DHHU その 35
「なんだと……」
真邪王の右手に握られているのは誰かの心臓だという。
「さーて誰の心臓かな~?」「やめろおおおおおおおおおおおおっ ! 」
邪悪な笑みを浮かべて心臓を握りつぶす真邪王。
「キャハハハハハハハハ! これでお前の仲間一人は死んだのです!」
「魔眼発動!」
ユウは真邪王が邪腕を発動させる前の状態の過去幻影を浮かべて斬りつける。
しかし、真邪王が過去幻影を邪腕で掴み移動させた。
「そんなバカな!」
「キャハハハハハ! 実体の無いものもこうやって掴めるのです! これで私はお前の魔眼に対抗できるのです!」
「じゃあ更に魔眼発動!」
「最強の後出しじゃんけんの過去干渉魔眼であっても! 邪腕を上手く使えば!」
ユウの背後の空間から右腕を出現させて殴りつける。
「忌々しい事に勇者の加護のせいでお前の心臓は掴めないのですだけどこうやって物理攻撃を仕掛ける事ならできる、魔眼の邪魔をしまくるのです!」
「くそおおおおおおおおおっ!」
「キャハハハハハ! 後はこの場にいるお前と他のメンバーを片付ければいいだけです。邪腕を手にいれた私が次にとる行動はわかるのです?」
「まさか……」
「全ての邪体を邪眼邪腕の力で集めるのです! チェックメイトなのです!」
「大丈夫かユウ!」「勇者!」「ユウ君!」
ハオラン、才賀、ドウェインがシェルターに突撃してきた。
「な! 心臓を握りつぶしたのに何故 !? 」
駆けつけた 3 名のうち一人は確実に真邪王によって心臓を潰され即死している――はずだった。
「みんな! 無事だったんだね!」
「まぁ何とかな!」「遅くなってゴメンね!」「まだまだ戦えるぞ!」
「ちっ! ぞろぞろと揃いやがって……一々相手するのも面倒なのです!」
真邪王はドウェインに向かって邪腕を伸ばす。それをドウェインは抜き打ちで斬りつけた。
「は?」真邪王の拳が縦に割れる。
「驚いたか? 私はお前を斬れるぞ。しっかりとお前の構造を理解した。ならばどうすれば斬れるか調整するだけだ。さぁ解剖してやろう」
ドウェインはこれまで様々な魑魅魍魎を相手にしてきた。物理的に硬い者、実体の無い者、存在があやふやな者。医学と剣術と魔術の知識を合わせ剣に魔術を付与してきた。ドウェインは勇者ユウの武具の特性、ダンジョンでの真邪王の特性考え遂に真邪王に通じる付与を完成させた。
「真邪王、お前はもう無敵ではない。この場にいる全員がお前を倒せる!」
ハオランの直剣、才賀の鎧武者の槍にもドウェインの付与がされている。
「只の医者だと侮っていたな」
「この……このおおおおおおおおおっ! 有象無象の雑魚の分際でよくも私にこんな傷をおおおおおおおっ!」
「ジンガのいるダンジョンには行かせねーぜ!」
ハオランは直剣を向ける。
「ここで終わりだよ真邪王! あーしの娘とトモダチの柄留ちゃんももうすぐここに来るからね!」
「ここは……一旦体勢を整えて……」
シェルターの穴に向かう真邪王、しかしそこは既に才賀の骨杭で埋め尽くされドウェインの付与がかけられていた。
「このシェルターはお前の力では破壊できない勇者の封印が効いている。唯一の出入り口も無理やり通ろうものなら体が千切れ飛ぶよ!」
才賀は真邪王を睨みつける。
「オノレエエエエエエエエエエエッ! 邪腕を手に入れたというのにいいいいいいいっ !! 」
「テメーは俺たちを舐めすぎたんだよ!」
ハオランの斬撃が真邪王の肩を掠める。
「こうなったら……力ずくでお前らを始末するのみ! お前らの攻撃が私に通じる、それだけで勝てると思うななのです!」
真邪王は目暮沙那の姿のまま頭に山羊めいた角、背に翼、太い尾を生やす。
「ダンジョンから力を得ている私はお前らと違ってほぼ無制限に力を使える! これがどれだけ絶望か思い知らせてやるのです!」
「ここでお前を封印する!」
「お前の貧弱なカード力で出来るわけないのです!」
ユウは何も描かれていないブランクカードを見つめる。
「(作れるかな……俺だけの最強カード……獅子王を超えるカードを)」
ユウは先代勇者セイの専用カード『ジライヤ』を思い浮かべる。
「(父さんはどうやってジライヤを作ったんだっけ……)」
猛攻を仕掛けてくる真邪王の攻撃を受け止めるユウ。間髪入れずハオラン達がカバーに入り真邪王に反撃を仕掛ける。
「猪口才な!」
対真邪王の付与がされた武器が掠った箇所は煙が出ている。大きく後方に飛んで距離を開けた。
「いいぞ、奴はこの武器のおかげでゴリ押しが出来ねぇ!」
