DHHU その 36
着装を試すか?
ケンの頭をよぎったがそれにはまずミスリルの鎧を解除しなければならない。今の状況で着装を失敗すればそれは死を意味する。
「(不死鳥の剣士では俺の理想の動きを再現できない……だけど今あるカードで不死鳥の剣士より強いのはもう無い……!)」
コピー体吹雪の連続攻撃によりケンのカードデッキは最後の一つ半分まで減っていた。
「(このままでは全てのカードが……全ての……カード?)」
ケンは何も描かれていないブランクカードの存在を思い出した。
「(ブランクカードなら消費されない……だけどこのままじゃ使えない……)」
遂にマシンカウボーイのカードが消費されケンは機動力を失った。
「ハハハハー! チェックメイトかぁ?」
「(どうする……ここで機動力のあるカードを作ってしまうか? でもそれじゃあ奴に勝てない……でも俺にこの場で不死鳥の剣士を超えるカードを作れるのか?)」
ケンの頭の中に目の前の敵に対抗できる者のイメージを浮かべる。
「(勝てる存在は居る! だけど俺が……俺なんかが再現できるのか?)」
下手に作成してイメージと違った場合ケンは自分を許せないと考えた。唯一無二で最高で最強の存在。従者の人達が人生をかけて推す気持ちが理解できた。『あの方に出会えたこと、関われたことが奇跡なのだ』と谷川が言っていたのを思い出した。
「(谷川先生は華月さんを見て理想の存在のインスピレーションを得て茉白さんを作った……茉白さんは華月さんのコピーじゃない。谷川さんの想いを込めた魂の傑作……)」
ケンは考える。
「(谷川先生は華月さんを作るのではなく自分の理想を追い求めた……冬華さんも華月さんになろうとしてる訳じゃない……じゃあ俺も華月さんを作ろうなどと考えるのは間違いなんだ)」
ケンは華月の周囲の人々を思い浮かべる。
「(ジークベルトさんは華月さんに自分の理想を押し付けていなかった。かといって全行程の下僕になってる感じじゃなかった。寄り添ってお互い支え合う夫婦だった。ジークベルトさんの中にも理想の華月さんがいるはずなんだ)」
ケンは歯を食いしばる。
「(くやしい、俺には人生経験が足りない! 子供だ!)」
ふと京都で華月の従者・勝田波留夫と話した事を思い出した。
『君は自分が子供だからって焦る必要はないさ。子供には子供にしかできない柔軟な発想と自由さがある。それは大人になってしまえば失われるものでね。幼女化したかづたん様を見ているとひしひしと感じるよ。子供である事、それは弱みだけではない、強みもある。要は活かせるかどうかなんだね』
ケンは思い出す。
「(子供状態の華月さん、力を解放して本来の姿になった華月さん……)」
成人状態の華月の存在感は圧倒的で初めて出会った時にあの状態だったのなら只々圧倒されまともに会話などできなかったとケンは考えた。
「(俺より年下の子供の姿だったからまともに話せたんだ……じゃあ俺がイメージして作るのは子供の華月さんなのか)」
一方で圧倒的力に魅了されたのは成人状態の華月。
「(でも、華月さんが子供の姿のままなら凄く強い綺麗な女の子で終わったかもしれないんだ……脳を焼かれるほどの衝撃を受けたのは成人の華月さんの姿!)」
ならばどうすればいいか。
「(華月さんを再現できないのは当たり前ならば俺の作れる華月さんをイメージした最強のカードを作れば……超加速爆発力に加え臨機応変に対応できる柔軟さ。そして大事な事は見た目が最高な事)」
少年のケンにとって好みの異性の形を作るのは抵抗があった。ならば最高に好きな物の形にすれば良いのではないかと考える。
「(最高にカッコいいキレイな……変形する……)」
冬華の姿が思い浮かんだ。
「(冬華さんも一つの答えだ……であれば……)」
しなやかな流線形、ボディは金属質。夢中になったヒーロー物のドラマシリーズの主人公のメカ。それに華月のイメージを合わせていく。
カードに画像が浮かび始める。
「(デメリットがあればより強力なカードになる。このカードのデメリットは……このカードを召喚する場合手持ちとデッキ全てのカードが使えない……とか)」
最強の切り札にすべく設定をしていく。だがそれは同時に不死鳥の剣士との決別を意味する。不死鳥の剣士のデメリット、ランダムでカード消費で切り札を消してしまう場合があるからだ。
