DHHU その 38
――京都・地下都市碁盤の目町
「――以上が報告となります」
冬華、谷川、茉白は椅子に座る華月に向かって一礼した。
「良い経験をしたな冬華、我にはできぬ方法での勇者のサポート見事だ」
椅子から下りて冬華の頭に手を乗せる華月。
「谷川、褒美を取らせる。なんなりと言ってみよ」
「では……華月様の髪を少し頂きとうございます。茉白の美の研究の為に」
「……いいだろう」
華月はうなじから生えている髪の一束を切り取り谷川に渡した。
「こんなにも! ありがたく頂戴致します !! 」
基本華月は髪を切った後は自分で消滅させている。ジークベルトが華月の一部を大量に保管しているの知ってから自分の体から出たものは全て自分で始末するようになっていた。
保管物はあまりにしつこく食い下がるので勝手に増やさない事を条件に始末するのを中断した。
ジークベルトはダンジョンで華月が自ら切り落とした髪と手も後で申請していた。
「茉白、お前は何かあるか?」
「いえ、何もございません。先生が望むものが全てです」
「そうか」
――別室。
「捗りますなぁ捗りますなぁジークベルト殿!」
勝田波留夫は財団と関わったすべてのデータを整理しながら新開発の冬華のボディの設計図を眺めて言った。
「素晴らしい! 流石は天才科学者の勝田さん !! ニューボディのフォルム、最高です」
両手を広げ大きな手振り身振りでいいはなつジークベルト。
「精神的年齢思春期を迎えるであろう冬華たんのこのボディは従来のものより小さくなりますが……より経験値を積める仕様になっています。冬華たんと……例の勇者とのバランスを考えてます」
「ふむ、肉感的過ぎず機械的でもない……超高級サイバネのような存在感を放ちながらも親しみを覚える。細かいパーツは少年勇者の厨二心を刺激すると」
「その通り! 最高最強サイボーグ美少女。冬華たん !! かづたん様と並べば姉妹にも見えますぞー」
「実にいい! 今の華月様の姿で横に並ぶのであればこの冬華のボディこそ最高。親子逆になど見られることはもうないでしょう」
「デメリットはですねぇ……以前のボディ程の拡張製はない所ですかね。前のフルアーマー冬華たんも良かったんですが。その代わり支援ポッドを着けます」
「それがこのシロクマのキャラクターのマシンですか」
「ええ、背負えばバックパックに。抱っこすればぬいぐるみに手を放しても自律して着いてきます。カメラ付きで我々はいつでも冬華たんを見守れます。収納スペースも十分」
「何を騒いでおる」
華月が入ってきた。
「何もやましい事は致しておりませんぞーかづたん様」
「冬華の新ボディの開発状況を勝田さんと話しておりました」
「ふむ……これが良いのか?」
華月は少し首をかしげて言った。
「お前たちの好みは解らん。冬華が拒否しなければよいお前たちに任せる」
「はいいいいっ!」背筋を伸ばして叫ぶ勝田。
「さぁさ、華月様新しい御召し物を用意しておりますので自室に行きましょうか」
ジークベルトは肩に手を乗せて華月を誘導する。
***
――センジョービル地下
「で、【凶】のダンジョンとやらの痕跡は回収できたのか?」
酒呑童子・仙丈隼磨は褐色で派手な格好のギャル、夜叉童子に言った。
「ダンジョンのものか解りませんが呪符の欠片を見つけました」
「慎重に解析しろ。山の施設でやれ」
「は」
夜叉童子が去った後、仙丈隼磨は秘匿性の高い電話通信を使う。
『……なんだ?』
「久しぶりだな」
『用件を言え鬼め』
「面白い話があるんだが会って話さねえか?」
『……今更どういう風の吹き回しだ』
「そっちにとってもいい話なんだがな。ちょいと新しいプロジェクトを思いついてな。いっちょ噛みしねえかってな」
『何を考えている』
「ビジネスだ。俺は常にビジネス思考なんだよ。儲かりそうだから適任者に話を持ってきた、そういう訳だ」
『いいだろう、いつまでも貴様らに貸しをつくったままではいられん』
「いいねぇそう言うと思ってたぜ」
『では例の山小屋で付き人はお互い一人、十分警戒しろ』
「ああ、解ってるお前も気を付けろよ大天狗」
***
「 32 ヒット!」
柄留はゴム弾並みに柔らかくした弾丸で銀行強盗をグレイブラスターで撃ち抜いた。
「全弾急所に命中!」
