ReviveTheGunSword 灰蘇の剣銃 40 「和音と亜瑠と柄留」
「はっはっは覚えてたか M 、いや諸田亜瑠くんと呼ぼうか。儂は秋馬光鴨(こうおう)。院瀬見の役員をしている者だ」
高級ビジネススーツの老人が言った。
「公園のホームレスの中でも異質だったよあんたは。皆お互い詮索しないから言わなかっただけで」
「そうだったか……馴染んでた自信はあったんですが」
「馴染んでたよ、完璧すぎるほど完璧なオータムホースのホームレス老人だったよ。でもただ一点、眼の光がギラギラし過ぎてたのが不自然だった」
「やれやれ『目は口ほどに物を言う』ことわざにある通りになりましたか」
「院瀬見の役員があたしに何か用?」
「二人とも用があるんですよ。前置きは無しにして単刀直入に言います。儂に協力して貰いたい。鈴村功太朗だけが院瀬見の良心ではありません」
「それはつまり院瀬見のあんたの派閥に入れって事?」
「そうです、スカウトしにきました。二人とも進路は決まっていますか?」
「オレは警察官になる」「あたしは……大学行ってその後は家業の刀鍛冶継ぐ予定」
「なるほど和音くんは警察官、意志は固そうですね。亜瑠くんはどうですかな?儂の派閥にインターンで入るというのは。家業を継ぐのが急ぎではないのなら何年か院瀬見に入ってみるのもいいかと思いますが?」
「強引すぎる勧誘だね……なにか意味があってこんなやり方で来たんでしょ?今まで大人しくしてたのにこのタイミングで会いにくるっての思いつきだとは考えにくい」
「いいですね、正に貴女のような人材を探しているのです。院瀬見への忠誠心など必要ない。儂への忖度も必要ない、亜瑠くんには只の無茶な若者ではない強さと賢さと胆力を感じます」
「へぇ~」
「院瀬見は優秀で不真面目、優秀で真面目、無能で不真面目、無能で真面目と色々な者が居ますが一番儂が欲しているタイプが分かりますかな?」
「優秀で不真面目な奴でしょ?秋馬光鴨あんたのようなタイプは側近の部下に癖の強い軍師タイプの人間を欲しがる」
「正解です。不真面目とはネガティブな意味ではなく型破りで柔軟とも言える。規律を守り頑なで誠実な人間が真面目。それが悪いわけじゃない組織には必要。優秀で真面目な者は探しやすく確保もしやすい、だが本当の意味での優秀で不真面目な者は中々居ない」
「あんたから見るあたしがその優秀で不真面目な奴って事」
「ええ」
「言っとくけど軍師タイプじゃないから。バリバリ前線に出て敵の首取るよあたしは」
「はっはっは元気で結構。儂が貴女にふさわしいポジションと仕事を与えれば才能は花開きもっと能力を活かせる。こう見えても儂は人を見る目には自信がありましてな」
「へぇ~そう?じゃあ次にあたしが何するか解るかな?」
亜瑠は全身に龍の力を流し電気を纏う。そして秋馬光鴨の横の大男に手をかざす。
「黒駄(くろだ)はバイオ筋繊維を移植し 10 倍の量を持つ男。並の攻撃は効きませんぞ?」
「止めておけ小娘、下手に俺を攻撃すると反撃でぶっ殺してしまうだろう?それでは光鴨様に申し訳ない」
黒駄はつり上がった眉を更に吊り上げながら言った。
「真面目な無能ってお前の事じゃない?既に勝ちは決まったんだけど」
「何を!!」
車を吹き飛ばす威力の張り手を亜瑠に放つ黒駄。だがその張り手は亜瑠にではなく黒駄自身の顔を打った。
「ガ……!?」
「お前の右手はもうあたしの支配下にある。筋肉に送られる電気信号を読み干渉すればこんな事もできるんだよ」
亜瑠は黒駄の右手を操り自らの顔面を掴ませる。
「グオオオオオ!」
左手で右手を剥しにかかる黒駄、メキメキと骨が軋む音が聞こえる。
その光景を見て和音は亜瑠の学校での出来事を思い出す。
目立つ亜瑠は 1 年生の頃しょっちゅう上級生に絡まれていた。その度絡んできた上級生を不慮の事故や偶然に見せかけて痛めつけて撃退していた。
靴箱のロッカーに動物の死骸を入れられた時は片っ端から怪しい者を自分自身の手で攻撃するように痛みと恐怖で締め上げて遂に犯人を見つけ不登校になるほど追い詰めた。
「(亜瑠はオレとは違い殴り合いの喧嘩などしない)」
ある意味では亜瑠は和音よりも上手く立ち回っていた。半年もすると誰一人亜瑠にちょっかいかけるものはいなくなり、うわべだけの取り巻き、距離を取りながらも出来るだけ仲良くしたい者に囲まれるようになった。亜瑠は出来るだけ愛想よくふりまき怖がらせないように努めた。
亜瑠が素で接して心から友人だと言えたのは兜金蒐魅ただ一人。