「(不死鳥の剣士は……ユウに譲ろう。今までありがとう……)」
「何かわからんが! 切り札は切らさせねぇっ!」
冷気を纏った斬撃を繰り出すコピー体吹雪のジンガ。
「くううううううっ!」
ゼクスミニアドで受け止めるケン、冷気が全身を襲う。
「ぐうううううう……」
「このまま凍って砕けちまいなー!」
「あと 5 秒……持ちこたえればカードは完成できるのに……」
全身の感覚が薄れていくケン。意識が朦朧とし始めた時、銀色に輝くビットが飛翔しジンガの腕に向かって光線を放った。
「クソッ! 邪魔がはいったか!」
円錐の建物に入った際に冬華が放ったビットの一つ。それがケンにたどり着いた。
「冬華さんのビット!」
「あのサイバネめ思った以上に厄介な存在だな……だがここで勇者の窮地に駆けつける事は間に合わなかったな!」
再びダイアモンドダストモードも入るコピー体吹雪のジンガ。ビットはケンの脇を支え何とか立たせている。
「冬華さんが間に合わなくても俺はここでお前に勝つ!」
震える手でカードを構える。
「召喚! 月光姫!」
流線形ボディのマシンと人体が見事に融合されたデザイン。シルエットはドレスを着た白峰華月。顔は赤く光る双眸のみであり流麗なカーブを描いた輪郭。頭部は髪をモチーフにした兜とマニュピュレーター。胴体部には余計な装飾はなく、両腕は裾が広がったデザイン腰から足にかけては後部のドレス部分は長く裏側にビット。前部は短くブーツを模したデザイン。
「なんだそりゃ! ガキの見る漫画に出て来そうだなぁ!」
「言ってろ。月光姫はお前の想像を凌駕する」
月光姫が手をかざす。ダイアモンドダストモードの冷気は吸い込まれるように周囲に広がっていかない。
「あん?」
「月光姫はとても高コストなんだ。お前の力を吸い取って利用させてもらうぞ」
「バカめ! 勇者と言えど俺様の呪力を大量に吸収すれば……」
月光姫に黒紫の光の翼が生えていくのが見える。
「例えお前のエネルギーが邪悪なものであっても月光姫は利用する」
「なんだと……? じゃあこれならどうだ!」
巨大な氷塊を形成するジンガ。氷の太刀で突いて月光姫を狙う。
「粉砕するまで!」
腕の袖部分から見える銃口から炸裂弾を発射、連続で撃ち込んで氷塊を砕きジンガのダイアモンドダストを削る。
「ならば直接破壊するのみ!」
氷弾を飛ばしながら接近、太刀を上段から振り下ろす。月光姫は掌で形成した青白いエネルギーで太刀を受け止め赤黒いエネルギーを纏った右足でジンガを蹴った。
「(もっともっとだ! イメージを膨らませろ、もっと月光姫とシンクロしろ!)」
ケンは魔眼を発動させながら月光姫とリンクする。
月光姫の腰部のスカート状の装甲が砲塔に変形。二門から赤黒い波動が放たれる。
「こんなものおおおおおおおおおおおっ!」
多重構造の氷の盾を展開するジンガ。月光姫の波動弾は全ての盾を破壊してジンガの肩を掠めた。
「お前がダンジョンからエネルギーを得ているなら俺の月光姫はお前から吸い取る。お前がどんなに強くなろうとしてもそれを超えてやる!」
「ハァ~……何を勝った気でいやがる。このコピー体吹雪を倒したとしても俺には最後の最強コピーが残ってる……その気になればこのダンジョン内全ての奴を無差別に処理できるって解ってないよな?」
「それが本当だとしても今しないって事は相当なリスクがあるんだろ?」
「……ククク、流石は頭が切れる方の勇者か」
冷静に判断できる状況になれば勇者ケンは父のセイよりも兄のユウよりもスペックは高い。
「認めよう勇者、お前は確かに俺を追い詰めている。だが、まだ終わってねぇ勝負というものは最後まで解らんものだからな」
「……ああ、もう俺は最後の最後まで欠片も油断しない」
「このダンジョンでは……俺は負けるかもしれねぇだが外にいる真邪王ともう一人の勇者はどうだ? お前が俺を倒したとしても真邪王が勝てば泥沼の戦いは続く。逆もだ」
「俺は勝つ! ユウも真邪王に勝つ! 信じるだけだ!」
「(……ゆさぶりにも動じなくなるとはガキとは思えねぇ存在になったな)」
「これで終わりだ!」
突進する月光姫、ジンガの首を片手で掴んでダンジョンの通路を飛んでいく。エネルギーを吸い取り光の羽は一層輝きを増し加速する。
「剥せねぇ……」