はしゃぐ柄留の横で愛来薔薇は小さくため息を着いた。
「どう考えても撃ちすぎ」
「大丈夫大丈夫、痛みだけだし。早く手錠かけよ?」
「はいはい」
ミニパトから降りる二人。銀行強盗二人は顔と股間を抑えて呻いている。
「はぁ~い逮捕~只のサイバネでよかったねぇ~怪人化してたら特別収容所にぶち込まれるところだよ」
愛来薔薇は慣れた様子で事務的に犯人に手錠をかけ、柄留は現れた護送車に犯人を押し込む。
「おわったおわった~」
「おつかれ~……ところで勇者くん達の事聞いた?」
「え? どうしたの?」
「ほら先日無事に解決したって話、その後世界中飛び回るんだって」
「え~そうなんだ」
「あんまり興味なさげだね」
「そうじゃないよ、無事でよかったし塞ぎこまないで前を向いてるんだって関心してるよ」
「あんたって時々マジでよくわかんない」
「そう? 悩んでも仕方ない事は悩みたくないだけかなぁ」
「え~~~~~? 例の彼(諸田和音)の事で四六時中悩んでるくせに」
「それは別の問題かな~~~~~~~~~」
「今朝だって旨味パウダー鬼盛りポテトと無臭ガーリックスパイシーチキン 1 本増しどっち買うかで悩んでたじゃん」
「それは悩むところだよ?」
「やっぱりわかんないわ」
手続きを済ませ愛来薔薇の運転で署に向かう二人。
「そういやさ、ウチの課に新人君が配属されるんだって」
「そうなの !? 男? 女?」
「男だって、将来の幹部候補だから経験積ませたいんじゃないかって課長が言ってた」
「めんどくさそう~……でもすぐにまた転属するんでしょ?」
「多分ね。 1 年くらいウチにいるんじゃない? テキトーに相手してやりすごそ」
「だね~」
***
――太平洋上空飛行機内
「あんな巨大な敵を倒せたのが今でも信じれないよなぁ」
宗像刀耶は合衆国に出現した正体不明生物大量発生事件を相棒のリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ、魔女・立花冥珂、 TMI と合同で解決し帰国している途中であった。
「グレイ・イーター……恐ろしい敵でした」
リティーシャがつぶやいた。
「大怪獣合衆国横断とか勘弁して欲しかったで……」
冥珂はタバコの代わりにミントフレーバーを吸いながら言った。
「 TMI の人達が居なかったら合衆国はもっと酷い事になってたんだろうなぁ」
TMI 長官が世界各地からエージェントを集めて指揮をしていた。日本から呼び寄せた終夜アリナが弾丸のように飛び掛かり大怪獣となったグレイ・イーターの顎を撃ち抜いて転倒させた場面を思い出す冥珂。
「オーグルの力はやはり危険でしたね最初から利用するべきじゃなかったんです」口をとがらせるリティーシャ。
「途中までは皆うまくいくと思ってたから余計にあの瞬間は肝を冷やしたわ」
冥珂はグレイ・イーターが突然変異を起こした時に感じた絶望を思い出す。
「合衆国のオーグル兵器化は白紙になるだろうってセレスティア博士が言ってました。結果良かったですよ……」
「あ~久しぶり日本に帰れる~……しばらくゆっくりしてぇな~」
コーラを喉に流し込んで刀耶が言った。
「何を言ってるんですトーヤ。休学してるんですからさっさと復学して単位をとるのです」
「は? いいだろ 2 週間くらい休ませてくれよ」
「駄目ですせめて 1 週間。私の仕事の手伝いもあるんですから」
「おまえって本当に仕事好きだよな……そのせいでミルク切らして死にかけたもんな」
「またその話ですか! あんなことは滅多にないですよ今はトーヤがいるのですからその辺のサポートはお願いします」
「さらっと面倒な事言いやがる……お世話しろってかハイハイ」
「そのおかげでトーヤは最新のゲームテストプレイできるのですから WinWin な取引では」
「お、おう……そうだな。それはそう……」
刀耶とリティーシャの様子を笑顔で見つめる冥珂。
「師匠はこの後どうするのです?」
「そうやねぇ……ちょっとオータムホースシティに居ようかなって」
「そうなんですか、師匠の好きそうな街ではないんですけど何か理由が?」
「気になる事がいくつかあってねぇ……少し前に感じた魔女の気配、まだあの街にある気がしてるのと……大きなうねりを感じたんよ」
