。そしてセツナのあの領域で活動できるのもこのメンバーではジロウだけです」
リティーシャはグレイビースト戦の二郎を見て分析していた。そしてジョーカーの装備が可能だと結論付けた。
「ジロウ、ジョーカー装着前にそのバックルの装備を外してジョーカーに取り付けてください。それからいつもバックルを武器変えている時のようにイメージしてください。ジョーカーを装着した全身の姿をイメージしながらバックルと一緒にジョーカーを装着です」
「えっと……分かった」
宙に浮いているジョーカーにバックルを取り付ける二郎。
「ジロウ、ジョーカーを装着したらセツナの結界領域に入って下さい。そしてセツナの真似をしてあの黒い球体に義手をかざすのです。そこから先は私がジョーカーを操作します」
「うん、やるよ!」
ジョーカーを装着する二郎。
「うぐっ……」
二郎は体を喰らいつくそうとする意思をジョーカーに感じた。しかしすぐに義手が反応して暴走する意思を沈めた。
二郎がバックルに込めたイメージは好きな漫画のロボットヒーロー。白と黒のツートンカラー。世界の平和を守る勇者の姿。若干の悪魔的な形状を残しながらもほぼ完ぺきにロボットヒーローの姿に変わるジョーカー。
「二郎!やりやがった!!ジョーカーの暴走を止めた!!」
「二郎くん……」
「計算通りですよトーヤ。カヅキや他のシラミネ家の魔力、情報を取り込んだ義手ならばジョーカーを制御できると考えたのです。そしてジョーカーならあらゆる環境に適応できます!さぁジロウゆっくりとセツナの領域へ入るのです!」
「はい!」
ゆっくりとセツナの超極寒領域に入る二郎。全身の凍結はジョーカーから発せられる魔力のオーラで防いでいる。
「 GIGIGIGI ……」
ジョーカーが呻き声を上げる。
「そのままゆっくりとセツナに近づいて下さい」
「……」
一歩進むごとにジョーカーは呻く。
「(静かだ……リティーシャさんの声はジョーカーを通じて聞こえるけど他は何も聞こえない……)」
「ジロウ、セツナの近くに着いたら一旦停止してください」
ゆっくりと静寂の空間を進む二郎は雪名の横で停止した。
続く
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