DHHU 外伝グレイ・イーター編その1
シーア財団がいよいよ作戦の大詰めに差し掛かった頃、 TMI エージェントの U チーム(終夜アリナ、フローレンス・フランシス、哿 希世美)に緊急招集がかかった。
「長官、緊急招集とは」
『哿くん、詳しい説明は後だすぐに本部から合衆国支部に飛んでくれ』
「了解しました」
ホテルで待機していた U チーム三人はバスルームに繋がっているはずの扉から TMI 本部に移動する。異次元に存在する TMI の本部はそれ自体が意志を持ちエージェントを管理している。
「合衆国支部への扉は確かこっちですね」
本部のエージェントと軽く会釈を交わしながら移動する。 USA と書かれた扉を開けてくぐると超高層ビルの一室に移動した。
「おお来たか U チーム!」
TMI 長官のジェームズ・スチュワートは両手を広げて言った。
「早速ですが長官、話を聞かせてもらいますか?」
哿はジェームズとしっかり目を合わせて言った。
「……ふむ。日本でも重要な任務中だった君たちを呼び寄せたのは……あまりに最悪な方向に事態が進み始めたからなのだ」
「詳しく」
「西海岸でミュータント暴動事件が起きたのは知ってるね?」
「はい」
「その後、ミュータントを見破るのに原種オーグルが有効な事が判明したのも知っているね?」
「はい」
「その協力者として魔女レヴィと弟子と助手を日本から呼び寄せ『クイーン』と名付けたミュータントの首魁を見つけ出す事に成功した。そして捕らえたのだが……」
ジェームズは苦い顔をして腕に取り付けた端末を操作する。
「クイーンはグレイマンの一人『グレイ・イーター』と同化していた。気付いた時には原種オーグルの一部を喰われ逃亡されてしまった……奴はミュータントを吸収し始め急速に力をつけ始めた、 TMI エージェントらと魔女レヴィ達で一度は追い詰めたのだがミュータント能力と原種オーグルの力を身に着けた奴は逃げるのも上手くてね。次に遭遇した時は確実に倒したいのだよ」
「ハリー・ハーマン氏がいれば大丈夫なのでは?」
ハリー・ハーマン
43 歳。アメリカ支部長。
サイコキネシスト。半径 100 mまで干渉できる。体を包み込むようにサイコパワーを纏い超人的な身体能力を発揮できる。飛行能力持ち。深海での活動も可能。能力を発動しない時は常人。 TMI 身体強化系最強能力者の一人。
「ああ、彼がいなければ一度目の撃破は成しえなかっただろう……捕らえるのにあと一歩届かなかった」
「それで僕たち U チームを呼んだわけですか」
「そうだ、次こそは奴を完全撃破しなくてはならない」
「グレイ・イーターについてもう少し聞かせてもらえますか?」
「うむ、手元の資料だけでは分からない事もあるだろう、質問したまえ」
グレイ・イーターは最初は犬の姿をしていた。ミュータント事件をきっかけに活発に活動を始めた。グレイ・イーターは食べる事で対象を取り入れる力を持っている。完全に消化してしまえばその能力を失い石炭に似た物質を排出する。取り入れた対象の記憶は残る為再現するためにそれに見合ったコストの食事をする。例えばミサイルを取り込み完全消化した後再現の為にそれに近い物質と質量を取り込む。人間を取り込んだ場合は別の人間を取り込むか哺乳類を取り込んで維持する。
「ミュータントクイーンと原初オーグルは既に記憶されてしまっているのですね」
アリナは資料を見ながら言った。
「ああ、消化した後は再現するために大量の人間と動物、無機物を取り込むだろう……念爆者の話していた情報が確かならグレイマンの一人であるグレイ・イーターは他のグレイマンとの決戦の為に自分のエリアを確保するために動くはずだつまり、合衆国を手に入れるつもりだろう」
ジェームズは大きくため息をついて言った。
「念爆者&グレイストームとは違い力任せの大雑把な支配をするつもりなんですね」
「グレイ・イーターは分かりやすいぶん対処がしやすい……初動を抑えれば恐らく最弱のグレイマンだろう。グレイストームは世界征服に王手をかけていた、グレイリキッドは世界大戦を引き起こす寸前まで計画を進めていた、グレイビーストはグレイマンの星とこの星をゲートで繋げる所だった……それらに比べればまだ……な」
「長官、グレイキャリバーは?」
「ああ……グレイキャリバーは TMI が動くまでもなくオータムホースで消えた。白魔女が早い段階で対処したおかげで大した事は起きてない。ただ……」
「ただ?」
「一部は残っているのだ白魔女と同化してね。今の所不安な要素はないと聞いている」
「グレイキャリバーの脅威とは何だったのですか?」
「うむ……その気になればグレイキャリバーは核の雨をいつでも降らせることができたしどんな要人も暗殺する事が出来たとされている。力をつけていればグレイストームに並ぶ存在だっただろう」