壁に叩きつけられるジンガ。クレーター状に壁は崩壊。円錐建物の外に放り出る。
「が……」
ジンガを掴んだまま地面に向かって流星めいて急降下片足をジンガの首に当てそのまま激突する。
「はがぁっ……」
首から全身にひび状に月光姫のエネルギーが広がていく。離脱する月光姫、その直後赤黒い光の柱を放ってコピー体吹雪のジンガは爆散した。
「はぁはぁはぁ……やったぞ……」
戻った月光姫がケンを支える。月光姫召喚中は全てのカードを使えない消費した状態。ケンはゆっくりと腰を下ろし少し体を休ませることにした。
「ユウ頼んだぞ……こっちは任せろ……」
目を閉じて呼吸を整える。
***
ユウのブランクカードが光り輝く。浮かび上がったのは黄金に輝く東洋龍。
「……龍帝」
呟くユウ。カードから召喚された龍帝、体長 10 メートルを超えている。
ユウ、ハオラン、才賀、ドウェインの体が黄金色に輝く。
「なんなのです! その龍は!」
「覚醒勇者の力を増幅させている、真邪王! お前に勝ち目はないぞ!」
ハオランが叫ぶ。
「黙れ黙れ黙れ!」
無数の触手を伸ばす真邪王。才賀の骨盾が受け止め影からドウェイン、ハオランが飛び上がり触手を切断。たたらを踏んだ真邪王にイクスバーンを構えたユウが肉迫。
「やあああああああああああああっ!」
「くっそおおおおおおおおおおおっ!」
切っ先が真邪王の体を掠めて黒いオーラをまき散らす。
「今四人は強い絆で結ばれている。以心伝心、真邪王お前は詰みだ」
ドウェインが言った。
「黙れなのです! 人間無勢がこの真邪王に……!」
刃物のように鋭い崩壊波を走らせる真邪王。左右に飛ぶ四人、漂う龍帝の体を足場にして真邪王に再び攻撃を仕掛ける。
「ぐううううっ……」
四人の攻撃が真邪王の体を削る。
「人間の力を舐めるんじゃないよ! その邪腕、使わせないよ!」
才賀は骨武者飛び上がらせの上から大量の付与矢を放つ。
「ぎゃあああああああああっ!」
大量の矢を受け膝をつく真邪王。
「(ちぃ……ダンジョンからの供給が追いつかない……ダメージ修復で精一杯とは)」
「終わりだ真邪王!」
「それはどうかなぁ!」
体から延ばした無数の触手、翼、角、尾を全て収納する真邪王。右腕の邪腕は消え左腕の隻腕となり漆黒の禍々しいオーラを放つ剣を持つ。
「呪力をすべて体の中に押しとどめた。ダンジョンからの供給で進化する体を燃焼に変換。膂力、体力、再生力に回した。人間は脆い、真っ向からの圧倒的力の前には成す術がだろう?」
もはや目暮沙那の姿ではなく、誰でもない少年の容姿に変わっていた。
「……」
「力でゴリ押しってのは獣のようであまり好きじゃないんだがたまには良いだろう」
瞬間移動めいた速度でユウに接近する真邪王、なんとか反応できたユウはイクスバーンで邪腕剣を受け止める。
「ムン!」「くっ!」
獅子王の肩部分の装甲が切り裂かれる。
「 !? 」
真邪王の肩に獅子王の装甲によく似たものが出現した。
「クククク……邪腕剣に斬られたものはこの真邪王のものになる」
四人は距離を取る。
「これでお互い下手に出れなくなった訳だ……」
「獅子王の鎧を切り裂くなんて」
「本命はそのイクスバーン。破壊して真邪王が頂くつもりだったんだがな……」
「邪腕剣の方こそイクスバーンで破壊してやる!」
過去干渉の魔眼を発動するユウ、真邪王の浮かび上がった邪腕剣の側面にイクスバーンを叩き込む。
「おっと……手がしびれるじゃないか」
「流石に硬いか」
「今のは賢明な判断だったな、もう少し踏み込んで俺の首を狙っていたら相打ち覚悟で邪腕剣を突き出してた所だぞ? お前は過去干渉の魔眼を発動させた際の行動が読みやすすぎる。最強の後出しだろうが相打ち覚悟の攻撃は避けられん」
「……」
その通りだとユウは思った。真邪王には魔眼発動は感知される、対処もとって来る。
「(慎重に使い所を考えなければ負ける)」
「まずは一人づつ始末していくか~?」
ハオラン、ドウェイン、才賀を見る真邪王。
「龍帝! ブレスだ!」
宙を漂う龍帝が真邪王に狙いを定め青白いエネルギーを溜め始める。
「邪魔な龍から消してやる!」
飛び掛かる真邪王、ユウは間に割って入る。
「この……」「龍帝そのまま撃て!」
続く
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