ラビット・アンダーグラウンド 14 話
「(火災報知器を鳴らした、この建物のシステムは生きている……次は)」
なゆかは図書館のフリーペーパー手に取り指先にプラズマを宿して火をつける。テンゾウの突進を回避して天井の防火センサーに燃えたフリーペーパーを近づけた。
「うおっ」
フロアのスプリンクラーが作動し一気に水が噴き出す。なゆかは既に玄関に移動。
「まず 1 発!」
スプリンクラーの水が降り注ぐフロアーにプラズマ弾を撃ち込む。水に触れたプラズマ弾は次々と反応して水蒸気を発生させ周囲を白く包んでいく。
「ぬう?」
印を結び警戒するテンゾウ。そこになゆかは水蒸気の外からプラズマ弾を撃ち込みマイクロ放電を起こさせる。
「クソ! だがこの程度でテンゾウのスペシャルな戦闘スーツは壊れん!」
爆進で前に飛び出すテンゾウ、水蒸気から飛び出た瞬間目の前にはプラズマ弾が。
「げええええええええっ!」
プラズマ弾はテンゾウの左目に命中、もんどりうって床を転げまわる。
なゆかは殺さないために出力を抑えたプラズマ弾を放っていた。テンゾウは超人的な反射神経で回避を試みるも空中であった為僅かに頭部を動かす程度しかできなかった。
「やってくれたな……やってくれたな女ぁああああああああっ!」
なゆかは既に図書館を出ていた。ポポリンのスーツを変形させて一般人に変装し群集に紛れ込んだ。
「どこだ……どこだ女……クソ、部下共を呼ぶか。フル装備を持ってこさせるか……」
「テンゾウ!」
声がした。左目を抑えながら振り返ると狐面で戦闘スーツを身に着けた狐理子が立っていた。
「暮葉一族の女!」
「一族の敵ここで取らせてもらう!(なゆかのおかげで思わぬチャンスが来た!)」
なゆかは SliME ネットを使い狐理子を呼んでいた。そしてシャパリュも図書館の外で人払いの結界を張り待機している。
「邪魔者は入らんぞテンゾウ! 警察が来るまでの 4 分、この場はお前と私だけだ!」
「しゃらくせえ! フル装備でなくてもお前程度にこのテンゾウは討てんぞ!」
スプリンクラーの雨が止んだ。それを合図に狐理子がブースターで飛び出す。
「甘いわ!」
テンゾウは狐理子の動きを見切ってカウンターの突きを入れた……かに思えた。
「何…… !? 」
狐理子の 1 身離れた箇所を突いてしまっていた。なゆかの力、プラズママイクロ放電、片目、右膝のダメージ、全てが影響しテンゾウの感覚を完全に狂わせている。
「イイイイイヤアアアアッ!」「グハアアアアアアッ!」
狐理子の高速ブースター加速回し蹴りがテンゾウの頭部に命中、装甲を凹ませる。
「馬鹿な……俺はテンゾウ! 天蟲党のテンゾウ! ブラックヴァリーの次期首領だ!」
「イイイイヤアアアアアアアアアッ!」
さらに加速したソバットがテンゾウの顎に命中、顎と歯を砕いた。
「ぐがぁ……(撤退しなければ……このままでは……)」
「慢心し単独行動をしたのが貴様の運の尽きだ!」
狐理子は吹き飛んで本棚に激突したテンゾウを睨みつける。テンゾウは寿命と引き換えに爆発的な身体能力を得る丸薬を取り出して口に放り込む。だが……
「ぐううううおおおおお……」
強烈な胃の痛みで吐き出した。テンゾウの丸薬は謀反を企てる部下によって毒とすり替えられていた。
「馬鹿な……何故だ……」
「因果応報! 全てが今、貴様に返ってきているのだ!」
「このテンゾウ……ただでは終わらんぞ」
戦闘スーツの自動撃退システムを起動。これは装着者が意識を失っても命を落としたとしてもバッテリーの続く限り殺戮を続ける世界中で禁止されたバーサーカーシステム。停止させるにはスーツの AI を破壊するしかない。
「……これは本当に最後の手だ。サイバネムシ忍法神経節殺戮(バーサーカーモード)!」
万全な状態のテンゾウを思わせる動きで飛び上がって空中回転。サイバネアームのブレードを構える。
「来る」
ジグザグに動きながら接近するテンゾウ、腱が切れ筋肉が損傷し体の限界を超えた動きで狐理子に迫る。対する狐理子は冷静であった。
「フォックス忍法……蜃気楼火山閃」
バック転でテンゾウを避ける狐理子、飛び上がる前に設置した床のブースターをテンゾウの位置に合わせて作動。さりげない動作で床に設置しギリギリのタイミングで避けて設置ブースターを作動させるこの技は単に地雷や手榴弾で応用が利くだけでなく、状況に応じて虚実を織り交ぜ翻弄にも使えるものであった。
「 !? 」
テンゾウの腹部に突き刺さる短刀。火山閃の勢いで射出されたそれは暮葉一族の短刀。