「そうでしたか」
「グレイキャリバーについてはもういいかね?」
「はい」
「では U チームはグレイ・イーター作戦に合流してくれ」
***
――合衆国 TMI 支部
「 HAHAHAHA ! ワタシ達に任せておけ! グレイ・イーター何するものぞ!」
中年体形でツナギのスーツを着た支部長のハリー・ハーマンは葉巻を吹かしながら言った。
「かなりマズい状況やねんけど……ハリーさんは自信満々やねぇ」
隣でタバコを吸いながら魔女・立花冥珂(レヴィ)が言った。
「要するにパワーで打ち砕けば良いのだろう? 喰われずに圧倒すれば!」
「そうやねんけど……オーグルを吸収したのが厄介すぎてね。分裂してバラバラになったら主思考の個体叩かんとイタチごっこになるんよ。もっと恐ろしいのは……」
冥珂は喫煙ルームの外にいるバブルヘルメット(紫外線完全カット)を装着したリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲを見る。
「もっと恐ろしいのはオーグルの特性を持っているのなら知らないうちに誰かに乗り移る可能性があるって事ですね! わたしとトーヤ、師匠は対策できてますけど他の人達はそうではないので」
リティーシャは声を張って言った。
「ここにはカテゴリー 5 が 3 人も揃ってる! ワタシ、イグネイシャス(パイロキネシス)、ルキナ(エアロキネシス)だ。ここに更にあのアリナが合流する! 心配無用!」
「いや~強ければ逆にリスクも大きいんじゃねえっすかね? 例えばそのアリナさんとかいう人がオーグルに乗っ取られたらかなりヤバいんじゃないんすか?」
宗像刀耶はソファに座って腕を組みながら真剣な顔で言った。
「心配無用! アリナは常に戦闘状態の異能者。彼女の守りは TMI ナンバー 1 といって良い、あの念爆者の猛攻を耐えきった実績がある」
「他の皆さんは?」
「ワタシは触れられた瞬間叩き潰せるし、イグネイシャスは一瞬で燃やす、ルキナには触れる事も出来ないだろう」
「う~ん……そうですか」
刀耶は膝の上に肘を置いて考える。
「気付かれないように尾行されて隙を狙って寄生されたらどんなに強くても無意味じゃないっすか? いくら異能者とは言え 24 時間異能を使った状態じゃないだろうし……」
「心配性だねトウヤ」
「オーグルのヤバさは思いっきり身に染みてるんで……」
「魔女のマジックパワーで何とかその辺はカバーしてくれんかね?」
ハリーは冥珂を見る。
「それがねぇ相性が良くないんよ異能者に魔法はかかりにくいし。でも部屋に結界を張るのが一番ベターでええかなと考えてるんやけど」
冥珂は朝タロットカードで占った結果は良くなかった。『最悪な事態に陥るも希望はある』といった内容だった。
冥珂はこれまで蓄えた知識と経験と入念な準備に臨機応変な魔術の行使で事件を解決してきた。だがグレイ・イーターのオーグル吸収は完全に想定外で明確な打開策を出せないでいた。
「……」
冥珂が懸念しているのはグレイ・イーターが『魔法も食べて吸収するかもしれない』点であった。その場合下手に魔術の行使はできない。支援に回る方が無難であると考える。
リティーシャを見る冥珂。
「(あの子が完全覚醒してあたしなんかを超える魔女になれば一番早いんやけど)」
「 U チーム到着しました」
ドアを開けて入ってきたのはアリナ、哿、フローレンスの三人。
「え……」「は?」
冥珂とリティーシャはアリナを見て固まる。
「どうかしましたか?」
「いえ……」「あの……アンタその状態で平気なん?」
冥珂とリティーシャの目には強大な力を無理やり体内に押し込めているように見える。
「この状態?ああ、わたしの異能の事ですか気にしないで下さいこれがわたしの通常状態です。わたしは癖で完全に異能をシャットダウンできないのです、強く意識すれば可能ですがむしろ疲れるのでこの 0.1 %状態でいます」
「へぇ…… 100 %とか想像もできんけどめちゃくちゃ頼りになりそうやな」
「申し訳ありません、現在わたしは異能の制御が不安定で 50 %までの解放しかできませんですがチームで作戦にあたればカバーできると思います」
アリナの発言を聞いて哿とフローレンスは『 50 %でもやりすぎ』と思った。念爆者との決戦で異能者共有状態で三人の思考は一体化した時にアリナは 100 %解放に達した。あの時の半分の力でも街中で解放するのは危険すぎると二人は思った。
ハリーと同じサイコキネシスではあるもののアリナはサイコパワーを放出する事は出来ない空を飛ぶこともできない。身体能力強化のみであるため暴れ回る訳にはいかない。
