DHHU 外伝グレイ・イーター編その 6
「冥珂さん! 最初から奴の戦ってる所見せてください!」
「よっしゃ!」
刀耶と冥珂は水晶玉を覗き込む。
「う~む……そうかここで切り替えて……ふんふん……」
恐竜姿のグレイ・イーターがサイコビームを放ちその後崩れた建物に突撃して食事している様子を見る刀耶。
「何か解った感じ?」
「ええ、コイツこの場面なんすけど……ビーム撃つときはハリーさんの力を使ってんですよね。でも喰って自分の体を変形させてるのはオーグルの力……ビーム撃った後にホンの少し動きとめてますよね?変形する時も喰ってない……一々切り替えてんすよ」
「ほうほう……って事は……?」
「ゲーム的な表現なんすけど……スキルを順番にしか使えないみたいな。そこにつけ込む隙がありそうです」
「取り込んでも力を使うのは切り替えないとあかんのやね。沢山食べてるけど同時に色々はできひんと……確かに隙をつくのに使えそうやな」
「ハイパーレールガンを確実に当てる為にも何か考えたいっすね。 TMI の皆さんに任せるだけじゃなくて」
「せやなぁ~……う~ん……アタシらにできる事なぁ~」
冥珂は飴を噛み砕きながら目を瞑る。
「一個ええ作戦思いついたで。成功すればハイパーレールガンで狙う時間も稼げる」
「本当っすか!」
「リティーシャの協力もいるし戻ってきたら詳しい話するわ。 TMI のがプランAならアタシらのはプランBや! 刀耶君が気が付いたグレイ・イーターの隙、長官のジェームズにも伝えるわ」
「お願いします!」
***
―― TMI 合衆国支部
グレイ・イーターは止まらずに進み続ける。 TMI の計算では約 4 日後に東海岸に到着する予定である。
体長は 50m 程で巨大化は止まりそれ以降は緩やかに体の構造を変えながら進んでいる。
刀耶と冥珂の予想通りグレイ・イーターはハリーの異能を完全に使いこなすことは出来ずに巨体を浮かせて飛ぶことはできない。本体のハリーに取り付いていた時は本人の記憶と体があったために完全再現出来ていたが様々な物質を取り込んだ現在ハリーとかけ離れすぎたために一部しか再現できなくなっていた。
グレイ・イーターが暴食の性格でなければ或いはオーグルの性格に変わっていれば人型で大きさも控えめでハリーの力を出来る限り再現し対策に困る相手になっていただろうと長官のジェームズは言った。
「奴は I-40 から I-70 のルートを進むと予測されている。現在の速度は時速 40km ……ハイパーレールガンはアマリロで組み立てる事になるだろう。奴は都市を狙って進んでいるからな。よってアマリロ西部の荒野で戦闘が予想される」
「敵がちょっとおバカさんで助かったわね」
ホットコーヒーを飲みながらアーニャが呟いた。
「奴がメカ・ハリーなんかになっていればあっという間に東側の都市は壊滅状態になっていただろう……愚かさに感謝しなくてはな」
アーニャからもう一つのホットコーヒーが入ったマグカップを受け取るジェームズ。
「初動が良かったのね。アリナが叩きのめしてくれたおかげでグレイ・イーターは大きく強くならなきゃって判断したんだから」
「……私がアリナくんの代わりにやればよかったと後悔しているよ。歳を取った……余計な事が頭を過って瞬発的に行動できなかったんだ」
深夜の支部にはジェームズとアーニャ、冥珂の水晶の画像を受け取ってモニターで監視している補佐の者が 1 人だけ。
「昔の貴方ならアリナより早く動いたでしょう。でも仕方ない事よ……誰しも歳はとる私もね。異能者戦争時の世代は皆もういい歳よ」
「なんや昔話に花咲かせてるようやけど……ちょっとええかな?」
ジェームズとアーニャの部屋に入ってきた冥珂。
「キミか……ハイパーレールガンの方はいいのかね?」
ジェームズはマグカップを置いて言った。
「あっちはリティーシャと刀耶君にまかせてあるしええねん。アタシは自分の出来る事をやりたいんよ」
「冥珂さんは何をしに?」アーニャは机に体重をかけて言った。
「さっき送った映像もう見たんやろ? その事で話したいことがあってな」
冥珂は刀耶が気付いたグレイ・イーターの動きの癖を話した。
「なるほど確かに……」「これは有用な情報ね」
「アタシはこの隙に付け込んで色々魔法を使って罠を仕掛ける気やねん。で、オタクら TMI の作戦を聞いときたい。プラン A と B ちゅうやつやな」
「ふむ……聞かせよう、代替案としても検討する」
TMI の案は U チームに巨大化したグレイ・イーターを転倒させる作戦。射線場に倒れる必要がある為アーニャとジェームズがハイパーレールガンの射角を調整補助をするというもの。
「アリナ君のパワーなら 50m のグレイ・イーターであっても転倒させる事は可能だ。ただし彼女の負担を考えると失敗は出来ない」