「……だがこちらには邪腕がある。安心しきってると即死するのです!」
真邪王は邪腕の右手に力を込め始める。
「さっきの心臓握り潰しは確かにお前たちの一人を潰したはず! 今度は念には念をいれて脳を潰してやるのです!」
「させるかー!」
才賀の骨武者が骨の大弓を放つ。飛翔する矢は空中で無数に分かれ嵐のように真邪王に襲い掛かる。
「ちいいいっ!だけどこんな付与されてない矢なんて!」
ハリセンボン状態になった真邪王に才賀の骨武者が付与された槍を持って接近する。
「遅い! そんな動きで私を捕らえられると思うななのです!」
薙ぎ払いの一撃を飛んで回避。
「まだまだ!」
ハイエナ獣人に変身したハオランが付与剣をもって上から斬りかかる。
「ちっ」剣が右邪腕を掠める。
「ムン!」
ドウェインが真邪王の左側面から斬りつける。脇腹を付与刀が傷つけた。
「(いいぞ、奴はなまじ邪腕を手に入れちまってそれにこだわるあまり動きが単純で読みやすくなった)」
ハオランとドウェイン、二人は反撃を許さない連携を仕掛ける。
「この真邪王がたかが 4 人の人間に苦戦しているだと……なのです!」
「体が妙に軽くて絶好調なんでな!」「全盛期に戻ったようだ」
真邪王に仕掛ける二人を眺め弓の第二射を構えさせる才賀。
「これが覚醒勇者の恩恵さ。パーティーメンバーと勇者の絆が限界を超えた力を引き出す」
横にいるユウに微笑みかける。
「そうなの……?」
「ああ、真の勇者は個人の力のみにあらず、人々を救い導くもの。勇者の力は武力だけじゃあないんだよ」
「……」
救えなかった人々、出来なかった後悔。それでも挫けずに立ち向かった。勇気ある行動がパーティーメンバーとの絆を高め覚醒に至った。
これは計算してできるものではなく、なるべくしてなるものだと才賀は言った。
「ユウ、あんたは真の勇者だよ。父のセイ、弟のケンと比べたってしょうがない、あんたはあんたの勇者でいいんだ!」
「……うん!」
ユウのブランクカードが光を放ち始める。
***
ジンガの魔王城ダンジョンを進むケン。湧きだす怪人を退けながら茉白、谷川の反応がある方向へと進む。
「怪人は大した事ないけど……数が多すぎる」
不死鳥の剣士の前に怪人は成すすべなく焼かれて消えていく。大きな扉を空けると礼拝堂を思わせる広い空間に出た。
「来たか! 勇者ぁああああああ!」
一番奥の祭壇の腰を掛けていたジンガが立ち上がる。怪人の肉塊を纏い吹雪のコピー体へと変身した。
「え…… !? 」
「ギャハハハハッ! 驚いたか? 白峰家の一人吹雪のコピー体だ! 京都で邪眼コピーしておいたのさ !! 」
氷気を纏いながらゆっくりと近づいてくるコピー体吹雪。手には氷の太刀。
「(華月さんの身内の吹雪さん……いったいどれほどの力を持ってるんだ)」
ミスリルの鎧に撃槍ゼクスミニアドを構えるケン、不死鳥の剣士をコピー体吹雪に向かわせる。
「シャッ!」
氷光一閃、間合いに入った途端コピー体吹雪の氷の太刀は不死鳥の剣士の首を撥ね飛ばした。次の瞬間、ケンのカードデッキの中からランダムに消費され不死鳥の剣士はその場で復活した。
「速い……!」
「ハハー! こいつは強えぞ? なにせ白峰家当主候補の一人だからな!」
「む……」
それはそうかとケンは納得した。華月を間近で見てきたケンにはそれがどういうことかすぐに理解した。
「華月さんが認める実力者でなければ……候補にも上がらないはずだから……」
ケンは不死鳥の剣士を一歩下がらせ盾を前に旋回して様子を見る。
「シャシャー!」
コピー体吹雪は刺突からの左右斬撃の連携。高速の刀から放たれる氷気は軌道上の者を凍てつかせる。不死鳥の剣士の盾は凍結し斬撃によって深く切れ込みが入った。
「不死鳥の剣士の盾でも防ぐのが精一杯か……」
ガードは得策ではない、そう判断したケンは魔眼でコピー体吹雪の未来を視て回避をする。怒涛の連撃からの氷弾の連射全てを回避する。
「ほう~勇者の未来視魔眼の力だな……いいのかそんなに使って」
コピー体吹雪は氷気の噴射で加速し周囲を凍結させながら嵐の連撃で不死鳥の剣士に襲い掛かる。礼拝堂の気温は急激に下がりケンの吐く息は白くなっていた。
「ハハハハハハ! 環境によるスリップダメージは魔眼で回避できねえもんなぁ? 俺も色々考えてんのさ! これでも魔王だからよー!」
ここでファランクスで固めるか? と考えたがコピー体吹雪の前では2.3秒持てばいい方、その隙にゼクスミニアドを確実に叩き込めるかはわからない。ケンは思いとどまり不死鳥の剣士の炎範囲攻撃でコピー体吹雪を後ろに下がらせた。