「ごふ……止まらんぞ……この程度では……」
短刀を抜いて投げ捨てるテンゾウ。僅かに装甲を貫いただけでテンゾウの肉体には殆ど届いて無かった。それでも狐理子には十分だった。
テンゾウは突如後方に吹き飛んで壁に貼り付けになる。
「何だ !? 」
火山閃で浮き上がった時、狐理子は無数のブースターを投げつけテンゾウの体に張り付けていた。それをこのタイミングで発動させた。
「フォックス忍法噴射操体!」
「ぐ、この……」
自動迎撃のバーサーカーモードの為張り付いたブースターを取る動作に移れないテンゾウ、 AI は狐理子の迎撃を優先してしまっている。掌にブースターを張り付けた狐理子が肉迫。
「終わりだテンゾウ!」
腹部の穴の空いた部分にブースターを押し付けて最大出力。狐理子は全力で踏ん張り大理石の床にひびが入る。
「がああああああああああああっ!」
ブースターの火が戦闘スーツの内部に入り込みテンゾウの体と内部機構を焼いていく。やがて火は全身を包み込み炎の塊となった。
「フォックス忍法・轟熱神掌!」
全てのブースターのエネルギーをテンゾウの腹部に押し付けているブースターに集中。轟熱神掌はフォックス忍法の最大火力技である。
「おのれええええええええええええっ!」
テンゾウの戦闘スーツのバッテリーが破裂、狐理子は火花を見てすぐに離れた。次の瞬間テンゾウは爆発四散した。
「父さん……みんな……やったよ……」
***
なゆかは LavaGerden からのメッセージを受け取り向かっていた。
「狐理子ちゃんあの後大丈夫だったかな? 強そうな緑のモフモフさん居たし大丈夫だとは思うけど」
『シャパリュだね。彼女はとても強いから大丈夫。そろそろ決着つきそうだよ狐理子のコンキチから通信あった』
「ならよかった……図書館滅茶苦茶になったけどどうしよう」
『警察はブラックヴァリー追ってるし全部そいつらのせいになる可能性高いからなゆかは疑われないと思うよ』
「そうじゃなくて……貴重な本も駄目になったかもって」
『あの場所にある本は全て他の図書館にもあるものだから気にしないでいいよ』
「……それで、クリムゾンさんからの呼び出しってなんだろう?」
『打ち合わせっぽいよ。丹羽省羅と三人でするんだって』
「ふーん」
***
狐理子とテンゾウの決着から数十分後。井之頭と芹沢の二人の刑事は図書館の爆破の通報を受け現場に向かっていた。
「流石に警察を舐めすぎじゃねえか?」「今度は院瀬見がらみかねぇ」
現場に到着すると野次馬をかきわけて図書館の中に入り消火済みのフロアーを進む。
「破壊の規模の割には燃えた場所はここだけか。抗争でもあったか?」
井之頭が最初に現場に駆けつけた警官に声をかける。
「身元不明の焼死体が一体です」
「発見者は?」
「火災報知器の作動を知り駆けつけた消防職員が二人ですね。不思議な事に事件があった時に図書館の利用者は丁度いなかったんです」
「監視カメラの映像は?」
「怪しい男が入ってきた直後に壊されて映っていません」
「そいつが黒焦げのホトケに繋がってるかもしれんな。施設内に潜んでいた利用者にホシがいる可能性も……」
芹沢刑事が言った。
「男が入る前の監視カメラの映像では怪しい者は見つかりませんでしたが」
「いや、全て確認する必要があるな。マツさんとツルに仕事持っていくとしようか」
芹沢刑事は井之頭刑事を見る。
「課長には言っといてくれ監視カメラのデータは借りていくぞ」
「あ、はい」
「 LavaGerden への聞き込みは新人の大澤に行かせるか」「それでいいでしょ」
***
「……」
クリムゾンは LavaGraden の監視カメラの映像を見て眉をひそめていた。 LavaGerden の前に大勢のホストが押し寄せ騒いでいる。
「でてこいやオラー!」「 LavaGerden なんざ怖くねえぞ!」「びびってんのかー?」
100 人のホストを見つめるクリムゾン。
「ご主人様、全員始末しますか?」と横に立つハートが言った。
「それは今すぐじゃなくていいですわ。気になるのは……なぜこんな真似ができるのかです。何か後ろ盾があっても無駄なのは知ってるでしょうに」
「どうしますか?」
「邪魔なので……大型トラックを突っ込ませて排除しましょう。トニトルスに任せます、後始末はハートお願いしますね」
「承知致しました」
外で騒いでいるのは院瀬見が用意した何処にも行き場の無い者達である。ホストの恰好をさせて騒いでいるのは七曲キョウヤの指示であった。