「……グレイ・イーターの反応を感知したで場所は……」
冥珂は水晶玉を机の上に置いた。使い魔に街中を探らせていたところ異常なほど喰っているホームレスを発見したのだ。
「うむ! でかした! では作戦開始 !! 」
ハリー、イグネイシャス、ルキナは異能で飛べるため窓から出る。刀耶とリティーシャはナイトケースを装着、冥珂はホウキをスケートボードのように乗り窓から出る。Uチームは哿がアリナとフローレンス腕を掴んでテレポート、窓の外に飛び連続テレポートで後を追う。
――街中
「バババババウッ! ババウッ!」
頭部が二つの犬になったグレイ・イーターは飲食店の廃棄物を貪り喰っている。
「うわああああバケモノだああああああああっ!」
人々はグレイ・イーターを見て逃げ出す。携帯端末で写真動画を撮ろうとする者も少しは居たが昔と違い SNS は完全に個人 ID で管理されているために炎上狙いではなく記者やフリーのカメラマンが殆どである。
「ババババババウ!」
動画撮っていた男の頭部を噛み千切るグレイ・イーター。首を伸ばし携帯端末をしまい逃げ出す男の足に食らいつき転倒させる。
「ひいいいいいいいいいいっ!」
護身用のスタンガンを放つもグレイ・イーターに通じずそのまま風船のように膨らんだ頭部に丸呑みされる。
「ババウ……お、お……ようやくこの星の言語に慣れてきたな。やはり純原住民を喰うのが一番かミュータントは雑念が多すぎてマズかったからな」
グレイ・イーターは最初に頭部を食べた男の姿に変身する。
「オーグルとやらのおかげで変身変形が捗る捗る。ゲロまずだったが喰った甲斐はあったなぁ~……おや? 早速邪魔者が来たか」
グレイ・イーターが空を見上げるとハリー、イグネイシャス、ルキナの姿。
「グレイ・イーター! 貴様をスマッシュしてくれる !! 」
マントを翻してハリーが叫ぶ。
「いいねぇあの男を喰えば俺はもっと成長できる」
「サイコ……ビーーーーーーーーーーーーーーーームゥ !! 」
ハリーは目から緑色の光線を放つ。グレイ・イーターは反応できずに直撃。胸に大穴が開いた。
「今のはあいさつ代わりだ!」「痛えなぁ~」
グレイ・イーターは即時再生し両腕を翼に変形させて飛び上がる。
「もっと街中で食事しねえとなぁ」
「待てい!」
マッハ 3 の速度で飛べるハリーが追う。あっという間に追いついてグレイ・イーターの前に回り込んだ。
「逃がさんぞ侵略者(グレイマン)め!」
「そうかよ、じゃあこれでも受けな! グレイビーーーーーーーーーーーム!」
グレイ・イーターはハリーのサイコビームを真似して体内のエネルギーを圧縮して放出。
「ぬうううう……」
両腕で咄嗟にガードするハリー。分裂したグレイ・イーターはビーム攻撃をしている分身を残し街中に飛んで行った。
「しまったワタシとしたことが! サイコソード!」
右手からサイコパワーで作ったソードで分身を両断する。後ろからはイグネイシャスとルキナが追いついてきた。
「ハリーさん! 奴は?」「どこに行きました?」
「北西に飛んで行った、街の中心の方だ」
「マズいっすね……」「オーグルを感知できる魔女さんのチームを待った方がいいのでは?」
「まだ大丈夫だ匂いで追える、すぐに追わなければ人々の命が危ない!」
マッハ 3 で街中に向かうハリー。慌てて追うイグネイシャスとルキナ。
薄れかけた臭いを辿り街の中心である大通りに着いたハリー。交差点では数十台を巻き込む大きな事故が起きていた。
「グレイ・イーターの仕業か?」
交通事故で混乱している交差点の傍にある銀行で強盗が起きていた。渋滞の為警察はまだ到着する気配はない。
「こんな時に銀行強盗だと! TMI は警察の協力が無い限り勝手には動かんのだが……見て見ぬふりは出来ん!」
ハリーは急降下して強盗の二人をラリアット。地面に転がすと特殊合金結束バンドで拘束する。
「これでよし……」
「おじちゃん、なにしてるの?」
少年がハリーのマントの端を掴んでいる。
「おおっ !? なんだ子供か、ここは危ない安全な場所に行きなさい」
「はーい……」
子供は走って去っていった。
「ウチの息子もあのくらいの歳だな……さてグレイ・イーターを探さねば」
「やっと追いついた……速すぎやでホンマ」
冥珂、刀耶、リティーシャが到着した。
「おお、来たか! オーグルの探知を頼む!」
「せやね、はよせんとね」
冥珂は眼鏡をかけ、刀耶はナイトケースのスキャン、リティーシャはセンサー付きのドローンを複数操作する。
続く
DHHU外伝その8 Jun 13, 2025
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