LOKI :その 1 「お嬢様とメカスライム」
――彼女は目を覚ました。
「暗くて何も見えない……電気はどこ?」
何かが重く圧し掛かっていた。うつ伏せの状態で彼女はもがく。
「動けない……誰か助けて……」
どうしてこのような状態になったのだろうか。彼女は記憶を辿る。
***
院瀬見グループのパーティーの帰り、彼女は自分の持つクルーザーに乗り込んだ。そこは日常のわずらわしさから離れられる彼女が自分らしく居られる場所だった。
「おかえりなさいませご主人様」
挨拶したのは彼女が個人で雇っているメイド丹羽心鷺(にわこころ)。身辺警護とクルーザーの管理を任されている。
「すぐに出して心鷺」
「かしこまりました」
船に乗り込んだあとステップを上げすぐに運転室に向かう丹羽心鷺。彼女は船内に向かう。
「……!?」
背後で何かが倒れる音がした。振り返ると頭から血を流し丹羽心鷺が倒れている。
「心鷺!!どうしたの!?」
運転室から影が飛び出した。目出し帽を被った全身黒尽くめの人物。
「誰です!?」
「死ね」
サイレンサーのついた銃で彼女は三度撃たれた。頭部と胸。
「う……あ……」
膝から崩れ落ちる彼女。
暗殺者が丹羽を海に捨てる。彼女は薄れゆく意識の中それを見ていた。
***
「わたくしは……撃たれて……生き延びた?」
体は動かない。痛みも無ければ苦しさも無い。何かが圧し掛かっていて動く事は出来ない。このまま救助をくるの待つか、それとも声を出したり叩いて合図するか。そう考えてまずは声を出してみる。
「誰かー!!助けてくださーい!!」
声は出た。思ったより体力は残っていると判断した。そして彼女は叫び、床を叩いてSOSのモールス信号の音を出す。
しばらく続けていると、何かひんやりしたものが彼女の顔に触れた。
「もう大丈夫です」
「ああ、よかった。わたくしは秋馬昊菜(あきばこうな)といいます」
「秋馬昊菜サマ……確認中……」
救助ロボットだろうか?と昊菜は思いながら顔に触れているものに指で触れた。すべすべで弾力がありそれでいて金属のように冷たい。
「確認できました。貴女は現在脈拍停止、呼吸停止、多臓器不全、受け答え可能、意識アリの状態です。直ちに蘇生作業に入ります」
「は?え??」
「(要は死にかけてる状態って事?)」などと考えながら救助に現れたロボットのような存在に身を任せる。
「……秋馬昊菜サマの蘇生に失敗」
「え!?嘘……」
「既に生命活動を停止されている状態です」
「待って、でもわたくしはこうしてアナタと会話してるではありませんか」
「その点については理解不能です。申し遅れました、私は Super L ife Medical Equipment 通称 SliME (スライム)です。貴女の命と健康をお守り致します」
「え?何々?スライム??ロボットじゃないの?」
「流体多結晶合金で出来た医療用マシーンです」
「……とりあえずここから出してくれません?」
「承知致しました」
Super L ife Medical Equipment は変形してジャッキ状になり昊菜に圧し掛かった岩石を持ち上げる。
「あ、動けるようになりましたね……あ痛!せまいし暗いし何も見えませんわ」
「狭いのでお気を付けください。昊菜サマさえよけでば私が全身を包み込んで移動しますが?」
「それなら任せます……」
昊菜はその場に寝そべり Super L ife Medical Equipment に取り付かせた。全身を包み込んだ後は底面に百足のような足を生やして移動を開始する。
「ここはどこですか?」
「現在地は東京都秋馬原市(オータムホースシティ)第五地区の地下 144m です 」
「……え?」
聞いたことの無い住所だった。正確には名前は知っているがそんな場所は存在しないはずだった。
「間違いないですか?」
「間違いありません。最新の情報に更新してあります」
空洞のある場所に移動した Super L ife Medical Equipment は地上を目指し進んでいく。昊菜は仰向けになったまま Super L ife Medical Equipment に包まれた状態で運ばれている。