「(下手に沢山カードを出してもあのコピー体吹雪さんには通じない……せめて 5 秒欲しい)」
コピー体吹雪は不死鳥の剣士から離れケンに向かって来る。
「勇者! 本体のテメェを叩けば手っ取り早く終了だよなぁ! 着装の出来ねぇテメェは吹雪の攻撃を防ぎきれねぇ!」
ケンはすぐに不死鳥の剣士を自分の前に戻し氷の剣戟を受け止める。不死鳥の剣士の再生に 3 枚のカードが消費された。
「その召喚者が不死身だといってもよぉ~カードの枚数分だけだよな? つまりテメーはこのまま死ぬのを待つだけだ。カードの消費が死へのカウントダウンって訳だ!」
「(ジンガの言う通りだこのままじゃあどうにもならない! 思いつくことを全て試さなきゃ!)」
ファランクスと虎狩りの戦士、石の処刑人、大地の壁を召喚しファランクスに突撃させ大地の壁でコピー体吹雪の退路を断ち虎狩りの戦士、石の処刑人の一斉攻撃を仕掛けた。
「やったか !? 」
「クククク……ハハハハハァー!」
氷瀑が起こり武器を突き刺していたファランクス、虎狩りの戦士、石の処刑人は瞬間凍結の後粉々に砕け散る。キラキラと宝石のように光る暴風氷を纏うコピー体吹雪。
「残念だったな! ゼクスミニアドを撃ち込む隙など与えねーよ!」
コピー体吹雪は三つの氷竜巻をケンに向かって放つ。
「く……」
不死鳥の剣士で耐えるケン。床は凍り付き周囲の温度はますます下がっていく。カードは 3 枚消費された。
「攻防一体のダイアモンドダストモード。攻撃に転じる事も範囲を狭めることも飛び道具として使う事も自由自在! 良いコピー体を手に入れたぜ !! 」
「(なにか……なにかないか? コピー体吹雪さんを止める方法……)」
マシンカウボーイを召喚し馬に乗るケン。
「逃げ回ってもどうにもならんぞ」
氷弾と竜巻を放つコピー体吹雪。ケンの回避に合わせて突進し剣戟を放ち不死鳥の剣士を斬りつけ再生のカード消費をさせる。
「(こんな時……父さんならどうする? 黒谷さんなら? 華月さんなら?)」
父のセイであればジライヤの忍法を駆使して相手の隙を作り必殺の一撃を叩き込んだか。
黒谷であれば……黒い渦で防御を展開し黒魔術によるトラップで状況を変えたか。
華月であれば……華月なら……華月がこの場に居れば……
ケンは不死鳥の剣士に華月の姿を重ね炎の噴出による加速と内部の炎を体中に巡らせて高速魔力練製を行う。
「動きが……変わっただと!?」
不死鳥の剣士は分身めいた高速移動と炎の爆発めいた連撃でコピー体吹雪の体を削っていく。
「あ、あああ……駄目だ……」
デッキから次々とカードが消えていく。華月をイメージした運用は不死鳥の剣士には耐えられず自壊していた。
「(俺のカードの中で……華月さんのように動かせるのはどれだ……)」
その間にもコピー体吹雪の攻撃と不死鳥の剣士の自壊によるカード消費は進んでいく。
ケンはまだ気がついていなかった。華月をイメージた動きを不死鳥の剣士にさせて感覚を共有している状態は少し前には出来なかった事を。
理想を追い求めるだけでなく、確かな到達点を見据えたことによりケンの才能が爆発的に開花した。これまでは何処か歯車が噛み合わずどうすればよいのかわからず藻掻く日々であった。そこに度重なる仲間の喪失による精神的ダメージ、ケンはどん底にまで追い込まれた。運命的な出会いによって歯車は嚙み合い真の勇者への道を歩み始めた。
「ククククク! お前の仲間がここに到着する頃には決着付きそうだな !! 」
「くっ……」
減っていくカードの枚数が加速していく持ち込んだ 4 デッキの内 3 デッキを既に失っていた。不死鳥の剣士の再生に使われるカードは選べない。あまり枚数が減ると詰みかねない。
「(一度撤退なんてさせてくれそうにない。冬華さんに谷川先生に茉白さんも今どういう状態かわからない、俺が自分の力でここを切り抜けなきゃ駄目なんだ!)」
気温は既に- 100 度にまで下がっていた。ミスリルの鎧はありとあらゆる環境から身を守るが全てシャットアウトするわけではない。ケンの体感温度は- 25 度にまでなっていた。
「(体力が奪われる……クソ、俺が不死鳥の剣士を着装できていればこんな低温で苦しめられることも無いのに……)」
続く
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