「秋馬光鴨さん、貴方もこうなりたくなければお帰りくださいお金の問題じゃないんです」
「はっはっは!まさか力押しとは。いやはや和音くんの方が冷静ですね」
「そうよ、あたしは和音ほど我慢強くないんだから」
「まぁいいでしょう今回は引きます。君たちは必ずまたこの街に戻って来る、その時にでも話をしましょう」
「……わかった、じゃあもう行って」
黒駄を解放する亜瑠。黒駄は亜瑠を睨み右手を抑えながら車の助手席に乗り込む。続いて秋馬光鴨が後部座席に乗り込んだ。
和音と亜瑠は車が去るの見届けた後再びタクシーに乗り込む。
「待たせたわね。守山探偵事務所に向かって下さい」
「ハイーーーーーー!」
声を裏返しながら大声で答えるタクシー運転手。
「相変わらず器用だな亜瑠」
「あんなの本当に強い奴には効かないし手品みたいなものよ」
「手品……か。亜瑠に操られた地元のサイバネチンピラが血まみれになりながら土下座で頭を打ち付け続けていたのを思い出した」
「傍から見ればあたしは何もしてないし相手が勝手に奇行に走っただけに見えるし便利」
「オレにはそんな芸当無理だ」
「和音はわかりやすいパワー型だからねー。多分そっちの方が強い奴と戦うのに向いてる。グレイキャリバーに取り付かれた蒐魅と互角に戦えたのはミレーヌとデモンズエッジ・スキャバードのおかげだしね。和音なら多分一人で戦えたよ」
「だがその場合は柄留は生まれなかった……」
「そうだね……」
和音と柄留の会話をなるべく聞かないようにしながらタクシーの運転手は車を走らせる。
***
守山探偵事務所に到着する和音と亜瑠。厳重なセキュリティを抜けて事務所に入った。
「やあ、待ってたよ…… M (亜瑠)」
「徳三さん!!」
車椅子に乗り、全身をチューブで繋がれ大きなタンクを背負い現れた老人は守山徳三。
「柄留の言ってた人か……」
「あ~……あいつミレーヌの記憶で知ってたのね」
応接室には鈴村功太朗と罅助の姿も見える。
「こんな姿ですまないね……長年酷使しすぎた体に限界が着始めてもう殆ど動けないんだよ……時々遠隔操作ロボットでホームレスたちの公園に行ったりしてるよ」
「……なるほど。そういう事だったのか」
柄留が初めて徳三とあった時は歩いていたと和音に話していた。
「探偵・守山徳三はもう死んだ。ここに居るのは只の隠居ジジイだ」
「そっかぁあたしが会ってた徳三さんも遠隔操作ロボだったのね」
「すまないね……無理を言って罅助に用意してもらったんだ。一見すると全身サイバネに見えるからね」
奥の部屋から徳三の顔をした二足歩行ロボットが歩いてくる。
「神名製の旧型を特殊なルートで手に入れたんです。設定などは鈴村功太朗さんに手伝ってもらって」
罅助が言った。
「いやぁ~流石神名だと感心させられましたね。刻印は 25 年前の物……なのに古さを感じない完成された構造……ユーザーインターフェースを乗せ換えるだけで今でも十分に通用するものです。軍用に開発された物がこの街に流れてきたのでしょうね」
鈴村功太朗が言った。
「……いきなり本題に入りたいのですが、話とは何ですか?」
亜瑠は功太朗を見て言った。
「ああ、早速話をしよう。かけてくれ和音君も」
応接室に座る和音と亜瑠、功太朗と罅助。徳三も同席する。
「これを見て欲しい」
功太朗がアタッシュケースから取り出したのはモザイク柄のミント吸入器と戦闘フレームに乗る際に使うカード。
「これを亜瑠くんに貰って欲しい。蒐魅の使っていた吸入器と彼女が弾丸で修理した戦闘フレームのカードキーだ」
「……この吸入器は G ウェポン化してる!!」
「そうなんだ。本来ならグレイキャリバー消滅と共に消えるはずの G ウェポン、柄留くんグレイブラスターの影響か蒐魅が使っていた時のままなんだ」
ミント吸入器を手に取る亜瑠。
「んん?」
鈍い光を放ってミント吸入器は小さな手のひらサイズのリボルバーに変わった。
「装填数 5 発のミニリボルバー……弾丸は無し」
机の上に置くとミント吸入器に戻った。次にカードキーを手に取る。スリーブに何かが貼ってあるのを見つけた。
「あ……コレ……あたしと撮った写真だ!」
亜瑠と蒐魅がカメラに顔を近づけて笑っている写真。
「蒐魅がグレイブラスターを拾ってから戦闘フレームに乗ることは少なくなったけど、そのカードスリーブは肌身離さず持っていたよ」
「そっか……」
亜瑠は写真とミント吸入器をカバンにしまう。
「これを渡す為に呼んだの?」
「いや、話は別にあるんだ。亜瑠くん、君にオータムホースに来て欲しい。そして私たちに協力してくれないか」