「(暗くて何も見えない……地下 144m とは一体……) 」
とりあえず地上に出ててから自分の目で見て確かめてみようと考えた。
***
Super L ife Medical Equipment は下水道の脇に出た。梯子を登り小さな公園のベンチに昊菜を座らせた。
「思った通りアナタは銀色ですのね」
自身の体を包み込む Super L ife Medical Equipment を見て言った。
『昊菜サマは現在何も身に着けていませんのでしばらくこの状態を維持します』
傍から見れば全身銀色スーツの人間である。
「あ、そうなのですね……助かります。さてこれからどうしましょう……とりあえず家に電話をかけた方がいいのかしら」
『家、とはどちらにかけますか?』
「そうですね実家は……やめておきましょう……(折角実家と離れたのに今更関わりたくない)」
『どうされましたか?』
「こんな時に連絡しても大丈夫なのは……燐火(りんか)ね」
『燐火……神名燐火サマで宜しいですか?』
「ええ、燐火に連絡を取ってくださいな」
「了解しました。神名燐火サマは私の造物主です」
「え!?は??」
神名燐火に連絡を取る来夢。
『どうした? SLiME01 何かトラブルか? 』
落ち着いた低い声の女性。
『自分のトラブルは起きていません』
『それでなにがあった?秋馬のアホボンからまだ届かないってこっちにまで電話があったんだが?どこで何をしてる?』
『秋馬昊菜サマの元にいます。私の所有者は秋馬昊菜サマとなりました。つきましては昊菜サマが造物主とお話したいとの事でしてこのような形で連絡させていただきました』
『あぁん?秋馬昊菜だと~?? 50 年も前に消えちまったあの馬鹿の名前がどうしてでてくんだい。まぁいいソイツと代わりな 』
『はい』
「(え?え!?今 50 年と聞こえたけど聞き間違えかしら?)」
マンションの自室にいる神名燐火は高速タイピングで PC を操作して秋馬昊菜の資料を検索する。
『オ~イ、どこのどいつだお前。秋馬昊菜を名乗るなんてどんな冗談だい』
「もしもし?お電話代わりました秋馬昊菜です。……燐火?お久しぶり?ですわね」
『なんの目的で昊菜の名を語ってるのか知らないけど SLiME01 があんたが昊菜だと判断したみたいだね。口で騙せるようなポンコツじゃあないしどうなってんのか……』
「わたくしもなにがなんだかさっぱりで。海の上でクルーザー乗っていたわたくしはメイドと共に撃たれて気が付いたら暗い場所にいましたの。そこを SLiME01 さん?に助けられました」
『お前【も】秋馬昊菜って事なのか』
「も、とは?わたくしは秋馬昊菜です。貴女の親友の秋馬昊菜ただ一人でしてよ」
『ありえないんだよそれは。そこまで言い張るのなら私を納得させる昔話の一つでも語ってみなよ?できるものならね』
「そうですわね……大学時代、サークルの飲み会で気に入らない男にゲロぶちまけましたわ。燐火は笑ってその男を跳び蹴りでプールに叩き落としてましたわね」
『……他には?』
「ドラッグを捌いていたイベントサークルのブツをわたくしの作った薬といれかえて催眠状態にして全裸で街中を踊り狂う集団ストリーキングにして大量に逮捕させましたわ。燐火のアイデアでしたわね」
『あっはっはー!』
神名燐火は大口をあけて笑う。彼女の脳裏に二十代の記憶が鮮明に蘇る。
『いや、すまん。はぁ……あの計画を知ってるのは確かに昊菜だけだよ。本当にアンタなのか。しかし…… 50 年もなにしてたんだい、てっきり誰かに殺されて処分されちまったのかと考えたよ』
「そこが理解できませんのよ。 50 年とは一体?」
『私もなにがなんだか解らないね…… SLiME01 がお前を保護してるのなら迎えに行ってやるよ。そこでじっとしてな』
「場所は分かりますの?」
『 SLiME01 の場所はこちらでわかる問題ない』
―― 30 分後。昊菜の座るベンチに神名燐火が到着した。髪型はショート。防刃防弾仕様の革ジャンにインナーは温度調節機能のついたボディスーツ。手には大きなアタッシュケースを持っていた。