「 TMI のエージェント総出でグレイ・イーターの気を引き倒れる向きを考えアリナに一撃を加えさせる。恐らくだけど頭部の破壊はできるはずよ、後はハイパーレールガンで心臓部を打ち砕けば終了」
ジェームズとアーニャは冥珂に作戦の資料を見せる。
「気になったんやけど……アリナちゃんはホンマに大丈夫なんか?」
別室のモニターに映っている U チームの様子を見て冥珂は言った。
「本人は問題無いと言っているが……私個人的にはあまり良い状態には見えない。しかしアリナ君を止めることはできないのだ」
「そうね……宿敵・念爆者を前にした彼女を止めることなど不可能。今の彼女はグレイ・イーターの姿が念爆者に見えているのだから」
「……アタシは納得できひんな。見てられへんで十代の若者があんなになって……」
「では……どうするおつもりで?」
「アリナ君は自分が出ると聞かないのだ。止める事は誰にもできない」
「せやろな、止める事はできひん。せやけど少しでも負担を減らして上げる事はできる」
冥珂はジェームズの案内でアリナ、フローレンス、哿のいる部屋に移動する。
「お邪魔するで」
「貴女は……魔女の冥珂さん」「何か御用ですか?」
ベッドに寝ているアリナの横に座るフローレンスと哿が言った。
「アタシもアリナちゃんに何かしてあげたいと思ってね。ゴメンやけど起こしてもらえる?」
二人は顔を見合わせてアリナをゆっくりと起こす。
「……立花冥珂さんですか。わたしに何か?」
目の下に隈を作り虚ろな表情のアリナが言った。
「そのままじっとしててな……」
カードを取り出してアリナの前に突き出す。
「なるほど、やっぱり……これはちょっと処置しなあかんわ。アリナちゃん、もしいつも使うてるガントレットとブーツがもっと頑丈やったら楽かな?」
「……ええ、負担は減ります。しかし最高品質の物でもわたしの異能に耐えれません先程も一式砕いてしまいました」
「うんうん、じゃあさ……ガントレットとブーツも体の一部になったらどうやろ?」
「え?」
「想像してみて? ガントレットとブーツが自分の体毛とかと同じもんやと」
「……元が丈夫であるガントレットとブーツなら強化の負担も少ないです。むしろ生身よりも強度を上げれます」
「細胞レベルの自己強化ができるアリナちゃんに魔法をかけようと思うねん。ガントレットとブーツを自分の体の一部って認識できるようにね。何かしらの弊害があればすぐに言って」
「……立花冥珂さん。何故わたしにこのような協力を?」
「アタシもなぁあのバケモン(グレイ・イーター)をぶっ倒したいねん。その為に何でもやりたいし出来るだけ皆に辛い目に合って欲しくないねん。あんたの顔見たらじっとしてられへんかったんや」
「そうですか……壊れかけのわたしに期待してくれているのですね」
「アカンで! 絶対に壊れたら! あのバケモンすっと倒して大団円迎えるんや! 見てみいやあんたの大切な人らの顔! 悲しませたらアカン!」
アリナはフローレンスと哿の顔を見た。涙をこらえているように見える。
「……ガントレットとブーツにわたしの強化が乗るのであれば今のわたしでも奴を打ち砕けます。 100 %の強化発動も可能かもしれません」
「ぜったい壊れへんな?」
「はい、負担は半分程度になると思いますので」
「ホンマにホンマやな? もし無理そうならやめとくんやで、アリナちゃんが全部背負う必要は無い、皆でアイツを倒すんやから!」
「でも奴は……」
「解っとる、アリナちゃんの手で斃したいんやろ? でも失敗して壊れたら何にもならへん、大事なのは奴を斃す事! 違う?」
「はい……」
「奴を斃した後の事考えや? やって終わりやないんやから」
「それを考える事は困難です。奴を斃すことに集中しなければなりません」
「ほんのチョットでも頭の片隅に置いとくんや。忘れたらあかんで」
「あの……」
フローレンスが冥珂に話しかける。
「アリナのガントレットとブーツを体の一部として認識させるんですよね? じゃあそれを私と哿さんにも感じれるように出来ますか?」
「え? ……まぁ出来ん事も無いけどヤバいんじゃないかなぁ……アリナちゃんと違って二人は強化できひんのやろ?」
「ガントレットとブーツに受ける衝撃を私たちは強化しないで受ける事になると思います。実際の体ではありませんけど想像を絶する痛みを感じる事になるはずです。それでもやりたいんです! 感覚を共有するという事は私と哿さんの異能もアリナに届くという事! あの時成功した異能者共有程じゃなくても三人で戦う事が出きるんです!」
「お願いします! 僕も戦いたい大切な二人の為に!」
「フロー、哿さん駄目! そんな事二人にさせられない!」