「うねり……魔女の予感は軽視できませんからね……師匠がいるならちょっと安心します」
「魔女の領域に他の魔女が侵入すると碌な事にならないんだけどね」
「いえ、それでも悪しき流れがきているとしたら阻止しなくてはなりません!」
「ん~……難しい所なんやけど……お節介な性格のせいで魔女界隈から嫌われてるし警戒されまくってるし結果良ければすべて良しって訳でもないのが毎回やし」
「やけに弱気ですね」
「年取ったのかもね、アンタや刀耶君みたいなのが成長してくれてちょっと気が緩んでるのかもしれんわ。一人でやっとった時と違って色々考えなあかん事も変わるしな」
「師匠は背後でドンと構えていてくださいよ。私とトーヤが前面に立ってやりますし!」
「まぁ、そうなるか。そろそろアンタを一人前の魔女にせなあかんしな。アタシも全盛期終わりそうやし今回の事件でどっと疲れたわ」
「まだまだ引退は早いですって! もっと私の活躍を近くで見ていてくださいよ」
「冥珂さんに尻ぬぐいして欲しいんじゃないのか?」と刀耶はすぐにツッコミを入れた。
「な! 失礼な!」
「怒るな怒るな……思いっきりノビノビとやりゃあいいじゃないか。冥珂さんが近くにいてくれてる間はよ」
「いうやんか刀耶君も。だんだんリティーシャの厚かましいところ似てきたんちゃう?」
「いえそんな……でもやれる時にやるべき事を思いっきりやらないのはきっと後悔するんで……」
「そっか。せやな、弟子とその助手の補助くらい任せとき」
***
――東京の財団ギルド
「良くやってくれた皆……真邪王は封印され【凶】のメンバーは全員死亡。完全に壊滅した」
セイはユウ、ケン、集まったギルドメンバーに言った。
「これまでにない規模の被害が出てしまったが【凶】と真邪王の野望を打ち砕けて本当に良かった」
セイは被害状況と真邪王の封印の事、【凶】の関係者の洗い出しなどを話し、 1 時間ほどで解散を言い渡した。
ユウとケンは荷物を置いている自室へと戻る。
「なぁユウ……」
「なんだい?」
照れくさそうにしながらケンは不死鳥の剣士のカードをユウに渡す。
「これは! ケンの一番大事にしてるカードじゃないのか?」
「いいんだ。俺にはもう使えない、だからユウに使って欲しいんだ、着装もできるユウならそいつの性能を十二分に発揮できるしね」
「あ……ダメージ受けたらランダムで他のカードを消費する不死鳥の剣士を使って月光姫を使う前に消費したくないのか」
「うん、だからさ。ユウは獅子王を真邪王に斬られて使用不可能になったんだろ?代わりに使ってくれ」
「そうなんだ、あれから使えなくなったんだ。じゃあありがたく不死鳥の剣士使わせてもらうよ」
「龍帝はどんな感じなんだ?」
「全然使いこなせてない……まだまだこれからなんだ」
「そっか……」「うん……」
そこから沈黙する二人。お互いカードのメンテナンスを行い始める。
「あの……ハオランの事残念だったな」
「あ、うん……俺がもっと強ければ……」
「仲間って……凄く大事だよな。出会いも絆も」
「うん……ケンは色んな凄い人と組めて良い経験になったね」
お互い自分のカードを触りながら話す。
「本当に勇者の幸運に感謝してる、最高の出会いがあった、だから俺は成長できた」
「俺も最高の仲間に出会って最高の絆を築けた。だから成長できた」
「ユウ、これまでの事すまなかった。これからは兄弟勇者として力を合わせて頑張ろう」
「うん! 嬉しいよケン、そう言ってくれて。俺は今までケンの足を引っ張ってばかりいるから嫌われてるんだと思ってたよ」
「俺はバカだったんだ、自分に出来る事、ユウに出来る事を考えずに……」
「いいんだ、俺が未熟でイライラさせてたのは本当だし。【凶】の残党と世界中に散らばっている真邪王の欠片が原因の突発的発生ダンジョン処理、まだまだ勇者には仕事が一杯あるから一緒にやっていこう!」
「ああ!」
ユウとケンは目を合わせて大きく頷いた。
終
DHHU外伝その8 Jun 13, 2025
DHHU外伝グレイ・イーター編その7 Jun 2, 2025
DHHU外伝グレイ・イーター編その6 Apr 14, 2025
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