昊菜は突然現れたパンクファッションの女性、神名燐火に驚いた。
「もしかして……燐火?」
「動くな。 SLiME01 、そいつを動けないように硬化したまま顔を見せろ」
『了解』
昊菜の頭部に張り付いていた SLiME01 は流体となって変形。首から上を剥き出しにする。
「コイツは想像以上だよ……全く理解できないね」
『おっしゃる通りでございます神名燐火サマ』
「何を言ってますの!?」
「お前……自分の姿が解らないのか? SLiME01 掌を鏡に変えて見せてやれ」
SLiME01 は右手を鏡に変え昊菜の顔を映し出す。
「…………」
「固まったな、そりゃあそうか」
昊菜は鏡に映っている者が何か理解できない。赤く輝く骸骨が映っている。口を開けると骸骨も開け左右に首を振ると合わせて動く。
「……何かのトリックですか? SLiME01 さんも燐火もわたくしにドッキリを仕掛けてますの?」
「残念ながらそれが現実みたいだな」
『秋馬昊菜サマの見た目の状態は白骨死体そのものです』
「そんな……これがわたくし?なぜこんな姿に?そもそも何故生きていられるのです?」
『不明です。このような症状のデータがありません』
昊菜は自身の開いた双眸を見つめる。無いはずの眼で。
「燐火、わたくしどうすれば……」
「……さてどうしたもんかね。とりあえず私のマンションに来な」
昊菜を助手席に乗せ車を走らせる燐火。
「本当にあんたが秋馬昊菜なのかまだ信じれないよ。そんな姿でさぁ」
「わたくしもなにがなんだか……こんな姿になってもとりあえず連れて行ってくれる何て流石燐火ですね」
「正直怪しいと思ってるよ。でも好奇心には勝てないのさ、アンタがどういう存在でなぜそうなっているのか知りたいと思ってる。秋馬昊菜なら放っておくわけにはいかない」
「……やっぱり 50 年経ったというのは本当なんですね」
昊菜は車のデジタル表示版を見て言った。
「骨を見てたら別荘でアンタが怪しい錬金術をやってたことを思い出すよ」
「昨日の事のように覚えてますわ。両親に隠れて秘密の部屋で錬金術に明け暮れた日々…… 50 年経ったのなら今でもあの別荘は残っているのかしら?」
「さぁね、昊菜が姿を消した後一度行ったっきりだし」
「あ、あの燐火。別荘に寄ってくれません?」
「……仕方ないね。だけど骨姿は他の人間には見せれないから SLiME01 で覆っておくよ」
「はい」
昊菜は車の表示板を操作して地図を開く。「 第五地区 MAP ……現在地は 」正方形の第五地区。様々な企業の名前の建物がひしめいている。四角渦巻き状に配置された森林部と用水路、放射状に配置された道路、現在地は中心の公園だった。
「(やっぱり知らない名称ばかり)」
「いきなり行っていいのか?」
「いえ、流石に 50 年も経ってますので一報を」
電話に切り替え秋馬家の別荘に通話を開始する。
『もしもし……』
「あのわたくし秋馬昊菜と申します。丹羽家の方でしょうか」
『あ、はい丹羽ですけど』
「(良かった、今でも丹羽家が別荘を管理してくれている)」
「聖羅……さんを呼んでくれます?」
『祖母ですね……少々お待ちください』
待機中の音楽が流れる。電話のやり取りを見ていた燐火が笑みを浮かべている。
「話し方、声、あの当時の昊菜そのままでニヤけちまうよ」
「そういえば燐火…… 50 年経った割には若いですわね」
「アンチエイジングのおかげさ。やろうと思えば 20 代の姿にまで戻ることが出来るけど……若すぎる姿はなにかと面倒ごとが多くてね。 40 代くらいにしてるのさ」
「とても素敵な大人の女性ですわ燐火」
「やめな~アンタのそういうところ学生時代どれだけ勘違いする子多かったことか」
「あら、わたくし嘘は嫌いですよ」
「はいはい、わかってるって。だからこそなんだよ……まったく気持ちまで若返ってきたよ。いい年した婆さんになってるのに」
車は第五地区の幹線道路に入る。
続く
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