「おーおー派手にやってる……さてさて LavaGerden はどう動くかな?」
カメラを構えてビルの一室から見ている七曲キョウヤ。
「高みの見物か、七曲キョウヤ」
背後から声がした。
「トニトルス……さん」
「お前を泳がせていて正解だったな」
「何故ここに……俺っちは完璧に尾行をまいていたはず」
「 LOKI を出し抜くなど無理だ。お前のやり口は知っている。さぁあの騒いでいる者共を解散させろ。できなければどうなるか理解しているな?」
「へへへ……この携帯はオンラインで院瀬見と繋がっているんすよ? 今の会話も全てあっちに聞こえてるっすよ?」
「聞こえなかったか? あの者共を解散させろ、次はもう聞き直さない」
「へへへ……分かりましたよ」
携帯を操作する七曲キョウヤ。すると眼下のホストまがい達が次々と爆発。
「おや? おかしいっすね……なんであんな?」
「とぼけるなよ?」
「いやマジですよ」
「……もういい。ハート、七曲キョウヤを連れて行ってくれ」
「何ッ !? 」
七曲キョウヤの体が床に沈んでいく。下のフロアにはハートが待ち構えていた。
「やっと会えたなクソ野郎!」鋭い歯を剥き出しにするハート。
「お前の飼い主に会わせろ」
「そいつは無理な相談っすね。俺っちは誰の下にもついてないんでね」
「恐怖心が無いってのは本当のようだな。だが口を割らせる方法はある、お前は実験動物になって貰う」
「そいつは俺っちを捕らえてから言ってもらいたいね」
軍用サイバネの超早撃ちでハートを狙う七曲キョウヤ。弾丸はハートに命中したが豆腐のように通り抜けた。
「ん?」
「私を甘く見ているな」
一瞬で背後に現れたハートはイプシロンアックスで七曲キョウヤの右手首を切断する。
「ぐっ……」
「私も錬金術を使えるのは知っているんだろう?今のは自分のデコイを作っただけだ。クオリティには自信があるんだよ」
「そいつは想像以上っすね……」
右手から火花を散らす七曲キョウヤ。
「ご主人様の指示だからお前は殺さないが自由もなくなる。消耗しきるまで実験され続ける」
「そうなりますかねぇ?」
ビルの外からけたたましいヘリコプターの音が聞こえる。七曲キョウヤの視線の先には武装ヘリが。
「おい、お前が呼んだのか?」
「 SOS はしましたが……こんなのが来るとは思ってなかったっすけど?」
武装ヘリからミサイルが発射される。 LavaGraden の玄関扉に着弾、火柱が上がる。
「てめぇ……もうここで首を落としていくか」
ハートがイプシロンアックスを構えた瞬間、武装ヘリのミサイルがハート達の居るビルに向かって撃ちこまれた。
「ハッハッハッハ! 俺はカイザー・プリンス! この街の最強王子だ!!」
武装ヘリから声がする。カイザー・プリンスとはオータムホースシティのホストクラブの頂点に君臨する超巨大店 PPP のオーナーであり No.1 ホストである。
「院瀬見の色ボケババアには感謝だぜ! これで LavaGraden のクソメス共を皆殺しにして俺が頂点に立つ! 警察に対しても院瀬見の力でもみ消してくれるしなぁ!」
「やってくれましたわね……わたくしを甘く見過ぎですわよ」
武装ヘリのスクリーンに張り付いているのは深紅のドレス姿のクリムゾン。黄金の杖を鞭のように伸ばし、武装ヘリに取り付いていた。左手で防弾スクリーンを飴のように溶かして操縦席に侵入する。
「クリムゾン !? ハァ !? どうなって……」
「錬金術ですわ。さて、院瀬見の色ボケババアとは誰なんですの?」
近づくクリムゾン、カイザー・プリンスはサイバネ筋力強化されたパンチを咄嗟に繰り出す。受け止めるクリムゾン、カイザー・プリンスの拳は一瞬にして黒焦げになった。
「イギャアアアアアア……」
暴れるカイザー・プリンスを黄金の杖を変形させた鞭で拘束する。
「武装ヘリ一機でわたくし達を倒せるとでも? 院瀬見の制圧部隊と渡り合った LOKI を舐めすぎですわよ」
「ババババババケモノめ!」
「質問に答えなさい。あなたの出資者は誰ですの?」
クリムゾンは指をカイザー・プリンスの眉間に突きつける。
「言ったら殺されるだろうが!」
「そうですの? このままではあなたはドンドン干からびていきますわよ?」
クリムゾンはカイザー・プリンスの眉間に触れる。体は急激にしぼんで皮膚は乾燥し土気色に変わっていく。
「かは……のどが……水……」
続く
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