「アリナ! 私たちは U チームです! 一緒に戦わせて!」
「僕もこれは譲れません!」
「…… !? 」
アリナは驚いた。慎重なフローレンスと冷静な哿がこんな事を言うとは想像できなかった。
「私の再生能力を発動させればアリナは楽になる。哿さんのテレポートを使えば対応力が上がる。負担を三人で分ければきっと上手くいく!」
「(若いってええな……それにこの三人の絆……羨ましいわ)」
「お願いします冥珂さん」
「解った、任せとき!」
***
――飛行病院船アイスクラーピウス
最高責任者の船長であるアデル・ホワイトはパートナーであるセレスティアから送られてきたデータを眺めていた。
「グラスに付与させた白飛蝗の試作体の状態は良さそうですね……これなら……」
世界中の権力者は不老不死を願い密かに彼女に自身クローンを作らせている。それだけでは飽き足らず様々な能力を付け足したり容姿を理想に近づける要望も出している。
合衆国は一般には知られていない組織が存在しそこでは未発表の科学技術や倫理的に知られてはいけない実験を行っている。アデル・ホワイトはその一員でありセレスティアもメンバーではないものの協力している。
念爆者・杉田(神名)幻赫は世界征服の後に合衆国の秘密組織を自分の物にする算段であった。そのために邪魔なアデルは始末され脳だけを利用するつもりだったが―― TMI によって幻赫&グレイストームは斃されアイスクラーピウスは合衆国の手に戻りセレスティはアデルを復活させることに成功した。
アデル復活後、凍結されかかっていた秘密組織の実験、計画は再度進められ異能ミュータント兵、量産型オーグル兵、サイボーグ兵、キメラ、クローン強化兵などが続々生まれている。セレスティアはアデルに協力し実験施設の準備や兵器の開発を進めている。
アデルの実験兵を使った神名製のパワースーツに戦闘フレームと呼ばれる搭乗型人型兵器の開発速度は加速しセレスティアは秘密組織内で名誉少佐の立場を得ていた。
グレイ・イーターのアンチアタッカーとして召喚された白魔女グラスは西海岸の都市にグレイ・イーターが出現したと聞いた際に「奴は東海岸に向かうでしょう」と大統領に言い放ち準備を進めた。グレイ・イーターが進行してくるまでの間、合衆国の最高水準の技術が知りたくてアデルとセレスティアに接触した。
「いつかは分からないけどそう遠くない未来で人類滅亡の危機に瀕する事態が起きるから準備しておいた方がいいよ」とグラスは言った。
「世界大戦で核兵器で世界中が汚染されても合衆国は生き残ります」とアデルは言い返した。
翌日、セレスティアはアデルを連れて研究施設へ連れて行く。
「わざわざ連れてくるとはティア、なにがあったの?」
アデルはセレスティアの横顔を見ながら言った。
「まずは見て欲しいのです」
施設の最奥にある培養層に案内する。
「これは……」
培養層に浮かぶのはセレスティアに似た子供の姿をもつ個体。透き通るような白い肌をしている。
「ミスグラスに白飛蝗の魔法をかけさせた個体がこうなったのです。ミスグラス曰く『運命力の影響ですよ』と言いましたが」
「運命力……? 量子力学の話でしょうか」
「アデル、この個体をどう使いますか」
「そうねぇ……」
アデルはセレスティアを見つめる。彼女も親から生まれた存在ではなくアデルとセレスティ(本体)が産んだクローンに記憶を刻んだ存在。元のセレスティアよりも強い異能発現し学習能力や身体能力の面で高いパフォーマンスを発揮している。
「今はまだ眠らせておく。グレイ・イーターの件が終わった後に考えましょう」
「わかりました……アデル?」
セレスティアを見つめるアデル。不思議そうに視線を合わせる。
「いえ、なんでも」「もしかして以前の私と比べていますか?」
少しいたずらっぽい表情を浮かべるセレスティア。
「強くなりましたねティア。心配性だった貴女を思い出していたの。異能が強くなって自身を得たのかしら?」
「どうでしょう? 幻赫から解放されたことが大きいのかもしれません」
「なるほど…… TMI に感謝しなくてはなりませんね」
「アデル、ついでに他の個体も見て欲しいのですが。貴女の指示で AI に飼育させていますが気になるところが無いかチェックして欲しいのです。この素体のように何か変化が起きているかもしれませんし」
「そうね、ついでに全て見て起きましょう」
続く
DHHU外伝その8 Jun 13, 2025
DHHU外伝グレイ・イーター編その7 Jun 2, 2025
DHHU外伝グレイ・イーター編その5 Mar 30, 2025
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