「え?それってさっき他の人にも言われたんだけど」
「そうなのか……既に先を越されたとは。どこからの誘いだったのか良ければ教えてもらえるかな?」
「院瀬見の秋馬光鴨って名乗る人。派閥に入れって言われた」
「……こんな顔だ」
和音は携帯の画面に手描きで似顔絵を描き功太朗らに見せた。
「これは!ホームレス公園に居た鴨さんじゃあないか!!」
徳三が声を上げた。
「まさか彼が院瀬見の派閥長の一人だったとは……探偵として情けない」
罅助が言った。
「徳三さんや罅助さんが知らないのも無理はない。光鴨は姿を見せない事で院瀬見でも有名だったからね。顔を知ってるのは極一部の人間だけさ。彼が姿を現したという事は院瀬見は大きく動くんだろうね」
功太朗は眉間に皺を寄せながら言った。
「なんで、あたしなの?和音の方が頭いいし強いし」
「和音君には既に断られててね。もう決めた道があると強い意志で言われたのさ」
「……まぁあたしは別に絶対決めた道に行くってまだ決めてないけど。とりあえず大学受験ってだけで」
「ならばオータムホースの大学に入ってくれないか?二校とも素晴らしいところだよ」
「この国トップレベルの科学技術に特化した大学と普通の所でしょ?」
「一つは私の母校でもある」
「……考えとく。この街に住むのもありかなとか思ってるし」
***
話を終えた和音と亜瑠はタクシーを拾って瞬栄の家に向かう。
「オータムホースに住むのか?」
「ありかなって。和音も大学出たらこっちに来るんでしょ?」
「ああ」
「それにアイツ(柄留)を陶子さんだけに見させる訳にはいかないじゃん?」
「警察学校で少し落ち着けばいいのだがな」
「あはは」
瞬栄の家についた後すぐに支度を済ませ亜瑠は両親と共に帰っていった。
***
―翌日
「退院だよー!」
病室で柄留が叫んだ。
「大きな声を出すな。それはそうと早く退院出来て良かったな、保護者は比留山陶子さんになるのか」
「そうみたい!実際は 0 歳だけど和音君と亜瑠ちゃんと同じ 18 歳設定にするとか」
「設定とかいうな」
「実際は 0 歳なのにこのボディ……イケナイ気分バブバブ」
「やめろお前の姿は亜瑠と同じなんだぞ」
「って事は亜瑠ちゃんの服全部着れるんだ逆にボクの服も今度交換しよっと」
「それよりも……お前学力テスト大丈夫なのか?」
「それがさ~……陶子さんが置いてった問題集やってみたんだけど結構いけるんだぁ。頭の良さ亜瑠ちゃんに似てるのかも?」
「それは良かったな。あとは一般常識を身につければいい」
「それが一番ムズイ……」
「来月から警察学校だな」
「そうなんだよ~和音君と離れて暮らすの寂しいなー……それと後は女子校生やって見たかったなぁ~蒐魅もミレーヌも行ってないから記憶にないんだよね……」
「お前の言い方だと勉強とかではなく休み時間放課後クラブ活動がやりたいだけに聞こえるな」
「そうそれ!青春感じたい! TV で青春ドラマ見てたら憧れ強くなったんだよ!!」
「いい事ばかりじゃないぞ?」
「カーストとかってやつでしょ?」
「お前はやらかして停学になるんじゃないか?」
「なんでよ!」
「短気ですぐに手が出るだろ?常人を遥かに超えてるその身体能力で暴れたら終わりだぞ。オレも亜瑠もバレないようにやってるんだ」
「ボクだって手加減できるよ!でもその場でやっちゃう感はある……蒐魅が出るのかも」
「……亜瑠が言ってたぞ『ミレーヌの悪い所と蒐魅の残念な所ばっかり目立たないようにして欲しい』ってな」
「良い所は?」
「オレはミレーヌも蒐魅も知らないが……お前としてならそうだな……前向きでへこたれない、ポジティブで切り替えが早い柔軟な思考、高い道徳心、思いやりがある。などか」
「えへえへへへへへ……なんか和音君にべた褒めしてもらえると蕩けそうになるね」
「今あげた数と同じくらい悪い所もあるんだがな」
「あ~ダメダメ!そっちは聞きたくない!!」
「オレも人の事を偉そうに言えない。悪い所だらけだ」
「悪い所があってもそれを上回る長所と魅力が和音君にはあるんだよ!」
「柄留……亜瑠が認める魅力的な人間になれるといいな」
「なるよ!ボクは伸びしろしかない!!」
和音は柄留の顔を見る。薄っすらと左右の目から青と橙の光が見えた。
「冬休みにまたこの街に来てやるよ。亜瑠と一緒にな」
「え~じゃああと 3 カ月かぁ……でも我慢する。色々頑張らなきゃいけないし!」
「ああ、オレもだ」
終
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